文部科学省の助成研究がはじまっている。研究会として、第二回目の会合を開いた。今後は、毎月の最終金曜日にゲスト講師をお迎えして、夕方から講演会を開催していく。当面は、クローズドな研究会になる。いずれは公開していくつもりではある。初回は、大正製薬のアジア事業展開について。
具体的なデータは公開できないので、服部さんから話していただい内容のレジュメをアップする。
1 戦略的な視点
・アジア事業の社内的な位置づけ
・事業展開の歴史的な経緯
・事業規模と将来的な戦略方針
2 マーケティング視点
・ターゲットと飲用動機の国別の違い
・製品仕様と生産方式
・価格設定とパッケージの現地化対応
・プロモーションの国別比較
・販売チャネル
3 結論
<印象とコメント>
以下は、まったくの私見である(研究会のメンバーは、また別の印象を受けたかもしれない)
(1)戦略的な側面
大正製薬は、アジア事業に関しては、OTC(大衆薬:例えば、パブロン)とエナジードリンク(リポビタンD )のふたつで事業を展開している。近年の海外事業会社のM&A(たとえば、BMSからアジア部門を09年に買収)を見ても、将来的な軸足は、OTC医薬品事業にある。大正製薬自身は、OTC医薬品市場で、世界第9位である(もちろん日本ではトップ企業)。
大正製薬として創業100年、リポビタンDの発売から50年。2012年は、会社にとっても節目の年である。そして、これまではドメスティックに事業も展開してきたが、アジアを主戦場と考え始めている。それは、ごく最近のことと伺った。確かに、同社の経営トップ(アジア事業の担当役員)にインタビューさせていただいた10年前は、アジアは「サブ」の位置づけだったと記憶している。
それが、国内の市場飽和と海外のOTC市場の急成長から、会社として方針を転換しつつあることがわかった。そうした中でのアジア地区でのブランド展開になる。
(2)マーケティングの観点
アジアにおける「エネルギードリンク」の市場構造がよくわかった。競争相手は、いまをときめく「レッドブル」!だけではない。それぞれのローカル市場に、現地ブランドが存在している(たとえば、タイのM-150)、。加糖の茶飲料や炭酸ソフトドリンクとも競合している。
基本的なニーズ(服部氏の資料による分類)は、「栄養補給(日本)」、「体力活力(アジア)」、「覚醒・解放感(欧米)」と地域によって異なっている。これも興味深い。
服部仮説では、「疲労回復」(日本型)を訴求するエナジードリンクは、ゆっくりと都市化が進行している日本やタイで普及している。それに対して、急速に都市化が進行しているアジア(フィリピンやマレーシア)では、アジア型(水分補給と体力活力)や欧米型(覚醒のレッドブルスタイル)の飲まれ方がされている。
販売チャネルは、いまだに伝統的な多段階構造を持っている。だから、現地の卸や代理店との属人的関係(有力な卸関係やベンチャー経営者)で、ドリンク剤(食品類は同じ傾向)が売れたり売れなかったりする。
(3)その他
先程まで、共同研究者の林さん(西安交通大学客員教授、同志社大学大学院講師)とアジア共同研究プロジェクトについて、枠組みの議論をしていた。
このアジア研究会は、海外研究者とのネットワークが完成しつつある(林さんが国際コーディネーター)。とにかく、2012年は、デスクリサーチに集中、2013年は、各国(日中韓、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンの7カ国)の企業インタビューを実施する。同年に、東京で国際シンポジウムを開催。
2014年から2015年にかけて、英文と日本語との同時出版を目指す。しかし、研究資金が足りない。文部科学省以外の資金を確保する必要が出てきた。頭が痛い。
<研究会メンバー>
現在までの国内の研究会メンバー(アカデミック)を紹介しておく。
小川孔輔 法政大学 イノベーション・マネジメント研究科教授(代表者)
上田隆穂 学習院大学 経済学部教授
古川一郎 一橋大学 商学研究科教授
西尾チヅル 筑波大学 ビジネスサイエンス系教授
竹内淑恵 法政大学 経営学部教授
並木雄二 法政大学 イノベーション・マネジメント研究科教授
岡本吉晴 法政大学 イノベーション・マネジメント研究科教授
酒井 理 法政大学 キャリアデザイン学部准教授
松井 剛 一橋大学 商学研究科准教授
林 廣茂 同志社大学 大学院ビジネス研究科講師(副代表者)
青木恭子 法政大学 イノベーション・マネジメント研究科特任講師 (RA)
頼 勝一 法政大学 大学院経営学研究科(大学院生)
本間大一 法政大学 大学院経営学研究科・㈱マクロミル(大学院生)
木戸 茂 法政大学 イノベーション・マネジメント研究科教授