3週間前の2月6日に、KDDIによるローソンのTOBが発表された。翌日(7日)になって、日本経済新聞が社説を出している。その後、編集委員の田中陽さんなどが、ローソンの経営を見てきた立場からコメントを発表していた。日経の社説では、TOBの狙いが不明確であることと、KDDIが投じる資金が巨額であることが指摘されている。
4月に予定されているTOBが成立した場合、ローソンはKDDIと三菱商事の折半出資会社になる。現時点では、非公開後に「誰がどのようにローソンの経営のかじを取るのか」が不透明である。そのような指摘に対して、いまのところ、3社(KDDI、ローソン、三菱商事)のいずれもが、明確に答えてはいないように見える(一応の説明はなされている)。
しかし、TOBの成立が確定していない今の時点で、将来の経営の在り方について明確な説明はできないだろう。ただし、よく考えてみれば、TOBへの参加企業の変更(後述)と、それでもなお2社(KDDIと三菱商事)がTOBを断念することがなかった点にヒントが隠されているように思う。
三菱商事の立場からは、25年に及ぶローソンのコンビニ経営へのコミットメントが、正念場に差し掛かっていることがわかる(田中陽氏の指摘を参照)。わたしの推論は、最終コーナーで三菱商事が、DXを通して業績向上へのチャンスがありそうなKDDIを、ローソンの経営に巻き込もうとしたのだと考える。
KDDIは内部留保は潤沢ではあるが、現状は必ずしも投資機会に恵まれているとは言えない。競合のドコモも、同様な立場にある。かつては、有機宅配の「らでぃっしゅぼーや」や料理教室の「ABCクッキングスタジオ」を、直近では、調査会社の「インテージ」を買収しているが、M&Aでは目立った成果が上げられていない。
TOBのニュースリリース後に、ある事実が明らかになった。
今回のローソン株に対するTOBには、当初はENEOSが20%出資して参加することになっていた。しかし、このスキームがとん挫したのは、ENEOS側の不祥事が原因だった。考えてみればわかることだが、TOBの計画当初は、三菱商事(50%)、KDDI(30%)、ENEOS(20%)の共同経営が想定されていたのである。つまりマジョリティは、これまで同様に商事が握り続けるというものだった。
したがって、破談後の決定についても主導権を握っていたのは、現時点でローソン株の約半分(50.1%)を保有している三菱商事の立場だったと想定できる。暗黙の答えは、三菱商事がENEOSの出資分(20%)を追加取得しなかった判断にあるとわたしは考える。
やや話は飛躍してしまうかもしれないが、その証拠が本日発表された「(三菱商事が保有する)KFC株の全株式売却」の報道にある。報道によれば、KFC株売却の狙いは、出資先の入れ替えにあるとの説明がなされている。そうだとすると、ローソン株は、三菱商事にとっては、「現状維持(中立)」の位置づけになっていると推論できる。
田中陽氏の解説(「ローソン、歴史を繰り返すな 既視感のあるKDDI会見」『日本経済新聞』2月10日のコラム)にもあったように、三菱商事はダイエーから経営権を取得し、2000年に株式を公開した。そこから今度(KDDIとの折半出資)で、ローソンへの経営的なてこ入れが3度目になる。2度目は、2019年に株式持分を50.1%に積み増して子会社化したときであった。
田中陽さんのコメントは、それでも「コンビニ愛」に裏打ちされている。しかし、世間一般の見方は、ローソンの将来に対する期待が半分で、懐疑的な見方が半分である(わたしの友人たちは、ややポジティブであるが)。
昨日、ローソンのオーナーさん向けのセミナー(@福岡開催)を取材していた。博多港近くのセミナー会場で、ローソンがこの春に導入する新しい発注システム<AI.CO>(読み方は、アイコ)や、新商品の発表に立ち会うことになった。プレゼンテーションには、九州全域から約2000人のオーナー/クルーさんたちが、説明/学習会に参加していた。ローソンの社員(本部社員と地区担当)の説明も、真剣そのものだった。
この展示発表会(ローソンセミナー)には何度か参加してきたが、昨日の展示会場では、これまで経験したことがない熱気を感じた。この先のローソンの経営がどのような形になるにせよ、ローソン応援団の1人として、田中陽さんの言う「3度目の挑戦」に期待したいと思う。
(参考資料)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[社説]ローソンTOBの期待と課題
2024年2月9日 19:00
ローソンはKDDIを大株主に迎える
KDDIが約5000億円を投じてローソンにTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。TOBが成立すれば、三菱商事とともに50%の株式を保有し、共同経営で進める。
2社で展開する約1万6800店のリアル店舗と通信技術を融合した次世代型のコンビニエンスストアを構築するのが狙いだ。異例の資本業務提携で人口減社会をにらんだ新たな試みとして期待も大きいが、課題もある。
ローソンは筆頭株主の三菱商事が50.1%を出資し、社長も派遣する。4月にもKDDIがTOBを実施。実現すれば、ローソンは両社の持ち分法適用会社になり、ローソン株は上場廃止となる。
コンビニエンスストアは東日本大震災以降、社会インフラとしての評価が高まり、急成長した。しかし近年は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う行動制限も重なり、出店ペースは低下している。
この結果、店舗間競争が緩和し、足元の売上高、利益ともに好調だ。しかし人口減に伴う国内市場の先細りや人手不足は深刻で、今後の成長戦略は見通しにくい。
コンビニにとって今後重要になるのは無人レジや商品発注機能のデジタル化など店舗運営の最適化だ。このほか本格的な無人店舗作りやデリバリー機能の拡大、ドローンによる遠隔地配送など顧客との新たな関係作りがカギを握る。
従来の小売りにはない知見が欠かせず、KDDIとローソンという異業種の連携の方が他社より先手を打てる可能性がある。顧客や地域社会にとってより便利なコンビニを創ることを期待したい。
一方で今回の資本関係に不安も残る。三菱商事は出資比率を下げるが、共同経営にあたるKDDIが小売りで主導権を握ることは難しい。従業員や取引先にとってはどこが主体となり、経営をかじ取りするか、分かりにくさも残る。
KDDIは自社の株主に対して、単なる業務提携ではなく、巨額の資金をあえて投じる理由を説明する必要もある。