編集者との関係を書いたコラムです。来週、刊行される新本の編集担当者、日本実業出版社の角田さんとの編集作業上での交流を紹介しています。小説家や漫画作家も同様な関係を編集者との間にお持ちのようです。優れた作家さんの陰に良い編集者の存在。わたしもそんな経験をさせていただきました。
「著者と編集者の心地よい関係」『北羽新報』2019年6月号(連載:第35回)
文・小川孔輔(法政大学経営大学院)
来月(7月)20日に、『「値づけ」の思考法』(日本実業出版社)という著書を出版します。値決め(=値段のつけ方)についての実務書です。これまで価格をテーマにした著書が二冊あります。『誰にも聞けなかった値段のひみつ』(日本経済新聞社、2002年)と、『お客に言えない!「利益」の法則』(青春出版社、2011年)です。それぞれ3万部ほど売れています。
本書はその続編になりますが、後者の出版と並行して、月刊誌『BIG Tomorrow 』(青春出版社)で「気になる値段のカラクリ」(2008年9月号~2014年4月号)を連載していました。この連載は、「小川先生のマーケティング講座」に名称が変わって、『PRESIDENT NEXT』(プレジデント社、~2015年4月) に引き継がれました。2つの連載記事を編集しなおし、大幅に加筆して1冊にまとめたのが『「値づけ」の思考法』になります。
研究者や物書きにとって、昨今の出版事情はなかなか厳しいものがあります。紙媒体の書籍が売れなくなっているからですが、かといって、デジタル書籍がバンバン売れているわけでもありません。今回のように、出版社からお声がけをいただき、書籍化まで持っていけるのはかなり幸運なケースと言えます。
ほとんどの場合は、まずは企画書をもって出版社を探すことから仕事が始まります。ゴーサインが出た後で、編集部の担当者とすり合わせを重ね、収録すべきコンテンツを厳選して大枠ができ上がります。編集作業はそれほど難しくはありません。むしろ問題になるのは、販売部数とターゲットに関する読みです。
わたしの場合は、固定の読者層がついています。経営学やマーケティング関係で約30冊の本を出版してきた実績があるからです。最低でも3000~5000冊の部数が見込めるので、出版社の販売リスクは小さいのです。今回も、288頁で1600円(税抜き)の本を、初版5300部刷ります。
ここまでは販売部数の話をしてきましたが、著者にとってはもうひとつ気になるのが発売後の読者からの評価です。有名な先生の本は、書評が新聞や雑誌に掲載されます。しかし、一般的に評価の目安とされるのは、アマゾンなどのEC販売サイトでの読者投稿です。5点満点でコメント付きの感想文が掲載されています。書籍の紹介と一緒に、検索画面には平均点と得点分布(1~5点にそれぞれ何人?)が表示されます。
ちなみに、アマゾンにおける自著の読者評(2019年6月16日時点)を紹介すると、『マクドナルド 失敗の本質』(東洋経済新報社、2015年)は平均4.0点(投稿36人)、ロングセラーの『マーケティング入門』(日本経済新聞出版社)は、5.0点(同6人)です。一番低い評価は、『しまむらとヤオコー』(小学館、2009年)で、平均3.6点(6人)でした。
今度の本は、生涯46冊目になります。冗談のような話ですが、7月20日で、筆者のフルマラソン完走回数(2019東京マラソンで46回目)と出版冊数が並ぶことになります。しかし、今度の本は思いの外に難産となりました。それは、冒頭でも述べたように、約10年をかけて連載が続いたので、過去のデータを現在のものに更新する作業が入ったからでした。企業経営の実態は毎年変わっていきます。データやビジネスモデルも大きく変化します。
それでも、これまでの出版の中で、今回はもっとも気持ちよく執筆ができました。それは、編集者と著者の間で、信頼関係にもとづく絶妙な分業関係ができたからだと思います。編集者には二つのタイプがいます。
① 「おせっかいタイプ」:内容や企画に介入してくる編集者で、場合によっては著者に代わって文章を書いてくれます。楽ちんなところもありますが、わたしは苦手です。
② 「丸投げタイプ」:企画が決まったら、執筆についてほとんど口を出さない編集者。これは信頼関係ができている場合と、単に無責任な編集スタイルと二通りがあります。
理想的なのはこの中間ですが、そのような編集者は例外です。今回の作品がユニークな本に仕上がったのは、編集作業を手伝ってくれた優秀な編集者(角田貴信さん)に恵まれたからだと思っています。事実確認やデータ修正まで、これほどまで親身にかつ迅速にこなしてくれた編集者に出会えたのは、長い物書き生活でも初めのことでした。