日経MJヒット塾「食のイノベーション②」11月8日号

 毎週金曜日、『日経MJ』で「食のイノベーション」という連載がはじまりました。第2回を掲載致します。


日経MJヒット塾(連動企画)                  2013年11月8日
「食のイノベーション②」
小川孔輔(法政大学経営大学院教授)

ポストデフレに勝つ力

 惣菜大手、ロック・フィールドの主力業態である「RF1」は9月の既存店売上高が前年同月比3.6%増と、5月からプラスが続く。デフレの時代にあっても、単なる安さではなく「おいしさ」(製品革新)を追求してきた企業が元気だ。
 第1世代のフードチェーンは海外のビジネスモデルを日本に移植し、食シーンを変えていった。同社や日本マクドナルド、すかいらーく、サイゼリヤ、セブン-イレブン・ジャパンなど欧米食文化の導入に貢献してきた中心的な企業はほとんどが1970年代前半に創業している。
20年後、日本はデフレを経験する。それからの20年で事業をどのように変革していったのか。デフレ脱却をうかがう局面で、そこにヒットを生む力や業績の良しあしを決定づけるカギがある。
 製品開発のための技術革新とサプライチェーンの組み替えを基礎にして運営されている代表格がセブン-イレブン・ジャパンとロック・フィールドだ。両社は価格重視ではなく一貫しておいしさの追求に注力してきた。
 神戸でレストランを経営していたロック・フィールドの創業者である岩田弘三社長は欧州旅行で「デリカテッセン(調理済み食品の持ち帰り業態)」に出会う。高級デリカ業態を大丸神戸店に出店したのは72年のこと。現在の「デパ地下」につながる業態だった(立地革命)。
北海道のジャガイモや神戸で選んだ上質な牛肉、淡路島のタマネギなど厳選した素材のおいしさが受けた89年発売の「神戸コロッケ」のヒット(製品革新)を経て、92年からサラダを主力にしたRF1を出店(ブランド革新)する。
一方で、「おいしくて」「安心・安全な」持ち帰り食材のデリカを全国の百貨店の売り場に供給できる量産型製造工場を静岡に新設。コールドチェーンの仕組みを構築してきた(製造・ロジスティクスイノベーション)。
清潔感ある内装やユニホームなど統一のとれたデザイン。おいしさを引き立てるじゅう器やライティングの工夫(デザイン刷新)。本社工場などの設計は建築家の安藤忠雄氏に委ねてきた。働く人や地域にとっての環境も重視している。
同社の歴史が示すのは日本がデフレに突入し始めた時に、価格訴求ではなくブランドを立ち上げ、イノベーションに着手していることだ。「顧客価値」を提供するための仕組み作りを継続してきたことが足元の活況につながっている。
それと対照的に、デフレの20年間、安さを訴求することを主眼において経営していた企業・店舗(日本マクドナルド、ガスト、吉野家など)は2010年からのポストデフレの時代に入り、大苦戦している。
マクドナルドは04年にトップに迎えた原田泳幸氏の下でも基本的な競争戦略の軸は価格・プロモーション重視だった。藤田田社長時代に「日本化」した経営を米国モデルに戻すことで短期的に業績を回復させることはできたが、革新的な製品を生み出したわけではない。
ロック・フィールドは欧州の食の業態(デリカテッセン)に触発されたアイデアだったが、日本の「惣菜コンセプト」に重ね合わせて順化していった。そこに革新の本質(ビジネスモデル・イノベーション)がある。

キーワードプラス
「食のビジネスモデル・イノベーション」
継続的に収益を生み出せる製品・サービスの統合的な事業システムを創発すること。20世紀を代表するビジネスモデルはスーパーマーケット、(フード)フランチャイズシステム、コンビニエンスストアだろう。