渥美俊一先生と桜井さんが、新しい本を出版した。『チェーンストアの商品開発』である。渥美先生の仕事の仕方とそのパワーには、いつも本当に頭が下がる思いである。80歳代の半ばに至って、なおいまだに新しいアイデアを満載した書を次々に世に問うている。
本書は、商品開発についてのバイブルである。この先、内容と形式が多少は変わることがあっても、チェーンストアの商品開発担当者に長く読み継がれていくはずである。既存の理論書や実践書に比べて、本書がユニークな点はつぎの3つである。
第一に、チェーンストアの視点から商品開発が議論されていることである(第1、2章)。従来の製品開発論は、基本的にメーカーの視点に立っている。チェーンストアが主体になっている場合でも、具体的な開発のステップと手法は、ほとんどがメーカー的である。アイデア発想法、情報源の活用、製品のデザイン、投入後の時間管理など、製造業者が新製品を開発し、ライフサイクルを管理する状況が想定されている。対照的に、本書はチェーン小売業の商品開発に状況を絞っているので、担当者がめざすべき開発目標や品質の設定法が明確に示されている(第3、5、8章)。
第二に、従来のテキストでは、価格づけの議論はあまり重視されていない。価格よりも差別化のための製品デザインのほうが優先されている。品質と価格のバランスは、デザインが確定したあと、消費者リサーチにより決められる。本書では、その順番が逆である。開発のターゲットとされるカテゴリーが先で、それから目標売価が設定される(第7章)。売価は、商品の仕様が決まってから調査すべきものではなく、開発の目標に当初から組み込まれている。
第3に、ソーシングについての考え方の違いである。本書の前提は、最終売価をFOB価格の3.5倍、あるいは、現行価格の3分の一程度に設定することを理想としている。したがって、商品開発の第一ステップは、それを可能にする調達先を求めることになる。取引先の探索方法、訪問・商談の仕方(第4、9、10章)が、かなり具体的にしかも詳細に述べられているのはそのためである。
本書は、商品開発のあり方を体系的に説明した日本ではじめての書籍である。商品開発の仕方をここまで仔細に指南した本は、私の知り限り、欧米にも存在していない。グローバルな観点からも、本書は商品開発の決定版と呼んでよいだろう。