ローソンファーム千葉を取材した(7月30日)。対応してくださったのは、篠塚利彦氏(ローソンファーム千葉代表取締役社長)と(株)ローソンからは3名の方。法政大学からは、わたしと院生の二人、青木(アシスタント)の4名だった。
この訪問記録で重要な点は、つぎの4点である。
(1)後に「キャベツよキャベツ」(8月5~6日のブログ記事)で話しているように、産地が分散することが実証されていること。
(2)重量野菜に代表されるように、コールドチェーンだけに依存する農産加工は壁に当たっていること。
(3)若社長の篠塚さんのように、地域の有力農家(芝山農園)の子息が、大手の小売りチェーン(ローソン)と組んで、農業フランチャイズを実現する形が見えてきていること。大手の直営ではなく、緩やかながら取引責任は取る形で権限を委譲する形態の未来。
(4)小売りチェーンとしては、大規模に農業を取り込まずに、30%程度の供給依存率で停めておくこと。
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Ⅰ ローソンファーム千葉(芝山農園内)訪問
日時:2015年7月30日 10:30-11:30
1.ローソンの農業事業
(1) 農業参入の動機
① 国産優良青果物の安定調達をめざす
・背景に、農家の高齢化、就農人口減少、全中解体・系統出荷の疲弊
② 次世代を担う若い営農家の育成
・ローソンファーム設立により、地域活性化
地域で核となる農業生産法人を目指す
・農産品だけでなく、ファームをハブにした、近隣農家とのネットワークにも力を入れている。
ローソンファームを拠点に、若い農家に、周囲の農家をまとめてほしいという思いがある。
・6次産業化の推進
地域の農産物の積極的取扱いと雇用創出(ローソンファーム産+ファーム産以外も)
③ 農業に関わることで、農業を理解する計画生産・計画販売のシステム化を目指す
・計画生産・計画販売
出荷量・時期のコントロール、出荷システムの構築
・生産技術の向上
土作り――中島農法
生産工程管理(JGAP)
栽培技術――ファーム間交流
種苗開発――種苗メーカーとのタイアップ
(2) ローソンファーム営農基準
・若い次世代を担う営農家
・独自の販路を持っている
・農業技術開発に積極的
(Sさん)篠塚さん以外では、熊本のファームの社長は坂本さんといって、25歳である。
(3) 全国のローソンファーム
① ファーム全体
・23ファーム(2015年6月末現在)
全ファーム合計で、露地168.6ha, 施設4.9ha、水田5.0ha、工場 5,760㎡
② ローソングループ全物量に占める売上高
2013年現在 約5% (2014年計画7%)
直近で10%くらい。
最終的には30%にまで持っていきたい。
③ エリア
・いまは、西日本が多い。東日本はこれから。
・ローソンファームは、新潟では国家戦略特区にある。
・北海道では、小麦生産も開始した。
エリア ファーム数 生産物
北海道 3 大根、ジャガイモ、長芋、小麦など
東北 2 キュウリ、イチゴ、長ネギ、米など
関東 4 イチゴ、ニンジン、小松菜、ぶなしめじなど
中部 2 桃、ブドウ、オクラ、トウモロコシなど
近畿 1 新玉ねぎ、玉ねぎ、白菜、レタス
中国・四国 3 トマト、ケール、米、ホウレンソウ、大根など
(一部は有機JAS)
九州 8 トマト、日向夏、みかん、ブロッコリーなど
合 計 23
(4) 質疑
(小川教授)ローソンファームのエリアを見ると、静岡や高冷地の夏場の生産地がない。
長野のレタスと、群馬のキャベツは、拠点として抑えないといけない。
(ローソン)長野、中部などには、契約生産地はあるが、ローソンファームはない。
長野の農家は独立心が強い。嬬恋などは、系統出荷である。中部は両方だ。苦労がある。
・ローソンの農業参入の姿勢
(S氏)ローソンでは、完全分業している。生産は農家が行う。ローソンとしては、農家の代々の技術のある農家と組みたい。ローソン側はマーチャンダイズなどを行う。最初から合意してスタートした。
2.ローソンファーム千葉
(1) ローソンファーム千葉
① 会社概要
・会社名 農業生産法人 ㈱ローソンファーム千葉
・パートナー ㈱芝山農園
・設立 2010年6月
・住所 千葉県香取市岩部1940-5
・資本金 500万円
・代表取締役 篠塚利彦氏
・圃場面積 露地 約18ha、ハウス 約1ha (47棟)
② ローソンの位置づけと出資関係
・ローソンファーム千葉 出資者
芝山農園 75%
㈱ローソン 15%
東京シティ青果㈱ 5%
㈱RAG 5%
(篠塚氏)
・ローソンファームは、ローソンのパートナー企業という位置づけ。
・ローソンファームでは、ローソンの資本金は一律500万円
ローソンの出資比率は、基本的には他のファームも同じ。
・芝山農園は、社長(篠塚利彦氏の父親)と長男、利彦氏本人で出資した形だが、実際はほとんど自分(利彦氏)が出資した。
・東京シティ青果が出資した農家の第1号が、芝山農園だった。
・㈱RAGという会社が、5%出資しているが、これは大阪本所が出身母体のマルソクという仲卸が、母体の会社と組んでいるもの(編注:(㈱丸促。大阪市中央卸売市場に本拠を置く、青果物の仲卸業者で、RAGグループの一員)。
③ 社長・篠塚利彦氏
31歳。芝山農園は父(篠塚敏夫氏)の経営、利彦氏は4男。
初めは農業を継ぐつもりはなく、音楽をやっていた。
27歳で、ローソンファーム代表に就任。
兄らもそれぞれ農業経営に携わっている。
参考:芝山農園HP
・芝山農園内の設備で、サツマイモ、人参の仕分け、袋詰めをしている。
7月末でしばらく自社の人参生産が終わるため、夏季は別産地から人参調達、納品
ローソンへは、自社の人参はローソンファームのロゴ付、取引先からのものはロゴなしで納品
ローソン100の焼き芋のサツマイモは、すべてローソンファーム千葉で扱う。
③ 加工=香取プロセスセンター
・2015年5月稼働、施設面積900㎡
(詳細は、章を改め、後述)
(3) 生産の特徴:中嶋農法+JGAP
① 中嶋農法
・中嶋農法とは、
「土中の栄養バランス(ミネラルバランス)や、作物の生育状態に対して、適切な栄養を供給することを目的とした栽培方法」
㈱生科研社(旧・エーザイ生科研)の登録商標
ミネラル成分、アミノ酸、糖度、機能性成分が高く、美味しく栄養価が高い。
また、作物が健康に育つため、農薬の使用回数が減る。
② ローソンファームでの中嶋農法認証取得状況
・ローソンファーム千葉で、全国に先駆けて取り組み
ホウレンソウ、小松菜
2013年4月~ 中嶋農法を訴求したデザインで商品展開。
2014年度からは、露地作での中島農法取り組みを始める。
大根、人参についても、認証取得を目指す。
・土壌分析からスタート、施肥提案から、適正ゾーンに持っていく
マンガンの分析値などを重視している(配布資料12頁図の真ん中、赤いところ。マンガンが欠乏すると、新葉の一部が淡緑色~白変する)。
(篠崎氏)普通、中嶋農法の認証は、最低でも3年かかるが、ローソンファーム千葉の場合、特例だった。以前から、パルシステムに出荷していたので、その頃から土壌分析をしていた。ペンタグラフで5項目くらいの簡単な物だったが、講習を受けていたので、最初から土壌がだいたい適正ゾーンに収まっていた。それで、認証を通常より早めに取ることができた。
(S氏)3年経ってもバラバラだと、認証は取れない。
・品目認証
(篠崎氏)ハウス栽培からスタート、あとは大根人参も後追いで、今2年露地栽培でやっているので、そろそろ取れると思う。ハウスの方が取りやすい。
土地の土質の問題もある。この辺りだとリン酸係数が高くなる特性があるが、大きな影響は出ないので特に問題ではない。
③ ローソンファームと中嶋農法
・ローソンファーム23農場、すべてに、導入しようとしている。
・ぶなしめじなどキノコ類や、有機認証農場は別にして、推進している。
・中嶋農法認証は、ローソンファーム以外でもとれる。生科研認証の8割は系統農家である。
JAでは、利根沼田農協などが、農協単位で中嶋農法を導入している。
・「ミネラル栽培友の会」
中嶋農法は土づくりから認定まで3年くらいかかる。
そのため、ローソンでは、移行中の生産者は、「ミネラル栽培友の会」という位置づけ。
④ J-GAP
・ローソンファーム千葉は、JGAP認証取得に向けて、取組み。
完熟堆肥使用、農具在庫の整理など、点検。
・現状の建屋は12~13年前に作った。JGAPを意識した設計ではないので、ハード面で足りないポイントがたくさんある。
・今後、新社屋建設時に、施錠が必要な農薬庫など、JGAP基準のハード面の完備を目指す。
(4) 質疑
・芝山農園と周辺農家
・千葉は独自販路農家が多い。
・芝山農園は、もともとはサツマイモを作っていた。途中から大根、ニンジンを増やしていった。
協力農家は、近隣に多い。
・ホウレンソウなど葉物から入っている
・他社の農業関与との比較
(小川教授)他社は農業生産はどうか?
(S氏)イオンファームはイオンの社員が農業をする。ローソンは、生産はプロに任せるスタンスを取っている。
・投資
ローソンは、機械関係と建屋の投資をした。今後は、別の建屋を立てる予定である。
・家族の意見(創業時)
(篠塚氏)ローソンファームを始める前、家族の意見は、いろいろ割れた。
自分も(企業の農業関与に)疑問視はあったが、可能性も感じた。スタートは6年前で、当時、企業の農業参入はめずらしかったが、ローソンの場合、農業参入の姿勢が違っていることは感じた。ローソンと組むことで、自分がやりたかったことが、20年、30年、短縮してできるのではないかと思った。
芝山農園の社長(篠塚氏父)も、「やってみるなら、やってみろ」と言ってくれた。自分としては、それでふっきれた。
(5) 苦労した点
(篠塚氏)コンビニの発注に対して、計画的に生産(供給)を揃えていくのは、大変だった。
(6) 今後
① 生産圃場拡大
・農閑期対策と生産効率化
農繁期(2~3月、7~8月)の極小化を目指し、圃場拡大を図る。
農閑期の人の手間の部分で一定化しない。
安定した人員の確保が難しくなっている。
なるべくやっていなかった品目もあてはめてやっていく。
機械化も必要。
・圃場確保
30haをめどに広げる。これ以上だと、労働力、施設すべて別レベルで見直さないといけない。
30haなら、いま10人のスタッフを、倍にしなければいけない。
② 買付・リパック
(小川教授)いま、蔬菜と根菜のバランスが違う。
(篠塚氏)現状は人が足りていないので、余ることはない。しかし、出荷時期がなくなれば、パートの仕事は空く。買付リパックも視野に入れる。
ローソンファームでは、産地リレーにしているが、間が空くところがある。
その間を、青果ベンダー的機能も入れつつ、買付、リパックをしていきたい。
その間は、中島農法でなく、ローソンファームのロゴもなく、オリジナルのパッケージで売る。
3.香取プロセスセンター
(1) 香取プロセスセンター 概要
① 会社概要
・商号 香取プロセスセンター㈱
・設立 2014年5月12日
・住所 千葉県香取市福田495番地
・資本金 1億円
・代表取締役 篠塚利彦氏(㈱ローソンファーム千葉 代表取締役)
取締役 篠塚佳典氏(㈱芝山農園 専務取締役)*利彦氏の兄弟
取締役 平川 慧氏(㈱漬物工房彩 専務取締役)
・施設面積 約900㎡
・従業員 20名(2015年7月10日現在)(開始時9名)
② 資本構成
・6次産業化ということで、地域の漬物屋とタグを組んでスタートした。
ローソンファーム千葉 26%
芝山農園 10%
㈱漬物工房彩 14%
ちば農林漁業6次産業化ファンド50%
③ A-FIVEのファンドを活用 =2,600万円の資金で、2億5000万円分の投資
(2) 事業の目的、プロセス、メリット
① 目的
・規格外青果の有効活用と、加工向けの安定供給
・コンビニの青果販売の受発注に合わせるのが大変という話だったが、加工向けの比率を大きくし、青果販売は3割くらいまでに持っていくと、ブレにも合わせやすいのではないかという考えもあり、プロセスセンターを作った。
・今までは、畑の1~2割は、どうしても商品化できなかったが、商品化できないものも、収穫して、洗浄までの作業は同じ。
② 製造状況
・ニンジン出荷が、6月から始まった。
スタートしてまだ2か月で、これからノウハウの蓄積が大事になっていく。
・傷物など、流通に載らず、青果販売できなかったものを、香取プロセスセンターで収めて、刻んで商品化している。
・どういうものは使えるか、ポイントを絞って選別している。
③ 品目拡大=契約産地とファームを活用
・人参ではじめ、キャベツも扱い。
サラダに入れる。
・安定的に売れることがわかっているものから、生産していく。
・キャベツは自社生産ではなく、契約産地より仕入れている。
・惣菜ベンダーも、1次処理は外にアウトプットしている。
香取のプロセスセンターで、契約産地とファームを活用しながら、キャベツでも同じように加工向けに販売することが、今後メリットになる。
・近郊農家が、転作で、キャベツを作り始めている。
・店頭でのカット野菜は、需要が増えている
(S氏)ローソンでも、カット野菜は年2~3割伸びている。業務用の需要が増えており、ここを輸入でなく、国産で賄っていきたい。
(篠塚氏)ローソンファーム千葉では、業務向けのカット野菜まではやっているが、末端の消費者まで行く最終製品は作っていない。加工には不安もあったが、まず業者向けの大量ロットの販売のみに絞り込んで作る。
④メリット
・いままで商品にならなかったもの、鮮度のいいものなどを加工し、商品化できるようになった。
4.ディスカッション
(1) 生産モデルの変化:消費地周辺・分散型生産の可能性
(小川教授)大産地ではなく、消費地の周りで生産する。
今までの農業生産は、大産地、大量輸送、コールドチェーンで、かさばる重たい物でも遠くの消費地まで運ぶのを前提にして作っていたが、この前提は、これからは変わる。
かなりの品目は、消費地の近くで作れるのではないか。
自分は以前から、講演でこういう話をしてきた。頭で考えていたことに、現実が追いついてきた。
(S氏)品目によっては(キャベツなど)運賃コストが高いので、極力近いところで作らないといけない。九州で作ったものを運ぶと、キロ単価が合わない。キャベツは、千葉で生産を始める。
(小川)国のいう6次化は、流通構造の中で最適構造をデザインするという発想からではなく、産業としてのみ考えている。しかし、環境負荷、働き方、おいしいもの、などを考えあわせると、分散型の生産の方がいい。
(M氏)ローソンファームは、加工センターを作る場合、初期投資が要る。全体のデザインとアウトレット、特に出口が大事だ。ローソンファームは、出口が固まっている。しかし、それでも篠塚社長には迷惑をかけている面がある。
(小川氏)加工センターに国が投資しているのも、いずれ6次化が必要ということで、ベンチャー的試みに対する投資ということだろう。まれなケースで、未来系だと思う。
(M氏)3~4年前は将来的構図だったが、ここ1~2年は現実的になっている。ローソンは農業をやって5年、準備も入れて6年かけて、取り組んでいる。最近は、劇的に状況が変わってきた。
(2) これからの問題は「人」
・シニアの活用
(小川教授)人の問題では、シニアが使えるのではないか。分散型の農産加工にしたら、人手が要る。しかし、収穫など農作業には、繁忙の山谷があるので、調整が要る。シニアの活用は、調整弁になる。
(M氏)長期的には、シニアに回転してもらわなければいけない。65歳を超えた人が、楽しく働ける環境整備は必要である。
(小川教授)シニア用のローテーションなども必要になる。
(3) ローソンファームの仕事を通じて、ローカル・プロデュース
(篠塚氏)この仕事を中心にして、地域のプロデューサー的な仕事をしていかなければいけない。
子供を保育園などに預けられないでいる女性にも、施設を会社が建てて子供の面倒を見たり、地域のコミュニティで、トータルプロデュースしていかなければ、産業が回らない。そこまで考える。
(M氏)篠塚社長とお父さんとで、ローソン店頭の野菜(人参?サツマイモ?)1,000万本くらいを、全部このエリアで調達している。そこに加工も付けていく。
周りの地域で、皆が豊かにしていこうという構想で、私どもローソンも賛同していて、一緒にやっていこうとしている。
ローソン100用の野菜は、フル生産で追いつかなくなっているので、新工場を作ろうとしている。
平川さん(㈱漬物工房彩)は、篠塚社長の1年後輩で、30歳くらい、プロセスセンターを建てた人も、同じくらいで若い。