『お花屋さんマニュアル(2006年版)』「花のマーケットの概観」(小川ドラフト)

 『お花屋さんマニュアル』が、3年ぶりに改訂される。わたしが担当してきた花市場の概観は、2012年版では、「数字で見る花業界」で代置される。そのため、2006年の原稿を記録として残しておくことにした。5年前の「花のマーケットの概観」である。貴重な資料になるだろう。


 (タイトル)
「花のマーケット(サブタイトル) フラワービジネスの全体像をさぐる」
(著者名)小川孔輔 JFMA会長(本文)

1 花産業の小史

 <江戸の花文化と明治・大正期>
 平安時代には、京の都では、大原女が花を売り歩いていました。室町時代に生け花が始まり、庭園づくりも盛んになりました。生け花の材料の調達も含めて、造園業や植木職人が基になり、日本の花産業は、江戸時代に花開いたと言われています。実際に、元禄(1680~1709年)と文化文政(1894~1830年)のころ、江戸の庶民は、盆栽やサツキ、アサガオを育てることを趣味として楽しむようになりました。これが園芸の隆盛の始まりであり、平成の現代に続く「民間育種」の源流となっています。
 古くから武士や貴族などの上流階級は桜など花をめでていましたが、花見で有名なのは、秀吉が天下を取った安土桃山時代の醍醐の花見ですが、庶民が花見に熱狂するようになったのは江戸時代中期以降とされています。
 このように日本文化のなかで、花は季節を感じさせる象徴的な存在でした。また、冠婚葬祭など人生の節目で、人々にとって大切な出来事を彩るのに欠かせないシンボリックな装飾品としての役割を果たすようになりました。
 明治維新以後、衣(洋服)と食(洋食)に関わる消費文化はしだいに洋風化していきました。ところが、住関連の花文化(生け花)は、日本家屋や茶道とともに和風のスタイルを残したままでした。庶民の生活に関連する出来事として、大正時代(9年)には生鮮品流通のために卸売市場が生まれました。鮮魚・精肉・青果の生鮮3品とともに、花き類(切り花、鉢物、花木類)も全国的に流通するようになりました。経済発展を支えるために農村から都市部に大量の労働者が流入した結果、拡大した消費需要を満たすために大量の商品を都市部に向けて輸送する必要が生まれたからです。花もその例外ではありませんでした。しかし、鮮度を保持することがむずかしいため、物日を除くと、他の生鮮品に比べると域内で生産された花はその土地で消費されることが主でした。
 大正時代から昭和初期にかけて、切り花や鉢物、植木の産地は、全国市場を対象にするのではなく、それぞれの地方市場に対応して発展しています。したがって、このころに誕生した花市場の中には、例えば、福岡花市場のように生産者が組織した組合としてスタートした市場もめずらしくありません。オランダにある二つの大きな花市場(アルスメール市場とオランダ・フローラ市場)がともに、元々は生産者が組織する花市場として出発したことは興味深いことです。

   《この付近に、「花き類の県外出荷比率」(輸送園芸の普及)の推移図表1》

 <第二次大戦以後:輸送園芸の発達と大量消費文化>
 花き類に関して、域内消費・域内生産のパターンが壊れ始めたのは、第二次世界大戦後のことです。1960年代にはじまる高度経済成長時代に新幹線などの鉄道輸送網が整備され、その後20年間で全国に高速道路網が張り巡らされました。これが「輸送園芸」を加速することになりました。
 販売市場が全国に広がったことで、比較的気候条件に恵まれた花の産地(愛知、静岡)は、露地栽培を温室栽培に順次切り替えていきました。年間を通して花が供給できるような栽培体系を構築していくためでした。花を周年供給できる市場機会が増えたことで、切り花生産では産地が大規模化していきます。需要が急拡大している都市部の消費市場に、効率良くしかも大量に花を供給するためでした。どの産地でも、「共選共販(共同選花・共同販売)」の体制を組むことがふつうになりました。
 強力な販売力を持った大産地からの荷物をさばくために、都市部の卸売市場(荷受け会社)では、合併による大型化・中央市場化が進展しました。首都圏や近畿圏などでは卸売市場の集約が進み、その数は一時の約三分の一に減少しました。市場の対応は、合併など組織的な取り組みにとどまることがありませんでした。物流と取引を合理化するために、同時に機械化と情報化が推進されました。場内に物流機器(台車システム)が導入され、手ゼリが機械ゼリ(セリ時計)に変わりました。そのことに対する是非はありましたが、技術的には基本的にオランダのシステムに習っています。          

  《この付近に、全国卸売市場数の推移図表2》 
  《この付近に、機械化された時計ゼリと台車などの写真》

 <花博以降:ガーデニングブームと低迷の始まり>
 幸いなことに、「大阪の花博」(1990年)が終わってからもしばらく1995年ごろまでは、日本の花産業は一貫して成長路線を歩み続けてきました。人々の生活が豊かになったことで、伝統的な冠婚葬祭の花需要に加えて、法人向けのパーティ需要や個人ギフト需要が生まれたからです。また、戦後何度か成長の踊り場を迎えながらも、長期的にはゆっくりと伸びてきたフラワーアレンジメント(スクール)の業界に、欧州を中心として海外フラワースクール(英国、オランダ、フランス、ドイツ)が進出してきました。ひとびとの興味を惹きつけ、デザイン面で新規さを提供したことで、新しい花の需要を喚起した面があったことはまちがいありません。
 最終的に、バブル経済崩壊の影響が花産業に及んだのは、一般の経済より約10年遅れて1999年のことでした。花産業が10年間の執行猶予をもらえたのは、切り花の市場が低迷をはじめた直後に、世界的なガーデニングブーム(1995~1998年)が到来したからでした。ブーム到来を予期していたように、新種の植物(ペチュニアやバーベナの交配種)とこれまでにない園芸用品(ラティス、テラコッタなど)が新しく芽生えたガーデニング市場に向けて投入されました。また、成長が著しかったホームセンターでは、園芸売場が大幅に拡張されました。さらには、園芸用品メーカーが自社で独自の新製品を開発したり、世界中から目新しい園芸用品を調達してきたことがガーデニングブームを牽引する弾みになりました。

  《この付近に、花き類(切り花と鉢物)の生産・出荷額の推移量図表3》

 約半世紀にわたって、日本の花産業は持続的な成長を止めることがありませんでした。この産業に携わってきた人々は、「ラッキー・インダストリー」(幸運な業界)で働いてきたことになります。その結果、花生産者と流通業者(卸・小売業者)は、世界でも例を見ないほど高品質な花を供給する技術を手に入れることができました。その反面で、世界的な潮流である「家庭向けの花需要」(ホームユースの花)に対しては、生産者も流通業者も遅れをとってしまうという負の遺産を継承しています。いま必要とされる「生産方式」や「販売方法」は、明らかに家庭向けのニーズです。茎が短くても生産性が高い品種の選抜、切り花の鮮度保持に対応した流通方式、セルフ販売に適した花束の加工、店頭陳列がしやすい花のパッケージデザインなどなど。
 現状では、しかしながら、産業の確かな将来像が見えないまま、日本の花産業は1999年以来、戦後はじめての低迷から脱出できずにいます。以下では、そうした日本の花産業について、生産(輸入)段階から最終消費に至るまで、花産業の現状を俯瞰することにします。なお、国内の花事情だけでなく、世界の花消費とフラワー産業の潮流を見てみるつもりでもあります。まずは、戦後一直線に伸びてきた花の生産と消費について、現状のおおよその傾向を把握してみることにしましょう。

2 世界の花生産と消費:花はどこで作られているのか?

 <切り花大国、鉢物大国>
 世界中の国は、飲み物に関して二つの異なる文化のいずれかに分類できます。つまり「ティー・カルチャー」(お茶を良く飲む文化)か「コーヒー・カルチャー」(コーヒーを好む文化)」かに分かれるのです。日本、中国、英国は、お茶好きな文化の国(ティー・カルチャー)に属しています。米国やフランスは、コーヒー文化国(コーヒー・カルチャー)に分類できます。ティー・カルチャーの国では、コーヒーは価格的にやや高めに設定されています。お茶の値段が割安だから、とくにそのように見えるようです。
 飲み物と同様に、花の消費も国別に分類ができるようです。「切り花文化」と「鉢物文化」の違いです。主として切り花を消費する国を「切り花文化の国」、鉢物(観葉植物、花壇苗・球根・芝生類)など、根付きの植物を消費する国を「鉢物文化の国」と呼ぶことにしましょう。日本はオランダと同様に、代表的な切り花文化の国です。切り花消費:鉢物消費が、両国ともほぼ7:3です。それとは対照的に、米国、英国、デンマークは、鉢物文化の国に属しています(相対比率は、3:7あるいは2:8です)。
 ただし、注意しなければいけないのは、消費パターンだけから言えば、英国はここ10年間で「切り花文化国」に変わりつつありということです。日本は逆に、少しずつですが、鉢物消費のウエイトが高まりつつあります。したがって、コーヒー文化とお茶文化の分類と同様に、この仕分けも絶対的なものではないかもしれません。

   《この付近に、世界の主要国の切り花・鉢物消費比率図表4》

 なぜ国によって切り花と鉢物の消費比率が異なるのかを考えることは、とても興味深いテーマです。国土の広さ(空間の価値、輸送コスト)、気候風土(温度・湿度などの生育要因)、嗜好の違い(飾る文化)などが考えられます。その結果として、生産・調達コストの違いを要因としてあげることができます。オランダが切り花大国なのは、切り花に関して、欧州(世界)の物流センターの役割を果たしているからです。輸入品と輸出品の物流のハブ(交差点)になっているので、切り花の種類が豊富でしかも価格が他国と比べても半分の水準だからです。デンマークは鉢物の生産拠点であり、物流センターの役割も担っています。したがって、その逆のパターンで「鉢物大国」になります。デンマークでは、切り花の価格が決して安くはありません。

 <世界の三大消費センター>
 花の生産と消費に関して、世界中の国全体を、ある程度その中で商品流通が閉じている3つの地域ブロックに分けることができます。それぞれのブロック内では、北半球にある大陸が大きな消費センターを形成し、その南側に位置する南半球の国々が供給センターの役割を果たしています。消費地と生産地の組み合わせは、(1)米国を中心とする南北アメリカ大陸、(2)オランダを中継点とする欧州・アフリカ大陸の組み合わせ、(3)未発達な東アジアブロック(現状では流動性が低い地域)の3つのブロックです。
 なお、鉢物・観葉植物は、欧州(デンマーク)の事例と幼苗のリレー栽培を除けば、基本的には国内生産・国内消費が基本です、逆に、切り花は、北半球の大陸にある消費地に向けて、南半球の生産国が切り花を供給するというパターンが定着しつつあります。

(1)北米大陸(小売市場規模:約2兆円)
 代表的な切り花の消費国は、アメリカとカナダです。1980年代にオランダと米国本土から生産技術を移転した大規模生産者が、コロンビア、エクアドル、メキシコで大規模農場を経営しています。キク、バラ、カーネーション(3大メジャー・クロップ)を中心に、ターゲット市場は米国です。15年前までは、米国西海岸に移民した日系人が切り花を栽培していました。残念ながら、その後は南米大陸からの輸入品に対して品質と価格面で太刀打ちができなくなり、切り花の生産からは撤退しています。
 米国は鉢物大国ですので、南部の諸州では米国全土に向けて観葉植物などを栽培しています。これは南部諸州からトラックで全米に運ばれています。また、花壇苗・芝類などはそれぞれの地域で生産・物流ネットワークが完結しています。ガーデンセンターやチェーン小売業は、地域の生産者から商品の供給を受けています。 なお、ブラジル、アルゼンチン、チリなど、南アメリカ大陸の国々は花の生産適地です。南米には日系人が移住して花生産に従事しています。多くの植物の原産国でもありますが、北アメリカや欧州向けには物流面で不利なことは否めません。ブラジルからはキクなどの苗物が、チリからは球根類が日本向けに輸出されていることが知られている程度です。

(2)欧州大陸(小売市場規模:約2.5兆円)
 欧州で最大の花消費国は、ドイツです。続いて、フランス、英国、オランダが花きの消費国としては重要な位置にあります。ただし、切り花の販売で収益性が高い顧客となると、スイスと北欧諸国(スウェーデン、ノルウエー、デンマーク)になります。南欧のイタリア、スペインなどは、切り花の生産国であると同時に消費国でもあります。鉢物はオランダの他に、デンマークとベルギーが輸出国です。植木類はオランダの独壇場で、ボスコープ地域とドイツ国境近くに大生産地を持っています。一部は日本向けに輸出されています。
 欧州の切り花生産は、オランダの二大市場の周辺を拠点に、中規模の企業的農家が生産を担ってきました。この10年間で買収と合併で生産者の集約化が進み、かつて平均4haだった温室規模が、現在では一農家あたり10haに拡大しています。東欧市場が開けて一時は好調だったオランダの花き産業ですが、近年では将来を危ぶむ声もあります。北米大陸の生産者が直面した事態の再来です。 10年ほど前から、オランダの花市場に、アフリカ大陸のケニアやジンバブエ、南アフリカ共和国から輸入花が大量に入るようになりました。当初、オランダの花市場は輸入品を拒否しようと試みましたが、数量制限の措置はすぐに撤回されました。赤道直下で生産された花は値段が安いだけでなく品質も良いことから、他の欧州諸国(例えば、ドイツや英国やスイス)に直接輸入されるようになったからです。オランダの生産者は、困難な時期を迎えようとしています。

(3)日本(約1.2兆円)
 他の二つのブロックと異なり、日本を中心とした東アジアの国では、いまのところ国内消費がほぼ国内供給で満たされています。例えば、日本の場合、花木類を除いた花きの国内生産は出荷ベースで約5800億円です。ここ10年間で、切り花単独では輸入金額が200億円を超えたことはありません。切り葉と球根類(2003年実績で約180億円)を両方合計すると、花きの全消費の中で輸入が占める割合は8~9%ということになります。
 ただし、この傾向がこの先も続くかとなると、やや注意が必要です。これまで切り花の輸入が増加しなかったのは、4つの要因が重なったからです。・品質の問題、・円高による価格上昇、・高い物流コスト、・厳しい輸入検疫体制、でした。将来的には、アジアからの輸入品は大量に供給されるようになれば、・と・の価格と物流費の問題はクリアされるはずです。繊維製品や野菜がそうだったように、日本人が本気で現地生産を指揮するようになれば、・品質問題は早期に解決することになります。
 そうだとすると、・水際で商品を止めることができない限りは、野菜の例を見てもわかるように、価格競争力がある輸入品は自然と増えてくることになります。とくに、北米と欧州の例を見てもわかるように、日持ち性があまり問題にならないキクやカーネーションで、輸入は増えると考えたほうが自然でしょう。いずれは、日本と中国という2大消費地を抱える東アジアは、ひとつの消費地域ブロックを形成すると思ってまちがいありません。
 なお、育種や育苗では日本企業(農業協同組合)が積極的に海外に進出している面もあります。図●でわかるように、新規参入組と言われるキリンビールやサントリーなどが海外で積極的に事業展開をしていることがわかります。また、沖縄県花き協同組合(太陽の花)などがインドネシアで育苗施設を持っています。

3 日本の国内市場

 <国内の花生産>
 日本国内で栽培出荷されている花は、表●に掲載した通りです。世界的に見て、キクの生産量が断然多く(仏花、葬儀用の比率が高いことの反映)、バラの生産が少ないのが日本の特徴です。出荷額は少しずつ減少していますが、生産数量は目立って減っているわけではありません。一本単価は、この5年間で約15%下落しています。切り花で56円、鉢物で321円です。
 2000年の統計データによれば、日本の花き生産農家は、約15万戸となっています。そのうちの約2割が花き専業農家です。花き類の総生産額は、同年に5,800億円でした。その内訳は、切り花2,600億円、鉢物1,200億円、花壇苗400億円となっています。なお、この統計には、花木類1,400億円、球根50億円、芝類その他130億円が含まれています。
 農家の平均経営規模は、日本の農業に典型的に見られるように、非常に小さいのが特徴です。平均栽培面積は約0.3haですが、国全体としてみると総栽培面積は45、500haで、中国に次いで世界で二番目の規模になります。栽培品目の特徴としては、キク、バラ、カーネーション(主要3品目)の占める割合が高いことがあげられます。とくに、キクとカーネーションで全体の半分を占めています。両方ともスタンダードタイプの生産は減少しており、スプレイタイプのものが増えています。これは、業務用から家庭用に需要構造が変わっていることを反映したものと考えられます。
 とくに注意すべきことは、日本の国土が縦長であるために、季節の移り変わりとともに、生産地が南から北に移動していくことです。また、高温多湿の気候風土は、病害虫の発生を招く原因になっており、周年生産を難しくしている側面もあります。

     《この付近に、切り花と鉢物の平均単価推移図表5》
     《この付近に、主要品目(切り花と鉢物)の構成比図表6(円グラフ)》

 <花きの流通>
 流通経路としては、卸売市場を経由している割合が高いことがあげられます。切り花では90%が市場経由であり、鉢物・花壇苗で70%は市場を通して流通していると推定されます。5年前はそれぞれ95%と75%でしたから、他の生鮮品と同様に急速に市場経由率が低くなりつつあることも事実です。 毎年50%程度売上が伸びているネット販売では、生産者との直取引が増えています。また、生産者から小売店や量販店チェーンへ花が直送される比率は、近年まちがいなく増えています。統計データには表れていませんが、花壇苗などでは、実際には統計(400億円)の数倍が市場を経由しないで流通していると考えられているようです。
 卸市場の役割は、セリ取引から相対取引へ移っています。首都圏の大きな市場(例えば、大田市場)では、季節によっては、総量の70%以上が相対で取引されているとみられています。大都市部の期間市場では、通年平均して約半分がセリを通さないで販売されていると報告されています。この比率は、ますます高まる傾向にあります。その理由は、主たる販売経路に変化が見られるからです。
 市場の購入先(買参人)が、伝統的な花専門店・業務用から量販店にシフトしつつあります。中規模の仲卸業者と花束加工業者は、合計で約300社と言われていますが、現在のところ、欧米で見られるような大手加工業者(インターグリーン、ドール・フレッシュフラワーズなど)は存在していません。もちろん、近い将来において、大規模な加工業者が現れる可能性は高いと考えられますが、まだまだ時間が必要と見られています。

     《この付近に、花の流通経路図表7》

 <花きの需要>
 花きの最終消費需要は、花木類などをすべてあわせると、1.2兆円と言われています。ただし、これには、ガーデン用の資材類などは含まれていません。肥料や農薬、木製品などを合わせると、本当は1.8兆円くらいの市場規模があると考えれます。 切り花と鉢物(花壇苗含む)の業務用と家庭用の比率は、10年前は8:2でした。現在は7:3と推定されています。経済の停滞は業務需要の減少を招きましたが、ギフト需要では、個人ギフトがむしろ増加の傾向にあります。これは、ネット販売などの販売機会が増えたことを反映したものです。鉢物の単価下落に見られるように、法人・業務需要はいまでも減少を続けています。

 <花小売店の現状>
 日本全国で花を販売している小売り専門店は、28,600店(1999年)です。平均的な売上高は、全国平均では年商約2,800万円です。都市部では繁盛店が多いので、平均3,800万円となっています。一日の売り上げでみると約10万円ということになります。客単価を3,300円と想定すると、平均客数が約30人であることがわかります。専門店のビジネスとしてはごく小さな商売だということがわかります。
 平均のマークアップ率は、仕入れに対して2.5~3倍と言われています。ロス率は、20%弱(SMでは5%が目標)です。最終粗利益率は30~40%になりますが、優良専門店チェーンでは売上高純利益率が10%という企業もあります。
 量販店で花を取り扱っているのは、全国に5000カ所あるといわれています(97年統計)。これには、総合スーパーと食品スーパーの両方が含まれています。これ以外に、全国約1500カ所のホームセンターで、切り花が取り扱われています。切り花の取り扱い比率(6500カ所)は年々高まっています。その他(八百屋、ガソリンスタンド、行商など)を合計すると、15,000カ所で花が売られていると推測されています。ネット販売の店舗が約10,000カ所とも言われていますので、全体を合計すると花専門店と数の上ではほぼ匹敵することになります。
 近年の傾向として、ホームユース(家庭需要)に的を絞った花小売店のチェーンが登場してきたことがあげられます。青山フラワーマーケット(40店舗)、プランツ・プランツ(30店舗)、花良品(20店舗)などです。都市部のショッピングビルや一定の交通量が確保できる場所に店を構えるこれらの小売店は、リピート客が多いのが特徴です。10坪から20坪の売り場面積で、平均日販が約20~30万円です。標準的な専門小売店の2倍の坪効率を達成しています。
 なお、切り花の典型的な生産費と流通費は、農水省の調べ(平成13年)によると、以下●のようになっています。また、筆者が1997年に調査した結果では、切り花1本の小売販売価格を150円とすると、生産者の受け取り分は54円(36%)、物流費を含む中間流通費用は、21円(14%)、小売業者の受け取り分(マージン+販売経費+ロス)は、75円(50%)と推定されています。

     《この付近に、切り花の典型的な生産・流通コスト図表8》

4 日本の花き輸入の現状

 <切り花>
 日本の切り花輸入は、2001年度で188億円でした。この10年間、為替変動による上下はあっても、基本的な需要にはほとんど変化がありません。意外に大きいのは、48億円を占める「切り葉と枝もの」です。具体的には、そのほとんどが中国からの榊(仏花需要)です。切り花・切り葉の合計236億円は、国内卸取引額の7~8%になります。
 輸入国は、オランダやコロンビアからその他の国にシフトしつつあります。勢いを伸ばしているのは、韓国(バラ)、マレーシア(スプレイキク)、インド(バラ)、切り葉(中国)、カーネーション(コロンビア)となっています。それでも、遠い国から近い国に産地が変わってきているのは顕著です。
 それでも、エキゾチックな花は、オーストラリア(プロテアやカンガルーポー)や米国(アンスリウム)から輸入されたり、オーキッド(デンファレ)がタイやシンガポールから輸入されるという基本的な流れに変わりはありません。

 <球根の輸入>
 15年前までは、切り花生産用とガーデン需要の両方とも、球根は国内で生産されていました。富山県と新潟県が主産地でしたが、現在はオランダが最大の球根供給国となっています。一番大きな理由は価格です。国産と輸入品の価格差はほぼ二倍です。また、オランダ球根輸出協会のマーケティング努力もあって、花の専門誌などで新品種の球根がいち早くの日本に紹介されてきた効果も少なくありません。2001年では、年間132億円のチューリップ球根が、オランダを中心に海外から輸入されています。輸入球根はチューリップとユリが大半を占めています。90年代の初めに球根の輸入が急増し、現在では年間200億円が輸入されています。

     《この付近に、切り花と球根の輸入額推移図表10》

 <鉢物・苗物>
 鉢物は、幼苗を海外で育成して、日本へ輸入するリレー栽培が増えています。仕掛けているのは、日本の鉢物業者です。苗と球根類で、同じ業者が海外生産を手がけていることが多くなっています。台湾、ベトナム、ニュージーランドなどです。 苗もの類(キクの挿し穂など)でも、海外依存度が高まる傾向にあります。統計には表れていないが、苗の輸入先は、インドネシア、ブラジル、フィリピン、中国、ベトナム、マレーシア、台湾などです。

5 花き産業の変化と課題

 世界経済の低迷で成長スピードはやや鈍っていますが、世界的に見ると花の産業はいまだ潜在的な成長性が高い産業といえます。先進国の消費市場は飽和期を迎えていますが、とくに東欧・ロシアやアジアの新興諸国では、今後とも高い成長性が期待されています。すでに、中国は切り花の消費量(2003年に年間推定90億本)では、日本を追い抜いたと見られています。欧州の花産業を牽引しているのは、ロシアと東欧の経済成長です。
 花きの流通についても、この10年で大きな変革が起こっています。そのひとつは、電子取引市場の誕生です。ネット取引の中で最初に注目を浴びたのは、書籍(アマゾン・ドットコム)とフラワーギフト(1800-flowers)でした。両者ともに、ネットビジネスが立ち上がるやいなやすぐに、米国では取引額の10%のシェアを占めるようになりました。市場取引中心のオランダや日本でも、多くの電子取引市場(B2B)が生まれました。オランダでは、輸入品に特化した電子市場が誕生し、伝統的な花市場でも電子化が急速に進展しました。日本では、中央市場への統合と同時に、機械化が進みました。中央市場では、取引の半分以上が実質的には電子取引となっています。
 オランダに端を発した鮮度保持技術の普及とバケット流通の流れは、数年前から日本にも移植されいます。後述するように(p.●)、英国のスーパーで「日持ち保証販売」が導入されると、切り花の消費が急速に伸びました。90年代を通してオランダ花産業の繁栄を支えたのは、他でもないイギリスの切り花市場の好調でした。また、英国市場をターゲットに、オランダの花束加工業者が大陸で成功を収めました。
 米国で花産業を牽引していたのは、FMA(フローラルマーケティング協会)でした(2001年に組織解散)。花きコード体系の確立(情報化)、切り前の標準化、従業員研修システムなどを完成させました。その後の活動は、FPO(フラワー・プロモーション協会)に引き継がれています。大量広告投入によって、花の消費を伸ばすキャンペーンを2000年から現在まで続けてきています。日本でも参考になる事例です。
 なお、最近のトピックスで注目すべきは、欧州で進展が著しいMPS(環境に優しい花づくり)の動きです。すでにMPSによって認証されている生産者は、オランダでは全体の75%であると言われています。とくに欧州を輸出のターゲットしているアフリカや南米諸国では、MPSの導入が急速に進展しています。中国花き協会も、2004年にMPS導入を決定しています。日本もJFMAを中心に、導入が検討されています。

6 MPS:“安心・安全”という花のブランド(本文、オリジナルとは異なっています)

 最近のトピックスで注目すべきは、いまや世界的に進展が著しいオランダ発祥のMPSの動きです。MPSとはオランダ語でMilieu Programma Sierteeltの頭文字をとったもので日本語では「花き産業総合認証プログラム」のことです。環境・法令・品質等の基準に適合した花の生産や流通をおこなっている実践的活動を認証するプログラムです。1995年に花の先進国オランダで開発されました。 
 1980年代後半からヨーロッパでは農業が環境に与える影響について関心が高まり、1995年から農薬、エネルギーの過剰使用など環境対策を制度化した花き生産者のための認証プログラムが普及してきました。これがMPSです。また、2000年からは花き生産者・流通業者のISOといわれる認証プログラム:Florimark がスタートし、2004年に両プログラムが合体し花き産業における総合認証プログラムとなりました(MPS-Florimarkに一本化)。 MPSによって認証されている生産者は、オランダでは全体の約75%であると言われています。とくに欧州を輸出のターゲットにしているアフリカ、南米諸国、東南アジアでMPSの導入が急速に進展しており、現在34カ国においてMPSは取り組まれています。特に中国は国を挙げて取り組んでおり、2008年3月から認証スタートが予定されています。 MPSは○頁の図の1(仮番)のように大きく2つの認証体系に分けられます。一方は花き生産業界のための認証「MPS-Florimark Production」です。これは花き生産者を参加対象とし、環境対策(MPS-ABC)、鮮度・品質管理(MPS-Quality)、商品の安全基準(MPS-GAP)、労働環境や健康といった社会規範(MPS-Socially Qualified)などの複数の認証プログラムによって構成されます。もう一方は、花き流通業界のための認証「MPS-Florimark Trade」です。これは花き流通業者を参加対象とし、生産物のトレーサビリティ(Florimark Trace Cert)、環境対策、鮮度・品質管理(Florimark GTP)、ISOの基準に適合する業務プロセス(ISO9001:2000)などの認証プログラムによって構成されます。「MPS-Florimark Production」、「MPS-Florimark Trade」は独立した認証プログラムとなっており、参加者の状況や必要に応じて個別に取得できます。そして生産と流通に関するすべての認証を取得すると業界最高ランクの認証を取得できる仕組みになっています。

 図1(仮)

  MPSシステムの特徴のひとつは認証参加者に対して第3者による監査が義務付けられていることがあげられます。すなわち、生産、流通の各段階において、花き生産物のトレーサビリティの確保が第3者によって証明されている点です。 MPSは花き業界が一体となって環境対策や鮮度・品質管理の取り組みを評価する認証制度です。これまで、国内の農業分野においては環境や鮮度・品質への取り組みは、各業界内に限られていました。業界相互、さらに消費者へ浸透が充分にできていませんでした。MPSは生産段階だけでなく、流通業者も取り組む認証プログラムであり、花き業界全体で環境や鮮度・品質管理に対して取り組んでいることを消費者に対してアピールできるシステムです。 日本におけるMPSのもっとも大きなポイントは、日本オリジナルのロゴマークをつけるようにしたことです (図の2(仮)のマーク)。このマークがついた花は、生産・流通の過程で世界共通の基準である花き業界の総合認証MPSに参加している日本産の花であることを示します。ケニアや中国でMPS認証を受けた花でもない、日本においてMPS認証を受けた日本の花であることを示します。つまり「MPSJapan」というブランドによって、他の国の花との差別化を可能にします。

 図2(仮)では、日本の花き業界においてMPS認証がスタートすることにより、どのようなメリットが想定されるでしょうか。それぞれの業態によって次のようなメリットが期待できます。小売業者・・・トレーサビリティの保証、環境に配慮した安全な商品の販売環境対策に貢献している小売店をアピール流通業者・・・トレーサビリティーの保証、安心・安全な商品の流通、社会の信頼、優先的な商取引の可能性生産者・・・農薬・肥料等の使用量低減、集積されたデータによる経営改善消費者・・・生産履歴の明確化、品質面での信頼感の増加、花を安心して買うことができる JFMAは2002年よりMPSの導入を検討してきましたが、2006年5月5日にオランダMPS財団と契約を締結し、日本におけるMPSの総代理権を取得しました。さらに、同年8月1日には日本におけるMPS認証を運営するための日本法人:MPSフローラルマーケティング株式会社を設立しました2006年9月から生産者のための認証MPS-ABCから認証の参加申し込みを開始することになりました。
 ヨーロッパにおいて花は他の生鮮食料品と同様に認識されています。MPSは環境にやさしい安全な商品を求める人々のニーズにこたえる形で発展してきました。これは世界的な流れでもあります。日本でも食品の安全性と同様、花に対して一定の環境基準や品質が目に見える形で求められる傾向は強くなるでしょう。環境にやさしいロゴマークのついた花とそうでない花とが店頭に並べて置かれたら、いずれ消費者は選ぶようになるでしょう。
 オーガニック(Organic)やロハス(Life style of Helth and Sustainability)といったキーワードがこれだけ世の中に流布している今、「農薬や肥料を減らした花」は花そのものの持つナチュラルなイメージをよりアップした形で消費者に伝えるチャンスです。花にとっても野菜や果物のように安心・安全であるといったイメージは重要な要素です。 安心、安全なイメージを付加した花を販売することで、需要を開拓する可能性があります。MPS認証がスタートし、MPSJapanロゴマークがついた花が日本市場に流通することは「環境にやさしい」、「安心・安全」を新たな「Japanブランド」と提案することで花のブランド化にもつながります。つまり、MPS認証の導入は花き業界において花の新たな付加価値を創造するためのチャレンジでもあるといえます。
 JFMAでは花のマーケティングとプロモーションを行っていきます。JFMAによるプロモーション活動として「花のある生活」のすばらしさをもっと消費者に対して伝えていくために、2006年度から「プロモーションプロジェクト」をJFMA内でスタートしました。花の消費拡大を目的とするプロジェクトで、メンバーが比較的若いのが特徴です。このプロジェクトでは「Shall we flower?」を共通のキャッチコピーとして「花業界のブランディング」を目的としています。花を「いつでも、どこでも、誰にでも」「買いたい時に」「気持ちよく買える」社会的な環境づくりに役立てるような活動を行っていきます。