【論文掲載】『ソーシャルメディア時代のテレビ視聴~テレビは本当に見られているのか~』(上)日経広告研究所・所報

 日経広告研究所の所報2013年4・5月号VOL.268に掲載されている『ソーシャルメディア時代のテレビ視聴~テレビは本当に見られているのか~』(上)日テレアックスオン/法政大学 大学院イノベーション・マネジメント研究科講師 岩崎 達也 朝日大学 マーケティング研究所教授 中畑 千弘 法政大学 大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 小川 孔輔 をアップする。


『ソーシャルメディア時代のテレビ視聴~テレビは本当に見られているのか~』(上)

日テレアックスオン/法政大学 大学院イノベーションマネジメント研究科講師
岩崎 達也
朝日大学 マーケティング研究所教授
中畑 千弘
法政大学 大学院イノベーションマネジメント研究科教授
小川 孔輔

1、テレビの視聴環境と視聴者意識の変化
スマートフォンの普及、それに伴うフェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアやLINEの進展など、テレビを取り巻くメディア環境は激しく変化している。いまやテレビは、圧倒的に接触頻度が高い情報娯楽メディアではなくなっている。図表1を見てわかるように、テレビの視聴時間は減少しているわけではない(2000年:208分~2012年:206分)。しかし、若年層の視聴時間(C,F1,M1:1~2時間台)は、その他の年齢層(F2M3,F3M3:4時間~5時間台)に比べて半分程度である(図表2)1。テレビが従来からコアターゲットとしてきた若年層(T、F1、M1)では、生活の中には複数のメディアが浸透してきている。彼らの行動には、マルチウインドウでの「同時視聴」や、テレビを視ながらスマートフォンで友人とつながる「ソーシャル視聴」などがふつうにみられる2。テレビがかつて有していた社会的な影響力と情報メディアとしての地位が揺らぎかけているのである。
本論文では、(上)(下)2回に分けて、視線計測実験やビデオフラフィーなど、近年実用に供されるようになった新しい調査手法を駆使して、テレビ視聴の実態を記録・分析する。われわれが設定した課題は、(1)テレビ番組は実際にどれほど見られているのか 、(2)視聴者(とくに若年層)はどのような態度でテレビを見ているか、(3)成熟した視聴者は、コンテンツ(番組や広告)をどのように取捨選択しているのか、の3つである。そして、テレビ番組や広告の作り手にとって、(4)テレビがどのように視られているのかを明らかにすることで、番組づくりや効果の高い広告を制作するためのヒントを得たいと考えた。
本研究では、上述の目的(1)~(4)を達成するために、4つの調査(以下、「スタディ1」~「スタディ4」と呼ぶ)を実施することにした。4年前(2009年)に最初の調査(「スタディ1」)を始める前に、われわれがテレビの視聴行動に対して持っていた仮説は、以下の3つであった。
(A)「テレビ」「携帯(スマートフォン)」「パソコン」は、若者層(T層とF1・M2層)にとっては「三種の神器」となっており、彼らの生活空間の中で3つのデバイスは、ほぼ同等の重要性を持っている。(B)テレビはもはや「視るもの」ではなく、「聴くもの」になっており、「視」と「聴」の間で逆転現象が起こっているのではないか。したがって、音の重要性が以前より増しており、
(C)画像づくりの工夫が先行する中で、もっと音の効果を考えた「音づくり」に注力すべきである。音の重要性は、CM広告の制作においても同様である。そのために、
(D)視聴者がテレビ画面に目を向けるきっかけ、そのための要素やタイミングが何であるかを、観察調査(ビデオグラフィー)や視線計測実験によって計測することにした。

図表1. 一日のメディア接触時間量

出典:ビデオリサーチ社(2012)『MCR調査』

図表2. 性・年代層別・個人1日あたりの平均視聴時間(2010年/関東地区/6~24時)

出典:電通総研『情報メディア白書2012』

2、テレビ視聴に関する先行研究:受動的なメディアの受け手から積極的な視聴者へ 
メディアに関する既存研究では、ある時期(1980年代)を境に、研究者がテレビ視聴者を見る視点に変化が起こった。代表的な先行研究をサーベイしながら、メディアの受け手研究をレビューしてみる。
「メディアの受け手」研究は、その普及と大衆化がいち早く進んだ米国において積極的に行われた。それは、大規模な定量調査によってメディアが人々の行動に与える「効果・影響」に関する研究である。効果・影響研究は、主に「弾丸効果説」(1920~40年)、「限定効果説」(1940~60年)、「複合影響説」(1860~80年)の3つの時代区分の中で語られる。メディアの受け手は、それぞれの時代で異なった受け手像として捉えられ、「弾丸効果説」の時代には、無知で無力な受け手であり、「限定効果説」の下では、メディアに対して一定の見識を持つ受け手として捉えられた。やがて、送り手から受け手という一元的な情報の流れではなく、受け手の立場からの研究が行われた。
最初に受け手の視点から「メディア利用と視聴者満足」を研究したのはシュラムら(1960)である。彼らは、人間が何らかの「報酬」を求めてニュースに接触するという考えを体系的に提示した3。シュラムらの分類をベースに、マクウェールら(1979)は、「メディアの利用と満足」を研究する立場から、テレビ視聴行動の事例研究を実施した。テレビ視聴の行動特性を、「自己関与的」であり、その上さらに「相互的」であると定義した。テレビを視聴する動機を「充足のタイポロジー」としている。基本動機を4つに分類して、①気晴らし(Diversion)、②人間関係(Personal Relationship)、③自己確認(Personal Identity)、④環境監視(Surveillance)の4つに分類した4。ここまでの流れでは、どちらかといえば視聴者とその行動は「受動的」とみられている。
これに対して、メディアの受け手を「能動的な聴衆」としてとらえたのが、英国で興った「カルチュラル・スタディーズ」のオーディエンス研究である5。メディアで伝達される文字、音声、映像を、彼らは「テクスト」と表現した。オーディエンスによるテクストの意味の理解や解釈を対象とする研究が活発に行われた。受け手によるテクスト解釈の議論で代表的な論文は、ホール(1980)が提示した「(情報の)エンコーディング/デコーディング」のモデルである。
その後、モーレイ(1980 )の『ネーションワイド・オーディエンス』によるオーディエンスの多様な解釈の実証的研究、アン(1986)による米国のソープオペラ(『ダラス』)の受け手分析、フィスク(1996)の『テレビジョン・カルチャー』における送り手と受け手の相互作用による番組の読解など、メディアの受け手分析に引き継がれていった。
番組選択とテレビへの関与の研究としては、ウエブスター&ワクシュラグ(1983) のA Theory of Television program Choice、バーワイズ&エレンバーグ(1988) のTelevision and Its Audienceがある。また、田中・小川ほか(2005)は、『テレビと日本人』において、NHKが2002年に実施した「テレビ50年調査」をもとに、視聴行為の変遷について言及している。近年では、博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所が行ったビデオグラフィーによる若者の1日のメディア接触行動の記録などがある6。この調査研究では、テレビ視聴が携帯やPCと同時に行われている実態が示されている。

3、4つの調査・実験による視聴実態の検証 ~見える化~
1で提示した(A)~(C)の3つの仮説を検証するために、合計4つの調査と実験を行った(図表3)。上巻においては、「スタディ1」と「スタディ2」における調査概要と、そこから導き出されたテレビ視聴の実態を示す。そして、そこで得た知見をもとに、さらに「スタディ3」、「スタディ4」において視聴実体の細部に迫るが、その結果については下巻において明示することにする。

図表3 4つの調査で視聴実態を解明
<上巻> スタディ1
「Webアンケート」 スタディ2
「写真と記述による郵送調査」
調査・実験時期 2009年9月25日~28日 2010年7月16日~8月9日
調査・実験目的 メディア環境のスマート化やソーシャル化が進展する中、テレビ視聴環境はどのように変容しているか、そして、その変化によって視聴行動はどのように変わったか、その実態把握の目的で実施。
テレビ視聴時のパソコンおよび携帯電話(スマートフォン)の手元所持と利用などの関係性を定量的に把握する目的で実施。 テレビとパソコンの位置関係から視聴実態を把握する目的で実施。
調査・実験方法 インターネット調査(定量調査)
※民間調査会社のモニターを利用 郵送留置法(写真と記述の定性調査)
※民間調査会社のモニターを利用
調査・実験対象 首都圏 T(男・女)、M1、F1、M2、F2
627名 首都圏 T(男・女)、M1、F1
平日ゴールデンタイム、リビングでテレビ視聴時にパソコンが手元にある人
110名
※平日ゴールデンタイム視聴者1,399名より抽出
調査・実験内容 ・平日ゴールデンタイム、テレビ視聴時に手元にあるもの、テレビを見ながら同時にしていることなど「ながら」の実態を把握。
・ドラマ視聴時の「メディアながら」の実態について、コミュニケーション手段、デバイスなどを検証
・複数メディアを使いこなす対象層のテレビ、パソコン、携帯電話のマインドシェアを検証。 ・リビングや自分の部屋での、自分を軸にしたテレビとパソコンと携帯電話の関係をビジュアル化。
・ビジュアル化した視聴状況についてコメントを書き添えてもらうことで、デバイスとの関わりを具体的に把握。
 (調査フォームは図表9)

<下巻> スタディ3
観察調査 スタディ4
視線計測実験(アイカメラ)、ビデオグラフィー
調査・実験時期 2011年11月26日、27日 2012年5月17日
調査・実験目的 スタディ1、スタディ2で明らかになった視聴形態において、音の重要性をさらに検証するために、視聴者はどんなきっかけでテレビ画面に目をやるのか、どんなきっかけでテレビ画面から目を離すのかについて明らかにすることを目的に実施。そして、テレビ番組は、開始から終了まで、実際にどれほど見られているのかについても検証した。
調査・実験方法 観察法
※被験者の土日の夜(19~21時台)のテレビ視聴状況を以下の2つの方法で観察し、シートに記録する方法
A.同居家族(被験者に伏せて視聴観察)
B.大学生(友人同士がペアで視聴観察) 視線計測実験(アイカメラ、ビデオ撮影)
※被験者に普段のテレビ視聴と同様に録画されたテレビ番組を視聴してもらい、視線を計測する方法

調査・実験対象 首都圏 T(男・女)、M1、F1、M3、F3層
土日の夜(19~21時台)のテレビ視聴者
(大学生とその兄弟姉妹、親)
18名 首都圏 13~24歳男女(高校生、大学生)
9名
調査・実験内容 ・具体的な生活行動、メディア接触、会話、テレビに視線が向いたきっかけ、離れたきっかけなどについて、5分刻みで3時間にわたって記録。
・記録した行動すべてについて、視線がテレビに向かった行動、テレビから離れた行動について数量カウントを実施。 ・被験者には、普段のテレビ視聴と同様に録画されたテレビ番組(30分のバラエティ番組)を視聴してもらい、視線計測装置を接続した37インチディスプレイにて、約60センチの距離から視聴してもらった。
・できる限り普段通りの視聴をしてもらうため、視聴条件を定めて実施。

(1)「スタディ1」:メディアのスマート化、ソーシャル化に伴うテレビ視聴環境の検証
最初に、メディア環境のスマート化やソーシャル化が進展する中、テレビ視聴環境はどのように変容しているか、また、そのことによって視聴行動はどのように変化したのか。デジタル化やデバイスの多様化に伴う視聴実態の変化を、T(男・女)、M1、F1、M2、F2を対象としたインターネット調査を行うことで、定量的に検証した。
 また、若者層におけるもっとも身近なデバイスである「テレビ」と「パソコン」および「携帯電話」とのの関係性についても調査した。

 ◎発見1、「メディアながら」の進行とテレビの相対的地位の低下
平日夜のゴールデンタイム(19時台~22時台)の視聴状況を見ると、T層(男・女)で4人に1人、M1・F1層で半数以上がパソコンを手元にテレビを視聴しており、また、携帯電話についても、T層、M1・F1層とも6割強がテレビ視聴時に手元に置いていることがわかった(図表4)。また、同時間帯は、テレビを見ながら夕食をとる人が7割を超えているが、従来の新聞や雑誌を読むといった「ながら」に加えて、「パソコンでメールやインターネットをする」(47.7%)、「携帯電話でメールやインターネットをする」(30.3%)、「パソコンで動画や映像を見る」(10.1%)など、パソコン、携帯電話など複
数のメディアに同時接触している割合が高いことが確認できた(図表5)。こうしたメディア「ながら」の進行と多様化はテレビと視聴者の関係性を大きく変化させている。

 図表4 平日夜のゴールデンタイムの時間帯、テレビ視聴時に手元にあるもの

 図表5 平日夜の時間帯、テレビを見ながら同時にしていること

次に、テレビ視聴時のパソコンや携帯電話との「ながら」状況をもう少し詳しく分析するため、テレビドラマの視聴時に絞ってみてみた。普段、テレビドラマを視聴すると回答した340名に、パソコンや携帯電話でコミュニケーションしたことがあるかどうかを尋ねたところ、「ある」との回答は48.8%であった。特に、T層の女性ではテレビドラマ視聴者の3分の2が何らかのメディアを使って友人などとコミュニケーションしていた。この時、コミュニケーション手段として使うデバイスは、「携帯メー
ル」が84.3%、「携帯電話での通話」が28.3%、「PCメール」が25.3%を占めた(図表6)。その際、会話やメール(チャット等含む)の相手は、友人が89.2%で1位、家族26.5%で2位となっており、
平均で2.21人と会話していることがわかった。このように、「パソコンを見ながら、テレビを見る」、「携帯電話やスマートフォンでメールしながらテレビを見る」といったメディア同士の「ながら視聴」は日常化しており、パソコンや携帯電話との関係性なしに、現代のテレビ視聴者の視聴実態を解明することはできない。

図表6 ドラマ視聴時にコミュニケーション手段として使うデバイス

また、テレビ視聴時にパソコンを利用することがある人を対象に、テレビとパソコンのどちらが正面にあるかを尋ねたところ、「パソコンが正面」とする人が3分の2を超え、単独で「テレビを正面」とする人はわずか11.2%という結果となった(図表7)。テレビがお茶の間の中心的存在として位置付けられ、リビングの中心を独占していた時代とは大きくかけ離れている。また、「あなたにとってなくてはならないメディアは何か」との問いに対しては、携帯電話が31.7%で1位、パソコンが30.6%で2位、テレビが24.6%で3位となっており、マインドシェアにおいても、テレビから、携帯電話やパソコンへと移行しているのがわかる(図表8)。個人が接するメディアの多様化、パソコンおよび携帯電話の利用拡大によってテレビメディアの相対的地位が低下してきている。

図表7 テレビ視聴時にテレビとパソコンのどちらが正面にあるか

図表8 あなたにとって「なくてはならないメディア」

(2)「スタディ2」:「テレビ」と「パソコン」の関係性の解明
2010年7月には、テレビ視聴時のパソコン利用についての関係性をさらに解明するために、2つ目の調査として「記述式の郵送調査(写真日記)」を実施した。この調査では、対象をT層(男・女)、F1層に絞り込んでいるが、この層は広告のコアターゲットとして注目される層であり、新しいデバイスをもっとも使いこなしている年代層であるという理由からである。さらに、「平日夜のゴールデンタイムの時間帯、リビングでテレビ視聴時にパソコンが手元にある人」という条件を満たすセグメントに絞った上で、リビングや自分の部屋での、自分を軸にしたテレビとパソコンと携帯電話の関係をビジュアル化してもらった。そして、視聴状況のコメントも書き添えてもらうことで、デバイスとの関わりを具体的に把握した(図表9)。

図表9 調査票記入例

◎発見2、「ながら視聴」の3形態。「チラ見」、「首振り」、「ひねり」
調査の結果、テレビ視聴時のテレビとパソコンとの位置関係から「ながら視聴」の態度が3つのタイプに分けられることが解った。それを類型化すると、視聴者からみたテレビとパソコンの画面の角度が、①0~30度未満の場合(テレビとパソコンが同一方向)、②30~90度未満の場合(テレビとパソコンが鋭角の方向)、③90~180度の場合(テレビとパソコンが真横~鈍角の方向)の3タイプである(図表10)。
①の場合、テレビとパソコンがほぼ同一方向にあるため、目線を上下に動かすことによって、テレビとパソコンの両方を視聴する見方で、パソコンをしながら、「チラチラ」とテレビ画面に目をやる様子から「チラ見視聴」と命名した。このスタイルでは、70.0%がテレビとパソコンの両方を同時に視聴している(図表11)。
②の場合、テレビとパソコンの画面が同一方向でなく、両画面に30~90度未満の角度があるた
め、目線を動かすだけでは両方を視聴することができない。したがって、左右に少し首を振ることによってテレビ画面からパソコン画面に、もしくはパソコン画面からテレビ画面に視線を移動する見方で、これを「首振り視聴」と命名した。このスタイルでは、43.9%がパソコンに向いており、テレビのほうを向いているのは19.3%と少ない。また、パソコンとテレビの中間を向いているとした人も29.8%みられ、テレビとパソコンを同時視聴しやすい体勢を作っている。
③の場合、テレビとパソコンの画面の角度がさらに広がって90度以上あるため、首を振るだけでは両方を視聴することができない。したがって、上半身を左右にひねることによってテレビ画面とパソコン画面との間を視線移動する見方で、これを「ひねり視聴」と命名した。このスタイルでは、57.6%がパソコン画面を向いており、テレビ画面を向いているのは24.2%と半数以下である。この場合、②のタイプとは異なり、テレビとパソコンの中間を向いて同時視聴するといったタイプの視聴は15.2%と少なく、パソコンを主体としてテレビはときどき視聴するという形態である。
こうしてみると、テレビに対してほぼ真正面に座って視聴しているのは①の場合のみで、調査対象者全体の18.2%に過ぎない。大型液晶テレビの普及でテレビとの距離、視聴角度は多様化してきているものの、パソコンや携帯電話との「ながら」によってテレビのリビングにおける位置関係は大きく変化したことが理解できる。

 図表10 平日夜のゴールデンタイムに、リビングでパソコンをしながらテレビ視聴する人の
テレビとパソコンの視聴角度

 図表11 平日夜のゴールデンタイムに、リビングでパソコンをしながらテレビ視聴する人の
       向いている方向 (視聴3タイプ別)

テレビとパソコンの「ながら視聴」の3形態は、自分、テレビ、パソコン、携帯電話の位置関係がわかるように写真撮影してもらい、視聴形態をよりリアルに「見える化」できた(図表12)。リビングおよび自室におけるテレビ、パソコンの配置は、視聴者のそれぞれのデバイスへの向き合い方を反映したものであり、テレビ視聴に対する意識を表すものともいえるだろう。

 図表12 テレビとパソコンの「ながら視聴」の3形態
(視聴者の視線方向から撮影してもらった写真)
① 「チラ見視聴」(0度~30度未満)

② 「首振り視聴」(30度~90度未満)

③ 「ひねり視聴」(90度~180度)

◎発見3、目はパソコン、耳はテレビ。「確認」のための「チラ見視聴」
自分と「テレビ」、「パソコン」、「携帯電話」の関係に見取り図を描いてもらうと同時に、平日夜のゴールデンタイム(19~22時)にリビングでテレビを見ている時の状態を詳細に記述してもらった。 その視聴状況のコメントを分析することで、いくつかの新しい視聴傾向を掴むことができた。 
ひとつは、パソコンをメインに使い、音によって気になったところを見て、画面に興味をひけばその部分だけをつまみ食いして見る形態である。この「つまみ食い視聴」の場合、視線はパソコン画面にあるが、耳はテレビの音を聞いている。そして、何らかの音声に反応して、視線はテレビに向かい、興味をひく内容が続けば、しばらくテレビ視聴が続く。そしてまた興味がなくなれば、再びパソコンに戻るといった形態である。
一方、「つまみ食い視聴」というよりも、テレビに対してもう少し消極的な見方で、「テレビをつけているとなんだか安心する」といったBGM的な利用もみられた。これは、テレビのラジオ的な利用であり、「ながら視聴」のさらなる進行が見られる。
 また、前述した「チラ見視聴」や「首振り視聴」の場合で、テレビとパソコンを同時に見ているケースで、テレビの音声を聴きながら、番組内容を都度確認していき、内容が特に気になったところのみを視聴しているような視聴形態が検出できた。この「確認視聴」は、ある程度意識がテレビにもあって、音声で番組を追いかけている状態である。「つまみ食い視聴」、「確認視聴」どちらも、音(声、歓声、効果音)などによって状況を察知し、テレビに視線を向けるものである。そのほか、テレビをメインに見ていて、CMに入るとパソコンに視線が向かう「CM飛ばし視聴」、少数ではあるが、パソコンに主に向かい、テレビの音を消している「消音視聴」ともいえるような例もあった。
この調査によって、テレビ視聴時における画面への持続的注視はなく、音がきっかけによって画面を見る視聴形態となってきていることが確認できた。

◎テレビ視聴における新たな問題意識に向けて
「スタディ1」と「スタディ2」、2つの調査結果を踏まえ、若年層ではパソコンや携帯電話をしながらテレビを見る視聴形態が進行しており、その場合、テレビ画面に視聴者が視線をむけるのは、音声(特徴的な音)によることがわかった。それでは、視聴者はどんなきっかけで画面をみるのだろうか。音が重要であるとの仮説は立つが、視聴者が思わずテレビ画面を見てしまう音とは何か、どのような音であればテレビに反応するのかなど、音の種類や音の変化について、さらなる仮説検証を行うこととした。その結果については下巻「スタディ3」、「スタディ4」にて紹介する。

<注>
1. 性・年代層別区分 T:13~19歳男・女、F1:女性20~34歳、F2:女性35~49歳、F3:女性50~、M1:男性20~34歳、M2:男性35~49歳、M3:男性50~
2. 日本テレビが2011年12月の『金曜ロードショウ』でジブリアニメの『天空の城ラピュタ』を放送した際、主人公が「バルス」と呪文を唱える場面でツイッターの1秒間のツイート数が2万5088という世界新記録を数えた(Twitter Japan,2011)。
3. シュラム,(1960=1968)pp.222-223
4. マクウェールら,(1979)pp.44-54
5. 「カルチュラル・スタディーズ」~1960年代にイギリスで起こった労働者文化や若者文化についての一連の文化研究。その発端となったのは、R.ホガート(1918― )の『読み書き能力の効用』(1958)とR.ウィリアムズの『文化と社会 1780―1950』(1958)の2著。1964年に設立されたイギリスのバーミンガム大学「現代文化研究センター」Centre for Contemporary Cultural Studies(略称CCCS、初代所長R.ホガート)が中心となり発展、世界に広まった。
6. 博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が2012年12月に行ったフォーラムにおいて、スマート・デバイスを扱う若者たちを「スマート・マス」と名付け、その実態を映像で提示した。

<参考文献>
Ang, I.(1982=1985) Watching Dallas: Soap Opera and the Melodramatic Imagination
Methuen&Co.Ltd
Hall,S.,(1973), “Encoding/Decoding in Television Discourse” Centre for Contemporary Cultural
Studies(Ed.)
Morley, D.,(1980)“The Nationwide Audience: Structure and Decoding”(Morley,D. and
Brunsdon,C.,“The Nationwide Television Studies”
Schramm,W.,Schramm,W.S.,Roberts.F.,(1954) The process and effects of mass communication
University of Illinois Press,
Webster,J.G.& Wakshlag,j.j.,(1983),“A Theory of Television Program Choice”, Communication
Research Vol.10, No.4.
D.マクエール, (1983) 『マス・コミュニケーションの理論』 竹内郁郎・三上俊治・竹下俊郎・水野
博介 訳 新曜社 (1985)
E.カッツ& P.F.ラザースフェルド,(1955)『パーソナル・インフルエンス』竹内郁郎 訳 
培風館 (1965)
G.ターナー(1996)『カルチュラル・スタディーズ入門 理論と英国での発展』訳:溝上由
紀/毛利嘉孝/鶴本花織/大熊高明/成実弘至/野村明宏/金智子 作品社1999
J.フィスク,(1987)『テレビジョンカルチャー』 伊藤守・藤田真文・常木瑛生・吉岡真・小林直毅・
高橋徹 訳(1996)梓出版社
P.バーワイズ& A.エレンバーグ,(1988)『テレビ視聴の構造』田中義久・伊藤守・小林直毅訳 
法政大学出版局(1991)
W.シュラム, 編(1954)『新版マス・コミュニケーション マスメディアの総合的研究』 学習院大学
社会学研究室 訳 東京創元社1968年
大石裕(2011)『コミュニケーション研究』第3版―社会の中のメディア』慶應義塾大学出版会
加藤晴明 著(2001)『メディア文化の社会学』福村出版
小林直毅・毛利嘉孝(2003) 『テレビはどう見られてきたのか』 せりか書房
小林直毅 (2005) 「テレビを見ることとは何か」 NHK放送メディア研究会編『放送メディア研究』
第3号
志村一隆(2011)『明日のメディア』ディスカバー・トゥエンティワン
田中義久・小川文弥 編(2005)『テレビと日本人「テレビ50年」と生活・文化・意識』
法政大学出版局
電通総研編 (2012) 『情報メディア白書2012』ダイヤモンド社
博報堂DYメディアパートナーズ/メディア環境研究所資料(2012年12月)
吉見俊哉(2000)『カルチュラル・スタディーズ』岩波書店
吉見俊哉 編(2000)『メディア・スタディーズ』せりか書房