【記事転載】「海外ブランドを売場で活用する方法」(特集「ザ・海外ブランド」から)

PCファイルフォルダ(2015年)を整理していたら、見出しのような記事が現れた。どこかの雑誌にコメントで短い記事を書いたものらしい。『チェーンストアエイジ』(ダイヤモンドフリードマン社)だったかな。内容はけっこうおもしろいぞ。そのままに転載する。



「海外ブランドを売場で活用する方法」(2015年のいつか)

(リード)
国を超えてブランドを展開することはすでにめずらしいことではなくなっている。近年は小売業が直接、海外ブランドを日本で展開するケースも散見される。強力な海外ブランドがある一方で、ほとんど知られていないものも数多く日本で販売されている。本稿では小売業における海外ブランドの活用方法を検討していく。

文=小川孔輔(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科 教授)

(本文)
 原産国効果を理解する
 確立したイメージを持った強力なブランドでは、製品カテゴリーや使用状況、特定の文化や民族、国家、有名人、歴史などとブランド名が強く結びついている。このブランド名から連想される特定の事柄を「ブランド連想」と呼ぶ。
 たとえば、ブランド名は特定の国名を連想させることがある。ファストフードの「マクドナルド」やコーラ飲料の「コカ・コーラ」からはアメリカ、2012年3月から日本で販売されている炭酸飲料「オランジーナ」からは、フランスをイメージする人が多いだろう。
 また、逆にいくつかの国名はブランドに特定のイメージを持たせることがある。
 「バーバリー」「ロールスロイス」「ウェッジウッド」などからは、イギリスの伝統とよい意味での保守性が連想できる。このような連想から、製品がイギリス発であることによってブランドの信頼性が高められている。
 イタリアのアパレルブランド「ベネトン」が世界市場で成功できたのは、染色方法における先端的な技術革新もあったが、その独特の色彩感覚がイタリアという国を連想させたからでもある。スポーツカーの「フェラーリ」や「ランボルギーニ」などによって、個性的なイタリア流のデザインが世界中で知られており、浮かんでくる連想のベースがすでに存在していたことも大きかったと言える。
 海外ブランドが日本で展開されるときは、好むと好まざるにかかわらず、ほとんどの製品が原産国のイメージを背負うことになる。こうした連想は「後光効果」(Halo Effect)、「原産国効果」(Country of Origin Effect)と呼ばれる。

 国名、歴史、人物を生かす
 小売業が海外ブランドを活用するに当たっては、ブランド連想や原産国効果をテコにするのがポイントの1つである。
 たとえば、日本ではあまり知られていない海外ブランド食品であっても、「イタリア」や「フランス」のように、国名を前面に打ち出すことで売り上げを高める効果が見込める。パスタやピザは「イタリア」、パエリアやトルティージャは「スペイン」など、メニューからは特定の国名が連想されやすいので、海外ブランド食品を複数揃えて関連販売するのも有効だろう。
 また、海外ブランドの持つ歴史を打ち出す方法もある。歴史は、どのような経緯から生まれたブランドなのか、原材料には何が使われているのかといった商品の開発ストーリーと言い換えることもできる。
たとえばワインならば、どのような気候や土壌で育成されたブドウが使用されているのか、また、熟成方法のこだわりなどの情報を店頭で発信することは広く行われている。このような売場からの情報発信は、ワインに限らず、ほかの製品カテゴリーの海外ブランドでも有効だろう。
 さらに、ブランドと密接に結び付いた人物を大きく打ち出す方法もある。
 たとえば、米国カリフォルニア料理のパイオニア、レストラン「シェ・パニース」の創業者であるアリス・ウォータースは、「スローフードの母」として世界的に知られる。原産国効果もそうであるが、創業者や開発者もブランドに確実性や正統性を付加する。日本であまり知られていない海外ブランドであったとしても、創業者や開発者をプロモーション施策に登場させることでブランドの認知を高めることができるかもしれない。

 「競争」を意識する
 日本では、ブランド名は「企業名」(コーポレートブランド)+「個別ブランド名」(商品ブランド)の二重の提示が一般的である。「明治ブルガリアヨーグルト」「アサヒスーパードライ」のように、ブランドに企業名を冠するのは、商品ブランドの知覚品質や信頼性を高めるために、企業ブランド名を「裏書き」(保障機能)に使おうとする意図がうかがえる。
 日本へ進出してきた海外のメーカー、たとえばユニリーバやP&Gは、当初は商品ブランドの広告では企業ブランド名を提示しなかった。本国のブランド戦略をそのまま日本に持ち込んだのだ。しかし、現在では、テレビCMでも、自社の企業名を堂々とメッセージとして謳っている。商品パッケージには、よく目立つ場所に企業名を併記している。日本の消費者は、信頼の証として企業名を重んじる傾向があるため、ユニリーバやP&Gは広告メッセージに企業名を入れるようになったと考えられる。海外ブランドを売場で活用する際は、企業名を大きく打ち出すかどうかも重要な検討事項の1つである。
 また、海外ブランドを活用するに当たっては、「競争」も意識しなければならない。
 世界のトマトケチャップ市場は、米国の「ハインツ」ブランドが圧倒的なシェアを持っている。しかし、現在の日本のトマトケチャップ市場は「カゴメ」ブランドの支持率が高く、「ハインツ」のシェアはわずか数%であるといわれる。ただし、世界のトップブランドが苦戦するなかでも、米国「デルモンテ」ブランドのトマトケチャップは一定の地位を得ている。
 日本で「デルモンテ」ブランドのトマトケチャップを展開するのは、キッコーマン(千葉県/堀切功章社長)傘下の日本デルモンテ(群馬県/安藤公夫社長)である。同社は1961年の設立からまもなく米国デルモンテ社との技術提携により、「デルモンテ」のトマトケチャップ、トマトジュースの製造販売を開始している。
 日本でシェアトップのカゴメ(愛知県/寺田直行社長)の創業は1899年。トマトケチャップの製造は1908年に開始している。米国H.J.ハインツ社が日魯漁業(現マルハニチロ)と組んで「ハインツ」ブランドの日本での展開をスタートさせたのは「デルモンテ」と同時期の1961年である。「デルモンテ」と「ハインツ」のトマトケチャップの現在のシェアの差は、調理料の販売チャネルをブランド展開の開始時にすでに持っていたかどうかにあったと考えられる。
 近年、小売業が自ら海外ブランドを輸入し、販売するケースが増えてきているが、店舗を多く持つ大手が有利かと言えば、必ずしもそうとは限らないだろう。自社が独占販売する海外ブランドならば、消費者の目からはプライベートブランド(PB)商品と同じように見えてしまう。競合との差別化策の1つになり得ても、店舗が多いぶん、海外ブランド商品を増やし過ぎれば結局は陳腐化し売場の中に埋もれてしまうことになるからだ。
 米国発祥の会員制ホールセールクラブ「コストコ」やスウェーデン発祥の家具専門店「IKEA」が日本において人気を集めるのは、日常にはない異国情緒がそれらの店舗にあるからだと考えられる。食品スーパーにおいては「もとまちユニオン」や「紀ノ国屋」が代表例だ。「コストコ」も「もとまちユニオン」も、海外ブランドを売場のアクセントとして活用していても、売上の大半を海外ブランドが占めてはいないと考えられる。
 日本に同じ製品カテゴリーのナショナルブランドがある海外ブランド食品ならば、否応なく競争にさらされることになる。消費者には当たり前のように比較購買される。海外ブランド食品を売り込むには、パッケージデザインや味はもちろん、歴史や人物、原産国の空気感など、日本の商品にはない要素を消費者に訴求するのが効果的だろう。

つきもの図1点(p46ブランド連想図)