【報告書紹介】 藤島廣二(2011)『市場流通の2025年ビジョン』筑波書房

 明後日(7月30日)、法政大学大学院で「MPS参加者ネットワーク協議会」が開かれる。基調講演の講演者が、藤島先生である。パネルの司会を引き受けたので、先生の著書を読んでいる。パネルディスカッションのテーマも、「花き流通はどう変わるか?市場流通2025年ビジョン」である。



 本書の監修者は、大田花きの磯村信夫社長である。2009年から13回にわたって開催された「市場流通ビジョンを考える会」の代表幹事を務めたのが、磯村社長だった。
 卸市場としては、生鮮4品の中で、花き市場はもっとも規模が小さい。その小さなカテゴリーの花を扱っている荷受会社の社長が、全体の報告書をまとめたことが画期的と言えるだろう。
 そして、多くの人があまり気がついていない資料が、本書の巻末に添付されている。「農林水産大臣への提言書:第9次卸売市場整備基本方針に関連して」(平成22年4月23日)と、「卸売市場行政に関する要望書」(平成22年10月15日)である。

 本書の内容のほとんどは、市場とそれを取り巻く環境の変化に関するデータの紹介に費やされている。事実内容としては、市場関係者の多くがすでに知っていることである。市場経由率の低下、相対取引の増加、市場利益率の低下である。
 提言内容(第5章)も、それほど目新しい視点が提示されているわけではない。ただし、注目すべきは点が、「あとがき」で要約して述べられている。そのまま引用してみる。
 「それ(今後の卸売市場・市場流通のあり方)を一言で要約するならば、多様なタイプの卸売市場が互いに役割を分担しつつ連携・協力することによって、社会にこれまで以上に貢献できる市場流通システムを構築する、というものです」(109ページ)。
 つまりは、社会的な食品流通を担う中間結節点として、一律な市場をイメージしないように、という官への要望書である。つまりは、「多様な」といいながら、もっと「自由にさせてほしい」と主張しているわけである。

 その結論が、次の二つの要望書である。
 最初の「第9次卸売市場整備基本方針に関連して」が、「考える会」の典型的な主張を要約している。解説してみる。そのままに読むと、本当の意図がわからない。(やや婉曲に書いてあるから)

1 卸売市場高度化の基本的な方向
 (1)従来の卸売市場の画一化路線から、多様化・個性化へと方針を転換する。(中略)そして、卸売市場総体としての機能の高度化を推進する。
  → 卸売市場は、営業形態が自由にできるよう規制を緩和する(「多様」とは「自由」と読むべし) 
   
 (2)経営体としてのぜい弱化を防止しつつ、機能の高度化を進める
  ①統合・合併を行う
  → 競争的な経営統合の容認と政策的な誘導(たとえば、今年度の大阪のニ市場合併)

  ②新たな収益源確保を講ずる
  → 市場手数料だけに依存しない経営を目指しなさい
    具体的には、加工業務や商品開発、プロモーション活動の支援や代行を容認する

2 諸規制の緩和・撤廃と行政支援
 ①業容の拡大を制約している規制を撤廃する
 → ②~⑭まで、加工業務など、詳しく列挙してある
 
 
<解説>
 「ビジョン」で語られている市場像は、従来の委託取引中心の卸市場ではない。これは、一般のマーケティング会社が実施している業務内容である。
 オブラートで「社会的な責任」が語られてはいるが、明らかに、民間の卸会社の仕事を描いた企業の姿として描いたものである。大田花きの磯村社長が、現在推進している路線がこれである。
 また、花き市場でいえば、東京や大阪の市場が合同で推進している経営統合の未来像が、暗黙のうちに示されている。そう言って間違いないだろう。