先月(2016年8月)より、能代市の地元紙『北羽新報』でコラムの連載がはじまりました。最初のコラムは、「ふるさと納税の不思議」です。連載では、地方経済や企業経営、消費者や新商品の動向や、秋田出身者としての生活感覚などを取り上げます。
つい先日(8月6日)、能代市山本郡医師会の主催で、「顧客満足は女子力で決まる!」というタイトルで講演をさせていただきました。その懇親会の席で、医師会の先生たちと「ふるさと納税」のことが話題になりました。
故郷を離れて40年も過ぎると、自分が生まれた場所のいまの繁栄が気になるものです。わたしも仕事柄、日本全国を調査や取材で飛びまわっていますが、地方都市の疲弊が目立ちます。先日も広島県の尾道市に行く機会がありました。ご存知の通り、尾道は瀬戸内海に面した風光明媚な町で、作家の志賀直哉の「暗夜行路」や林林芙美子の「放浪記」などの舞台になった場所です。しかし、お寺や公園にはたくさん人が集まっているにもかかわらず、尾道の商店街は悲惨なほどのシャッター通りになっていました。ちょっとした驚きでした。
わたしのような地方出身者が、シャッター通りになった地元の町を支援する方法の一つとして、ふるさと納税の制度があります。いつごろから始まったのかは覚えていませんが、近年は、納税額以上の「お土産」が納税先の市町村から返礼として贈られてくるのでたいへんな人気のようです。わたしの周りにも、高級ブランド牛やプレミアム海産物をほしいがために、生まれ故郷でもない市町村に納税する方もいらっしゃいます。しかし、この行為は、制度の趣旨からは完全に逸脱しているので感心しません。
とはいえ、制度そのものに異議申し立てをしてもはじまらないので、「もっとスマートで本当に地元に役立つ仕組みを検討してはどうか?」というのが、懇親会で一緒だった三田重人医師(前医師会長)らとの議論の内容でした。医師会のアイデアは、「市内で託児所や保育所が不足しているから、医師会が中心となって保育設備や保育師の常駐を支援できないものか?」というものでした。わたしからの提案は、「それならば、その費用を“ふるさと納税”の納税分で賄えないのか」でした。つまり能代市の場合もそうですが、納税に対して返礼品がない場合でも、「保育サービス」のように目的を特定してみてはどうかというものです。
首都圏や関西圏に住んでいる能代市出身者にとってみれば、シャッター通りを元の繁盛した街並みに戻すことは無理としても、自分がふるさとに納税した税金分が、わかりやすい活動に使用されていることは納税の強い動機になります。実はわたしも一昨年、能代市役所に電話して、ふるさと納税用の資料を取り寄せたことがあります。しかし、実際に納付に至らなかったのは、どのような活動にお金が投入されるのかがよく見えなかったからでした。
一般的に納税するのではなく、育児サービスや保育施設のように、具体的なサービスへの資金投入が事前にわかれば、徴税の効率は上がるように思います。ブランド牛の返礼で、特定の畜肉業者の売上に貢献するより、未来を担う子供や母親にその恩恵が及んだほうが、ふるさと納税の趣旨に叶っているのではないでしょうか。能代市が、全国で「サービス納税の第一号」になれるチャンスではないでしょうか。