【映画評】 「EDEN」(主演:山本太郎、中村ゆり、高橋和也): 哀しくも切なくも、心温まるゲイストーリー(★★★★★+★)

 映画の上映が終わって外に出たら、ドアの前に出演者のひとりが立っていた。映画館で生の出演者を見たのは初めてである。劇中のゲイの衣装そのままのペペロンチーノ(本人)に、「おもしろかったですよ」と鑑賞後の感激を伝えた。嬉しそうに、ていねいに会釈をしてくれた。

 K’s cinemaの3Fロビーからエレベーターで降りるとき、今度は、本物の「のりピー」が見送りに出てきてくれていた。実にびっくり。のりピーたち、ゲイ6人衆に敬意を表して、本編の評価は異例の「★6」である。

 
本作品「EDEN」は、友人の豊田剛さんが映画制作にはじめて関与した作品(アソシエイト・ディレクター)である。11月17日がロードショーの初日だったので、できるだけ早めに、映画館に駆け付けたかった。ブログで広報活動をするためである。
 わたし自身も仕事のスケジュールのやり繰りがたいへんなのだが、首都圏で上映しているのが、渋谷(AUDITORIUM shibuya)と新宿(K’s cinema)のインディーズ系の2館だけ。しかも、上映時間は、夜の9時すぎからか(渋谷)、18時45分が最終(新宿)ときている。なかなか空き時間を見つけられなかった。

 昨夜ようやく、病み上がりの体で、ランナー仲間の小林さん(映画大好き人間)を誘って見てきた。コミカルで哀しくも切ない「EDEN」のゲイストーリーだった。本当に、久しぶりの爽快な感動である。
 船戸与一の原作(未読)もすばらしいのだろうが、監督(武正晴)の指揮のもとで、出演者たち(山本太郎演じるミロやのりピー他、ゲイ仲間6人衆)のコミカルで切ない演技に、つい涙腺が緩んでしまった。
 とにかく、アソシエートディレクターの豊田さんには、「映画の完成、無事の上映、おめでとうございます!」である。わたしの場合も同じ立場にある。このあとも作品を続々と出さないと、世間はプロとは認めてくれませんよ(檄)。

 あらすじは、『毎日新聞』(11月4日)の紹介文を引用するとして、わたしの「EDEN」への感想である。

 米国留学時代(カリフォルニア大学バークレイ校)に、親しいゲイの友人が二人いた。デービッド(・ドラモント)とギルである。ギルの方は、ファミリーネームを忘れてしまったが、サンフランシスコ市役所職員(交通部門)だったはずである。大柄でいかつい顔をしていたが、性格はとてもやさしく、聞き取れないくらいの小さな声でギルはいつも話しかけてきた。
 デービッドは、UCバークレイで語学の講師をしていた。日本語と韓国語以外に、6か国語(ロシア語、ポーランド語など)を読み書き話すことができた。語学の天才である。下ネタの世界辞書を発刊している変人である。デービッドが男役だった、と思われる。
 彼らと知り合ったのは、法政大学(経営学部)を退職した遠田雄志先生の紹介だった。はじめての留学先で、生活に慣れないわたしたち家族4人を、ふたりは親身になって助けてくれた。いまでも、そのことにとても感謝している。しかし、留学から帰って5年ほどしてから、ふたりからの連絡が途切れてしまっている。

 ゲイコミュニティに関してのわたしの知識は、彼らからの情報といくつかの逸話に限定される。滞在二年間で、彼ら以外の友人を紹介されたこともない。しかも、30年前の米国西海岸のものである。だが、本作品(EDEN)を見ていて、ある種の普遍性に思い当るところがあった。とくに、人間関係の作り方についてである。
 当時もそしていまも、ゲイ・レズのコミュニティは、世間全体から見ればマイノリティの集団である。新宿二丁目は、そうした人たちが集まる町として知られている。思い起こせば、当時のバークレイ市やサンフランシスコ市にも、二丁目のような一角が存在していた。
 映画のシーンが実写しているように、世間から隔絶された彼らの生活は質素である。ぶつかり合うこともあるのだろうが、どこか迫害されて暮らしている少数派集団ゆえに、互いに片寄せあって助け合って生きている。ギルとデービッドの生活空間にも、映画と似たような空気が漂っていた。

 そうだとすると、われわれが失った他人への思いやりや、寄る辺ない不安から逃れるために互いに支えあう心の交流のあり方は、ゲイ社会に住む彼らからこそ学べるのかもしれない。
 本作品の映画としての出来栄えは、出色である。わたしは映画制作の専門家ではないが、カメラのアングルの置き方、音楽の選曲と挿入の仕方がとても好きである。学芸会的なショーのリハーサルで入り、結婚式で終わるハッピーエンディングの脚本は、喪失(死)と希望(生誕)の美しい対比となっている。
 本音を言えば、身内(豊田さん)が制作した映画作品が不出来だと、映画好きの小林さんに悪いかなと少々不安だった。ロビーで、多忙なひとを誘ってしまったことを後悔しないようにと祈った。
 話題の山本太郎が主演作品である。ごめんなさい。役者・太郎は、青山フラワーマーケットの井上英明社長に似ているように思うが、肉体も立派で(ゲイの映画には重要な要素!)、好印象、演技も好演だった。 
 
 願わくば、このブログを読んだひとが、ひとりでも多く、映画館に足を運んでくれることを希望している。それは、ロードショーの輪がさらに広がり、たくさんの日本人が、ゲイ社会とそこで暮らす人々の生き方を知る機会になればと思うからである。
 豊田さん、製作スタッフのみなさん、本作品のさらなる成功を祈ります! 満足度、かなり高かったです。 

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注目映画紹介:「EDEN」原田芳雄さんが温めていた企画を山本太郎主演で映画化

2012年11月17日(毎日新聞デジタル)
 
 ショーパブで生きる仲間たちの物語を映画化した「EDEN」(武正晴監督)が17日に公開された。昨年亡くなった俳優の原田芳雄さんが温めていた企画で、船戸与一さんの短編小説が原作。「パッチギ!」(04年)などを手がけた李鳳宇(り・ぼんう)さんが製作、「フラガール」(06年)などの羽原大介さんが脚本を担当した。山本太郎さんを主演に据え、期待にたがわない笑えて泣ける深いヒューマンストーリーに仕上がっている。

 ミロ(山本太郎件さん)は東京・新宿のショーパブ「EDEN」で店長兼演出家として働いている。仲間と一緒に、ときにケンカもしながらショーの打ち合わせをしていた。ミロの42歳の誕生日、お祝いムードになるはずが、ミロの家で仲間のノリピーが急死してしまう。警察で心ない事情聴取を受け、グッタリしてしまうミロ。今度は店のオーナーの美沙子(高岡早紀さん)がストーカー被害に遭う事件が起きる。ストーカーを撃退することができるのか? そして、ノリピーの死を知らされた仲間たちは……?

 見ていると、いつしか個性的なゲイの仲間たちの世界に誘われ、笑ったり泣いたりしていた。店のオーナーのストーカーを退治し、マイノリティーの強い結束力を威勢よく描き出したかと思えば、仲間の死の前では、それぞれの内なる孤独をからめてしみじみさせる。素顔の自分で生きることは、どんな人でも難しいものだ。「フラガール」同様、社会の隅っこで懸命に生きる人間の姿があり、みな「母の子」であることを伝えてくる。シーナ・イーストンの「モダンガール」、松田聖子さんの「赤いスイートピー」など80年代を彩った音楽が効果的に使われている。それにしても、高橋和也さんの女装姿はヒゲ面なのに妖艶だった。どの作品のどんな役柄でも心からなり切ってみせる高橋さんは観客を大いに楽しませ、今後に期待大だ。

 17日から新宿k’s Cinema(東京都新宿区)、オーディトリウム渋谷(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)