珍しく、スタイリストをお願いしての対談でした。わたしはといえば、イタリアンの赤いジャケットとグレーtのスーツ。
自分では、猿回しのサルになったような気分で、あまり落ち着きませんでした。対談相手の重松さんは、腕組みをしてかっこがいい!
もう二度としたくはないけれど、一度は体験してみたい対談はありました。出来具合は如何でしたでしょうか。プランテッドらしく、今回のテーマは「花贈り」でした。
photos by Yasutoshi Sawano(Y.E.S.)
text by Namiko Hamano
styling Mike Tyler
<リード>
ブックインブック「In Flower」でもおなじみの
JFMA(日本フローラルマーケティング協会)
会長の小川孔輔さんと、
その「In Flower」の配布スポットでもある、
ユナイテッドアローズ会長の重松理さん。
そんなお二人が、
職場で、自宅で、仕事で、プライベートで、
花や植物とどのようにつき合っているのか
お伺いしました。
花も洋服の基準で
コーディネートしてしまう
重松 僕はもともと僕は花が好きなんですよ。仕事柄いろいろと物をいただきますよね、お中元とかお歳暮とか、開店祝とか。ものすごく親しい人には何かもらえるんであれば、お花か日本茶って言ってるんです。そのくらい好きなんです。あと、年間ものすごい量のお花を贈っていますね。
小川 僕は「In Flower」をユナイテッドアローズに置いていただけるということになったときに、直感的にこの方はお花が好きだな、と思ったんですよ。当たってたわけですね。花は、どんなふうに贈られるんですか?
重松 オケージョンによって違います。店のオープンの時は「背が高くて大きく目立つもので色はこうで」と指定して、だいたい自分が贈りたい花のイメージで贈るんです。個人の場合は誕生日がほとんどなので、そういうときはその方のイメージで送るんですけど、だいたい白い花が多いです。
小川 白い花? なぜですか?
重松 なぜかなぁ。白い花びらと緑の組み合わせが好きなんですよ。以前、社長交代式典をやったときも、みなさんからお花をいただけるということだったので、統一させていただいて、白とグリーンだけでぶわーっと作ったら葬式みたいになっちゃって(笑)。
小川 あんまり白ばっかり使うと、ちょっと。
重松 そうなんですよね。どうしても2色の組み合わせが好きで、抜けらんないんです。
小川 開店とかは業務用の花ですけど、個人の場合は相手の方の生活とか年齢とか、その人のことを知らないと送れないでしょう?
重松 最初のうちは大きな花瓶があるかとか、そういうことをある程度まで何となく伺っておいたんですけど、今は、アレンジメントをお贈りすることが多いです。小さいアレンジメントはここに頼む、とか、お芝居の贈り花はここ、とか、決まっていますが、例えば、電話ではなくてお花屋さんに行って直接注文するときがありますよね。そういうときは、これとこれとこれを組ませて、緑はこれにしてくれって結構細かく指定してしまうんです。
小川 じゃあ、ある意味では洋服と同じですね。相手に会うものを。
重松 残念ながら洋服の枠を出ないんですよね。和服もそうなんですが。和服って組み合わせが洋服とぜんぜん違うんですが、でも、どうしても洋服の基準でコーディネイトしてしまう。花も同じなんです。それでちょっと範囲が狭いって思うんですけど。
小川 僕は手帳の左上に、毎月、その月の誕生日と名前を書いておくんです。
重松 俺もそれ今度やっておこう。こないだも忘れちゃって(笑)。
小川 女の子によって…男性には基本的に送りませんので(笑)、秘書がデータベースを持っていまして、3ヶ月くらい前からどういうタイプの生活をしているかということを聞いておくんです。僕はみんな産直なんですが、数本で可憐に作るようなタイプの女性には浜田ばら園さんから、ボリュームある花束にする場合は大分のメルヘンローズさんから、というように仕分けしておいて。僕が命名したバラがあるんですよ。「M-ヴィンテージコーラル」っていうんですが、スプレー系の薄いピンクで、だいたい4輪くらいついて香りが強いんです。これを必ず入れるんです。メッセージとしては、「僕が命名したバラです」と。だいたい年間で3〜40人ですね。僕は学生に送ることが多いんですけど、一番喜ぶのはお母様ですね。
お花のいいところは
独占物じゃないところ
重松 よく手紙に書いてありますね。「家族が喜びました」って。家族のために贈ってるんじゃないんだけど(笑)。
小川 お花のいいところは独占物じゃないところですよね。一人に贈るとファミリーで楽しめる。
重松 僕はそこまで多くはなくて、年間20人くらいかな。一人の方に1年間贈り続けるとかそういうことはありますね。年間契約にしてもらって、月に一度、あるいは2週間に1度「ここにこういう花を」と色だけ指定して、アレンジメントはお任せしますという形で。お花はもらって喜ばない人はいないですもんね。
小川 もしかして、それだけお花が好きだと、生け花ろやろうとされたことあるんじゃないですか。
重松 習ったことありますけどね。でも、すごく難しい。センスがないんです。自分が仕事をやっていく上で一番向いていたのがセレクトだから、やっぱりできあがったもんをいいとか悪いとかいうのが得意なんじゃないかなと思うんですよ。物作りはぜんぜんダメなんです。花なんて、選ぶことで癒されるくらいで。でも、女性でもすごく男っぽく活ける人がいますよね。
小川 どこかで聞いた話なんですが、鉢物と切り花をどちらかプレゼントするから選んで言われたときに、女性はだいたい切り花、男性は鉢物、つまり根付きなんだそうです。命とかそういうことに意外と男性のほうが敏感なんですよね。男性のほうが母性がある。性格がきっと優しいんでしょうね。
重松 基本的にはそうですよね。
小川 ご自宅ではどうですか?
重松 今住んでいるところは四方緑が見えるんですよ。東西南北に窓があって、そこから全部緑が見えるところに住みたいって希望だったんです。前は借景なんですけど、地主さんがずっと植林やっていた方で、その庭が森みたいになってるんです。それが居間から見える。裏は地主さんのまだ売ってない土地があって、そこも林みたいになっている。それから和室の前に日本庭園の小さいものがあって。とにかく緑が好きで緑に囲まれた生活をしていたいんです、常に。
小川 それは、子どもの頃からですか?
重松 やっぱり神奈川県の逗子で生まれましたから、緑多いですね。日本は本当に緑が多い国だと思います。東京だって都市の中では、たぶん一番緑が多いんじゃないですか。
小川 私は秋田の生まれなんですけど、今、仕事場が法政大学の28階建ての建物の18階です。四方東京が見えるんですけど、私は南窓なんです。見下ろすと皇居、北の丸公園、裏が靖国通り、前が外堀で。だから春の頃、ずーっと桜が見えるんです。私もこれ、借景だと思っています。私の場合は、花が好きになったのは、この業界を研究するようになってから、35、6歳からなんです。それまではぜんぜん。
日本をプライベートな花の
消費量世界1に
重松 僕は、人に花を贈りたいって思うようになってからじゃないですかね。学生時代なんてぜんぜん覚えがないですもんね。
小川 プレゼントするきっかけってお仕事ですか?
重松 最初はプライベートです。お花と何か、の組み合わせで贈ります。花は必ず入るんです。
小川 僕は、逆に女性に花を贈られたことがあるんですけど、その時は花瓶がついていました。もう10年以上前ですけど。当時、まだ花のことを始めたばかりの頃で、こういう贈り方するんだって感動しましたね。僕には、目標が2つあるんです。ひとつはJFMAが主催しているIFEX(国際フラワーEXPO)という展示会、アジアで一番大きいんですが、いつか世界でナンバーワンにしたいんです。もうひとつが、日本の花のマーケットは世界で2番目に大きいんですけど、7割が業務用の消費なんです。残念ながらプライベートな消費というところだとかなりランクが下なので、これを世界一にしたいんです。もっと花を飾ったり、贈ったりする文化が根付いてほしいんです。僕は男性が花束を持って歩くのはかっこいいと思っていますから。
重松 可能性はあると思いますよ。一気にっていうことは、なかなか難しいと思いますが。ブームになっちゃうとまたすぐ沈むので、徐々にのほうがいいと思いますね。
小川 そうですね。明日すぐになりたいということではないんです。もともと花とか植物というのは、性格的に子ども育てて行くのと同じくらいの速度じゃないですかね。次の世代になってからでもいいと思うんです。JFMAの会長としては欲がない発言ですかね(笑)。
<キャプ1>
ユナイテッドアローズ(UA)の商品たちを美しく彩る花たち。UAでは、ディスプレイ用の花の予算が別枠でとられているそうだ。
重松理(しげまつ おさむ)
昭和24年神奈川県逗子市生まれ。明治学院大学経済学部卒。婦人服メーカーにて、営業を経験した後、昭和51年にセレクトショップの草分けとなったBEAMS設立に携わる。BEAMS第1号店店長を皮切りに、プロデューサー的役割を果たし、株式会社ビームス常務取締役を経て、昭和64年ビームス退社。平成元年に、株式会社ユナイテッドアローズ設立、代表取締役社長就任。平成16年取締役会長に就任。
<キャプ2>
小川教授は法政大学経営大学院でマーケティングを教えている。この日は「ブランド論」の授業。かなり高度だが興味深い内容。
小川孔輔(おがわ こうすけ)
法政大学経営学部教授/法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科教授。昭和26年秋田県能代市に生まれ。東京大学大学院時代から、マーケティングを主たる研究とする。カリフォルニア大学バークレイ校(ビジネススクール)に客員研究員としての留学を経て、昭和61年より法政大学経営学部教授(現在に至る)。平成12年、日本フローラルマーケティング協会(JFMA)設立。現会長。