アジアとの新しい関係づくり(実務家的な研究者の位置)

 アジア諸国からの依頼の仕事が増えてきている。研究の場面でも、韓国、中国、シンガポール関連のリサーチが将来にわたって支配的になる気配がある。


日本人の研究者としては、好むと好まざるに関わらず、日本の実務(ビジネス)の知恵に依存することが多くなるだろう。その兆候はすでにあらわれはじめている。日本人リサーチャーであることは、このタイミングではとてもラッキーである。
 ここ数年、海外の取材や学会に出かけることが増えてきた。自分の興味がそこに行っているのは当然のことだが、海外の企業や研究者との接点が増えているのも事実である。とくにアジアン・コネクションが断然に多い。いくつか実例をあげてみる。
 5月に韓国ソウルで行われた「消費者行動研究学会」(ACR)の会場で、上海出身のシンガポール大学の女性研究者を捕まえた。おもしろい研究をしていたからである。その場で将来、「日本ブランドネームの中国移」の研究をすることを約束した。わたしの興味と彼女の研究に接点があったからである。その後も、電子メールでのやりとりをしている。ゆっくりとだが、共同研究が徐々にすすんでいる。
 本拠地はそれぞれ日本(東京)とシンガポールだが、予定されている調査の地点は、中国の上海市である。消費者調査の対象は中国(上海)人で、日本人と中国人がコミュニケーションをとる使用言語は、なんと英語である。これが研究者間ではふつうの姿である。この事情はたぶん、マーケティングや消費者行動研究に限定されないだろう。組織論だろうが、国際経営だろうがやり方はほぼ同じであろう。
 明日(8月11日)はまた、あるアジアの国の某広告代理店から、日本向け輸出商品の「CM評価」を頼まれている。審査員としてのわたしの価値は、日本の消費者とマーケティング事情をよく知りつつ、なおかつ、アジア諸国のマーケティング事情がわかっているからであろう。どのような情報源から、「実務に詳しい研究者」とわたしが思われたのか?白羽の矢が立った理由が知りたいと思う。実は情報源は知っているのだが・・・
 実業界の興味は、欧米諸国からアジアに旋回しはじめている。われわれ研究者も、小泉さんの視線ではなく、いつまでも米国でもあるまい。目を転じて、別の風景をじっと見つめる必要がある。
 中対日のサッカー試合会場で、中国人観客の一部サポーターが、反日を訴えて騒いでいる。それもこれも、日本のプレゼンスがまたしても大きくなったからである。そのことが、しばしば記事として取り上げられる原因である。このことをネガティブにとらえることもできる。その反面で、新しい関係が生まれる出来事であるとも考えられないだろうか?
 マスメディアを騒がせる事件が、地方都市で起こっていることが重要である。内陸部はこれから離陸しようとしているからである。沿岸部にある大都市がすでに通ってきた道である。表面的な事象だけを見てはいけない。中国は着実に変わりつつある。反日サッカー事件は、その現れである。