(その19)「コンビニ店員が消える日」『北羽新報』(連載:森下発能代着)2018年2月22日号

 今月号の連載(東京下町発能代着)は、コンビニの情報システムを取材したときの「こぼれ話」になります。先月、ローソンの無人店舗の実験店を取材しました。種々のメディアでこの様子が紹介されていますが、小売業の未来を透視したものはあまり見当たりません。

 

「コンビニ店員が消える日」
『北羽新報』(連載:森下発能代着)2018年2月22日号         V2:20180222
 東京都内のコンビニで無人店舗の実験がはじまっています。場所は品川駅から徒歩5分のところにあるビルの14階。エレベーターを降りると、標準的なコンビニの半分ほどの大きさ(約10坪)の実店舗そっくりの「実験室」があります。
 まだ実験中なので、棚に置いてあるスナック菓子や飲料を実際に買うことができるわけでありません。しかし、模擬店舗には、買い物客を自動追尾する監視カメラや自動精算機器が装備されていて、レジカウンターでは、接客ロボットが「お買い上げありがとうございました!」とあいさつをします。未来のコンビニがどんな風に変わっていくのかを、テスト店舗で実際に見ることができます。
 入り口の看板には、「Lawson オープン・イノベーション・センター」とあります。運営しているのは、コンビニエンスストアのローソンですが、業務提携をしているパナソニックのほか、ベンチャー企業など店舗業務を自動化する技術支援をしています。
「オープンイノベーション」とは、自社(この場合は、ローソン)のノウハウにこだわらず、提携先の企業(パナソニックなどの提携先やベンチャー企業など多くの外部パートナーが持っている知識や技能を活用して、革新的なアイデアを実現する場を作るという意味です。
 こうした形での協業が増えている背景には、店舗のアルバイト従業員やトラックドライバーの確保などで慢性的な人手不足が解消できないからです。また、そうした問題を解決するための手段として、近年はAI(人工知能)や自動化技術などの進展があるからです。ローソンのような小売業単独ではこの問題に対処できないので、メーカーやIT企業から知恵を借りて協業や提携が進んでいます。
 具体的な例を挙げてみましょう。たとえば、小売店で売られている商品についているバーコードに代わるものとして、いま急速に普及が進みつつあるのがRFIDというタグ(小さなチップ)です。RFIDタグは、商品やカードに埋め込まれている小さなIC (集積回路)で、リーダー(読み取り装置)から発した電波を用いて、タグ上の情報を読み取る技術です。ソニーが開発したFelica(フェリカ)という非接触型読み取り技術を用いたJRのSuica(スイカ)が有名です。
 従来のバーコードとの大きな違いは、RFIDタグを用いると、商品が一個ずつ識別できることです。そのため、コンビニやスーパーでバスケットにリーダーを装着しておけば、買い物客がカゴに商品を置いた瞬間にタグの情報を読み取ってくれます。自動精算ができるので、レジカウンターと接客従業員が不要になります。
 タグは商品固有の識別番号ですので、棚在庫が減少したことが自動的に記録されます。その情報が本部のコンピューターに送信され、店舗で補充すべき商品がメーカーの倉庫や自社の弁当工場に指示されます。現状では、店員さんが発注端末から必要な個数を入力していますが、タグが普及すると、一日に約90分かかると言われている発注業務はほぼなくなってしまいます。
 コンビニの店舗無人化にとって唯一の障害は、コスト面とタグをどこに貼り付けるかという点です。
 ICチップですので、商品にタグを埋め込む(印刷する)のに、それなりにコストがかかります。現状では、チップは一枚10円~15円と言われています。しかし、担当者に伺ったところ、近い将来、タグが普及して量産可能になれば、一枚2円程度にコストは下げられるようになるとのこと。そうなれば、100円~200円のコンビニ商品でも採算がとれることになります。
 商品の発注とレジでの精算業務のほかに、コンビニで人手がかかる作業がもうひとつあります。それは商品を棚に補充する作業です。こちらについても、「自動補充ロボット」の開発が進んでいます。
 店舗から人間が消えてしまったら?コンビニは、いままで以上に“味気ない場所”に変わってしまうのでしょうか?
 いや、そうではないと思います。地域に根づくためには、コンビニが持っているコミュニケーション機能はなくならないのではないでしょうか?人間の役割が、作業員(オペレーター)から、本来の接客従業員(コンシュルジェ)に戻るだけなのではないでしょうか。
(法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科教授、能代市追分町出身、東京都墨田区在住、66歳)