学会仲間の中村仁也さんから、ご本人が監修した書籍を贈っていただいていた。2月の下旬のことである。中村さんは、日本マーケティング・サイエンス学会の研究部会「土葉会」(豊田裕貴・法政大学大学院教授)のメンバーである。ご自分で会社「ゴーガ」を経営しているが、もともとは数理統計解析のスキルが高い実務家的な研究者である。
今度の本では監修者という位置づけだが、「データエンジニア」という技術職の組織内での役割を提示する形で書籍を刊行している。とても優秀なリサーチャーであると同時に、組織のトップの顔も持ち合わせている中村さんが監修者なので、期待して本書を読み進んだ。
本書は、第1部「データエンジニアリング組織の必要性」と第2部「データエンジニアの業務」の2部構成になっている。「前半の第1部は組織づくりの目線から、後半の第2部は個人の観点からデータエンジニアリング」を論じている(本書、P.3)。
昨日、わたしは第1部を読み終えたので、夕方になって中村さんに電話を入れてみた。久しく話していなかったのと、本のお礼を手紙でもメールでもしていなかったからだった。ご本人に直接、前半の第一部を読み終えた読後感を伝えた。
わたしの感想は、「とても面白かった」だった。評者が感じたおもしろさは、組織が大きく成長した企業では、データや情報による経営的な意思決定に関連して、「3つの機能分化」が起こるという整理である。すなわち、オペレーション部門(データ収集と生成機能)、情報システム部門(データの加工と蓄積機能)、経営部門(データ分析と意思決定)の3つに機能分化が観察されるという一般化である。
筆者らは、そうした上で、3つの機能部門をつなぐ「コミュニケーション・ハブ」の役割として、3つの部門の中心に、「データエンジニアリング」の機能部門を置くことを提案している。もちろん現状では、そうした公式的な組織はオーソライズされていることが稀であろうが。
中村さんたちが本書の中で強く主張していることを、わたしなりに再解釈してみる。門外漢なので、的を外した解釈になってしまうかもしれない。その場合は、ひらにお許しを!
筆者らの主張は、要約すると以下のようになる。データそのものをハンドリングする分析志向が強い「データサイエンティスト」と呼ばれる職種よりも、組織コミュニケーションにおいて強みを持ち、データの利活用を促進する「データエンジニア」のほうが、将来的にはこの分野では優勢になるだろう。また、それが必要とされている。
本書の第1部は、筆者らが提案している組織の機能的な説明に当てられている。そして、筆者らが提案している組織のデータ利活用に関わるトレンドは、将来的に正しいことが証明されることになるだろう。その観点から言えば、本書は分析的な書籍を超えて、ある種の預言の書となる可能性がある。それが、本書のタイトルを、敢えて「データエンジニア」という新しい部門(職位)とした理由だろう。
データエンジニアがどのような仕事に携わるのかは、第2部「データエンジニアの業務」をご覧いただきたい。そこでは、組織内での調整機能とコミュニケーションの役割ついて詳細に述べられている。
今後は、データエンジニアリング部門に関して、具体的な事例が登場してくるような気がする。少しばかり画期的な書籍を読了するのが遅れてしまった読者としては、成功した事例と困難に直面したケースを扱った次の書籍に期待してみたい。
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