二週間前の学部ゼミで、吉野家について経営上の問題点を指摘した。個人的には吉野家の大ファンである。しかし、このごろ吉野家に入ると、従業員の働きぶりや店の清潔度が気になってしかたがない。このままでは、すき家と松屋に完敗してしまうのではないだろうか?
それでは、吉野家は、なぜ「すき家」に負け続けているのだろうか? 牛丼チェーンのゼンショーが運営するすき家は、6月既存店売上高で、前年同月比6%増(先週の記事)。これで、17ヶ月連続のプラスである。松屋フーズも、対応前年で+3.7%で売り上げが増えている。
これに対して、吉野家の対前年比の売り上げは、対前年比で+1.4%(既存店ベース)である。
この記事を書いた雑誌記者のコメントによれば、「(6月)24日から30日までの7日間、通常牛丼並盛り280円から30円値下げし、250円で販売した値引きキャンペーンが奏功した」とあった。
吉野家の業績については、価格競争面からのきびしいコメントが目につく。しかし、真実はその通りなのだろうか? 吉野家は、価格競争の結果として、すき家や松屋、あるいはマックに客を奪われたのだろうか? もしそうだとしたら、この期間は、対抗して吉野家もキャンペーン価格で牛丼や牛鍋丼を安くしていたはずである。
だから、業績不振の根本的な原因は、価格ではないように思う。牛丼3社の店舗に行ってみるとよい。答えは、メニューの設計とオペレーションのやり方(商品とサービスの提供方法)にあることがわかるだろう。
教室での議論では、学生たちから、吉野家はきびしい評価を受けていた。
1 店内が汚れている
→ 女性客や優良顧客が来なくなる
2 商品の提供時間が遅い
→ リピート客が減る要因
(券売機を導入している「なか卯」で、わたしが冷しうどんを頼んだら、1分45秒で出てきた)
3 従業員の作業動線が良くない
← 品出しが遅れる原因の一つで、都市部では店内が狭いことも要因
4 単品メニューを継続するのか、多品種にするつもりなのか、
基本戦略についての方針があいまいである
5 お客さんが男性ばかりで入りずらい
(女子学生からのきびしい意見)
わたしの論点(コメント)は、これらすべての結果(業績悪化)は、「牛丼の単品メニューで運営してきた業務システムが、いまや破たんをきたしているのではないか?」というものだった。
店内の清潔度が保てないのは、多品種メニューの導入と、その結果として作業動線がよくないことに起因している。顧客対応の生産性(回転を上げること)は、作業のプロセスを見直さないと、「利益なき繁忙」に結果する。
以下は、吉野家のサービスブループリントである。
1 来店した客から、オーダーをとる。
2 注文品の情報をキッチンに伝える。
3 商品が出来上がったら、品出しをする。
4 客が食べ終わったら、「ありがとうございます」と頭をさげて、釣り銭を手渡しする。
この一連のプロセスは、低価格で客数が増えると、ボトルネックにしかならない。とてもではないが、吉野家の現在の作業システムでは、人時生産性は限界にある。現状のビジネスモデルでは、絶対に利益が生み出せないのである。
そんな折りも折り、「牛丼チェーン、吉野家の一部店舗に券売機が導入された」とのニュースが流れてきた。吉野家がBSE問題への対応するため、多品種メニューに動き始めたときから、わたしは、現状の作業システムの破たんを予見してきた。
このままでは、効率が悪くて、「はやい、うまい、安い」は、もはや実現できなくなると考えていた。そして、競合のすき家からの価格攻撃である。退路を断たれてしまったのに、経営トップは、価格対応に終始している。
反攻のためには、したがって、券売機を導入するしかないだろう。そう思っていた。だから、券売機の実験は、正しい方向だろうと思う。
それと、牛鍋丼のような低価格メニューではなく、例えば、米沢牛を使った牛丼(480円)とか、プレミアム路線に転換すべきだとも考える。
以下では、報道の記事を引用する。
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お客とのコミュニケーションを重視するため、吉野家はポリシーとしてあえて導入を避けてきただけに、驚きが広がっている。
吉野家広報によると、2011年7月13日現在、券売機が導入されているのは東京、新宿や千葉の柏の店舗など。2010年からごく一部の店舗で導入しているという。
「券売機を置かないことで大事にしたいことがある」
牛丼チェーンでは、松屋が券売機を導入しているが、吉野家の導入はかなり衝撃だ。吉野家の安部修仁社長は2008年にプレジデントロイターに掲載されたインタビューの中で、「なぜ券売機を置かないのか」と聞かれ、「券売機を置かないことで大事にしたいことがある」と力説している。
券売機を置くと確かに生産性は上がるものの、一方で「ご注文は何になさいますか」という接客用語が一つ減るほか、代金の受け渡しという客とのやりとりがなくなる。安倍社長は「牛丼を食べる刹那的な時間ではあるけれど、こうした、お客さんとのメンタルな繋がりを大事にしていきたい」としている。
それだけにネットでは、「勘定待ちが無くなるならそっちのほうがいい」と歓迎する見方だけでなく、「お客様への真心はどうなったんだ?」「ぶれ過ぎだ」といった書き込みが多数寄せられた。
吉野家広報「あくまで実験的にやっていること」
一体どういう考えなのか。吉野家広報担当者は「あくまで実験的にやっていることです」と語る。
店舗によっては、繁盛していたとしてもその後、近くに他社の競合店舗が出てきたりして客数が減ることがある。そうした店舗を潰すのではなく維持していくために、券売機を入れて人手を減らしても店舗を回せるか試しているのだという。
「お客様に満足していただくためにはある程度の店舗数も必要です。利益が出ないことにはお店も続けられませんから。ただ、券売機は現在のところ、まだ試しているという段階。お客様がたくさんいらっしゃる店舗には向かないと思いますし、お客様との接点を大事にする吉野家の『粋なサービス』という基本的な考え方も変わりませんので、これが今後他の店舗にどんどん普及していくとういうこともありません」
ちなみに、吉野家では「つゆだく」や「つゆぬき」といった特殊オーダーが存在する。券売機のある店舗では店員に食券を渡す際に伝えればいいのだそうだ。
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皆さんは、この記事をどのように解釈するだろうか? 吉野家は、いま創業以来の岐路に立っている。BSEのときよりも、むしろ深刻である。わたしのような顧客が離れ始めているからだ。