【優秀レポート#1】 成熟市場の再活性化(2016年マーケティング論)

優秀者2名 川口友紀さん、有馬宏和さん。
課題#1は、
 鳥越社長の講義(5月19日)をヒントに、一般的には成熟してしまったと思われている市場(産業)で、再活性化(イノベーション)の可能性があると思われる市場(産業)を一つ選択せよ。そして、鳥越社長が実践したような成長へのイノベーション・アイデア(あるいは商品)を提案せよ。
 なお、イノベーションの対象は、「ザクとうふ」や「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」のような商品(プロダクトイノベーション)でも、豆腐の製造工程の革新的なアイデア(プロセスイノベーション)でもかまわない。商品やアイデアの背後にある、革新の芽をどこから(どのような観点から)探してきたのかを明記せよ。
でした。


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◆川口友紀

 私が考える、成熟市場で、再活性化の可能性があると思われる市場は、パソコン市場である。パソコン市場は、国際競争が厳しく、技術的に成熟した分野であり、機能、品質、価格での差別化に限界がある。しかし、デザインや使用技術の組み合わせを変えプロダクトイノベーションを興すことで、新たな市場をつくり出すことができると考える。

 コンセプトは、「あたかもパソコン」というプロジェクタ一体型モバイルパソコンである。一般的なノートパソコンは、モニターとキーボードが一体となっているが、これらを一切なくす。その代わりに、プロジェクタ機能を内蔵し、プロジェクタ投影により、モニターとキーボードをあたかもつくり出すことで、出力と入力機能を担保するとともに、軽量化と小型化を図る。これにより、手のひらサイズを実現し、気軽に持ち運ぶことができると想定している。
 利用シーンとしては、外出先での利用を想定している。新幹線などの乗り物の移動時に出張などのビジネス使いや外出時のちょっとした調べ物、例えば外壁に地図をうつして目的地までの経路を調べるといった使い方もできる。

 モニターとキーボードをなくすことで、軽量化と小型化を実現するとともに、デザインも既存のパソコンとは全く別のものとする。既存のノートパソコンは、直方体型で無機質な素材が中心である。今回のあたかもパソコンは、持ち歩いても楽しい、例えば、カバーを付け、小さなぬいぐるみのような筐体や、触り心地の良い素材を使用する。アクセサリーのようにパソコンを持ち歩けるようになることで新たな需要を創造する。

 商品やアイデアの背後にある、革新の芽をどこから(どのような観点から)探してきたのかについては、私自身がデザイン家電を好きだというところからきている。特に、amadana株式会社の家電が好きで、何度か購入している。
 amadana社は、デザイン家電のメーカーで、顧客が日常生活をより楽しく過ごせるようになることを新商品開発の軸においている。amadana社が新商品開発を進める際の方針として、あえて技術が成熟している製品カテゴリを狙っている。なぜなら、既存技術は、機能的にも性能的にもすでに信頼性が確保されているからである。そのため、企業側には開発費を削減できるメリットがある。今回提案する、ノートパソコンの技術やプロジェクタの技術は、いずれも既存の成熟した技術である。

 以上より、搭載する既存技術の組み合わせを変え、かつ、デザインを刷新することで、パソコンという枠組みを超えた新たなコンセプトの商品を開発し、成熟市場の再活性化が可能と考える。
                                                以上

amadana株式会社
http://www.amadana.com/

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◆有馬宏和

1.再活性化の可能性がある市場

 私は、再活性化の可能性があると思われる市場として、カーテンの市場を選択する。カーテンは大きな枠ではインテリア市場に入るが、インテリア市場の近年は国内の人口減少や家族構成の変化による新設住宅着工戸数の減少、デフレ経済における販売の低下で、市場は図1のように縮小傾向にある。

図 1:インテリア市場規模の推移

 壁紙やカーペットなどと同様、カーテンも市場規模は縮小傾向である。しかし、カーテンは外と近いために汚れやすく、衛生的な面やサイズの問題から引越しなどでは買い替える可能性が高い。日本の賃貸で食器棚や照明など一通り揃っている所でもカーテンはほとんど付いていない。扱いとしては消耗品に近いと考える。また、個人の趣味が深く影響するものであり、魅力的な製品を生み出すことが出来れば、模様替えが簡単にできるため、簡単に気分転換をしたい顧客のニーズに応えられると考える。よって、イノベーションを起こし得るものと推察する。

2.成長へのイノベーション・アイデア

 引越し以外でカーテンを買い替える時は衛生的に必要性が生じた時か、模様替えの時であるが、どちらもめったにあることではない。花王のページでは、カーテンの洗濯頻度がどれくらいかアンケートを実施したところ、「半年~1年に1度」が53%、「洗ったことがない」が23%であり、8割近くが洗濯に消極的である。 よって、あまり買い替えの頻度は多くないと思われるため、「高機能化」で新しいカテゴリーを作る必要がある。ここで私は、図2のような『フレキシブルディスプレイ型モジュール式ロールカーテン』を提案する。
 本製品の特徴は自由度の高さである。基本はロールカーテンの構成で、①高さが調節可能、②従来の布の部分をフレキシブルディスプレイにすることで、自由に模様を変えることが可能、③一枚一枚を細長いモジュールで構成することで、長さ方面の対応が可能、という利点がある。

図 2:フレキシブルディスプレイ型モジュール式ロールカーテン

 形状だけでなく、模様や柄を自由にできる点が画期的であり、自分の気分に合わせて山や海、花畑の風景など変更ができるようになる。
 フレキシブルディスプレイは有機ELを想定しており、プラスチック基板であれば透明にすることが可能である。また、カーテンからの発光を嫌う顧客には、自発光せず反射光で見ることが可能な電子ペーパーディスプレイを用いる。図3のように、カーテンの変更はロール部分から着脱式にする。上部のロール部分にディスプレイのデバイスドライバを内蔵し、顧客がカスタマイズできるよう、規格を統一する。
 なお、電源はロールからコンセントで引いてくる方法が確実だが、日光が照射する南側の窓であれば、有機薄膜太陽電池を裏に設置し、発電する方法も考えられる。ロール部分にリチウムイオン電池を設置、蓄積することで、夜も駆動可能である。具体的な試算は必要となるが、有機EL、電子ペーパーともに低消費電力で駆動するため、有機薄膜太陽電池の発電効率を上げられれば、自立電源での駆動も期待できると思われる。

図 3:本製品の構造

 課題は、電子製品であるため、耐久力が挙げられる。夏や冬は温度の変化が激しく、それに耐えられる設計が必要である。夏であれば日光により気温以上の温度上昇、冬は結露による水滴が大きな敵となる。特に有機EL素材はまだ寿命が長いとは言えない。そのため、本製品は室内の方にあるドレープカーテンを想定し、レースカーテンに従来の防寒機能や遮光機能を持たせる使い方が現実的と思われる。
 また、モジュール化したのは窓の長さに対応するためでもあるが、劣化した部分は交換可能にすることで、長期的に使用できるものにして、なおかつ商品の回転を早く、定期的に収益が望めるようにするためである。実際に販売する際は、天井のロール(ディスプレイドライバ部分)は安価に販売し、カーテン部分の有機ELディスプレイや電子ペーパーディスプレイを高めに売る、プリンタとインクのような販売方法が良いかと考えている。

3.革新の芽を探した観点

 始めに、身の回りであまり変化を感じないものを探していたところ、カーテンが目に入ったため、製品対象にした。カーテンは単に光を遮り、隠すだけではなく、厚手のカーテン生地には防寒効果があるなど、色々と機能を持たせられるポテンシャルがあると感じた。また、家によってカーテンの長さや高さが異なっており、引越し後に引き続き使用できる可能性はあまり高くなく、最近引っ越した際に前使っていたカーテンを余らせていたのも、何かできるのではないかと考えた要因である。
 他方で、家の中で窓が大きな面積を有しているのであれば、スクリーンとして活用できないか考えていたことがあったため、ディスプレイとの融合を考えた。ただ、テレビの代替にするのは消費者が求める解像度や鮮明さが足りず、動画は向かないと思ったので、柄を変えるか、絵を表示する程度の静止画を表示する形で提案した。
 なお、現在まだこれだけの大面積な有機ELディスプレイ、電子ペーパーディスプレイは販売されておらず、実用化されている大きさはスマートフォンから中小型テレビ程度である。しかし、技術的には製造は可能で、ディスプレイメーカーはアプリケーションを求めている。大面積を必要とするアプリケーションを生み出せれば、メーカーは設備投資し、ロールtoロール方式の印刷技術で大量生産でき、低コスト化が図れる。カーテンという成熟市場のイノベーションのためにディスプレイを組み合わせたプロダクトイノベーションを考えたが、市場が拡がることにより、ディスプレイの大量生産というプロダクトプロセスイノベーションも起こり、更に新市場を開拓するきっかけにもなるのではないか、と期待している。