俺のシリーズ、ビジネスモデルの転換後を視る

 一か月前、『日経MJ』(9月11日)で、俺の株式会社が運営する「俺のシリーズ」(俺のイタリアン、フレンチ、焼き鳥など)のモデルチェンジが発表された。内容は、これから開く新店とリニューアル対象となる既存店について、原則として「全店着席とする方針」が発表された。



 立ち飲み業態としてスタートした革新的な高回転のモデル(一日3~5回転)を、大きく変更する決断である。しかしながら、昨年来新たに開店した大型店舗(例えば、10月に開店している「俺のフレンチTOKYO」など)については、実は、すでに全店着席になっている。実験を繰り返して、2時間制と客単価上昇のトレードオフを見ていたのである。
 坂本社長がインタビューで自ら述べているように、「立ち食いは都心だから成功したビジネスモデル。だが店によっては座れないなら帰るという顧客もいた。正直、私も椅子に座って食事をしたい。」(MJの取材に応えて)。2時間制でのWEB予約も実験が進んでいた。
 顧客の要求は、店舗面積が100平米(コンビニサイズの30坪)以上の大型店では、標準的なオペレーションは「着席」に落ち着いてきていた。顧客の要求が、多少の客単価アップでも着席を求めていたのである。ビジネスモデルの転換は自然に起こってきたと考えてよいだろう。

 昨年来、私個人も、銀座や新橋界隈の「俺のシリーズ」の複数店舗を利用している。ここ数カ月は、すべて予約で来店する着席形式での利用だった。それでも、4人がけでもテーブルは相変わらず狭い。早めにたくさんの料理をオーダーしてしまうと、美味しい料理が食卓からはみ出てしまう(笑、いや、結構笑えない)。
 狭さゆえの不便さもある。メニュー表やフォーク、ナイフのボックスなどは、テーブルの下か横壁に収納してほしいと思う。だが、そうした不便はいずれ工夫によって解決するだろう。基本モデルは、やや高単価で着席モデルでよいと考える。フードジャーナリストの意見も、この方針転換を支持している(たとえば、長浜淳之介氏、2015年7月15日)、
 もともと原価率が60%前後だったのだから、ブランドの知名度がアップした現在、50%までは許容範囲だろう。店内を見回しても、音楽演奏に耳を傾けながら、ときにワインソムリエと会話を楽しみ、狭いながらもゆったり食事ができることを好む人が増えている。料理のグレードにはとくに変化が生じるわけではない。

 従来のモデルは、客単価を3000円~4000円に想定していた。着席にすると回転は若干落ちる。客席の有効スペースが減ってしまう分を値上げして、客単価が5000前後になるのは致し方がないところだろう。すべては、このトレードオフを顧客が受け入れてくれるかどうかにかかっている。
 上海の実績をみても、フードジャーナリストが引用した経営コンサルタントのコメントとは裏腹に、海外(香港、上海、ソウル)は全店着席でのスタートである。上海の新天地などは、2000年代初めに開発されたおしゃれな街である。立ち席よりも、着席が似合っていた。実際に170席の店は、そのように運営されていた。
 先週末に訪問したのは、リニューアルされたばかりの「俺のフレンチ 銀座本店」だった。入店した6時から退店する8時まで、席は一席も空いていなかった。そして、外には10人ほどが並んでいた。たぶん予約なしの待ち行列なのだろう。あるいは、わたしたちが退去するのを待っている客たちだったのかもしれない。
 「俺のシリーズ」を”よいしょ”ばかりしていると、「おまえさん、学者なら、もう少しは坂本さんの経営に厳しいコメントせーよ」と世間一般のひんしゅくを買いそうだ。それでも、現実問題として、当面は、着席モデルがうまく機能しているように見える。