OMRとことんオーガニック シンポジウム2011 要旨
2011年6月10日 憲政記念館
第3部 15:40~17:20
「こうやって広げる日本のオーガニック。 日本の農業、もうひとつの道」
農林水産大臣 鹿野 道彦氏 挨拶
パネルディスカッション2
●農林水産大臣 鹿野 道彦 氏 挨拶
今日は、予算委員会から抜け出して、お伺いしました。本日は、とことんオーガニック2011シンポジウムということで、関係の方々にお集まりいただき、われわれ農林水産省からも御礼申し上げたいと思います。これからもぜひ取り組んでいただきたいということで伺いました。
2006年、ツルネン・マルテイさんたちのご尽力により、議員立法で、有機農業推進法が作られました。これからの農業を考えるとき、どうやって持続可能な農業をしていくか。環境との調和を考えながら、安全な食料を求めておられる消費者を結びつけるものとして、有機農業がこれからも拡大していただきたいと考えております。また、消費者が、有機農業の農産物を取得できる、購入できるような工夫もお考えいただければと思います。
われわれ農林水産省といたしましても、有機農業のことを考えてまいります。ですから、これからも、どうか、われわれにさまざまな提言をしていただきたいと思います。
本日は、第一回目のシンポジウムということで、農林水産行政をあずかる者として、一言御挨拶にうかがった次第です。たいへんありがとうございました。
●パネルディスカッション2
「日本農業、もうひとつの道 全ての人は農業をする権利がある」
パネラー:
徳江 倫明 氏(OMR代表) =ファシリテーター
緒方 大助 氏(らでぃっしゅぼーや㈱代表取締役社長)
志村 なるみ 氏(㈱ABC HOLDINGS 取締役 *ABCクッキングスクール)
高橋 宏通 氏(パルシステム生活協同組合連合会 産直推進部長)
澤浦 彰治 氏(グリンリーフ㈱ 代表取締役 *有機生産者〈2008年天皇杯受賞〉)
浅川 芳裕 氏(農業技術通信社 副編集長 *「日本は世界5位の農業大国」著者)
(徳江=ファシリテーター)ツルネン・マルテイ議員がおっしゃった通り、私たちは今、震災に原発事故を抱える中、有機、オーガニックもますますしっかりした考え方で取組んでいかなければなりません。今回、鹿野大臣にも来ていただくことになりました。これからどう復興していくのか、有機農業の発展にとっても政治の役割は重要です。シンポジウムの途中になるかと思いますが、大臣が見えられたら、ごあいさついただきます。
第3部のシンポジウムは、「日本の農業もう一つの道」というタイトルにしました。例えば農地面積でみても、あるいは生産高、農家数からみても日本農業の40%は、じつは「中山間地農業」で占められています。あとは、「平地農業」と言われ、どちらかと言えば大規模化に向かう農業のイメージです。つまり、日本の農業はこれまで大規模化や効率化などが求められてきましたが、この中山間地農業の部分を無視して日本の農業を語っても、現実的ではないということです。そして治山治水と言われる山林や水源の管理、景観の維持、生物多様性の問題など経済的視点だけでなく環境問題にかかわる最も重要な地域は、この中山間地にこそあるということです。
近代的に大規模に進める農業が一つの道、もう一つは生産力という問題だけではなく、環境問題や食の安全という視点から、この中山間地にあるべき農業、産消提携など人間の有機的繋がりなども考慮した上での有機農業への道です。
さきほどの若手の議論にも出ていましたが、「普通にやればオーガニック」になるという意味は、調査結果にもあるように有機農業に取り組む農家の25%が新規就農者で、逆に農業に関心のある人、これから何らかの方法で農業にかかわろうという若者の頭の中にある農業は普通に有機農業ということです。
これからの農業は、ベランダ農業のレベルから、その先の貸農園や、クラインガルテンのような滞在型農園、それも農業だと言える世界になるでしょう。リタイア組の農業への関心も高くなっていますし、いろいろ選択肢があります。有機農業、中山間地農業はそれらの人々から大変魅力的に見えています。その意味でも副題にある「すべての人は農業をする権利がる」ということを制度的にも実現してみたいものです。それが有機農業を広げる一番の近道かもしれません。
これからの農業については、震災の経験も交えて、様々な視点から考えていかなければならないと思います。
私自身、有機農業に関わって以来、35年になりますが、今日のパネラーも、同じ世代の方々がいらっしゃるようですので、一緒に、これからの有機農業考えていきたいと思います。
・パネラー紹介
まず、簡単に今日のパネラーの皆さんをご紹介させていただきます。
浅川さんは、『日本は世界第5位の農業大国』という本を書かれ、農業書のベストセラーになりました。その中では、強烈な農水批判がされており、われわれの農業を見る目を覆してくれる本です。浅川さんの目から見た、有機農業の可能性について、お話しいただきます。
緒方さんは、らでぃっしゅぼーやの社長でいらっしゃいます。私はらでぃっしゅぼーやには創業から関わりましたが、その後バトンタッチして、いまは、緒方さんが社長を務められて、ジャスダックに上場もされました。その意味で、らでぃっしゅぼーやは有機農業の社会的な器になっています。組織が大きくなってくると課題の質もまた大きく変わってきます。今日は、これからのらでぃっしゅぼーやについても、お話し願いたいと思います。
志村さんは、ABCクッキングスタジオという料理教室を、全国に展開してこられました。1985年創業で、やはりらでぃっしゅぼーやが設立されたのと同じ頃です。料理教室はとても影響力のあるコミュニケーションの場ですので、そこに生産者が登場して、参加者とコミュニケーションをとりながら、食材を紹介していけば理想的なのではないかと考えております。
澤浦さんは、若手バリバリの農家さんです。しかも、生産だけでなく、農業後継者の育成や年間出荷が可能なように全国的に農場提携を進め、次々に新しい取り組みを行うなどいわば日本の農業を背負っていらっしゃる方です。生協、量販店を始め、さまざまなところと付き合って動いていらっしゃいます。農業分野の役割を認められ、天皇杯を受賞されました。
高橋さんは、パルシステムという生協で、産直部長を務めておられます。パルシステムは1800億円の売上高があります。「産消提携」ということで生産者との付き合いもされており、しかも、特徴的なのは、JAS認定の農産物を積極的に売るシステムを作り上げられている点です。生協の中でも、もっとも有機に真剣に取り組んでおられるところです。
先ほどの若手シンポジウムに出ていた西居君は、彼がマルシェのブースで販売しているところで会いました。ブースを見た時に、35年前、私が有機に関わり始めた当時に戻ってきたような気がしました。当時と同じオーラが、ブース全体に溢れていて、それで、私の方から挨拶してみたんです。同じところに、やはり35年ほど前に始まった茨城県の八郷の消費者の自給農場で「たまごの会」という共同農場があり、それをそっくりそのまま引き継いだ若者たちが「暮らしの実験室・八郷農場」として出店していました。いわば生産と消費の提携として始まった「たまごの会」を若手がいま、しっかり引き継いでいることに本当に驚きました。
ただ、提携という点では、35年前の状況に似ているけれども、その頃は農業に参入するのは制度的にも、今よりずっと難しく、かなり決意主義的にやらないとなかなか手がつけにくかったんですが、今はもっと自然に取り組んでいます。彼らが持っている質を、30年以上取り組んできた人がどう感じ、どう一緒にやっていけるかも、今日は考えていきたいと思います。
では、まず、高橋さんから、パルシステムという売上高1,800億円の大きな生協の中で、有機をきちんと位置付けて、取り組まれてきた意図について、お聞かせいただけますか。
(高橋)パルシステムというのは、変わった生協で、もともとは小さな生協の集まりでした。私は、さきほどの若い人たちのディスカッションを見ていて、感銘しました。パルで付き合っている生産者さんたちも、儲かるからやっている、という生産者は、あまりいらっしゃいません。ほとんどの生産者さんは、農業をきちんと位置付けて、慣行の生産の仕組みを変えていこうとしておられます。若い人の中には、農薬を使ったことさえない人もいらっしゃいます。
そういう方々の作られた生産物を流通させていくには、3つの仕組みを変えなければいけません。生産の技術、流通の仕組み、消費者、この3つを変えなければならない。私たちは、そのつもりで取り組んできました。
有機の認証は必要ないと考える人たちもいらっしゃいます。しかし、パルシステムでは、有機JAS認証のある農産物を重視して扱っています。対面販売でやっていれば、認証なしでもいいかもしれません。しかし、一般には、無農薬や特栽に近いものも有機と呼ばれているような状況があります。無農薬野菜と有機野菜では、雲泥の差があります。それで、生協のような半ば公的な団体として、幅広く取引する際には、努力した人の違いがはっきりわかるようにしたいということで、生産者の有機の認証取得を積極的に支援するようにしているわけです。
安全安心のコストは、現状では、生産者が負う形になっています。しかし、受益者は消費者なのだから、そのコストは、生産者と消費者双方で等分に負っていいきたいと考えています。
(徳江)らでぃっしゅぼーやでは、RADIXという、独自の商品取扱基準を設けていらっしゃいますね。
(緒方)私は、徳江さんの後を受けて、11年間、らでぃっしゅの経営に関わっています。2000年に着任しましたけれども、その頃から、有機認証が話題になっていました。しかし、らでぃっしゅでは、生鮮者に有機認証を取るように促したことはなかったですし、今もそういうことはしていません。確かに、有機に取り組んでいらっしゃる生産者さんは尊いと思いますが、われわれとしては、認証マークですべてを語るというより、作り方や生産者の顔をお客様に見せていく、どんな人によって、どうやって作られているのか、その情報を開示していくことの方に重点を置いたんです。
生産者さんの顔を前面に出すことの方を選んだ結果、扱っているのは必ずしも認証品だけではありません。しかし、ここにきて、やはり、認証を取っている作物は、きちんと強調していくべきだと考えています。有機は、安全、安心というイメージがあります。安全安心は、突き詰めていけば、個人の要求です。安全なものを食べたい、家族にも食べさせたいということです。自分のパーソナルなニーズなら、究極的には、日常的に全部有機で揃えたいと思うようになります。それなら、多くの種類の品を、大量に揃えないと、これ以上広がらないでしょう。
しかし、有機農業が広がったきっかけをさかのぼると、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』、有吉佐和子の『複合汚染』や、チェルノブイリの問題です。有機を買うというのは、ある種、社会性をもった行動でもあるのです。
そういうわけで、たくさんの品目を少数の消費者に売るのと、1品目を1,000人に売るのと、どちらが大事か、ということを考えています。購入するという行為の社会的意味、つまり、有機は消費による環境保全活動だと考えると、消費には別の切り口があるはずです。そのことを、お客さんに紹介したいと考えているこの頃です。
(徳江)最近、緒方さんと会ったときに、「やっぱり、有機は運動だ」という話をしたばかりです。
ところで、澤浦さんは、らでぃっしゅ以外でもスーパー、生協など、多方面外交で活躍していらっしゃいますね。
(澤浦)私の会社は、20haが有機圃場で、売上の20%がJASの農産物および加工品で占められています。朝からお話を聞いていて、変えてはいけないところがあるなと感じました。
有機農業の理念は、変えてはいけないと思います。しかし、私自身、理念だけでは飯は食えない、ソロバン勘定もしていかなければならないということを感じております。変えられるところは、変えなければならない。消費者の要望に合う商品作りをして、対応していかなければなりません。「おれのところは、有機農業だから食べろ」という論理は、通用しません。しかし、売れれば何でもいいという流れもありますけれども、変えてはいけない部分を持つのも農業者です。
(徳江)志村さんは、今まで、有機農業と関わってこられたわけではありません。しかし、料理教室は広がりをもっていますので、料理を通じてコミュニケーションを取っておられる。料理教室の中で、有機農業とかかわれることが、何かありますか?
(志村)ABCクッキングスタジオは、創業27年、全国の教室数130、生徒は23万人にのぼります。その23万人の生徒の声を代弁するということで、今日はやってまいりました。
率直に言って、20代、30代の女性は、実は、有機どころではありません。私たちは、食文化の伝承を必死で担ってきました。27年前、静岡で、最初はキッチン用品の会社を始めたんです。でも、若い女性たちはお料理ができません。ある女性から、料理はしないから、鍋もフライパンもいらないと言われました。それで、キッチン用品を売るソフトとして、料理教室を開きました。当時はいまのように居酒屋や携帯も何もない時代で、地方の女性たちは、時間はある、給料は高いという状況でした。彼女たちは、会社が終わった後、行くところがありません。それで、料理教室を開いたところ、たくさん人が集まりました。 料理教室は一度で何度もおいしいというか、料理を習った上、作って、みんなで食べて、帰るときにはサンプル品のお土産までつきます。
有機は、20代、30代、40代前半まで、ほとんど買っていないです。必要に駆られて、さし迫った方々は繰り返し購入するけれども、一般にはほとんど普及していないと思います。買い物目線で言うと、JASマークを参考にして買っていないのではないでしょうか。いちばん簡単な方法は、20代、30代が、有機のJASマークを、自分で絵に描けるようになるくらいまで、いやというほど宣伝していかないと、一般の人には伝わらないと思います。ビジネスは、儲からなければ、誰も幸せになりません。私は、外国の輸入有機が最大のライバルだと思います。ですから、価格は下げないで安くなくてもいいから、もうかる価格で、売っていただきたいです。
結論としては、今のABCクッキングスタジオでは、オーガニックのコースを開く余地は全然ありません。
(徳江)浅川さんは『農業経営者』という雑誌の副編集長をされておられます。農業者以外の読者が多いと伺っています。経営として成り立つ農業者のネットワークづくりもされていて、「A1グランプリ」という賞をもうけて、農家でいい取り組みをしているところを全国で発掘されています。独立系の農業雑誌は絶対生き残れないと言われてきました。そんな中で、浅川さんの『農業経営者』は、稀有な例外です。震災の現場にも行かれたそうです。きょうはぜひ、日本の農業についての問題提起をお願いしたいと思います。
(浅川)このシンポジウムの出席者であるオーガニック業界は、農業・食品界全体からみればマイノリティです。そして、マイノリティの製品は、マイノリティとしてしか認知されていません。それはなぜか。理由は単純です。これまでの議論に出てきたとおり、マイノリティー同士が有機認証の問題で重箱の隅をつつくような係争に時間を浪費してきたからです。オーガニックがなぜ必要なのか。この世界がマイノリティから脱するには、人類の文明という大きな枠からとらえ直してみるといい。
オーガニックを文明史的に語る上で、僕には、2人、思い浮かぶ人たちがいます。
一人は14世紀の歴史家、イブン・ハルドゥーンです。イブン・ハルドゥーンは、イスラーム世界最大の思想家で、文明論を展開しました。文明を5段階に分けて論じているんですが、最終段階にあたるのが、都市と農村との連帯意識(アサビーヤ)であると述べています。ある意味、1970年代後半に起きたニッポンの有機農業運動の「提携」の概念を600年ぐらい先取りして論じているわけです。
もう一人は、フランスの思想家、ジャン・ボードリヤールです。彼は、1960年代の終わりに、『消費社会の神話と構造』という本を書きました。その本の中で、ボードリヤールは、高度消費社会では、最終的な関心は、自分の身体の健康、食物に向かうと言っています。
どういう経済発展段階で、オーガニックが流行るのか、考えてみました。僕は、18歳から26歳くらいまでにかけて、世界4,50カ国を回ったんですが、その経験から考えて、可処分所得が1,000ドルくらいになると、スナックの消費が増えます。2,000ドルくらいでは、マクドナルドなどのファストフード店を利用するようになり、5,000ドル以上だと、オーガニックが店頭に並ぶようになります。15年前、4年ほどドバイに住んでいました。その頃は、まだオーガニック食品は売られていませんでした。2年前に行った時は、ドバイの可処分所得は3,000~4,000ドルに達していましたから、オーガニックが出ていました。
以上の3つの例からおわかりのとおり、オーガニック運動の出現は、人類文明の経済発展段階ときってもきりはなせないのです。それを抜きに、マイノリティがいわゆる安全・安心問題に矮小化した議論しても、それに関心のないマジョリティにとって何らインパクトは持ち得ません。
ついては、人類にとってのオーガニックとは何か、500年くらいのスパンで、あるいは30世紀に届くような1000年ぐらいの視点で語っていただけると、オーガニックというのはなかなか面白い業界だと、一般の人たちにも思ってもらえるのではないかと思います。
・ 「放射能が出たら、プライドを持って止めよう」
(徳江)浅川さんから、「1000年を語るオーガニック」という視点が出ました。1000年と言わなくても、大きな価値観の変化が迫られています。変わらなくてはいけない、変わらないのなら、大きな決意をもって、放射能を吸って生きていくことを選択しなければならない。震災後、生産者も、生協も、いろいろな動きをされたと思います。オーガニックは安全安心というレベルで語られてきましたが、今は、生き方の問題が問われています。ここで、震災後、何か見えてきたことがあったかどうか、皆さんにお伺いしていきます。らでぃっしゅさんぼーやでは、いかがですか?
(緒方)こちらは、1,000年どころか、1年先のことも苦労して考えている状況です。静岡のお茶から放射性セシウムが検出された件で、今朝も新聞をお騒がせしたばかりです(編注・らでぃっしゅぼーやが静岡県産の製茶の自主検査を行ったところ、基準を超える放射性物質が検出された。HPでの公表を静岡県に相談したところ、掲載を控えるよう求められた。この経緯が、6月10日以来、各メディアで報道された)。「都内の通販業者」(編注:らでぃっしゅぼーやのこと)からの報告を受けて調べたら、基準値を超えたセシウムが検出されたことがわかったと、静岡県が発表しました。
この生産者さん自身、間違いなく被害者なんですね。生産者さんたちには、放射性物質について、自主検査して、基準値以上の値が検出されたら、公表し、回収するという話をしていました。そして、生産者さんたちも、拒否しませんでした。
残念だったのは、これまで(安全安心な農産物づくりのために)がんばってきたのに、原発の問題が発生すると、できるだけ調べられたくないと言う人が出てきたという事実です。検査をしないでほしいという生産者もいらっしゃると聞いています。私たちらでぃっしゅぼーやの生産者には、そういう人はいらっしゃいませんが、それでもこういう姿勢は、残念だと思います。せっかくこれまでプライドを持って作られてきたのだから、「危険なものは、食卓にのぼらせられない」というプライドを、最後まで矜持していただきたい。消費者の気持ちも、考えてみてほしいのです。子供が傍らにいた場合、どうしますか。何が正しいのか分からない状況の中で、若いお母さんたちの、日々巨大化していく不安感、そういう気持ちに、応えるべきです。弊社では、出荷前の検査体制を確立しており、生産者もそれを快諾しています。
消費者の購入に対する意識は、震災後、明らかに変わってきたように思えます。それだけ、衝撃的だったんでしょうね。私の感覚では、社会性を持った消費者が増えていると感じています。単に選ぶというだけでなく、消費の社会的影響を考えておられます。例えば、「安全性は確認してあります。福島のしいたけです」と言って売ると、通常の3倍売れます。
(徳江)最初、ホウレンソウが出荷制限になりました。澤浦さんが、テレビで、「それでも種は播く」とおっしゃっているのが報道されました。種を播かなくなったら、農家じゃない、と。種を播き、作物を育てる。これは、農家の姿勢という点で、「もし放射能が出たら、プライドを持って止めよう」という、緒方さんの発言と通じるのではないでしょうか。
(澤浦)「それでも農家は種を播く」という言葉は、マスコミに受けましたが、今表に出てきていることは、過去の結果だという意味なんです。「今播かなければ、未来がない。今だめでも、やる」、ということです。野菜くらぶでは、会合で、とにかく種を播き続けようといって播きました。幸い、4月9日からは出荷制限が取れましたが、それまでは、野菜が畑でどんどん大きくなるのを、ただ見ているだけ、という状況でした。しかし、出荷すれば、いままで築いてきた信用が、失われてしまいます。群馬は、県全体でホウレンソウ、カキナの出荷が止まりましたが、県が毎日サンプリングを続けて、一生懸命取り組んでくれました。
(徳江)ところで、皆さんのところでは、放射能の検出基準は、国の基準にしたがっておられるんですか? 何ベクレルまで安全なのか、本当のところは、わからないと思うんです。 有機の認証基準でも、放射能に対する扱いは確立されていません。これは、これから、大きな課題になると思います。有機は、とりあえず、国の基準で動いているようです。
(高橋)もともと、長い農業の歴史の中で、農薬の使用が広まったのは、ここ50~60年くらいのことです。慣行農業の先人の先人たちは、有機をやっているという意識はなくても、有機農業をしていたんです。長い農業の歴史の中では、慣行農業の歴史はわずかです。将来にまでわたって持続できる農業は、有機です。生協の産直は、ブームや売れるもの探しでやっているわけではありません。Aさんのところの野菜が売れないから、よそのものを持ってくる、という世界ではないんです。消費者から見れば、自分たちが作れない安全な食物を、生産者に作ってもらっているということになります。そういう意味では、生産者さんは、パルの会員の財産だと言えます。
放射能の基準については、どこまでも議論の余地があります。重要なのは、被害の状況をオープンにしたうえで取り組むということです。リスクを受け止めた上で、正しく情報公開し、組合員さんが選択できるようにしていくということだと思います。
問い合わせは、ものすごくたくさん来ています。一方、レタスなど葉物の受注は震災前の1.5倍くらいあり、増えているものもあります。食べたくない人に、無理やり食べてくださいという話ではありません。誰誰さんの野菜なら食べるというように、特定の生産者さんや農法を支持されている方々がいらっしゃいます。生産者さんが長年かけて作ってきた畑ですから、われわれも一緒になって、安全な土に戻していくようにしていきたいと考えています。パルシステムは、その過程を、消費者に見せて、わかってもらい、「リスクを共有する」という姿勢を取っています。
・「おいしい」ことが条件
(徳江)今回の調査では、有機の購入の年齢分布をみると、20代、30代は少ない。団塊の世代が購入者の中心のようです。
(志村)20代、30代も、実際には、関心があると思いますが、正確な情報が入る機会がない。価値観は、なんとなくではあっても、ほぼ全員分かっていると思います。でも、購入につながらないんです。
オーガニックになると、ブロッコリーでも慣行品は値段が100円くらい違います。その食材のおいしさがわかれば、買った人は、茎まですべて、大事に使いますよ。高いものを買っても、おいしかったら、その分大事に使います。
(緒方)おいしいということは、とても大事ですね。「有機=おいしい」ではないんです。農薬を使わない栽培方法では、コストがかかります。しかし、おいしくなければ売れません。農薬や、化学肥料を使わずに、おいしく、たくさん生産できることを目指して、年間50回くらい、全国で技術交流会を開いています。らでぃっしゅぼーやでは、とくに有機認証を推進してきませんでした。何を強調してきたかというと、有機的な栽培の仕方で、おいしい野菜を作りましょうということです。生産者さんには、作り方自慢の先に、おいしいもの自慢をしてほしい。消費者が、左脳で体にいいと思っても、おいしくなかったら、売れません。左脳で食べさせるのではなく、右脳でおいしさをわかってもらう、そのために努力してきました。味はとても大事です。
(徳江)料理教室は、コミュニケーションの場として、有効だと思います。ハウスや味の素がお土産をつけるという話でした。お互いに利益があればいい。だし汁でもしっかり認証を取っていらっしゃるメーカーさんもあります。料理教室に、有機の生産者やメーカーが出て行って、スポンサーになってみたらどうでしょうか。みんなで協力して、ABCの生徒さんに、オーガニックの良さを伝えてもらうために、何かできないかと考えているんですが、志村さん、どうでしょう。
(志村)たとえばパンなら、初級、中級など、コースに分かれています。ただ、3年前に、1dayレッスンという形態を開発しました。1dayレッスンでは、メーカーと組み、ABCの教室100か所で、開きます。メーカーの新商品の発売は、春秋にあることが多いです。1dayレッスンの形で、オール・オーガニックで食材やレシピを開発して、23万人に繰り返しアピールすることは、可能だと思います。
(徳江)1000年のスパンと、サンプリング・プレゼントという明日の現実と、この2つの視点で、オーガニックを考えていきましょう。
それともう一つ、放射能汚染と有機農業をどう考えてえいくか、すぐには回答が出なくてもどうしても越えていかなければならない問題です。
・放射能と有機農業
(浅川)放射性物質の汚染地域なら、有機農業は、化学肥料より、深刻な影響が出やすいという研究があります。震災の後、チェルノブイリ事故の有機農業への影響について、論文を取り寄せて、ずっと読んでいました。循環型の農業であればあるほど、影響が大きい。 例えば、被曝地域内で循環する堆肥があります。もとはといえば、汚染されたエサを食べた家畜の糞尿です。その中には放射性物質が含まれ、それがすでに汚染されている田畑に投与される。また、そこでできたエサを家畜が食べ、放射性物質が体内に蓄積され、肉やミルク、卵に含まれてしまうと同時に、糞尿として出ていく。同地域内の循環型の有機農業は素晴らしいのですが、放射性物質の問題となると、その低減、除染が進みづらい運命にあるのはまごうことなき事実なのです。
もう一つの論点は慣行も含め被曝農地の農家一般の問題です。原発事故以後ずっと、暫定規制値の話ばかりがされています。それよりもっと深刻なのは、農家の方の被曝問題です。長時間の野外での仕事だから、いちばん被曝しやすいです。外部被曝だけでなく、土壌表面やエサからまう放射性物質を吸ってしまう内部被曝です。自家用や地元産の農産物を食べる機会も多い。
暫定規制値というのは、こうした汚染濃度の高い地域にいらっしゃる農家や地元民のために暫定的な被爆上限を決めるためにそもそも設定されているのです。それが消費者一般の安全問題と誤って、認識されている。政府のアナウンスが完全に間違っています。
だから、農業界からも基準値が厳しすぎる、とか風評被害とか言う声が上がっていますが、それでは消費者の理解を得られない。農家にとっては経済的な問題だけでなく、自分自身が実害をこうむっているところから訴えたほうがいい。その事実を国民が把握した上で、被曝量がより少ない消費者ははじめて、「農家を応援しよう」という動きがもっと広がっていくでしょう。
問題の根本は、放射性物質の放出が日本の法律では合法でということです。通常、ゴミを不法投棄すれば、警察が来ます。でも、放射能では、放出しても犯人がいません。だから、東電は何もしない。国も汚染マップづくりさえようやく開始したばかりで、除染の予算もほとんどついていない。ではどうするか。長年、作り上げてきた農地が汚染された現実を前に、福島の有機農家が4月に自決されました。こうした現地の有機農家が絶望に瀕している中、オーガニックの活動は、提携の形で産地を支援する以外に、何か出来るのではないかと思うんです。提携農家の汚染農地をきれいにしていくといった活動などです。もう一つの点は、放射性物質を内包した農産物は有機農産物なのか、という根本問題です。化学肥料や農薬の残留を長年問題視してきた、有機業界が、放射生物質については「御国の基準通りに従っています」というのは思考停止ではないですか。みなさんはどう考えておられているのか、お伺いしてみたいんですが。
(澤浦)放射能の影響は、循環型農業だけではありません。そこは、違うと思います。また、放射性物質だけが問題なのではありません。広島にも長崎にも、原爆は落ちたけれども、今は人が住んでいます。科学的に分析して、データを出していけば、今のような、重箱の隅をつつくような話にはならないのではないでしょうか。
(徳江)会場の方で、今の意見に対して、ご質問等ありますか?
(土屋=参加者)私は、30年以上、土を調べ、農産物を作るコンサルタントをしています。人類が現れたのは、地球の歴史の中でごく最近です。地球が生まれた当時は、放射能は今の数千倍あったと言われています。地球上の生命は、地球ができて8億年後に生まれましたが、初期の生物は、放射能をエネルギーにしていたという意見もあります。そういう歴史を考えれば、現在地上にある物質の中で、放射能を弱める働きをするものがある可能性があります。
(徳江)微生物や、菌の世界は柔軟性をもっています。放射能を分解するものもあるかもしれません。ただし、好気性の菌は、化学物質に弱いのです。昔は、好気性(と嫌気性)の割合は8対2くらいと言われていました。でも、好気性菌は地表面に多く化学物質、特に塩素に弱く、今は多くの好気性菌はいなくなりました。菌相が変わってしまっています。ただ、菌を保存しているところもありますから、有機農業は、菌の面で、何かできるのかもしれません。
放射能については、子を持つ親は、やはり乱暴に考えるわけにいきません。情報公開がしっかりしていれば、大抵のことには耐えられるのではないかと考えています。国がだめなら、自分たちで公開をしていくとか、らでぃっしゅぼーやの緒方さんが言われたように、「放射能が検出されたら、プライドを持って、出荷はやめる」という姿勢は、大事だと思います。
(参加者)私は、日本学術振興会の特別研究員をしております。オーガニックは、食の安全と安心をめざすもので、人類の健康志向がその底にあります。オーガニックを普及させていく上では、日本的な食文化が大切だと思うんですが、その食文化の継承が、切れてしまっています。そのことに危機感を持つべきで、オーガニックも大事なんですが、食育を進めることも重要なのではないですか。
(志村)食文化の継承は、まさに、ABCクッキングスタジオが、重点を置いている点です。母から子への日本の食文化の継承を目的にして、全国の料理教室で授業をしているわけです。オーガニックについては、もっとレベルが上がって、生徒が繰り返して購入するというくらいにまでなればいいなと思っています。
(参加者)自分の生き方を変えないで、安全なものを食べましょうというわけにはいきません。物の考え方も変えなくてはいけない。オーガニックの生産者は、情報公開をしていますが、外国の農産物の栽培実態などは、ぜんぜん知られていません。消費者は、いまは安いものを買っているけれども、実態が知られるようになれば、消費者の行動も変わると思うんです。
(参加者)私は25歳です。オーガニック協会?で、オーガニックのことを学びました。オーガニックは、環境問題に関する消費者の知識がなければ、購買につながっていきません。環境問題、農薬は、いずれ自分たちにつけが回ってくるものなのだということをわかってもらうべきだと思います。
(緒方)オーガニックという言葉や認証マークが示しているのは、「こういう作り方をしました、そしてそのことが証明されました」ということです。植物の中に蓄積されて、悪影響を持つものは、農薬以外にもあります。また、オーガニックは、100%安全性を担保しているものではありません。未熟な堆肥を使用すれば、環境にはむしろ悪影響があります。わたしたちは、お客様に、「こういう作り方をしているので、安全、安心」だと伝えていく努力をしています。
農薬や化学肥料を使って、おいしい野菜を作る方は、たくさんいらっしゃいます。オーガニックは、消費者にとっては一つの選択肢です。もっとおいしくて、健康にもいいものを、一緒になって作っていくという努力が大事だと思っています。
(浅川)市場に出す野菜を、自分や家族は食べない農家もあります。しかし、オーガニックの生産者は、家族に食べさせるものを、市場にも出しています。これが有機農家の心の豊かさの証明だし、信頼を担保する行動原理だなと思います。
(高橋)今日のシンポジウムは、日本の消費者は利己的傾向が強いということから、始まりました。しかし、消費者が自分で感じたことをどう具体的行動につなげていくかを考える時、社会的行動という選択肢もあがってくるはずです。今回の震災や福島原発事故は、私たちに、そういうことを教えてくれたと思います。
・これからの取り組みについての宣言
(徳江)最後に、皆さん一人一人に、30秒ずつ、これからの取り組みについて、宣言をしていただきたいと思います。
(高橋)私たちは、これからも生産者と一緒に有機農業を創っていく、ひろめていくことに取り組んでいきます。
(澤浦)1千年後どうなっていてほしいかというと、子孫が豊かであってほしい、そのためには、継続しうる農業ということで、自然に有機に向かっていくのではないでしょうか。私自身は、自分のライフスタイルとして、有機農業に関わっていきたいと思います。
(志村)いろいろ課題はありますけれども、オーガニックマーケティング協議会を会員組織化していただいて、チームを組んで見られてはいかかでしょうか。ABCクッキングスタジオとしても、可能な限り頑張りたいと思っています。
(緒方)スペインで、放牧しているところに行ったことがあります。そのとき、ここは、特に何も起こらなければ、1000年後も同じ場所で同じような豚を飼っているのではないか、と思いました。持続可能な社会は、将来の子供たちが選択する社会です。子供が大人になった時、子供の時に食べさせてもらったものが食べられる社会でありつづけてほしいです。そのために、安全で、おいしくて、子供が大人になっても忘れない味、そういう食べ物を、生産者といっしょになって作っていきたいし、そういう農業を行っていきたいと思っています。
(浅川)小学校の時、近所にオーガニック・ショップがあったんです。僕ら子供たちが、よく行っては、いろいろ商品を食べさせてもらっていました。お金も払わないのに、店の人は、毎日のように食べさせてくれました。それが原因かどうかはわかりませんが、お店はつぶれてしまったんです。この話の教訓は、逆説的なんですが、経済的豊かなお客さんがいないと有機マーケットは発展できない。有機農業が単独で発展することはあり得なくて、日本の経済が豊かで、心に余裕のある人が増えることが、有機農業を支える前提状況です。だから、有機業界は、TPPなどお客さんの経済発展につながることは積極的に賛成、応援しないといけない。
(徳江)これから、厳しい状況が続いていくと思います。北茨城から来ている友人がいるんですが、茨城では、ホウレンソウの出荷制限がかかっていました。また、震災後、福島の須賀川の有機農家の方が、自殺されました。30年間有機で土づくりした土地が、放射能で汚染されてしまったのです。
ですから、震災後の状況は、決して甘くは考えられません。しかし、こうして話し合ってみると、活路はあるということが見えてきます。オーガニックマーケティング協議会を本気で作ってみようかという気にもなってきました。いずれにせよ、オーガニックを広げるための、核になる部分は必要だと思います。作ろうと決めたら、皆さんに連絡します。
今日のシンポジウムを延期せざるを得なかった時には、とてもがっかりしました。ずっと、自分の中でもやもやしたものがあって、今日のシンポジウムも、どうしたらいいのかと考えてきました。でも、やってみると、皆さんのエネルギーと見識に救われた気がします。これから、オーガニックマーケティング協議会という形で、私自身が旗を揚げて、この世界を発展させるような動きを作っていきたいと考えていますので、みなさま、どうかよろしくお願いしたいと思います。
本日は、長時間にわたりご出席いただき、たいへんありがとうございました。