「何回かに分けて、シリーズで”花業界の物流問題”を取り上げたいと思います。先生にもご寄稿を!」。『グリーン情報』の山川さんから原稿を依頼されたのは8月1日でした。あれから1ヶ月経過していますが、私たちが置かれている状況はほとんど変わっていません。問題は長期化・複雑化しています。一か月前に考えていたことも変わってはいません。
対応策は基本的なものですが、環境そのものが簡単に元に戻るとも思えません。100年に一度の困難に人類は遭遇しています。運ぶという側面でも、便利になった世界の逆襲を受けているように感じるこの頃です。花の物流はどのように変化するのか?
それでは、オリジナル原稿をアップします。提出は、8月1日。本ドラフトの掲載は、2020年9月号になっていました。
わたしの後で、日本の花業界の識者たちが、それぞれの立場から寄稿してくるはずです。数回にわたるシリーズになっています。世界的な業界の危機です。現状認識とその後の対応に関するアイデアに期待したいと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これからの花きの物流を考える」『グリーン情報』2020年9月号
文・小川孔輔(JFMA会長、法政大学経営大学院教授)
1 リーマンショック前夜とコロナ時代のネット狂騒
最初に以下の記事をご覧いただきたい。
「今年に入ってから、インターネットを介した対消費者向けの商品販売が絶好調である。例えば、母の日のフラワーギフトは、昨年と比べて店舗販売にはほとんど変化が見られないにも関わらず、ネット販売だけは対前年比で2~3倍に伸びているところがめずらしくない。(後略)」
この記述は、2004年6月22日書いた個人ブログから抜粋したものである。その後に、「物流と日本経済の活性化」というタイトルで、『日経広告手帖』(2004年8月号)に掲載された。全文は、ブログ記事(https://kosuke-ogawa.com/?eid=465#sequel)で読むことができる。
驚くべきことに、この記事の内容は、新型コロナウイルスの拡散で花き業界が直面した今年5月の「母の月」の状況と酷似している。なぜなら、全国的に外出が自粛になった2か月間(4月~5月)で、ネットを介した花の販売が、対前年比で3~5倍に伸びたからである。
リーマンショック直前でネットの熱狂を支えていたのは、消費者の買い物に要する時間の使い方が変わったことだった。つまり時間短縮が要因だったが、今回はその逆である。全国的に店舗が営業できず、消費者は買い物にも出かけられない状態が続いていた。その結果として、一般消費者は買い物をECに依存せざるを得なかったからである。
花の配送も同様である。コロナの第一波がピークを迎えた4月下旬から5月上旬にかけて、全国の市場で花の値段が暴落した。廃棄せざる得なくなった生産者の花を救済するため、筆者は介護福祉施設や一般消費者向けに花をデリバリーする援助を試みた。その際に、花の配送の受け皿になったのは、やはりECサイトとヤマト運輸のような宅配業者だった。
最初に以下の記事をご覧いただきたい。
「今年に入ってから、インターネットを介した対消費者向けの商品販売が絶好調である。例えば、母の日のフラワーギフトは、昨年と比べて店舗販売にはほとんど変化が見られないにも関わらず、ネット販売だけは対前年比で2~3倍に伸びているところがめずらしくない。(後略)」
この記述は、2004年6月22日書いた個人ブログから抜粋したものである。その後に、「物流と日本経済の活性化」というタイトルで、『日経広告手帖』(2004年8月号)に掲載された。全文は、ブログ記事(https://kosuke-ogawa.com/?eid=465#sequel)で読むことができる。
驚くべきことに、この記事の内容は、新型コロナウイルスの拡散で花き業界が直面した今年5月の「母の月」の状況と酷似している。なぜなら、全国的に外出が自粛になった2か月間(4月~5月)で、ネットを介した花の販売が、対前年比で3~5倍に伸びたからである。
リーマンショック直前でネットの熱狂を支えていたのは、消費者の買い物に要する時間の使い方が変わったことだった。つまり時間短縮が要因だったが、今回はその逆である。全国的に店舗が営業できず、消費者は買い物にも出かけられない状態が続いていた。その結果として、一般消費者は買い物をECに依存せざるを得なかったからである。
花の配送も同様である。コロナの第一波がピークを迎えた4月下旬から5月上旬にかけて、全国の市場で花の値段が暴落した。廃棄せざる得なくなった生産者の花を救済するため、筆者は介護福祉施設や一般消費者向けに花をデリバリーする援助を試みた。その際に、花の配送の受け皿になったのは、やはりECサイトとヤマト運輸のような宅配業者だった。
2 ラスト・ワンマイル物流の課題
消費者に商品を届ける最後のステップ(距離)は、「ラスト・ワンマイル」と呼ばれている。商品を最後に運ぶ人が誰かによって、現状ではラスト・ワンマイル物流に3つの方法が存在している。
① 物流業者が商品を消費者の自宅(事務所)に届ける「宅配方式」、
② 業者が宅配ロッカーなどに置いておく「ロッカー方式」、
③ 消費者が店舗まで商品を取りに行く「店舗ピックアップ方式」。
花をデリバリーする場合は、ほとんどがモード①の「宅配方式」である。例外的に、小売店が自宅に花を配送する「ウーバー・フラワー方式」などが存在している。そういえば、業務用の装飾花でむかしから採用されていた方式である。というわけで、現代版「ウーバー方式」はそれなりに合理性があるのかもしれない。
とはいえ、物流のネックも経費面での負担も、ラスト・ワンマイルに一番大きな課題が残されている。そのため、今回のように新型コロナウイルスが蔓延して人間が動けなると、そこを誰かが担う必要性が生まれる。結局は、現状では宅配業者に配送を依存することになる。
実際は、ビジネスチャンスが存在しているのに、率先して新しい方式を考えるイノベーターが出ないのが不思議ではある。その例外が、5月の母の月前後登場した。花販売でドライブスルー方式を考えた「川崎花き市場」とJFCの組み合わせである。花販売における「マクドナルド方式」と呼んでもよいだろう。消費者は自らが動けないので、移動販売車で花を販売するというアイデアは、メディアでも頻繁に取り上げられていた。
3 物流のイノベーションはどこから起こったのか?
ところで、そもそもの物流改革について考えてみよう。
ネット販売では、「フルフィルメント」と呼ばれる「受注から配送までの一連の活動」が必要である。その前提は、低コストで確実に商品が届くことである。日本ではヤマト運輸の「宅配便システム」が、米国ではフェデラル・エキスプレス社の「ドキュメント翌日配送システム」(Overnight Document Delivery System)の発明が物流のイノベーションを先導してきた。迅速にかつ安価にモノが運べる宅配便やフェデックスのシステムが普及していなければ、今年のようなネット販売の成長は実現していないことになる。
イノベーションを先導してきたのは、小倉昌男氏とフレデリック・スミス氏である。その一方で、官の仕事と貢献も公平に評価されるべきである。宅配便のシステムは、1960年代後半から全国に張り巡らされた高速道路網(東名~関越・東北自動車道)の完成によるところが大きい。精肉・鮮魚・野菜、花き類などの生鮮品がいつでもどこでも入手可能になったのは、高速道路網のインフラが整備されたおかげである。
加工食品や日用雑貨などの包装消費財でジャストインタイム物流が実現したことにより、地方卸の経営が合理化され、物流倉庫が効率よく配置されるようになった。高速道路の普及による社会的な物流システムの効率性の向上は、日本人の生活に豊かさをもたらした。
4 花の物流はいかにあるべきか?:毛細血管物流と動脈物流の組み合わせ
それでは、同じ時期に花の物流はどのように変化しただろうか?
結論を先に言ってしまえば、他の業界に比べて、花き産業は社会的な物流改革の波に乗れず、つぎの3つの改革が遅れてしまったのが現状である。たとえば、コンビニエンスストアの進化の事例を見てみるとよいだろう。1970年代に産声を上げたコンビニエンスストアは、先進的な情報物流システムの塊である。
最も早期にPOSシステムを導入したセブン-イレブン・ジャパンは、情報物流システムの改革によって現在の効率的な仕組みを進化させた。革新の本質は、吉野家のキャッチコピーそのものだと言える。つまり、店頭に並ぶ弁当やデザート商品を、「うまい」(鮮度よく)、「やすい」(低コストで)、「はやい」(迅速に)運べるシステムを構築できたからである。
それまでのようなメーカー別の配送を特定の卸業者にゆだねて、(チルド商品や菓子など)温度帯別に「共同配送システム」として物流と組み替えることにした。その結果、吉野家方式に物流改革が実現したのである。
つまり、花の物流における課題は、コンビニが実現した物流システムをいかに社会的に実現できるかにかかっていると言ってよいだろう。詳しくは、何回目か後に本誌で紹介する、井上博保さん(三和陸運)の提案「花の幹線共同輸送システム」(ゲートウエイ構想)」を実現することである。
現状では、荷受会社別に個々に花を運んでいるため、①トラックの積載効率が悪くなる、②輸送トラックに帰り荷が付かない、③不必要な転送業務が生じている。この3つの要因があるため、A:トータルの輸送コストが高くなる、B:リードタイムが長くなる、C:花の鮮度が落ちる。ライス・ワンマイル問題(毛細血管)を解決し、幹線共同配送システム(動脈)を構築することが、全体的な花の物流問題を解決することに貢献することになるだろう。
① 物流業者が商品を消費者の自宅(事務所)に届ける「宅配方式」、
② 業者が宅配ロッカーなどに置いておく「ロッカー方式」、
③ 消費者が店舗まで商品を取りに行く「店舗ピックアップ方式」。
花をデリバリーする場合は、ほとんどがモード①の「宅配方式」である。例外的に、小売店が自宅に花を配送する「ウーバー・フラワー方式」などが存在している。そういえば、業務用の装飾花でむかしから採用されていた方式である。というわけで、現代版「ウーバー方式」はそれなりに合理性があるのかもしれない。
とはいえ、物流のネックも経費面での負担も、ラスト・ワンマイルに一番大きな課題が残されている。そのため、今回のように新型コロナウイルスが蔓延して人間が動けなると、そこを誰かが担う必要性が生まれる。結局は、現状では宅配業者に配送を依存することになる。
実際は、ビジネスチャンスが存在しているのに、率先して新しい方式を考えるイノベーターが出ないのが不思議ではある。その例外が、5月の母の月前後登場した。花販売でドライブスルー方式を考えた「川崎花き市場」とJFCの組み合わせである。花販売における「マクドナルド方式」と呼んでもよいだろう。消費者は自らが動けないので、移動販売車で花を販売するというアイデアは、メディアでも頻繁に取り上げられていた。
3 物流のイノベーションはどこから起こったのか?
ところで、そもそもの物流改革について考えてみよう。
ネット販売では、「フルフィルメント」と呼ばれる「受注から配送までの一連の活動」が必要である。その前提は、低コストで確実に商品が届くことである。日本ではヤマト運輸の「宅配便システム」が、米国ではフェデラル・エキスプレス社の「ドキュメント翌日配送システム」(Overnight Document Delivery System)の発明が物流のイノベーションを先導してきた。迅速にかつ安価にモノが運べる宅配便やフェデックスのシステムが普及していなければ、今年のようなネット販売の成長は実現していないことになる。
イノベーションを先導してきたのは、小倉昌男氏とフレデリック・スミス氏である。その一方で、官の仕事と貢献も公平に評価されるべきである。宅配便のシステムは、1960年代後半から全国に張り巡らされた高速道路網(東名~関越・東北自動車道)の完成によるところが大きい。精肉・鮮魚・野菜、花き類などの生鮮品がいつでもどこでも入手可能になったのは、高速道路網のインフラが整備されたおかげである。
加工食品や日用雑貨などの包装消費財でジャストインタイム物流が実現したことにより、地方卸の経営が合理化され、物流倉庫が効率よく配置されるようになった。高速道路の普及による社会的な物流システムの効率性の向上は、日本人の生活に豊かさをもたらした。
4 花の物流はいかにあるべきか?:毛細血管物流と動脈物流の組み合わせ
それでは、同じ時期に花の物流はどのように変化しただろうか?
結論を先に言ってしまえば、他の業界に比べて、花き産業は社会的な物流改革の波に乗れず、つぎの3つの改革が遅れてしまったのが現状である。たとえば、コンビニエンスストアの進化の事例を見てみるとよいだろう。1970年代に産声を上げたコンビニエンスストアは、先進的な情報物流システムの塊である。
最も早期にPOSシステムを導入したセブン-イレブン・ジャパンは、情報物流システムの改革によって現在の効率的な仕組みを進化させた。革新の本質は、吉野家のキャッチコピーそのものだと言える。つまり、店頭に並ぶ弁当やデザート商品を、「うまい」(鮮度よく)、「やすい」(低コストで)、「はやい」(迅速に)運べるシステムを構築できたからである。
それまでのようなメーカー別の配送を特定の卸業者にゆだねて、(チルド商品や菓子など)温度帯別に「共同配送システム」として物流と組み替えることにした。その結果、吉野家方式に物流改革が実現したのである。
つまり、花の物流における課題は、コンビニが実現した物流システムをいかに社会的に実現できるかにかかっていると言ってよいだろう。詳しくは、何回目か後に本誌で紹介する、井上博保さん(三和陸運)の提案「花の幹線共同輸送システム」(ゲートウエイ構想)」を実現することである。
現状では、荷受会社別に個々に花を運んでいるため、①トラックの積載効率が悪くなる、②輸送トラックに帰り荷が付かない、③不必要な転送業務が生じている。この3つの要因があるため、A:トータルの輸送コストが高くなる、B:リードタイムが長くなる、C:花の鮮度が落ちる。ライス・ワンマイル問題(毛細血管)を解決し、幹線共同配送システム(動脈)を構築することが、全体的な花の物流問題を解決することに貢献することになるだろう。