渥美先生の最後の書籍である。チェーンストアエイジに連載されていた原稿を、弟子の梅村さんがまとめたものである。感慨が深い。JRCの機関誌『流通情報』最新号に掲載されている。
渥美俊一先生の生涯90冊目にして、最後の書籍である。2008年から2010年にかけて、『チェーンストアエイジ』(ダイヤモンドフリードマン社)に連載されていた原稿を、日本リテイリングセンターのアナリスト、梅村美由紀さんが加筆・再編集したものである。雑誌の連載時から読んでいたので、渥美先生の語り口を思い出し、懐かしさを覚えた。梅村さんの手の入れ方が上手だったので、構成・文書ともまったく違和感がない。渥美先生ご本人の原稿として、最後まで読み通すことができた。
渥美先生の晩年の代表作『チェーンストアの商品開発』と『ストアコンバリゾン』と同様に、本書も学生に読ませたい本である。ただし、読者の対象は、やはり流通業の経営者だろうと思う。学部生にはややレベルが高すぎるかもしれない。というのは、本書は、チェーンストアを経営する実務家(幹部レベルの社員)が、自社の業績や自店舗のパフォーマンスを評価する際に、実績評価と経営改善のために参考とすべき「標準値」について書かれた本だからである。経営実務にシリアルでないと、先生の主張を完全に理解することがむずかしいかもしれない。
本書の特徴は、自社(渥美先生の好きな言葉では「わが社」)の業績を、国内だけでなく、国際的な視点から、ハードなデータを用いて相対化できる道具を提供していることである。経営のパフォーマンスを部門ごとに改善するための基準値と方法論を提示している。したがって、評者のような流通研究者には、貴重なデータが満載である。
日本の流通業のパフォーマンスを、具体的に説得的に示した実務書は存在していなかった。実務家は当然のこととして、若い研究者にもっと読まれてしかるべき理論書である。とりわけ興味深いのは、日米小売業についての業績比較データである。渥美先生は常々、「日本の小売業の問題点と経営課題」を、米国の類似フォーマットと比較して、その「あるべき姿」を論じられていた。残念ながら、先生のご存命中でも、国際標準値に届いていたチェーン小売業は20社にも満たないのが現実だった。
それでも、先生の指導を受けたペガサス会員企業の中には、米国企業のパフォーマンスを上回る企業が生まれている。本書を読んで改めて感じることがある。わが国の流通業が、いまだ収益面で欧米企業に大きく後れを取っていること。現実問題として、人時生産性で5000円、坪当たりの年間営業利益で10万円。このハードルを超えられない企業がなんと多いことか。