【書籍紹介】 P・F・ドラッカー(1996)「第13章 組織の文化」『現代の経営』ダイヤモンド社

 夏休みに中棚荘に持参したものの、いまだ机の上に放置されていたドラッカー本を、「勤労感謝の日」に読み終えた。1954年初版で、いまや経営者にとって聖典となっている『現代の経営』である。星を打つことなど無意味であろう。



 全編を紹介するのは、なんともおこがましい。巨匠ドラッカー先生に申し訳ない。だから、本書の紹介は、13章「組織の文化」に限定することにした。
 『現代の経営(上・下)』は、出版から50年以上の歳月を経ている。にもかかわらず、内容がまったく色あせていない。久しぶりに読み返してみて、いまさらながら、そのことに驚きを感じずにはいられなかった。
 ふだんは、300ページの本を3時間程度で読了するのだが、この本に関しては、6時間をかけてようやく読み切ることができた。それだけ、行間に多くのものが詰まっているのである。

 第Ⅰ部「事業のマネジメント」、とくに、マーケティングとイノベーションを論じた部分は、これまでにも何度か折に触れて読んできた。拙著『マーケティング入門』(日本経済新聞出版社)でも、対応する部分は引用させてもらっている。しかし、第Ⅱ部「経営管理者のマネジメント」から以降の部分については、これまで流し読みをする程度だった。
 主として時間的な制約からではあるが、内容的にやや冗長さを感じていたからでもある。リーダーシップ論や組織風土を論じた部分などについては、個人的には興味を持っていた。
 わたし自身はといえば、50歳代を通り越して、ごく浅いながらもマネジメント上の経験を積んできた。経営者としての経験を積めば積むほど、ドラッカーの13章の重たさがよくわかる。
  本書のなかの「金言」や「警句」が、ひとりの組織運営者(JFMA、大学院)として、よく理解できるようになった。第13章の「組織の風土」の中で、わたしが強烈に納得できた部分を紹介してみたい。

 第13章は、ある程度、トップ経営者(本書では、「経営管理者」と表現)としての経験を積まないと、本当のところはわからないようにも思う。マーケティングやイノベーションを論じた部分は、その限りではないのだが。

 いくつかの引用句から、第13章ははじまる。

1 「己より優れた者の 助けを得る技を知れる者 ここに眠る」(アンドルー・カーネギーの墓碑銘)

 経営者の能力とは、部下の人間性を評価するのではなく、仕事ぶりを冷静に判断する力にある。だから、採用という観点からは、組織にとって必要な「仕事人」(能力の高い人)をどのように登用するかが問題になる。
 組織の文化を、仲良し度で推し量ろうとするのはまちがっている。カーネギー財団の創設者の墓碑銘は、だから重たい。わたしにも、思い当たる節がある。ともすると、仕事場の雰囲気を重視するあまり、仕事がよくできても、人間的にいまいちの部下をどこか差別してきた前科がある。
 個人的な評価についての懺悔である。その部下には申し訳なかったし、わたし自身が経営管理者としては未熟だったと、いまになって思う。

2 「重要なことはできないことではなく、できることである」(身体障碍者雇用促進キャンペーンのスローガン)

 すべてのことがらを、未来志向で考えるべしという警句である。体験的にも、全面的に同意できる。だめなマネージャーは、ひとの上げ足を取ろうとする。良い経営者、失敗ついても寛容である。「やってみなはれ」と言うときに、部下はすでに働く気になっている。
 できること(得意分野や強み)について、評価していれば、部下は安心して働くことができる。たとえば、学生たちには、とにかくほめ殺すように心がけている。
 男の子には、(小さな成功に対してでも)「やれば、できるじゃん!」を繰り返して。女の子たちには、(創ったものやアイデアに対して)「それって、すっごく、すてき!」。
 ほめられていやに思う人間はいない。

3 (続く)

 これから、某社のコンサルに出かけます。(続きはのちほど)