「弁当男子」にデビューして、主婦たちの台所事情について得度したこと(4日遅れでアップします)

 昨年から「ABCクッキングスタジオ」に通い始めていますが、とうとう「弁当男子」の仲間に加わりました。午前8時、かみさんを駅まで送り届けたあとでテーブルの上を見渡すと、冷めかけている一人分の「みどり豊」(滋賀産米)が陶器に納まっています。



 つやつやの米が、いかにも食べてほしそうに、こちらを見ている様子です。その隣には、かみさんが残していった二段重ねの弁当箱が置いてあります。ピーナッツ好きの家庭にありがちな、スヌーピーとウッドストックが向かい合って犬小屋に寝そべっているモチーフの絵です。
 かみさんは、朝起きると1合だけお米を研いで、陶器製の丸い窯でコメを炊きます。自分のお弁当に詰めるためです。基本的に少食のひとですから、お昼用に0.5合で十分のようです。残りの0.5合は、わたしの朝ごはん(ほぼ、おにぎり)になります。
 ところが、今日に限っては、食卓の上にサランラップにくるまったおにぎりが見あたりません。あわただしく出かけたのだとみえて、自分用のお弁当箱も、ふたつほど候補を用意していたようです。
 どうやら、残ったほうが、食卓の上の「スヌーピー二段重ね」だったようです。持ち運び用の取っ手がついた、組み立て式のランチBOXです。テーブルの上には、無造作に5点ほど、パーツが散らかっていました。
 そのときは当面、食べるべきものがないので困りました。しかし、弁当箱の空スペースは、おにぎり一個分です。「みどり豊」にぴったりのサイズであることに気がつきました。スヌーピーの弁当箱が、わたしを呼んでいたのでした。

 というわけで、63歳にしてはじめて、自分のために弁当を作ることになりました。
 わたしの料理史に残る、記念すべき瞬間です。でも、お弁当を作った経験などないですから、どのようなお弁当にすべきかのアイデアがまったくありません。
 フィールドワークのために、学生たちと米沢の「松川弁当店」さんに何度かお伺いしています。その際、駅弁の具がどのように調理されているのかを知りました。林社長が駅弁用の箱(パッケージ)を選んで、その辺にある「具」を詰める作業手順を見ていました。
 その手際の良さに感嘆した記憶があります。だから、この際、林方式で弁当を組み立てればよいと得度したわけです。
 お弁当の製作作業のスタートにあたっては、とにかく何の手がかりもありません。とりあえず、かみさんの作法を思い出してみました。

 記憶の糸をたぐりよせてみると、、、
 朝方、かみさんが弁当を作る工程をちらと覗いていました。まず、ご飯の部分は二層になっていました。そして、お米の上下層の間には、切り刻まれた海苔が敷いてありました。この技法を踏襲することにしました。
 弁当箱の下段の部分を取り出して、うすくご飯を敷き詰めました。そして、その上から、細く短冊切りにされた海苔を敷き詰めてみました。食卓の上に、放置された缶がありました。ふりかけ状の鰹節と海苔のパッケージでした。
 海苔のレイヤーに、このパウダーをふりかけてみることにしました。海苔だけよりは、カツオをまぶした方が、ご飯をかんだ時に、うまみが出ると思ったからです。そのうえに、ふたたび薄くご飯を敷いていきました。これでほぼ完成なのですが、表面が白っぽいので、ややさびしく感じました。
 そこで、再度、白米の上から、短冊になった海苔を敷き詰めました。それでもまだ寂しいので、もう一品、テーブルに放置されていた具材を見つけました。きんぴらごぼうです。白ごまをふった醤油色です。黒い海苔と違和感がありました。短冊の方向と同じ向きでごぼうを敷き詰めてみました。それでも、色合い的にまださみしいのです。
 冷蔵庫を漁ってみました。このごろは、家庭で料理をしていますから、冷蔵庫の中の食材について、在庫状況はだいたい把握しているつもりです。梅干しが二種類あります。小梅と大粒の南高梅です。ここは、ご飯のど真ん中に、柔らかめの真っ赤な南高梅を配置すべきです。
 最後に、薄く切った酢蓮(すばす)を二枚、ご飯の上におくと、海苔とのコントラストが美しくなりました。これにて、上段のご飯部分が完成です。

 下段はおかずの部分になります。こちらは、夕食の寄せ集めで充分のように直感しました。実施に簡単に出来上がりました。
 前夜は、海鮮のフライでした。カキとイカ、そしてコロッケです。子供たちが独立して、いまやわがやはふたり家族になっています。それでも、天ぷらやフライを揚げるときは、だいたい3~4人分を一遍に揚げてしまいます。まとめて作らないと、おいしくならないからだと思います。
 前夜のコロッケは完食しましたので、カキフライとイカフライを下段の左側に収めました。そのまま直接ではなく、パーティション用の紙パックを下に敷きました。赤いタータンチェックのよくあるものです。その隣には、つくだ煮(マグロ)を冷蔵庫から取り出してきて、かまぼこを短冊切りにして詰めました。正月用の在庫品は役に立ちます。
 不満があるとすると、野菜ものが不足していることかもしれません。赤いミニトマトを2個入れたくなりましたが、あいにく在庫がありません。仕方がないので、野菜代わりに栗きんとん(これも正月からの持ち越し)を入れました。デザート代わりにもなるでしょう。

 というわけで、お弁当は完成です。スヌーピー弁当は、大学に行ってからランチミーティングがありましたので、福尾をはじめとして周囲に評価をしていただきました。見た目、とても好評でした。中身もおいしかったと思います。
 感想を一言でいうと、奥様達がなぜ冷蔵庫にこまごまとした「パーツ」を蓄えておいているのか、それがよくわかりました。お弁当などに必要なのでしたね。料理をしなかった旦那としては、それが理解できなかったのでした。
 たとえば、過日、野菜炒めを作るのに、冷蔵庫に残っていたネギ(短くしておいた部品)を使ってしまい、かみさんから叱られたことがありました。これは、野菜炒めなどではなく、味噌汁に使うために細工してあるものだったのです。世の旦那衆は、そんなことを知る由もなしです。
 わたしのように、自分でお弁当を作ってみると、はじめて冷蔵庫内の部品のありがたみがわかります。みなさんも、「弁当男子」になることをお勧めします。知らなかった新しい世界が開けました。料理は奥が深いです。

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 友人たちに送ったメールです。(1月8日、朝方)

 おはようございます。ABCの料理教室が、ここまで進化しました。ランチボックスを作ってみました。自己流ですが、スヌーピーの二段重ねです。冷蔵庫の中に、なんであんなにこまごましたパーツがあるのかが、はじめて理解できました。いまさらながら、主婦の皆さんの技を尊敬します。新米主夫〓からでした。

 おがわ

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