【講演録】江尻義久氏「ハニーズの経営戦略とグローバル展開」(JCSIシンポジウム2013)

 2013年2月8日~9日にJSCIシンポジウム2013(葉山)が開催された。「ハニーズの経営戦略とグローバル展開」の講演録をブログに掲載する。講師は㈱ハニーズ代表取締役社長 江尻義久氏である。


サービス産業生産性協議会
JCSIシンポジウム2013(葉山)

「ハニーズの経営戦略とグローバル展開」

講演:㈱ハニーズ 代表取締役社長 江尻 義久 氏
コーディネーター:法政大学経営大学院教授  小川 孔輔 氏
日時:2013年2月8日15時20分~16 時20 分
場所:IPC生産性国際交流センター 会議室(神奈川県葉山町)

要 旨

Ⅰ 概要:JCSIとハニーズの顧客満足度(法政大学・小川 孔輔 氏)
1.ハニーズについて
こんにちは。法政大学の小川孔輔です。これから、JCSI調査で衣料品専門店業種において顧客満足度業界第2位になられたハニーズさんの事例について、お話を伺います。

ハニーズさんは福島県のいわき市の会社です。女性服のSPA企業で、ここ十数年で急成長された会社ですので、今日のフォーラムのご参加者の中には、ご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。そこで、ご講演に先立って、JCSIのサービス満足度との関連で、ハニーズという会社の位置づけについて、私の方から解説させていただきます。

私は、かれこれ十数年前に、江尻社長と知り合いました。JCSIでは、400近い会社の顧客満足について、毎年3~5回調査していますが、私はJCSIが始まる前に、同じような趣旨で、ハニーズの店舗の調査をしたことがあります。法政大学の学部学生を、ハニーズの郊外や地方の店と都心の店に行かせ、手分けして店頭で満足度、値ごろ感、再来店意向などを調べました。
現在、ハニーズさんのJCSIのスコアは高く、西松屋さんに次いで、業界2位にランクされています。西松屋さんは子供服の会社ですので、一般向けアパレル企業としては、現在、日本一CSが高い衣料品チェーンといっていいでしょう。
しかし、6年前を振り返ると、ハニーズへの評価は、郊外店では高かったのですが、都心ではあまり芳しくなかったのです。当時は、業界の中央値か、もしかするとそれより少し低かったかもしれません。しかし、ここ2年くらいの間に、ハニーズのCSは急速に改善し、お客さんの支持が上がっています。

2.ハニーズの顧客満足度指標
(1) ハニーズのCS指標
最近の調査結果をご紹介します。まず、業界別にCSの最高値、中央値、最低値を表した「業種・業態別の満足度分布」(図表1)をご覧ください。ハニーズさんは衣料品専門店業種でCS業界第2位ですが、この業界は比較的企業間の上下の差が小さくなっています。

ハニーズさんの顧客満足度指標を個別に見てみると(図表2、3、4)、お客さんの事前期待は61.4点で、業界中央値が64点ですから、そこそこの水準です。しかし、利用してみて、諸々のサービスを受けるにつれて、知覚品質64.7、お値ごろ感(知覚価値)72.4とスコアが上がっていき、CSは72.5(業界中央値69.4)に達しています。ハニーズさんのCSスコアは年ごとに上がっていて、何年か前は68点でしたが、ここ2~3年で72.5点にまで達しました。今年ももう少しアップするのではないでしょうか。こういう上昇がどうして可能になったのか、今日は江尻社長からお話を伺いたいと思います。

(2) ハニーズのポジション
さきほどお話いただいた帝国ホテルさんとハニーズさんを比較すると、ちょうど対照的な位置にいらっしゃると思います。帝国ホテルさんは、高級ホテルで全国3店舗のみ展開され、非常にセグメント化されたターゲットを対象に、深いサービスを提供していらっしゃいます。一方、ハニーズは、一般のお客さんが相手です。昔は若い人が中心でしたが、今は上の年齢層にまで広がっています。
また、帝国ホテルさんが120年以上にわたる歴史をお持ちなのに対して、ハニーズさんは、成長し始めたのはここ10年ちょっとの期間に過ぎません。これは一部の特別な業界の方以外、ほとんどの人は気づいていない事実ですが、ハニーズさんは、知らない間に中国ですでに520店舗を出店し、日本の小売業としては最大の店舗数を運営しておられます。しかも、もうすぐ1,000店舗になる勢いです。一般的にはユニクロの中国ビジネスが注目されていますけれども、店数の面でも、利益の面でも、実はハニーズの方がずっと先を行っています。また、もう一つの注目点は、ミャンマーにいち早く自社工場を作っていらっしゃることです。ハニーズは、日本国内ですでに800店舗以上を展開されており、間もなくアジア全体で2,000店舗に届こうという勢いです。
今日の講演は、江尻社長から直接お話を聞ける貴重なチャンスです。先ほどお話ししたようなCSの構造が数年間でできあがってきた背景や、ビジネスの仕組みについて、お伺いしたいと思います。今日はよろしくお願いします。

Ⅱ 講演(㈱ハニーズ・代表取締役社長 江尻 義久氏)
「ハニーズのビジネス戦略」

1.ハニーズについて
(1) 当社の事業概要
ハニーズの江尻と申します。本日は、よろしくお願いいたします。ここ2~3年で顧客満足度が上がり、衣料専門店業界で、ユニクロやしまむらさんを抜いて、第2位の評価をいただいたことを、ありがたいことだと感じております。今日は、顧客満足度に関連して、私どものビジネスモデルについて、お話させていただきます。

(2) ハニーズ沿革
最初に、当社の企業概要について、ご紹介させていただきます。
創業は1978年、私が32歳の時でした。最初は、福島県いわき市小名浜の田舎で、家内と二人で始めました。当時のスペースは15坪ほどでしたが、「10年で、100店舗、売上高100億円くらいの企業にしたいな」という気持ちで起業しました。
1993年、創業15年目にちょうど100店舗、100億円の売上高を達成しました。しかし、バブル崩壊後、ほんとうにたいへんな時期を迎えました。それまで出店していた地方の商店街は、どんどんシャッター通りになっていきましたので、2000年くらいまでは、130あった店舗のうち110店を閉鎖し、一方で120店を新たに作っていきました。当時は未上場でお金もなかったにもかかわらず、我ながらよくやったなと思います。

ユニクロのフリースが有名になり、中国で製造してもいい時代が来たなと思いました。ハニーズでは、1991年くらいから中国で生産していましたが、その頃はまだ、Tシャツやジーンズなど、簡単なものしか作れませんでした。中国で流行を追うのは難しいと思っていたのですが、2000年前後からは、もっと多様なアイテムが製造できるようになってきました。そこで、ハニーズでは、生産体制を変え、2001年頃から中国の工場と直接取引を始めました。一方で店を全部やり直しながら、国内の生産拠点をかなぐり捨てて中国に移るのは、大変でした。しかし、それまでの決算では粗利45%、利益もそこそこという状況だったのですが、中国移管によって、粗利が55%以上取れるようになり、収益が大きく伸びたのです。こうして、2005年には東証一部に上場しました。
2006年に、中国が、初めて外資100%の小売りを認可することになりました。12月8日に受付が始まり、ハニーズでは申請して4~5か月で許可をいただき、認可されたその月のうちに、中国1号店を出店しました。中国事業は3年で100店舗、10年で1,000店舗という当初の目標通り、順調に進み、現在、中国には500店舗以上あります。2012年も、1年間で200店舗くらい出店しました。しかも、中国に進出した企業は1~2年赤字が続くことが多いのですが、ハニーズは1年目からすべて利益を出しています。

しかし、中国は人件費がどんどん上がってきていますので、もっと安いミャンマーやバングラデシュなどに出ていかざるをえないということで、2~3年前から、独自に調査を重ねていました。ミャンマーで民主化が可能かどうか、まだ見通しがつかなかった頃から探っていて、すでに確信を持っていましたので、新政権になるとすぐに進出を決め、2012年から工場が稼働しています。実は、外資100%で認可になったのは、去年1年間で当社1社だけです。今年も1社あるかどうかという程度でしょう。外資100%企業の設立認可を取るのは、法的には可能でも実際には非常に難しく、他社さんの場合、出資比率は49~51%程度のようです。

(3) 事業概要
① 売上高・店舗数推移
ハニーズは、2012年5月期の決算で、売上高599億円、店舗数1,196店となっております(図表5)。2013年には、売上高625億円を見込んでいます。売上高と店舗数の推移を見るとおわかりのように、毎年150店舗程度出店し、売上も急拡大を続けていましたが、リーマンショック後は、少し低迷していました。最近は持ち直しています。

② ビジネスの特徴:高い粗利率
 我々のビジネスの特徴は、高い粗利率です。売上高総利益率は57.7%(図表6)、しかも単価1,500円を切る非常に安い製品を扱って、これだけの粗利を出しています。しまむらさんより高い水準です。この高い粗利率は、メーカーと消費者を直接に結び、製造直売を行うSPA企業だからこそ、可能なことです。
ポジショニングの特徴は、ユニクロさんが、いまはやや価格が上がっているものの基本的に低価格帯のベーシック・デザインであるのに対し、ハニーズはファッション寄りの低価格帯という点です(図表6)。顧客は10~30代の女性が中心ですが、最近は、40~50代のお客様も増えています。

(3) 経営理念
① 高感度・高品質、リーズナブル・プライス
次に、ハニーズの経営理念について、お話します。私は、創業以来常に、「もっと安くできないか」と商品部に言い続けてきました。バブル経済のピーク時にも、日本で縫製した日本品質の商品を2,900~3,900円くらいで売っていました。しまむらさんやユニクロさんと同じく、私どもは田舎から出た会社ですので、リーズナブル・プライスということ、お客様に「この価格にしては良心的な値段で、お買い得感があるな」と感じていただけることを重視しています。
メーカーや商社に任せず、自分たちで高感度・高品質路線を追求し続けてきた結果、最近はようやく品質も向上してきました。女性向けの洋服ですので、新鮮な流行を取り入れ、「高感度・高品質、リーズナブル・プライス」を実現することを、これからも、経営理念としてずっと守っていきたいと思っています。

② よい会社にするための約束
ハニーズでは、よい会社になるための約束として、常によい製品をつくること、お客様のためにできるだけ安く販売すること、お客様の立場に立ったもの作りとサービス、素敵な店・働きやすい環境をつくること、取引先を大切にすること、経営理念を全員が理解し、企業イメージを高めること、以上の6つの点を確実に実行し、継続することを目指しております。
   

(4) 経営方針
経営方針としては、まず、商品企画面では、新しいお客様開拓のための新たなブランド展開、店舗スタッフの参加等による自社企画力の向上、商品投入の適正化(型数の絞り込み、在庫回転率のアップ)を図っています。 
店舗オペレーションに関しても改善を続けており、品揃え型から提案型店舗への進化、店舗運営力の強化、指導の徹底、接客を重視した評価体系(CSマイスター制度)の導入を図っているところです。
 新規事業としては、中国とミャンマーでの事業に力を入れています。中国では、今後の成長加速に向け、人材育成も含めた組織固め、中国オリジナル商品の開発を目指しています。さらに、よりローコストで安定した高品質の商品を提供するため、製造子会社をミャンマーに設立しました。予定通り、2012年1月には、従業員1,000人規模の体制を確立しました。新規に土地を取得し、これから新たに2,000人雇用する計画です。5年後には5,000人規模を目指します。私どもは、いったん方針を決めたら、スピードを早め、決めた通りに実行します。

2.ハニーズのビジネスモデル
(1) SPA製造小売システムの概要
ハニーズは、SPA企業です。SPA (Specialty store retailer of Private label Apparel)とは、商品企画から販売までを手がける製造小売業のビジネスモデルです。メーカー、商社を通してビジネスをするというのは、日本独特の慣行ではないでしょうか。欧米では、自社企画で工場直接発注が当たり前です。SPA企業はたくさんありますが、メーカーさんが、それまで百貨店などに卸していたのを切り替え、自分で販売を始める場合が多いと思います。当社のように小売りから始めて製造まで手掛けるケースは珍しいと言えるでしょう。他の例としては、思いつく限り、ユニクロさんが私どもの後から始められたくらいではないでしょうか。これからは、SPA企業でなければ、ファッションビジネスで生き残ることは難しいかもしれません。とはいえ、SPAを実際に行うとなると、なかなかたいへんです。
 SPAでは、手頃な値段で販売しながらも、中間マージンのカットにより高い利益率をあげることができ、また、製造部門との直結により、短サイクルな商品化が可能なうえ、生産ラインを知ることで追加フォローも早くなります。
 一方で、短所もあります。SPAでは、デザイナーやパタンナー、CG担当、仕様書作成、生産管理等のコストがかかりますし、一定以上の規模(100店舗程度)がないと、難しいのが実情です。中国で製造するなら、ある程度のロットが必要です。国内ならそれほどロットはいりませんが、その代わり安くは売れません。また、メーカーや商社との接触が切れますので、業界の売れ筋情報が取りにくく、自社企画の充実が求められます。接客を充実させるための目を持つことも必要になります。
 

(2) ファッションとは
ファッションとは、デザインと素材と色・柄の組み合わせでできています。そして、四季の変化や流行により、デザイン、素材、色・柄も変化します。ファッションの基本は、業界に長くいれば、だんだんわかってきます。特別な能力はいりません。私は素人からこのビジネスをスタートして、最初はどこで卸してくれるのかもわからないような状態でしたが、3年くらい経つと製造までできるようになりました。その気になれば、できるものです。 
 
流行とは、「同時期に、より多くの人にとって新鮮と感じられるもの」です。我々ファッションに関わる者は、それを一歩でも半歩でも先に感じて、リスクを取って製品化します。パリコレクションやミラノコレクションのような高級ファッションは、マスにはつながりません。特殊なものになっていくだろうと思います。ただ、そういうものの中から、多くの人に新鮮と感じられるものが大きな流行として現れることはまちがいないのですが、外れる場合の方が多いかもしれません。我々は流行の流れをずっと観察していますが、トレンドがはっきり分かってから作るのでは、遅いのです。製品ができあがる頃には、次のシーズンに入ってしまいます。外れてしまうと、セールをしても売れません。

 競争力をつけ、生き残るには、新しいものを生み出す力、たゆみない品質の向上、コスト競争力をつけ、よいものをより安く作る仕組みづくりが大切です。同業他社よりも、一歩も二歩も先を行き、力をつけていかなければいけません。そのために私が思いついたことが、コストの安いミャンマーに工場を作ることです。実は、ミャンマーでは関税を払っていません。中国では関税10%、額にして何十億円という税金を収めています。ですから、ミャンマーでは、安く生産したうえ、関税もないということで、価格競争力のある製品を作れるわけです。 

(3) ブランドコンセプト
私どもは、地方を中心に商売してきた会社です。東京ですと、ライバルがたくさんありますので、ターゲットを絞り込まなければ、「この店、ぼやっとして、何を売っているの?」と見限られてしまいますが、地方の小商圏で売るには、間口を広く取り、10代から30代、40代まで、しかもいろいろなファッション傾向の人を総じてカバーする形をとらなければいけません。ですから、ハニーズでは、4つのブランドを立て、年齢的にも、テイストの面でも、幅広い傾向のお客様に対応しています。

(4) 商品企画の週次サイクル
私どもの商品企画は、1週間という短サイクルで動いています。休みは、ゴールデンウィークとお正月くらいです。日本全国830店舗と本社を繋いだ情報網を通じて、短サイクルで、点数性でデータを集め、各商品の人気がすぐにわかるシステムを構築しています。
月曜日に市場分析を行い、生の声も聴きながら、何が流行しそうかを検討し、企画テーマを決定します。火曜日に各種情報収集(マーケテイング)を行い、水・木曜日に企画会議を開き、デザイン、柄、数量を決めます。そして翌日金曜には正式発注します。このときは、中国から工場責任者がいわき市まで来て、商談します。各商談相手は、月1回くらいのぺースで、ハニーズに来社します。入札し、主に30社くらいと取引しています。これが、ハニーズの商品企画の週次サイクルです。
金曜の発注時には、主に電話で生地を確保します。それからすぐ生産に入り、染色、裁断、縫製して、完成品が日本に着くまで40日かかります。生地を先に印刷して待っている場合もありましたが、これはリスクが高く、この方法を取った会社はだいたい失敗してきました。ですから、最短で製造するということが大事です。このサイクルを毎週繰り返すわけですから、常に忙しく、たいへんな商売だということがおわかりいただけるでしょう。
こうして、1週間で70型(各ブランド20型程度)の製品が作られ、発注後40日で製品が到着します。新商品は中国から各店舗に直送され、すぐに店舗に並べられる仕組みになっています。

(5) 中国からの直接物流と国内物流体制
2004年に、中国からの直接物流がスタートしました。中国では、青島と上海に主な生産委託工場が集中しています。完成品は中国国内で検品し、行く先別に宛名を組み、いろいろなメーカーの商品を分類・仕分けした後、青島と上海の2つの港から、船で横浜港と神戸港に運び、そこから日本国内の各店舗へ直接納品する流れになっています。こういう非常に特色のある物流センターを持っているのは、日本でハニーズだけです。このルートが、中国からの物流全量の3分の2を占めます。
残りの3分の1は、在庫分として、福島いわき市の物流センターへ送られます。店舗で1枚でも売れたら、この物流センターから、全国どこへでも追加補充できるようになっています。今はレジがオンライン化されていますので、3時までに売れたものは、その日のうちに出荷できる体制になっています。

いわき市にある物流センターは、2006年9月に全面稼動しました(図表8)。従来の倍以上の規模に増築しました。総二階で、建物面積21,000㎡、延床面積34,000㎡、敷地面積95,000㎡です。東京ドームくらいの広さでしょうか。内部は奥行140m、レーンは160mくらいの長さで、自動ソーター機が設置されています。店の行先別にローラーの上に箱が乗せられ、流れながら商品仕分け、封かん、全国に向かうトラックへの積み込みまで、すべて自動化されています。
  

(6) 売上総利益率と自社企画比率の推移
売上総利益率は、2012年5月期で57.7%です。自社企画率は、売上の12%を占める雑貨も含めて、91.4%に達しています。2008年は73.4%でしたが、年々伸びています(図表9)。

(7) CS向上
このフォーラムは顧客満足度がテーマですので、ここで、なぜ、ハニーズでは最近3年でCSが急に向上してきたのかについて、お話します。以前は、企業として、安くて良質な商品を開発し、提供していればいいという考えだったのですが、世の中は全体的に不況ですから、発想を変えました。3年前から、全社員に呼びかけて、接客向上もこころがける方針を出して、研修をしました。この方針が徐々に社内に浸透していき、3年目で、お客様からの評価も少しずつ得られてきました。大変嬉しく思っています。これからも、一日一日、一つ一つの課題に取り組んでいき、お客様に喜んでいただけるように努力していきたいと思います。 

3.アジア展開
(1) 中国子会社
① 概要
 次に、アジア展開の状況についてご説明します。
まず、中国の子会社(好麗姿(上海)服飾商貿有限公司、HONEYS SHANGHAI CO., LTD)とその事業について、お話します。この会社は2006年に設立し、資本金830万ドル、従業員3,097名です。
中国では、30坪くらいの小さい店を、百貨店などの商業施設の中に出店しております。1店舗あたりの従業員は7名程度です。現在、直営569店舗、FC44店舗を展開(2013年1月末現在)しています。2012年の売上高は105億円で、これまでのところ、だいたい順調に推移してきました(図表9)。
上海と東京の距離は1,700kmですが、中国は広いので、国内でも上海からハルピンまでは2,500kmくらいあります。ウルムチなど遠隔地ではFCで展開しています。沿海部や内陸も含め、だいたい中国の主要都市、人口にして95%くらいにあたるエリアには、既に出店済みです。中国では、1,500~2,000店舗出店する予定で、2012年に上海と天津に物流センターを作りました。深圳にはサブの物流センターも作り、だいたい1,500店舗程度まではカバーできる体制を構築しております。
上海には60店舗あり、北京、南京、武漢、成都、重慶などについても、20店舗くらいずつ増えています。ただ、正直に言って、中国は去年の夏頃から、小売の売上が減速しています。これは尖閣問題とは関係ありません。ハニーズでは、反日暴動の被害もありませんでした。バブル崩壊で、やや落ちているのだと思います。上海の百貨店での売上もマイナスでしたが、それでも中国ではいちばんいい水準です。中国は経済の調子が悪くなるとデータを発表しなくなりますので、正確なところはわかりませんが、上海がそれでもいちばんいい状況で、それ以外はもっと下がっているでしょう。ハニーズでも、これまでは既存店は2ケタアップで、それいけどんどんの状態が当たり前でしたが、現在は減速感が否めません。

② 最近の店舗紹介(中国)
百貨店では歩合をとられますから、たいていの店では、その分値付けも高くなります。しかし、私どもは、いずれ地方都市にも進出する予定でいましたから、高い値段では勝負にならないということで、儲けは後回しにしてでも、最初はとにかく安く販売したところ、中国でもよく売れました。いろいろな方に指摘されるのですが、ハニーズの店舗は、いつも混んでいます。単価が他の店より低いですから、売上高はそれほどではないのですが、お客さんはいつも入っています(図表11)。中国人にアンケートを取ると、ZARAに次いで、外資ブランドとしては第2位の人気でした。
中国に進出している企業は、何年経っても赤字のところが多いようですが、我々は、借入金ゼロで、上場していないにもかかわらず、自己資本比率70%です。何があるかわからない中国で、危ないと感じる面もありますが、利益を出しながら自分たちだけで経営していけば、なんとかなるだろうと思っています。ただ、中国べったりではいけません。

(2) ミャンマー子会社
① 背景
 中国は、この3年間で給与水準が3倍になりました。3年前は月給1万2,000円くらいでした。それから深圳での暴動などが起きて、その後は倍になり、今は3万2,000円から4万円くらいの水準にまで上がっています。中国は3月が賃上げの時期ですが、特に下層の労働者については、間違いなく10%は上げないと、よそに移って行ってしまいます。ですから、中国では儲かりにくくなりました。たいへんな状況になってきています。
そうした投資環境の変化を反映して、2~3年前から「チャイナ・プラス・ワン」ということが言われ始めました。中国の状況は、尖閣問題も含め、混乱の最中にあります。一方、東南アジアは、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、タイなど、日本人と似ている面もあります。ですから、当面は、進出先として、「中国プラスASEAN」の構図が続くとみていいでしょう。
ミャンマーの人々は、日本人と近く、手先も器用で、まじめです。仏教国ですから、悪いことをすると地獄に落ちると信じられており、犯罪率も非常に低いです。世界で一番安全な国といっていいかもしれません。ただ、まだ貧しいのです。月5,000円から7,000円くらいで、最低限の生活をしていますので、私どもとしては、早く生産性を上げて、給料をたくさん払っていってあげたいと考えています。

② ミャンマー子会社概要
 ミャンマーへは、2012年3月から進出しています(HONEYS GARMENT INDUSTRY LTD.)(図表12)。工場は、敷地面積8,138㎡、建物5,256㎡という規模で、従業員は900名ですが、もう枠が一杯なので、現在、採用はいったん止めています。韓国や中国企業の工場は人遣いが荒かったようですので、我々としては、ミャンマーと長く、いい関係を続けたいと思っています。急に当社だけ高い給料を払うと、周囲の他の企業への影響もありますから、あまり目立たないように出ていきます。少しずつ給料を高くしていきながら、現地の従業員の満足度をあげたいと考えています。今のところ、ミャンマーとは非常にいい関係で事業が進んでいます。

ミャンマーでは、当初、パンツとジャケット半々ずつを生産する予定でしたが、パンツの売れ行きが非常に好調で、しかも簡単にいくらでもできるということで、今はパンツに集中しています。これまで月産15万着くらいでしたが、この1月から効率を上げ、現在、年間300万着程度のパンツ生産能力のめどがついたところです。パンツ1着の工賃は1ドルですから、現場はたいへんだろうと思います。
ミャンマー工場では、島精機の自動裁断機など最新の機械を導入しました。中国の工場でもほとんど入っていない高価な機械です。それを減価償却しながら、人件費を払い、しかも電力供給が不安定ですから、自家発電設備も備えておかなければいけません。それでも、とにかくよいものを作ろうということで、2012年の4月に工場を立ち上げてからこの年末まで、我々は品質向上だけに力を注いできました。ハニーズは上場企業ですから、子会社も含めきちんと決算しなければいけません。今年はまだ正式な決算は出ていないのですが、ミャンマーの子会社では、初年度から利益が出そうです。私たち自身、この結果には驚いております。そこで、すぐに次の工場を建てることを決めました。
日本にはまだ、50人規模くらいの縫製工場を、子会社として残してありますが、日本の工場と、ミャンマーの工場の人件費は、総額ではほぼ同じです。ミャンマーなら、25人で年間300万着作れば、いくら安く売っても採算がとれます。最近、一部上場企業も含め、グローバル展開を目指す企業の方々が、ミャンマー進出について、私どものところへ話を聞きに来られる機会が増えましたが、私は「やってみた方がいい、やりながら考えたほうがいいです」と、アドバイスしています。私自身もそうでしたから。

 新設する2,000人の工場では、ミャンマーで初めて、社員寮を建てる予定です。いまある工業団地は、周囲に人が住んでおらず、交通手段もありません。ですから、1,500人収容できる社員寮を建てるという提案で、ミャンマー政府と交渉しようと思っています。
完成した製品は、1着当たり1ドルだけ払って、日本に入れます。全体が300万着で、仮に1着200円のコストとしても6億円ですから、ハニーズとしての利益は非常に大きくなります。
驚いたのは、現在ミャンマーへは30代の社員2人が赴任しているのですが、その部下の20代の男性が、「私もミャンマーで仕事したい」と言い出したことです。グローバル化の必要性を、若い人も肌で感じているようです。40代の中間管理職は海外勤務を嫌がりますが、若い人なら、喜んで行ってくれるかもしれません。

なお、ミャンマー製造の商品は、4月から始める「パンツワールド」というパンツ専門店で販売されます。このブランドは、全国各地にこれから少しずつ展開していく予定です。ミャンマー製のパンツは、トップクラスの生地を使用しており、しかも、レディーズは2,000円くらい、メンズは2,500円程度で買え、非常に価値の高い商品に仕上がっております。ウエストも股下も作ってありますから、店舗に行って試着しなくても、オンラインで、自分のサイズそのままで買えるような形を考えております。

4.心がけてきたこと
(1) 会社を経営するうえで心がけてきたこと
 最後に、会社経営と日常生活を送るうえで、私が日々心がけてきたことについてお話しておきたいと思います。
 まず、経営についてですが、仕事で過ごす時間が一番長いですから、仕事がつまらないと人生はおもしろくありません。せっかくなら、仕事を好きになり、一番の趣味にするといいと思います。起業すれば失敗も多いものですが、大事なのは、目標をもって、前向きに、決してあきらめずに続け、失敗したら学び、同じ原因での過ちは二度としないということです。
あとは、与えられた条件でベストを尽くし、よりよき条件へと現実を変えていくこと、いつも危機感を持ち、ピンチをチャンスに変えることを考えていくこと、グッドよりベター、ベターよりベストを目指すこと、仕事に関しては、私はこうした点をずっと実行してきました。

(2) 日頃生活するうえで心がけてきたこと
日頃生活するうえで心がけてきたこととしては、まず、健康であることですが、これは、特に年をとるにつれて、意外と守られないこともあるものです。それから、家庭円満であることも重要です。私は、結婚してからもう37~38年経ちますが、一度も家内と喧嘩したことがありません。喧嘩するのも習慣、しないのも習慣ですから、どちらかといえば、ない方がいいでしょう。ですから、皆さんにも、夫婦喧嘩を習慣にしないようにしていただければと思います。また、悪いことは決してせず、妬みや嫉妬の感情は一切もたないようにしています。いいものを見たときは「いいな」と素直に認め、妬むのではなく、「ああ、自分もそうなりたいな」というふうに思えばいいのです。そして、何に対しても、損得は一切考えません。損得ばかり考える人とは、友達にはなれません。その逆で、「善いか悪いか」で判断することが第一です。私は、人生は、こうして太く長く生きるべきだと思っています。
(了)