【走る!】最後の宿泊客@川越

 さきほど、川越ニューシティホテルに荷物を取りに戻った。小江戸川越マラソンのハーフを1時間53分56秒で走り、水上公園からシャトルバスに乗り込んだ直後である。左足は回復してきている。12月11日の萩マラソン(山口)では、49分台を狙えそうな気配だ。
    
 日曜日のレースは、自宅を早朝に出ても、会場の水上公園で9時15分のスタートには届きそうになかった。秘書の福尾に頼んで、川越近辺で、ビジネスホテルの予約を頼んだ。寝るだけのためである。
 彼女がネットから探してきたのが、「川越ニューシティホテル」だった。素泊まり5500円。泊まるだけなら、いい値段だ。川越でひとりの夕飯はさみしい。埼玉の川越付近に住んでいる小川ゼミ「埼玉ガールズ」を集めて、ワインの会を開くことにした。
 無理矢理だが、中川なっちゃんに頼んで、5人(中川、宮本、白鳥、小林、鎌田)を集めた。4年女子は、6人中5人が埼玉ガールズだ。3年生は、鎌田ひかるだけが埼玉産駒である。最近は、講演でも埼玉ガールズネタを使っている。
  
 土曜日(11月26日)は、10時に始まった一日ゼミのあと、わたしを含む6人で、川越駅東口から5分ほど路地裏を歩いた。商店街のわき道を少し入ったところに、おしゃれなワインバーがあった。これが、超がつく、当たり!だった。
 牡蠣やサーモンやビザに、フランス産+チリ産の赤ワイン。飲み物のカクテル(みもざ、ソルティードッグなどなど)。キリンビールのマイスターと合わせて、総額が2万2千円也。支払いは、当然わたしである。
 女子会に加えてもらった参加料だと思えば、安いものだ。白鳥(IWCの時計広告を探してきた副ゼミ長)や中川の悩み話を聞いて、黒一点でお酒と食事を楽しんだ。
 わいわい2時間半。10時すぎにパーティーはお開きになった。店から外に出ると、気温は0度?
 こんなに寒いのに、埼玉女子5人がわたしをホテルまで送ってくれた。うれしかった。
 考えてみてほしい。60歳のおじちゃんを、20代のかわいい!女子5人がまとまって、マラソンを走るためだけにリザーブしたビジネスホテルまで送ってくれるのだ。
 
 5人と別れて、ホテルの入り口の階段を上った。フロントで部屋の鍵を借りようとした。現金で宿泊費を前払いして、お風呂のことをたずねた。あわよくば走る前に、最低でも走ったあとに、あったかい風呂に入りたいのだ。ランナーの習慣である。
 フロントのおじさんが説明してくれた。「10分ほど離れた場所に、系列のホテル(三光ホテル)がありますので、、、」。そこに大浴場があるらしい。川越遊湯ランド? よくありがちな名前である。日帰り温泉なのだろう。
 翌日、走ったあとに寄らせてもらうことにした。おじさんが、無料入浴券をわたしてくれた。さらに、「次回からは、三光ホテルとうちの温泉をご予約ください」とホテルの割引券もくれた。
  
 よく聞けば、今日(11月27日)で、27年間続いた川越ニューホテルは商売をやめることにした、という。27日は明日である。ということは、本日(土曜日)が宿泊客を受け入れる最終日である。
 「設備が古くなって、改修もできない状態なんですよ」が廃業の理由だった。たしかに、部屋に入ると、お風呂場や部屋のカーペットなどがかなり傷んでいる。改修しても、部屋が狭いし、建物もホテルとしては旧式だから営業の継続がむりなのだろう。
 ビジネスホテル業界は競争がはげしい。安くてきれいで、そのうえにサービスまで良いホテルが増えてきた。ローカルの独立系のホテルは経営がきびしいのだろう。
 ただし、会社としては、建物付きで土地を売り払えば、不動産価値はある。JR川越駅から歩いて2分。土地値で高くは売れるだろう。
  
 というわけで、わたしは、このホテルの最後の、しかももっとも最後の客になった。なぜなら、12時半に荷物を取りに行くと、わたし以外には誰もいない。フロント脇のあかりも消してあった。
 それでも、フロントのおばさんの最後の接客はうれしかった。本川越の三光ホテルまで、歩いていけないわたしに、タクシーを頼んでくれた。お風呂の無料利用券と、一年間は有効な割引宿泊券をそっと添えて。
 フロントは二階にある。タクシーが来るタイミングを見計らって、彼女は一階に降りて行った。ハーフマラソンを走って、階段をゆっくりしか降りられないわたしに気遣って、タクシーを待たせてくれていたのである。
 「ありがとうございました」。おばさんが、カウンターから発する最後の「ありがとう」になるはずだった。心なしか彼女の声が湿って聞こえる。もしかすると、目頭が熱くなっているのかも。わたしは、後ろを振り返らずに、手摺り伝いにゆっくり階段を降りた。