第20回 「DIY協会年次報告書(2008年度版)」(小川担当部分)

 2010年末から執筆が滞っていた『DIY白書』(2009年版)の「総括部分」がようやく書きあがった。この時点で、いつも前年度版(2008年度)を発表している。昨年度の分は、やや新味に欠けていたかなと思って読んでみたら、案外おもしろかった。

第20回  「DIY協会年次報告書」(小川担当部分)       (2009年11月27日、執筆)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Ⅰ.調査総括
                    法政大学経営学部・ビジネススクール 教授
                     日本フローラルマーケティング協会会長 小川孔輔

1.調査目的
 <経済の概況>
本報告書は、2009年11月下旬(11月15日~26日)に執筆されている。昨年度(2008年度)の報告書からは一年が経過したが、今の世界と日本の景気回復はまったく先が読めない状態で推移している。株価の動きだけを見れば、米国と欧州は自動車産業や銀行・証券業の企業再生が功を奏して、両ブロックの経済には浮上の気配が見える。アジア経済圏は、中国をはじめとして、リーマンショックから立ち直りの兆しがある。
ところが、2009年11月末の時点では、自由民主党から民主党に政権に移って2ヶ月後の日本だけが、期待されたほどに政治的な変化が経済に好影響を与えることなく、グローバルに一人負けの停滞状態にある。国富と個人資産価値の減耗、若者を中心とした雇用不安が、深刻な国内消費の低迷の原因になっている。
こうした中で、2年前のエネルギー価格の高騰と原材料・素材価格高は、すでに遠い過去の過去の物語となりつつある。調査時点は半年前である。各社の事業実績は、一年半前を起点に運営された結果である。2008年時点に遡って、一般的な社会経済環境を記述していくことにする。
2008年度は、リーマンショックと世界同時株安を反映して、地価がふたたび下落をはじめた。原料・素材価格など、国内・輸入卸売り価格ともに下落し始めた。2007年末から堅調に推移してきていた企業業績は、ふたたび低迷に転じた。国内製造業は大幅な減収減益を経験した。小売・サービス業も、社会的な雇用不安と消費需要の下落により、10~20%以上の減収、そして50%を越す減益となる企業がほとんどであった。その中で、消費者のニーズに適切に対応して、ヒット商品を生み出した「ユニクロ」(ファーストリテイリング)のような企業は、景気低迷の中で「一人勝ち」を享受している。しかし、それは、長年の組織改革と経営努力があったればこそである。
アジア経済圏は、中国やインドをはじめとして、素材価格高と賃金上昇圧力によって、かつての成長力にかげりが見えはじめていた。皮肉なことには、したがって、リーマンショックで供給のボトルネットが一部解消することで、新興工業国はプラスの恩恵を受けているともいえる。
国内メーカーは、食品加工業や繊維産業をはじめとして、製造業の一部国内回帰を薦めようとしている。実際に、海外生産拠点の再配置を推進してきた。この動きは、中国沿岸部に工場を立地させてきた製造小売業(SPA)志向の衣料品小売業と、広大な農地と安い人件費を利して食品加工工場を中国北部に集中させてきた食品メーカーにとっては、一般的な景況が変わっても継続的に続く大きな流れではある。ベトナム、マレーシア、インドネシア、タイなどをはじめとして、インド、パキスタンにまで工場を分散させる動きを強めている。最近では、カンボジアやラオス、ミャンマーなども工場移転の代案にはいりつつある。
商品の調達先としてではなく、最近では、中国や台湾、韓国、タイ、インドネシアなどを、有望な商品の販売先と見る小売業が増えてきている。中国市場をはじめとして、自動車産業(トヨタ、本田、日産)や建設機械産業(コマツ)、あるいは、電気機械産業(ダイキン)や住宅設備産業(TOTOやINAX)などは、国内市場の飽和を読んで、明らかに消費の成長が著しいアジア地区に、新たな市場を求めている。コンビ二エンスストアの進出では成功を収めている商社系のチェーンだけでなく、イオンやIYグループなどは、、昨年来、アジア市場を新たな機会と見て、戦略の舵取りを変えはじめている。

<小売業一般>
日本国内の小売業全体の動きに、目を転じてみよう。百貨店と総合スーパーは、もはやかつての栄光の面影はまったくない。それどころか、百貨店とGMS(総合スーパー)という業態は、1990年のピークから20年で、最終的に「業態としての存続の危機」に直面している。百貨店は、上位10社がすべて対前年比で4~8%の減収である。とくに、高級ブランド品やジュエリーなどの落ち込みが激しい。総合スーパーは、2008年度は、対前年度比で売上高上位10社中の6社(イトーヨーカ堂、イオン、ダイエー、マイカル、平和堂、イズミヤ)が減収である。そして、ほとんどが減益である。
コンビニエンスストアはタポス効果で5~7%の増収であるが、その効果がなくなる今年度は、ほぼ減収となることがわかっている。ファミリーマートがAM/PMを買収するなど、上位企業同士の合従連衡がはじまっている。既存店ベースの売り上げは、すでに前年度割れを起こしている。また、セブン-イレブンなど、弁当などの食品廃棄問題に関して、公正取引委員会から警告を受ける企業もあり、フランチャイズシステムの土台も揺らぎ始めている。ドラッグストアは、一昨年までは総じて業績が堅調であったが、他業態(CVSやSM)でも、登録販売員を置くことで一部の大衆薬が販売できるようになった。今後は、業態間での競争が激化するだけでなく、規制緩和とオーバーストアによって、業態間で店舗との競争が収益を圧迫しそうである。
衣料品専門チェーンは、上位企業に目立った減収企業はない。しかし、既存店ベースの売上高は、2007年度からは、ほとんどの企業が対前年比を割り込んでいる。品質とデザイン(J・サンダースのデザイナーへの起用)で、最近では技術的な特性(ヒートテック素材)で支持を獲得しているファーストリテイリングのみが例外である。国内消費低迷で一番に影響を受けているのが、衣料品分野である。ユニクロ(+11,7%)以外に健闘している企業は、西松屋(+5.0%)とポイント(+17.0%)である。目立たないが、ユナイテッドアローズ(+10.1%)とハニーズ(+9.8%)は、2008年度に関して言えば、既存店では対前年度比で減収になっているが、全店ベースの売り上げは2桁近くの増収である。

<HC業界の動向>
DIY業態の現状を見てみることにする。HC事業を取り巻く環境の変化としては、一昨年度の報告書以来、3つの基本トレンドがあることを指摘してきた。すなわち、①基本的な消費構造の変化(HC店舗からの顧客離れと顧客の高齢化)、②過剰出店による競争の激化(それに関連した収益力の低迷)、③素材価格の値上がりによるコスト圧力(海外調達と長期対応策としてのPB商品の開発)、の3つである。
基本的なトレンドには、やや変化の兆しが見える。①HC店舗からの顧客離れは、沈静化の様子がうかがえる。ただし、企業合併(経営統合)と法制度の改正(町づくり3法案)にもかかわらず、②過剰出店と過当競争には歯止めがかっていない。その理由は、企業間にはまだ競争圧力が存在しており、上位企業はいまだに「自陣」から出て、東西南北に地理的に店舗網を拡張し続けているからである。
上位HC企業の出店意欲と売場拡張には、不況のいまもほとんどブレーキがかかっていない。それどころか、新規HCの出店届出の数は、微減に留まっている。上位HC企業が、新規ないしは吸収合併によって、ほぼ全国展開を終えるまでは、今後も地理的な浸透は続いていくものだと見ておいたほうがよいだろう。
③素材の値上がりについては、リーマンショック直前の昨年度(2007年~2008年秋)は、「商品価格に転嫁しようとする企業」と「不況時にはさらに価格を低下させる企業」(HCのカインズやHFのニトリ)に分かれていた。それが、ほぼ全ての企業が、素材の値上がりやエネルギー価格が沈静化してことを受けて、価格を低下する努力をしている。それではないと、消費者のHC店舗離れを食い止めることができないからである。もうひとつの方向としては、低価格でいながら高収益(粗利)を維持するために、自社PB商品の開発を積極的に推進する企業が現れてきたことである(前述のカインズやニトリ)。こうして自社PB商品の開発動向については、最後の「総括部分」で、詳しく議論することにしたい。

今年度(2008年度)のデータから、HC業界の最新の動向を見てみる。2008年度の調査では、売上高300億円超の企業では、売上高が+1.9%(2007年度、+2.3%)、粗利益高が+5.9%(+3.2%)と伸びている。売上高300億円未満の企業では、売上高、粗利益高ともに減少している(どちらの数値も、-5%前後)。中小規模のHCの経営は、引き続き厳しい状態に変わりがない。
昨年度までは、既存店ベースの売上高については、企業規模にかかわらず、対前年度比でマイナスだった。それが、売上高規模300億円超の企業カテゴリーで、既存店ベースの売上高が対前年比でプラスに転じている。+1.4%である。それに対して、売上規模が300億円未満の中小規模の店では、既存店の売上げが全店の販売金額と同様に、-2.3%(100~300億円未満)~-7.3%(50億円~100億円未満)程度も落ち込んでいる。中規模HCの既存店が苦戦している様子が見て取れる。
売場の大型化と過剰出店により、坪当たりの売上高(店舗生産性)は、このところ6年連続で低下しつづけている。小売業の平均坪効率と言われている100万円(/坪・年)を2005年に切ってから、今回調査(2008年度)では、とうとう警戒水位の90万円(/坪・年)を割りこんでしまった(2007年度91.9万円 → 2008年度87.9万円)。
なお、本年度の特徴は、比較対象店舗(49社)については、客数が減って(-1.2%)、客単価が向上した(+3.1%)ことである。昨年度(2007年度)は、前年度(2006年度)に比べて、客単価がほとんど変わらなかった(2006年度2,256円→2007年度2、254円)。客数の減少も客単価の上昇も、いずれも売上高300億円超の企業が増えた結果である。
5年前からHC業界で特筆すべき動きは、大手HC企業間の合従連衡とグループ化の動きである。この数年間でHCの企業数は、目立って減少している(本調査でも、対象企業数は2006年度の84社から2008年度の55社に減少している)。大手HC3社(ホーマック、カーマ、ダイキ)の経営統合によって、持ち株会社(DCMジャパン)が生まれている。大型合併とグループ化の流れは、今後も続くものとみられる。中小規模HCの業績が悪化していくなかで、M&Aと経営統合によって業績の向上と地域内シェアのアップを目指す動きは、HC業界としては避けられないものと考えられる。
なお、昨年度も指摘したように、HCとGMS・地方スーパーの間でのグループ企業ぐるみで、業態を跨いでの水平的な経営統合の可能性がある。2007年度までで、百貨店業界内での水平合併はほぼ完了している。三越と伊勢丹、大丸と松坂屋、阪神・阪急に続いて、阪神・阪急HDSが高島屋との企業統合を終えている。百貨店業界内での企業統合の動きは、都市型百貨店の存立基盤に関わる深刻な問題である。ショッピングセンターのキーテナントとして、百貨店やGMSが果たしてきた役割が終わろうとしている結果でもある。日本SC協会の発表によると、現在、核店舗の売上げがSC全体に占める比率は、その他テナント合計に対して、ほぼ1:2の割合である。このシェアは、5年先くらいを目処に、2:5程度に落ち込みそうである。また、核無しSC(現在、前SCの20%)が増えてくる可能性がある。

 <調査内容:コメント>
本調査(第20回)は、会員企業の協力を得てアンケート調査を実施することにより、HC業界企業の経営状態について、現状把握を行うことを主たる目的としている。日本DIY協会(情報委員会)による調査は、平成20年5月1日(金)~9月11日(金)の間に実施された。HC専業73社(昨年度は77社)に、郵送、メール、あるいはファックスで送られたアンケートを集計した結果である。最終的に58社が調査票の回収に協力してくれている。回収率は、昨年度からやや落ちて79.5%である。本調査のもうひとつの目的は、HC業界の将来的な課題に対して、マネジメント上の示唆を与えることである。これまでの調査と同様に、データの集計・分析結果の概要を紹介することにしたい。
調査に協力していただいた企業の合計(55社)で、対前年度比の売上高(全店)は+1.4%の増加であった(55社合計では、2兆8,931億円)。ちなみに、前回調査(2007年度)の総売上高は、62社合計で2兆9,144億円であった。売上高の伸び率は、前年(+1.7%)からわずかながら低下している。既存店ベースの売上は、今回調査(2008年度)では、-2.0%であった。昨年度の-0.3%より、減少幅は拡大している。
2008年度は、すべて規模のHC企業で、客単価が上昇している(平均+3.1%)。しかし、とくに小規模のチェーン(売上高10~50億円未満)では、客数が大幅に減少している(-11.6%)。前回調査(2007年度)では、このクラスの企業は、客数・客単価ともに伸びていた。ちなみに、売上高300億円以上の規模のチェーンでは、客数が対前年度比で減少(-1.5%)したのを、客単価の上昇(3.4%)で補った形になっている。
坪当たりの売上高は、前年度と比較可能な店舗(53社)で見ると、平均87.9万円である。坪当たりの売上高は、2005年度から連続して低下している。HC全体の平均坪効率は、この間に15万円ほど低下したことになる。坪当たりの売上高は、かつては店舗規模が大きくなるにつれて上昇していたが、集客効果によるスケールメリットは次第に小さくなっている。実際に、2008年度のデータを見てみると、店舗面積5,000㎡未満の店舗(83.5万円)と5,000㎡超の店舗(107.0万円)では、年間売上で坪当たり24.5万円の格差が見られる。数年前(2005年頃)は、坪当たりで年間30万円以上の格差が見られた。
 商品分野別の大分類において、対前年度比で最大の伸びを示したのは、「園芸・エクステリア(ペットを含む)」であった(+7.9%)。「DIY用具・素材」の部門の伸びがマイナスに転じた(-0.4%)こともあって、長年にわたって、大分類で最大部門だった「DIY用具・素材」が、部門シェアで第2位に落ちた。2番目に伸び率が大きかったのが、「家庭用品」である(+2.0%)。「カー・アウトド用品」は、かろうじて部門売上を伸ばした(+0.2%)。
それ以外の部門(大分類)は、軒並み、売上げを落としている。落ち込みが大きいのは、かつて好調に推移していた「サービス業務」(-7.4%)、「インテリア」(-4.0%)である。微減になったのが、「DIY用具・素材」(-0.4%)、「カルチャー」(-0.8%)、「電気」(-0.1%)である。
在庫回転率は、今回調査(2008年度)では、ふたたび大きく下がった(3.9→3.7)。また、粗利益率は、前回調査(2007年度)と比べてやや上昇している(28.6%→29.5%)。なお、営業経費、人件費、宣伝広告費は、上位企業ほど、多投入の傾向がうかがえる。売上高に占める営業経費率は26.4%(上位16社では26.8%)、人件費率は10.8%(上位12社では10.9%)、宣伝広告費は2.4%(昨年度は、2.2%)である。時系列的に見ると、いずれの経費項目も比率が高まっている。粗利を確保しながら、営業費に資金をつぎ込んでいる経営の姿が浮かび上がってくる。
 業界全体の動向については、集計されたデータをもとに、本調査からさらに詳しく現況を読みとっていただきたい。

 
4.調査結果
(1)総括
 今回の調査は、平成20年5月1日~9月11日の期間にアンケートの回収が行われた。発送企業は73社、有効なサンプル数は58社(昨年度は65社)である。回収率は79.5%(58社/73社)であった。回答企業数は昨年度比で7社の減少ではあるが、本調査の企業データは、DIY小売業の経営状態を代表していると見ることができる(回収サンプル全体で、およそ3兆円のHC売上推計値をカバーしている)。
収益性指標(粗利益率)に関して長期トレンドを見てみる。業界平均の粗利益率は10年間にわたって上昇基調にある(1995年度25.6% → 2005年度29.1%)。今回調査(2008年度)も前回調査(2007年度)と変わらず、回答企業全体(45社)の平均粗利益率は29.5%であった。それに対応して、絶対的な粗利益額も増加している(+4.8%)。
生産性指標(従業員一人当たり売上高/粗利益額、坪当たり売上高/粗利益額)には、大きな変化はみられなかった。従業員一人当たり売上高/粗利益額を、対前年度比(2007年度→2008年度)の数字で示すことにする。従業員一人当たり売上高は+  %(28.7百万円/人→29.6万円/人)、従業員一人当たり粗利益額は+  %(7.8百万円/人→8.2百万円/人→)の上昇である。坪当たり売上高は昨年度から低下して、-3.5%(91.1万円/坪→87.9万円/坪)であった。人的な効率は高まったが、過剰出店と売場面積の拡大が続いている。
昨年度に続いて、HC業界の現状を簡単に要約してみる。分析者が5年前から主張してきた4つの傾向のうち、今年度はそのすべてに変化が見られた。

(1) 取り扱い商品の変化: 商品カテゴリーの大分類では、10年間にわたって売上構成比の変動が続いている。その傾向はしばらく変わらない。
HC業界が業態間競争で力を失いつつある商品カテゴリー(電気、インテリア、カ
ー・アウトドアなど)では、販売シェアの減少が続いている。昨年度は、その傾向
が沈静化するかに見えた。しかし、今回の調査では、3つのカテゴリーのシェアが
再び減少に転じている。長期トレンドに変化が無いことが推測できる。

(2) 生産性指標の低下: 売り場生産性の低下には歯止めがかかりはじめた。
  大手HC各社が全国的に積極的な出店を続けているため、2004年度以降は、売り場面積が3年間で約12%伸びている。2008年度に回答した企業全体(56社)の総売り場面積の伸び率は、対前年度比で+5.1%と伸び率は変わっていない。売り場面積当たりの売上高は、継続的に低下している(-3.5%)。店舗数も+2.3%増えている(58社)。他方で、従業員一人当たりの売り場面積が大きくなったことで、一人当たりの売上高は上昇に転じている。さらには、粗利生産性が上昇に転じている。なお、営業経費や人件費、広告宣伝費は微増だが、昨年度からは粗利益率が上昇している。トータルでは、最終営業利益率は改善されていない(2007年度3.9%→2008年度3.5%)。

(3) 規模格差の拡大: 店舗間およびチェーン間での規模格差が拡大してきた。
  大規模チェーン(売上高300億円~)と小規模チェーンを比較すると、あるいは、大
規模店舗(売場面積5,000㎡~)と中小規模店舗を比べると、売上高に大きな規模格差が見られる。最近3回の調査(2005~2007年度)を見ると、規模格差は縮小する傾向が見られる。ただし、今年度(2008年度)に関しては、中小規模チェーンの業績が大幅に悪化しているので、規模格差は縮小傾向は中断している。

(4) HCの業態の魅力度低下: 客数と客単価が低下してきた
 一般的なトレンドとして、ここ数年間は、HCの顧客が他業態に奪われる傾向が顕著であった。この長期トレンドには基本的に変化が見られない。品揃えやサービス面で、HC業態の魅力度が低下してきた結果である。それは、ドラッグストアが、ラインロビングをしていった結果、中心的な品揃えを、CVSやでぃすかうんとストア、バラエティストアに奪われそうになっている現実と似ている。その一方で、積極的な出店と店舗の大型化で、HC業態全体としては売り場面積が増え続けている。今年度の結果を見ると、来店客数の減少と客単価の上昇が同時に起こっている。これまでに無かったことである。2008年度の調査結果から商品大分野のシェアを見ると、ふたたびHC業態の魅力度低下が鮮明になったことが伺える。既存店ベースでは、客単価、客数ともに減少している店舗が多い。そうした観察からは、もしかすると、HC業態はさらに特定カテゴリーを強化して、専門化の方向に向っていくのかもしれない。

まとめると、(1)「取扱商品の変化」と(4)「HCの魅力度低下」に関しては、ここ数年間で基本的な潮流が戻ってき様子がうかがえる。以下では、もうすこし詳しくデータを眺めながら、個別のポイントについて解説していくことにする。

(2)売上動向(大分類)
 全体の売上高は、2回の調査(2007年度と2008年度)を比べると、比較可能な企業総計(55社)では、+1.4%であった(前回の対前年度比では、+1.7%)。既存店ベースの売上高は、比較可能な店舗(49社)でみると、前年から大きく売上を落としている(-2.0%)。昨年度は、既存店の対前年度売上高比は微減であった(-0.4%)。
HC業態では、店舗効率が年々低下している。その原因は、とくに大規模チェーン(30店以上)で店舗数がいまだに増加しているためである(+2.9%)。大規模のチェーンでは、売り場面積も増加傾向にある(+5.8%)。HC全体でも、店舗数は+2.3%、売り場面積が+5.1%増えている。
 大分類による集計データでは、今年度(2008年度)は、商品大分類のカテゴリーシェアに大きな変化が起こった。HC業態のコアカテゴリーである「DIY用具、素材」が、販売シェアで「園芸・エクステリア」に、トップの座を明け渡したことである。これは、ガーデニングブーム(1998年がピーク)が終わった頃(2002年)以来の出来事である。「園芸・エクステリア」は、ペット部門が堅調なことから、HCでの取り扱いシェアが伸びている。また、HCの園芸エクステリア部門は、景気の悪化と自給自足型の野菜苗の栽培ブームにも助けられている。
HCの商品カテゴリーの大分類では、これまでは、売上構成比の3大分野(「DIY用具・素材」「園芸・エクステリア」「家庭用品」がほぼ拮抗していた(ほぼ20%ずつ)。今年度は、「園芸・エクステリア」(含むペット)が、他のふたつのカテゴリーに、数%だけ水を空けた形になっている。
その他の大分類カテゴリーは、最近になって、カテゴリーキラー(家電ディスカウンター、ホームファーニシングチェーン、カー用品店)の躍進で、HC売場内では構成比が小さくなってきている。今年度のデータを見ると、カテゴリーキラーと熾烈な競争を展開している3つのカテゴリー(「電気」「インテリア」「カー・アウトドア」)は、さらに地位低下が進んでいることがわかる。表1から見て取れるように、「電気」(7.9%)は、2008年度にはシェアが8%を切っている(2007年度は、8.2%)。「インテリア」は、この2年間で、シェアを8.3%から7.5%に大幅に落としている。また、「カー・アウトドア」は、シェアの漸減傾向が続いている(2007年度6.8%→2008年度6.6%)

<表1>:大分類による売上構成比の推移
<表2>:大分類による売上構成比順位と対前年度比

 表1と表2を見ると、興味深いことがわかる。2008年度(第20回調査)は、大分類の商品構成比に大きな変動が起こった年である。大分類の売上構成では、昨年度第2位だったの「園芸・エクステリア」(20.0%)が、トップに躍進した。2番目が「DIY用具・素材」(20.5%)で、3番目が「家庭日用品」(19.6%)である。売上構成比で、トップと2、3位の順位が逆転した。
それ以下では、<表2>を見ていただくとわかるように、「電気」(7.9%)、「インテリア」(7.5%)、「カー・アウトドア」(6.6%)と続いている。前年度と比べると、これら3つのの部門構成比は、重要度が低下している。「電気」以下の3つのカテゴリーは、HCにおける商品カテゴリーとしては、近年は相対的に重要度が落ちてきている。長期的には、HCの経営にとって、「ノンコア」のカテゴリーになりつつある部門である。
「サービス業務」のカテゴリーは、昨年度(2007年度)は微増だった(+1.3%)。今回(2008年度)は、ほとんど変化が見られない(構成比で2.5%)。
 以上の調査結果をみて、筆者はやや安堵している。5年間にわたる時系列分析で主張してきた筆者の予測が、昨年度のデータを見た限りでは、長期トレンドに対して修正の必要があるかもしれないと考えていたからである。
以降は、データの背後にある要因と、読み方の論拠を要約してみる。

(A)「電気」の売上停滞
 2003年度以来、大分類項目の「電気」は隔年ごとに売上の増減を繰り返してきた。今回調査(2008年度)も売上減(-0.1%)を経験している。3回の調査で連続して売上の絶対額が減少している(2006年度-1.7%、2007年度-0.6%)。ヤマダ電機など、家電ディスカウント業態の業績が好調な上に、価格優位性が明確である。HCの電気用品売場は、家電ディスカウンターとの戦いで厳しい状況にある。郊外立地のSC内に、家電ディスカウンターが出店することが多く、さらに競争圧力が強まる傾向がある。将来的には楽観が許されない部門である。住生活製品(インテリアやキッチンまわりの住宅設備)との連動で、売上の減少を食い止める工夫をしなければならないのかもしれない。

(B)「カー・アウトドア」と「インテリア」部門の未来、そして、「家庭用品」は?
「カー・アウトドア」は、前回(2007年度)に続いて、今回(2008年)も対前年度比でブラスになった(+0.2%)。「インテリア」の部門は、それとは対照的に、対前年度比で大幅にマイナスを記録している(2007年度-3.1%、2008年度-4.0%)。両部門に共通な点は、強力な「カテゴリーキラー」が存在していることである。
「家庭用品」は、かろうじて販売額で前年度を上回っている(+2.0%)。「家庭用品」にも、部門的に競合する業態と有力企業が多く存在している。ドラッグストア(マツモトキヨシ、セイジョー、サンドラッグなど)と100円ショップ(ダイソー、キャンドゥなど)である。また、「インテリア」の部門には、ホームファニシング・家具(ニトリとイケア)などの隣接業態の企業がある。三つの部門が長期低落傾向を止められるかどうかは、商品企画と販売の面で、専門分野を独自の部門として持ちうるかどうかにかかっている。

(C)「DIY用具・素材」と「園芸・エクステリア」
「DIY用具・素材」は、5年間にわたって売上が伸びている部門であった。ただし、2008年度に限っては、成長が息切れしてしまった。代わりに伸びたのが、前項で取りあげた「園芸・エクステリア」である。「DIY用具・素材」が伸びてきた理由は、この部門と「園芸・エクステリア」の部門が、HC業態の中心的な売場を構成しているからである。他の業態には、強力なライバルが存在していない。
こられ二つの部門は、「プロユース対応」(建築、工事、農業分野など)を対象としている。いまだに、売上の増加が見込める分野である。「園芸・エクステリア」の部門は、生の植物やペットを扱っていることに特徴がある。生活者にとって、代替的な購入場所は、専門店ショップになるが、強力なチェーンストアがまだ成立していない。HC企業の経営方針しだいでは、売場内にショップを構えることができる。そして、部門としての伸びが期待できる部門である。

(3)売上動向(中分類)
<表3>:中分類による売上構成比の傾向
 
以下では、商品分野別の売上高を、中分類カテゴリーで見ていくことにする。

2008年度の調査で、売上構成シェアを大きく伸ばした中分類は4つであった。特徴的なのは、そのいずれもが、大分類で「園芸・エクステリア」に属する中分類カテゴリーだったことである。もっとも伸びが大きかったのは、「園芸用品」(10.6 %)であった。つづいて、「ペット」(+8.1%)、「園芸生物」(+7.0 %)と続いている。「エクステリア」(+2.5%)も、小幅ながら売上高、構成シェアともに伸びている。昨年度の調査時点(2007年度)からさらに、これらの部門は売上高を伸ばしている。
昨年度(2007年度)は、大分類の「DIY用具・素材」に含まれている中分類カテゴリーが伸びていたが、今年度(2008年度)はほとんどがマイナスか、伸びがゼロである。かろうじて、プラスになったのは、「塗装・塗装具」(+1.8%)と「接着剤・梱包資材」(+0.4%)であった。なお、住宅関連では、「住設機器・器具」(+2.8%)はやや売上が伸びている。
2年続けて売上を減らした中分類カテゴリーが、多くなっている。とくに、大分類では、「インテリア」の落ち込みがはげしい。「インテリア」(-2.9%)、「家具・収納用品」(-5.3%)である。「電気製品」(+1.4%)と「家庭用品」(+1.7%)は、今年度はややプラスに転じている。「日用消耗品」(+2.2%)も同様である
大分類の「カー・アウトドア」に属する中分類の商品群は、昨年度にマイナスだった「自転車」が、対前年度比で大幅のプラス(+5.1%)になった。そのとは対照的に、「カー用品」はマイナスに(-2.6%)になった。ガソリンの値上がりと節約志向で、移動手段が車から自転車や徒歩に変わったことを反映した構成比の変化である。
不景気の影響で、住宅設備への投資が控えられたこともあってか、「増改築・リフォーム等」(-2.7%)や「その他サービス業務」(-13.6%)は、大幅に落ち込んだ。この傾向は、今年も続きそうである。
 表2は、中分類商品カテゴリーの構成比をランキングしたものである。「園芸・エクステリア」部門の健闘が目立っている。

(4)全体総括と経営提案
最後に、調査全体を総括してみる。例年の通りに、いくつかの次元から、HC業界の課題を整理する。今年度は、5つの視点(HC業態の商品・サービス機能、HC業態の最適店舗規模、小売業の立地変動、企業統合の視点、PB商品開発)から、HC業態の現状を整理し、経営改革の提案につなげてみたい。最初の4つは、昨年度から継続して取り上げてきた項目である(昨年度から一項目を削除)。最後のPB商品開発は、2008年度からはじめて、新しい項目として付け加えたものである。

(A)HCが提供する商品・サービス機能
筆者が調査の総括コメントを担当するようになって、今回で7回目の調査(第14回~第20回)になる。
本調査のデータを分析しはじめたころに、ちょうどHCの取扱商品やサービス業務の構成に変化が起こりはじめていた。その後も顕著なのは、HCの住宅関連部門で、サービス業務の扱いが拡大してきたことである。その流れが、近年はやや落ち着いてきたように見える。昨年度からは、サービス業務(リフォームなど)の住関連商品の伸びは止まっている。長期トレンドとしては、サービス業務へのニーズは小さくないと考えられるが、短期的には、景気循環の動向に需要が左右されそうである。
「巣ごもり」の傾向を反映してか、園芸用品、園芸植物、ペットへの需要が旺盛である。この3年連続で、HCでは「園芸・エクステリア」の部門が販売を伸ばしている。唯一、堅調な分野である。これらの商品部門は、商品知識や販売に専門性が要求される。専門知識を持ったスタッフの教育採用が、伸びている部門をさらに伸ばすためには重要である。
日本のHC業態は、セルフサービスで成長してきた。しかし、今後は、その延長線上にある「ディスカウントタイプの業態」と、専門知識を持って従業員を教育訓練する「DIY専門業態」に分化していくように見える。そのよなわけで、昨年度に続いて、以下の「展望的な仮説」を繰り返して記述しておきたい(語句に若干の変更を加えてある)。
「小売業としてのホームセンター業態は、長期的には、人々の生活を改善するための素材と加工技術を伝授する場に変わっていく。それ以外の提供商品は、基本的には、ドラッグストア、カー用品店、ディスカウントストア、ホームファーニシング企業など、カテゴリーキラーを擁する競合業態に移っていく」。

(B)HC業態の店舗規模
原油価格・ガソリン価格の上昇は、消費者のショッピング行動に変化をもたらした。景気が低迷しても、そのトレンドに基本的に大きな変化はない。昨年度も指摘したのは、買い物頻度の低下(まとめ買い)、買い上げ点数の減少(節約志向)、価格に対する感度の上昇(生活防衛行動)である。売場面積が増えても、客単価がなかなか上昇しない原因はそこにあった。
大きな売り場面積で小さな店舗を駆逐するという「大商圏」の優位性があやしくなってきている。ただし、「ワンストップ・ショッピング」の効用は、車を輸送手段とする限りは、従来の郊外型HCであれば、その存立基盤が大きく揺らぐことはなさそうである。というのは、データからHCの売り場効率を見ると、店舗規模格差は縮まっていないことが明らかだからである。事実、「小商圏フォーマット」の優位性が喧伝されている割には、実体としては、中小型店舗および中小チェーン店の苦戦が続いている。
小商圏タイプの店舗は、以下で述べるように、来店手段が徒歩や自転車が主体になる「都市型HC」で有効になる可能性がある。現在、いくつかのチェーンが、実験店舗で新しいフォーマットを探っている最中である。

(C)都市型HCの可能性
団塊世代(昭和20年~25年生まれ)の大量退職が始まっている。そして、郊外から都心部への人口の逆流がはじまった。首都圏、近畿圏では、1970年代から団塊世代が郊外に移動した。そうした郊外の住宅区に生存領域を持っていたチェーン小売業が、郊外のフリースタンディング店舗のみの展開から、郊外SCや都心ビルに出店するようになった。
郊外で生まれたHCでも、首都圏で活動している複数企業(カインズ、ドイト、ケーヨー、コーナン)が、都心部周縁部(環状7号線から国道16号線の間のドーナツの輪)への出店を開始している。従来から都心ターミナルビルに出店している「東急ハンズ」や「LOFT」とは異なる品揃えのHC企業の出店である。
都心部へ戻ってきた夫婦世帯(ただし、子供なしになっている)の基本ニーズは、従来型のHC店舗で提供されていた商品では満たすことができない。ただし、彼らを顧客とすることについて、HC店舗は優位性を持っている。というのは、子育て時に郊外のHCを利用した経験があるからである。HC企業の知名度は高い。そこで売られている商品やサービスも購買して経験もしている顧客である。
都心部のHCの顧客は、そうした「団塊移住組」ばかりではない。非婚・単身世帯など、都心部には経験と財布の中身が異なる顧客も住んでいる。共通しているのは、小さなサイズ商品を必要としていること、来店手段が徒歩や自転車主体なので、重たい商品やかさ張る商品には、デリバリーサービスなどが必要なことである。駐車場より、多くの駐輪場スペースが必要である。
なお、「空の巣セグメント」や「非婚セグメント」は、品質に対する要求がきびしい。また、付加価値が高いプレミアム商品を販売できる優良顧客である。高価格でも商品とサービスについては「上質な仕様」を求めてくる。なお、後者のセグメントは、専門的なHC商品については、ネット販売の比率が高まる場合も考えられる。

注)2008~2009年度に実際に出店した都市型HCを何店舗が訪問した。筆者の観察によると、上記の仮説は必ずしも正しくはなかった。少なくとも、山手線から環状7号線まで間のエリアに居住している顧客層と、環状7号線の外側に住んでいる「ファミリータイプ」の顧客層とは大きく異なっていた。後者の基本ニーズは、郊外型HCの顧客とは価格感度が同じで、商品のサイズやバラエティに対する欲求が異なっている。それは、居住空間の広さと代替小売業(コンビ二やドラッグなどの競合業態)のちがいによるものと考えられる。

(D)企業統合と収益性
HC企業においても、経営の統合が急速に進んでいる。他業態と比較すると、それでも集中度は中位である。上位企業への集中はさらに進む可能性が高い。企業統合が進展した結果、HC全体の企業としての収益性は、高まるのだろうか?
PB商品の共同開発によるコスト低減、商品調達面でのスケールメリットはまちがいなく生まれる。上位企業が圧倒的に優位に立つので、収益力は増すことになるだろう。しかしながら、長期的な高収益性は、企業買収と統合だけでは達成できないはずである。結果がすでに明らかになってきている。
結局のところ、重複するコストを削減しても、それは瞬間的なものにしかならない。長期的な高収益は、新しい業態開発によって、あるいは、新しい商品分野の開拓や基本業務システムの革新によってしかもたらされない。規模拡大競争をどんなに推進しても、高収益な企業は生まれない。むしろ、内部成長を目指してきたHC企業が、現在でも、もっとも理想的な成長軌道に乗っていると観察できる。
商品調達、商品政策、立地戦略面で、これまでになかった新しいHCが誕生しないことには、HC業態の収益力向上は期待できないのである。

(E)PB商品開発
 たとえば、HC企業が必死に取り組んできた商品政策は、2000年代の初めは、海外からの商品調達であった。中間流通を排除した直接取引は、衣料品業界のSPAに、同時並行的に進んできた。その延長線上に、現在のPB商品開発の流れがある。引き金になったのは、景気低迷と消費者の節約志向であった。
 小売業としての最終的な狙いは、粗利益率の改善にある。HC業態内での競争はもちろんのこと、もっと熾烈なのは業態間競争である。高い粗利益率を獲得できる事業システムをもたないと、業態間競争では勝利することができないからである。ニトリとカインズは競合している。コメリとしまむらも競合している。ワインを取り扱うことになったから、HCのカインズが、食品スーパーのヤオコーやフレッセイとも競合になる。自社グループのベーシアとも共食いを起こすことになる。
 PB商品開発で成功するポイントは、メーカーやベンダーとの組み方である。論理的には、自社内に優秀な商品開発チームを持つことができれば、どの商品分野でも会社独自の開発は可能なように見える。しかし、現実的には、商品開発は継続的な改善も必要である。メーカーやベンダーとの市場地位を考えて、その中間領域(純粋な自社開発と単なる商品調達)を探るべきであろう。長続きをする商品開発のパターンは、とくに、HC商品のような日常的なシチュエーションで使用される商品を開発するためには、衣料品や食品分野とは異なるパターンが必要だと感じる。
 事例として参考になるのは、カインズのPBワイン「RICORICO」などである。PB商品ではあるが、この商品は、トップメーカー(サントリー)との「ダブルブランド」(提携ブランド)である。高品質と低価格の同時達成を狙った商品開発のパターンである。また、イオングループの「トップバリュ」のような商品開発方式が、HCでも展開できるのかどうか(経営統合後の共通PB商品)は、次世代のPB商品開発にとっては、試金石となるだろう。食品スーパーでは、PB商品から撤退を決めた企業もある。また、成城石井のように、PBの低価格で勝負するのではなく、海外のローカルブランド開発やNB商品の発掘を武器にする小売業も存在している。

 HC企業を取り巻く経営環境に、かつてなくきびしい。消費者意識の変化、業態間競争、商品調達のグローバル化、PB商品開発の流れ、高収益を求める市場からの圧力、同時進行している環境志向の広がり。そして、安心と安全を求める生活者たちの欲求の高まり。
筆者は、2007年度から今年度(2009年度)まで、「日本版顧客満足度指数(J―CSI)」の開発チーム(経済産業省主催)の座長を務めてきた。日本の流通・サービス業の30業種(約300社)の顧客満足度を、業界横断的に測定する仕組みである。2010年3月には、全流通・サービス業の顧客満足度指数の上位ランキングが、メディアを通して発表されることになっている。
「パイロット調査」(2008年~2009年)は昨年度、すでに終わっている。百貨店から衣料品小売業、ドラッグストアやコンビ二エンスストア、食品スーパーまで、約10業種(約80社)の満足度指数を測定比較する機会を得た。簡単に結論だけを言えば、ホームセンター(上位5社+その他HC)を利用している来店客の満足度は、総合スーパーやコンビニエンスストアに比べると上位に位置している。しかし、衣料品小売業や雑貨チェーンなどに比べると、やや下位にランキングされる。どの部分が評価されていて、どの部分がネガティブなのかもわかっている(公式調査の結果は、来年3月に公表される)。
ホームセンターは、住生活を中心とした生活産業である。HC企業が革新的なアイデアや商品を提供できれば、われわれの住生活は豊かになる。生活の豊かを提供することが、HCの社会的な使命である。人々の日々の生活に貢献できるために、小売サービス業として何をなすべきか?生活者は、HC企業に不断の革新を求めている。値ごろ感のある商品、感動のサービス、安心して買い物ができる場所の提供が、小売業としての生命線である。