「東京マラソン2023」のエントリーが始まっている。わたし個人は、ONETOKYO会員の「先行エントリー」で、10年ぶりに抽選に当たった。昨日から始まったエントリーの準備をしている。ただし、わたしのように抽選に当たっても、最終的にはエントリーしないランナーが出るのではないかと心配している。
コロナが落ち着いてきた今でも、地方のマラソン大会では募集定員割れが起こっている。このトレンドは、アシックスの子会社になった「アールビーズ」の黒崎社長のインタビューでも紹介されていた。その兆候を、3年ぶりに復活した東京マラソン2021を、ひとりのランナーとして走って感じていた。
これは、ある種の動物的な直観である。13年間、東京マラソンを走ってきた。そのとき、沿道からの応援で受けてきた熱気が、今回の東京マラソンでは萎んでしまっていたからだ。コロナだけが理由ではないように思った。別の理由がありそうだった。
「marathon熱」が冷めてしまったのは、コロナ明けで開催されている地方大会が、軒並み定員割れを起こしているデータにも表れている。原因は、①エントリーフィーが高騰したことと、②マラソンを走るために必要な努力(コロナ対策関連)に対して嫌気がさしてきているからである。少し詳しく説明してみる。
①エントリーフィーの高騰
東京マラソンに関していえば、すでに2019年からその傾向は見られていた。2007年(第1回)の開催から、長らくエントリーフィーは1万円(税抜き)に固定されてきた。それが、数年前から20%ほどフィーが上昇していた。驚いたのは、今回(2023年)は、登録料が、2.3万円に倍額になったことである。
もちろん諸物価高騰の折り、警備の強化やボランティアの運営などにお金がかかる。最近では、コロナ禍や悪天候で中止のリスクが高まっている。その昔とは違って、大雨で悪天候の場合も、コロナが蔓延して大会が中止になっても、ランナーへの返金に応じるようになった。大会中止のための保険代が、エントリーフィーに上乗せされた結果である。
しかしながら、フルマラソンを走るために2万円を超える登録代金は、一般のランナーには大いなる負担増である。年間のエントリー数を半分にするか、まったく大会を走らない選択をするランナーも出るだろうと思っていた。地方大会で募集定員割れをおこしている大きな要因は、価格の高騰だろう。
②そこまで努力して、マラソンを走るのか?
今年(2022年3月)の東京マラソンに限らず、大会運営側のコロナ対策はひどかった。「ひどい」という意味は、走るために不必要な手続きが多すぎると感じたからだ。東京に関していえば、ネット経由でのPCR検査や問診票の提出など、書類手続きが煩雑だった。わたしのような高齢のランナーにとっては、屈辱的な記述もあった(あなたたちはコロナで重症化しやすいから、今回はエントリーをご遠慮くださいなど)。
そんなこともあって、マラソンの大会運営団体の施策に対して、高齢者ランナーの離反を招いたのではないかとわたしは思っている。企業経営では絶対にやってはいけないことである。コロナのリスク状態では、長期的なマイナスの効果を想像することができなかったからだろう。
いまでも、大会を走るためには、健康状態に対する自記入式の問診票が配られている。私に言わせれば、全く無意味な書類である。だって、誰もチャックなどしていないから。熱があったりしたら、そもそもランナーは走ろうとは思わないだろう。何かあっても自己責任である。大人なら自分で休止の判断を下すだろう。それなのに、無駄な書類に、「いいえ」「いいえ」「いいえ」と書かされる。
③追加の補足(嫌気がさして、、、)
いまでも、河川敷などの練習コースで、マスクをして走っているランナーを見かける。オープンエアでは、コロナ対策のマスクは不要なのではないか?マスクは、かえって体によくないだろう。惰性でルール化しているとしか思えない。大会会場でも同じことが繰り返されている。
わたしは、このごろは手続きが面倒なので、エントリーした大会をスキップしている。無駄な対策を要求されてまで、マラソンを走りたいとは思わないからだ。9月以降は、せっかくエントリーしておいた、地方開催の5つのハーフと10Kのレースを回避している。
実は、来週の横浜マラソン(フル)を走らないことを、今月になって決めた。もちろん、「かつしか文学賞」への応募作品を書き上げるため、練習時間が不足していたことが基本的な理由である。しかし、エントリーをしているのだから、大会に出ることが楽しければ、最後は歩いてもいいから赤レンガのスタートラインには立つことにしただろう。
東京マラソン2023へのエントリー(2.3万円)を、実はいま躊躇している。エントリーフィーが値上がりしたことは仕方がないと思っている。しかし、これまで13回走った東京の街を、もう一度走りたいと思わせるモチベーションが得られないのだ。
わたしと同じように、「抽選に当たったランナー」が大量にエントリーを回避することもありえるだろう。復活抽選で、東京を走れるランナーがどれくらい出るのか、来週は注目してみたい。
従来からレースを走ってきたランナーたちの気持ち(レースで走ることの高揚感)が、コロナの2年間で変わったと感じている。さらには、コロナ禍で新たに走り始めたランナーたちにとっては、大会へ参加してレースを走るモチベーションが、いまのままでは、超低いままである。
そのことを心配して、アールビーズの社外取締役だったころに、「コロナ禍で走り始めた新規ランナーの意識・行動調査」を実施した。しかし、そのときの調査結果から得られたはずの教訓は、活かされないままに今日に至っている。このままでは、健康志向を謳って順風を受けてきたランニング業界が、日本においては大きく縮小することが懸念される。