<はしがき>
法政大学には、学生たちが自主的に企画編集している「オレンジプレス」というタブロイド版の雑誌がある。新入生に向けて発行される春号には、先生たちの授業評価が掲載される。「裏シラバス」で最も有用な情報は、「単位が取りやすいかどうか」と「内容がおもしろいかどうか」である。ちょっとだけ自慢させてもらうと、わたしの授業は、「おもしろさ」のポイントで毎年「5つ星」をいただいている。評価点が高い理由は簡単である。雑談がおもしろいからである。
大学の教員をやっていて残念なことは、研究書に載せることはできないけれど、実務的には有益と思われる挿話(事例)を結構たくさん「死蔵」させていることである。そうしたネタを発表する場は、現状では大学の授業内に限られている。本書で取りあげた「値段のからくり」などがいちばん良い例である。
そのような折りに、突如舞い込んできたのが「誰にも聞けなかった値段の秘密」の企画であった。ふだんの授業(2年生向けの基礎科目「マーケティング論」)で使っている資料やデータや事例などを、一般読者向けに公開するチャンスが訪れたわけである。
本書では、値段が決まる仕組みをわかりやすく説明するために、「誰にも聞けなかったシリーズ」の特徴である対話形式を採用している。値段に関する素朴な疑問を、読者の代表である青木ファミリーの3人に問いかけてもらい、筆者(小川先生)が順番に説明・説得していくという対論風のスタイルである。
終わってみると、うまく説明できたテーマと、十分に説得的ではなかったと反省しきりのエピソードがある。お気に入りの課題は、「卵の値段」と「自動販売機」、上手に丸め込めなかったのが、「着物の値段」である。テーマ別に「納得度」を採点していただけるとおもしろいかもしれない。
なお、編集作業の過程で、対話相手のモデルとして、小川ゼミの今村元紀くん(4年生)と山本倫子さん(現在「北海道新聞」社会部記者)に協力してもらった。また、詳細なバックデータを収集してくれたのは、アシスタントの青木恭子さんである。日本経済新聞社出版局編集部の小谷雅俊さんには、物語の設定と会話の編集作業で全面的にお世話になった。
なお、事例として登場する企業の担当者のかたには、電話や電子メールでご助言をいただいた。相手方の要望もあって、ここでは名前を挙げることを省略するが、ご協力いただいた方たちには大いに感謝したい。
小川孔輔
2002年4月30日 法政大学ボアソナードタワー研究室にて