9月27日(土)に開かれた「ブランドマネジメント研究部会(JIMS)」の拡大版セッション「広告の今とこれから」から、「私の広告作法-今は自分の中にある」(高橋英之氏 広告クリエーター)の講演録をアップする。
 日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)
 ブランドマネジメント研究部会・拡大版セッション
 「広告の今とこれから」 
「私の広告作法-今は自分の中にある」
 
 広告クリエイター
 高 橋 英 之 氏
 日時:2013年9月27 日15時~15時30分
 於:法政大学経営大学院IM研究科101教室
講 演 要 旨
 1.TVCMとは:「エモーション」(S.ジョブズ)
  僕は、CMを作っています。今日は、普段、日々仕事に追われながら何を考えているかについて、お話しします。
  
  最初に、広告の今とこれからということで、まず、アップルのスティーブ・ジョブスのキーノート発表の映像を紹介します。このなかに、TV広告のことをさらっとうまく一言で言い表したシーンがあります。キーノート発表の際のもので、縦軸にウェブ広告、横軸にTVCM、その間にアイアドがあるというプレゼンテーションです。ウェブはインタラクションと呼ばれています、インタラクションに対して、TVCMのことをジョブズは何と言っていたか、これがおもしろいのです。ジョブズによると、TVCMは、「エモーション」です。私は、これは間違ってないと思います。映像はリッチなコンテンツで、感情を突き動かすことができるのが広告であり、エモーションに訴えるメディアということです。TVCMをうまく表している言葉ではないかな、と思いました。
2.CM紹介
  それでは、次に、僕のCMの抜粋をお見せしたいと思います。僕の仕事は、お笑い系、エモーション系など、いろいろ細分化されているのですが、自分としては、エモーション的な表現が得意かなと思います。
  
 (以下、CM例紹介)
 ・「タバコを持つ手は、子供の目線だった あなたが気づけば、マナーは変わる」(JT)
 ・「頑張ってね、そういう人ががんばりすぎている」(大学病院産婦人科医)(日本医師会)
 ・「医師たちはたたかっている」(日本医師会)
 ・「退院?うれしくないですよ。次の病院?全部断られました。毎日の医療処理を、家族がするんですか? 日本の医療制度が今、病んでいる」(日本医師会)
 ・「小児救急に対応できる病院が激減している」(日本医師会)
 ・「ハッピーは案外近くにある あの街へ、東急線で」(東急)
 ・「リサイクル携帯」(パナソニック)
 ・「涼しい厨房機器 次のアイディアで、プロの料理人を支えたい」(東京ガス)
 ・「パラリンピック(北京)」(パナソニック/カメラ)
 ・「映像で、笑顔はつながっている」(パナソニック)
3.CM製作プロセス
  今お見せしたCMはショー用にまとめたものですが、普段は、もう少し普通のCMも作っています。ここにお集まりの方々はたぶんご存知かもしれませんが、「ダイドーブレンドコーヒー」のCMの例で紹介します。
  僕がCMに参加する段階では、もう企画が決まっています。まず、企画書に、長いバックストーリーが書き込まれ、字コンテが付いたものを渡されます。そして、「15秒で」というようなオーダーが入ります。
 次に、企画書をもとに、クリエイティブの人間が、絵コンテを入れます。この例では「ブレんなよ、ブレンなよ、ブレンなよ」と入っていますが、(バックストーリーと比べて)シンプルになりすぎている気がします。
 僕の仕事はここから始まります。僕の中では、表現として変わらない軸として、親子の関係などがあります。変わらない軸とともに、今の時代の気分を、どう切り取って表現するかが自分の仕事かなと思います。
 製作現場の設計図ともいえる「演出コンテ」は、僕が書きます。スタッフに、どういうアングルで、どんなカメラの高さで撮るかを指示し、スタイリストには服を探してもらい、ロケコーディネーターに場所を探してもらいます。
  CMに出ている本田翼さんは、この当時、無名でした。CMの中では、彼女を女優を目指す女の子の役で使いました。結果的には、缶コーヒーよりもむしろ彼女だけが売れました。CMで新人女優の名前を出すと、その女優は売れるということを言う人がいます。テレビで、本田翼ですといったら、面白いのではないかと思って、入れました。これをTVでやれば、検索も上がるのではないかと思いました。結果として、彼女は売れました。
ラストに、「フゲー」という言葉が入ります。最終的には、「ホゲー」と言いますが、缶コーヒーとして、リラックスという要素は大事なので、この言葉で視聴者が引っかかってくれることが大事です。「ホゲー」とか、「フニャー」という引っかかる言葉を、何パターンか、本田さんに言ってもらいました。そのうち、なぜか、「いま、ホゲーなんだな」ということが、女優のキャラクターとともに、不思議にマッチしてくるのです。
 演出コンテでは、全体の流れも作ります。僕は、よく小説が映画化されて、原作の方が面白かったという人が多いですが、それが嫌なのです。映画化されたものを見るのは、結局タレントを見たいからです。僕は、タレントを魅力的に見せるそのやり方を見ます。
  このCMについて言えば、最終的には、本田翼がいかに魅力的だったか、ということにつきるかもしれません。 
  
 質疑応答
 (岩崎氏)高橋さんは情緒的なCMを得意とする監督さんで、僕は箱根駅伝のCMなどを一緒に作りました。
(小川教授)質問ですが、普段はどうしていらっしゃるんですか?着想、発想を現場で具体化するために、どんな準備をされているんですか?
(高橋氏)自分のことなので、よくわからないです。実は、映画もTVもあまり見ません。話題のドラマなどを録画して見ることはありますが、特別なことはしてないです。本も読まないです。普段は、仕事したり、周りのスタッフの意見を聞く方が、刺激的だと思います。
(岩崎氏)役割で言うと、文章を書いて、ストーリーを作るまでが、私の(コピーライターの)仕事です。それをもとに、絵コンテを書いて、映像にして形にするのが、彼の仕事です。
 以前、一緒に仕事をしたとき、彼が「ボンゴレビアンコ」という意味のない言葉を入れたいというので、CMに入れたことがあります。私はコピーライターなので、もっと意味のある言葉を入れたいのですが、予定調和の世界の中に、「ボンゴレビアンコ」のような、気になる言葉を使うと、CM全体としては、その方がしっくりきたりします。
(高橋氏)僕は、自分でおもしろいと思うものしか、入れません。きっちりと決め込まない部分が、いちばん大事です。僕は、映像は、どうしてもライブには勝てない部分があるなと感じています。映像では、作品にするときは、みっともない部分はカットします。ですが、ライブでは恥ずかしい部分も出てしまいます、そういうことの情報量の多さには、映像は勝てない面があります。服装とか、しゃべり方とか、そういうことです。こういう部分で、僕がこういう格好で、ここに立って、こうして話していることで、僕の仕事は実は半分終わってるのかな、と思いながら、今日は気楽に来ました。

