有名な経営コンサルタント(波頭氏)と企業再生請負人(富山氏)の対談集に対して、★3つは、ちょっと厳しい評価かもしれない。内容は悪くないのだが、わたしのシビアさは、つぎの二つの点を反映したものである。
第一に、ターゲットと内容の不適合である。書き手が、誰に対して、この本を読んでもらいたいと考えているのかあまり明確ではない。明確なのかもしれないが、標的が狭い気がする。
推測は、プロのコンサルタント志望の若者たちがメインターゲットである。それならば、明らかに、内容に比して表現がむずかしすぎはしないだろうか。対談形式の書籍である。想定された読者にむかって、もっとわかりやすく話すべきであろう。
ふたりの会話は、楽屋落ちが多すぎる。ふつうにしゃべっているつもりが、書籍にしたときには語りが滑っている。つまり、説明がていねいでないのでは?と、わたしは言いたいのである。
各ページに「注釈」はついているが、そもそも、むずかしい概念(たとえば、ファイナンスのM-M理論)がわかっているひとには、注釈は不要である。逆に、知識が十分でない人(経済学や経営学の素養が十分ではない、若いビジネスマン)には、注釈を見ても、二人の会話の背後にある経営現象が理解不能だろう。
第二番目に、ふたりが話している経営のコンテキストについてである。読者の常識をどの程度、前提としているかということである。
わたしのような研究者や、この本を推薦してくれた小川浩孝氏(米国MBA取得、元外資系社長)のような経営のプロには読めても、コンサルタント志望の一般ビジネス人には、かなりのコンテクスト(背後関係と知識の前提)が意味不明なのではないだろうか?
余計なお世話かもしれないが、書いてあることが正しいだけに、そして、論点が良いところをついているだけに、この点が残念である。頭の良い人たちの欠点(わかっている人にしかわからない話し方)が、よく出ている対談である。
わたしは、後半部分は、飛ばし読みをしてしまった。ある程度の知識をもったコンサルタントや学者には、自明な議論が多いのである。この種の議論を、本で読むほどのことはない。そのような印象をもってしまった。
良い点を上げておく。内容的には優れた本である。
第1章「日本企業が変革できない本当の理由」は、おもしろい。戦略は革新的な方向に向かうが、組織の原理は変化を嫌うという観点である。たしかに、日本企業が変革に向かえないのは、感情や雇用の組織問題が背後にあるのだろう。
第5章「東京デジタルホンVSドコモ」は、秀逸な事例研究である。わたしは、当初から藤原紀香に乗せられて、Jフォン、ボーダフォン、ソフトバンクと利用を継続した身である。波頭氏たちが、女性向けの市場を作ってきた戦略構築の歴史を読むと、なぜ専門職の女性が利用者に多いのかがよく理解できた。そして、お水系のお姉さんが、ボーダフォン利用者として主である理由もよく呑み込めた。
ソフトバンクになってからは、実は、この顧客ベースが役に立っていることも、第5章を読むとすっきり理解できる。孫さんは買収が上手である。
なお、第6章「日本が世界で勝つための戦略」は、わりに悲観的な見解と読める。また、「若いときに現場を見に行け」は、わたしたちにも常識である。
それゆえに、「いまさら、プロのコンサルタントが、こんな当り前で、元も子もないロジックを展開するなよ」と言いたくなる。ふつうのコンサルタントもわかっていることで、これは余計なお世話である。
というわけで、書籍としての表現方法にはクレームをつけたが、ある水準の経営知識のあるひとには、すごくおもしろい本である。しかし、技術系のひとや、経営・経済の知識がない一般人には、読んでもあまり面白みは伝わらないだろう。