週末の土日(7月27日、28日)に、稚内市内のローソン4店舗を取材で訪問した。ふたりのMOオーナーさんには、書籍の刊行のために、初日に店舗でインタビューをさせていただいた。若いオーナーさん(浅見学さん、45歳)と実績のあるベテランのオーナーさん(門脇和彦さん、60歳)のおふたりである。
山田知度さん(北海道カンパニー、北海道営業部道北支社)には、全4店舗と競合店のセーコーマート、地元のスーパーなども案内していただいた。
ローソンは、2023年8月1日に、稚内市内に2店舗を同時出店。すぐあとに、残りの2店舗を出店した。全店舗ともに、売上面では業績が好調である。出店から一年経過しても、日販は想定していた日販を30%近く上回る好調さを持続している。課題は人件費や物流費などのコスト面だが、広域の宗谷地区を含んで、今後も出店の予定があると伺った。
*画像は、Hokkaido Wood Building(地元産の木材を使った店舗)
左から、山田さん(ローソン道北支店マネジメントコンサルタント)、門脇さんご夫妻(旭川、稚内など、19店舗のローソンオーナーご夫妻)
ローソンが稚内出店を実現するまでには、10年間の歳月を要している。
物流と人員の確保が課題だった。この問題は、2023年内に4店舗をほぼ同時に出店することで解決できた。旭川にはローソンの道北の物流拠点がある。だが、稚内は旭川の物流センターから240KMほど離れている。
通常の出店方式で1店舗ずつの出店では、トラックが満杯にならない。それでは輸送効率が悪すぎる。そこで考えたのが、4店舗を同時に出店するアイデアだった(成功の第一要因)。同時出店で物流問題は解決できたが、今度は店長やサポート人材の確保がネックになる。
この課題は、複数店舗を運営するMOオーナー2人の協力を得て、4つの店舗の店長さんたちを旭川(門脇オーナー)と名寄・深川(浅見オーナー)から派遣してもらうことにした。他のコンビニチェーンのように、新規にオーナーを募集していたのでは、一挙に4店舗の開店できなかったと思われる。
ローソンが「MO制度」(5店舗以上を経営するオーナー制度)を持っていたことが、稚内プロジェクトを成功に導くことができた2番目の要因である。
3番目の成功要因は、2022年度から全国に先駆けて、近畿地区と北海道地区でカンパニー制を導入していたことである。コンビニの新規出店には、商品部(商品供給や物流)や営業部(店舗運営)、開発部(不動産オーナーとの交渉)が同時に関与することになる。
この3つの部門(横の関係)が、相互に協力しないと広域の出店(宗谷・稚内エリア)が難しい。地域内で3つの部門の協力があれば、スピーディーに開発から出店までのプロジェクトを進めることができる。
これが、縦割りで本部がそれぞれの部門の許諾(商品、店舗、開発)を仰ぐことになると、出店準備のためにスピードが遅くなる。実際の出店は、2023年6月の予定が8月にずれ込んだのだが、それでも比較的スムーズに4店舗を年内に出店できた。それは、北海道地区でカンパニー制が先行導入されていたからである。
北海道エリアに、独自でほぼすべての決定を任されていたからである。ローソンの竹増社長も、北海道カンパニーの廣金プレジデントに、出店から商品までの決定を一任していた。
詳しくは、来春発売予定の書籍(拙著『ローソン、挑戦と革新(仮)』PHP研究所)をご覧いただくとして、あとは宗谷・稚内地区の出店環境について述べていくことにする。
稚内地区には、北海道ローカルのセーコーマートが18店舗が出店している。しかし、全国チェーンのコンビニは、これまで出店できていなかった。ローソンが出店できたのは、前述の3つの要因が整っていたからだった。
ただし、それに加えて、ビジネス環境もローソンに有利に働いていた。ローソンの出店が首尾よく成功したのは、4番目の消費生活環境の要因にも支えられている。これも、全国展開している競合2社(セブンとファミマ)との違い(両社がもっていない経営資源)から来ていると考えられる。
ビジネス環境という点では、ローソンが保有している経営資源、とりわけ複数業態と多様な商品ラインナップ、さらには関連事業としてユニークなサービスを持つ点が大きかった。
第一に、稚内地区の消費者にとっては、①都市型スーパーの「成城石井」が販売している海外輸入品(ワイやチーズなど)、②「ナチュラルローソン」の商品(ブランパンやコスメなどの健康美容関連商品)、③「無印良品」の文具やお菓子、雑貨などはこれまで入手できなかった。道北地区には、いずれも店舗がないからである。
さらには、④コンサートや各種エンタメ系のチケットが入手できる「ロッピー」が、ローソンの店舗に配置された。そのことで、地元稚内の住民は、チケットを求めて旭川や札幌までわざわざ車を運転していく必要がなくなった。
また、⑤道内の人気商品(ローカルメーカーの食品など)が店内に陳列されている。たとえば、名寄の名物おまんじゅうなどである。
なお、開店初日の日販は、2店舗ともに400万円超だった。早朝のオープン時には、すでに100人が並んで待っていたという。初日の来店客数は、2店舗ともに約3000人。客単価を計算すると、通常の2倍の1300円超ということになる。
2024年の冬場を乗り越えて、現在でも、予想以上の業績で日販が順調に推移している。
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