(その43)「払い戻しはなし?」『北羽新報』2020年2月25日号

 茫然自失?とうとう東京マラソンが走れなくなりました。新型コロナウイルスの感染拡大のため、東京マラソン財団が一般ランナーの部の中止を決めたからです。オリンピックの出場権(最後の一枠)獲得を目指して、エリートランナー200名弱だけが走ることになりました。今回のコラムでは、マラソン大会中止時の対策として、「返金保険」の提案をさせていただきました。

    
「マラソン大会中止でも、払い戻しはなし?」『北羽新報』2020年2月25日号
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)
 新型コロナウイルスによる肺炎感染を未然に防ぐため、3月1日に予定されていた東京マラソンで、一般ランナーの部門が中止になりました。大迫選手ら男女200名弱のエリートランナーだけが、新宿都庁前をスタートとする東京五輪マラソン男子代表選考会を走ります。
 筆者はこれまで、第3回大会(2009年)から11年連続で東京マラソンを完走してきました。一般ランナーの部が中止になったことにより、2020年をもって連続完走記録が途絶えることになります。残念な気持ちでいっぱいですが、感染のリスクを考えると、東京都や主催者側の判断は正しい判断だったと思います。
 東京マラソン財団は、従来から中国からの参加者に自粛を求めてきました。日本人参加者には、当日はマスク配布や給食物の個別包装化などを検討していたようです。それでも、国内で感染が拡大してきたことに伴い、一般の部の開催を中止することを決定しました。
  
 一般ランナーの参加中止が公表された翌日(2月18日)、主催者の東京マラソン財団から電子メールが届きました。その後の措置については、「翌年の東京マラソン2021に出走することを可能とします。東京マラソン2021にエントリーする場合には、別途参加料の入金が必要となります。東京マラソン2020の参加料及びチャリティ寄付金は返金いたしません」となっていました。
 東京マラソンの参加料は、第1回大会から長らく1万円(+消費税)でした。昨年から値上げになって、フルマラソンの参加料は国内在住者が1万6200円、海外在住者が1万8200円になっています。大会規約により、今回は参加料が返金されないことになりました。法的には主催者側に何らの義務違反はないのですが、一般の方から見れば、参加料を戻さないのは理不尽だと感じられるかもしれません。
 しかし、主催者側が参加料を返金できない理由があります。大会運営の舞台裏を知る人間のひとりとして、簡単に事情を説明したいと思います。マラソン大会を開催するためには、一年以上前から準備が必要です。コースの設定や警察署との折衝が終わると、インターネットからエントリーが始まります。東京マラソンや大阪マラソンのような3~4万人規模の大会ともなると、募集定員に対して3倍から10倍の申し込みがあります。
 約1年前には、完走者に配るフィニッシャーズタオルや記念品のメダルの発注が完了しています。国内で開催されるほぼすべての大会で、エントリー業務や記念品の製作は外部の専門企業に委託されています。この時点で、大会運営のための費用の支払先がすでに決まっています。残された業務は、計時・運営業務(エイドステーションの設置)だけになります。
  
 というわけで、一か月前にマラソン大会が中止になっても、大会主催者の自治体や新聞社の口座には返金できるお金が残っていないのです。それでも、地球温暖化の影響で、最近ではマラソン大会の開催が中止になることが多くなっています。実際に、わたしが昨年から今年にかけてエントリーした20大会のうち、3つの大会が中止になりました。もちろんどの大会も返金はありません。
 この理不尽さを解消する方法がひとつだけあります。それは、大会中止に対して「返金保険」をかけることです。もしもの場合に備えるのは、交通事故や不慮の火災などに対する障害保険と同じです。東京マラソンの中止以外にも、台風の襲来(横浜マラソン)や大雪(青梅マラソン)などで、大会中止が例外と言えないような事態が頻発しています。返金保険の制度設計には未解決の課題はありますが、東京マラソン2020を完走できなかったランナーの一人として、ぜひとも実現してもらいたいと思っています。