仕事には浮き沈みがつきものである。スランプから抜け出す方法を、ライディン&ポール&クリステンセン『フィッシュ:鮮度100% ぴちぴちオフィスのつくり方』早川書房(2000)が教えてくれる。
いつか書評で紹介したことがあるパコ・アンダーヒル著『なぜ この店で買ってしまうのか?』は、ミネアポリス空港の書店で見つけて一気に読みきってしまった本である。実は『フィッシュ』も、その同じ書棚に並んでいた本であった。手を伸ばしてみたものの、レジまでは持っていかずに、存在そのものをほとんど忘れかけていた。それが、4年後に翻訳書で偶然に再会することになった。早川書房から翻訳が出ていることを、先々週Amazon.comの検索で発見した。縁があったのだろう。とてもびっくりした。
われわれが仕事でスランプに落ち込むのには、いくつか理由がある。典型的なケースとしては、自分の言動が原因になって、失敗したり悲観的になる場合である。もうひとつは。周囲の環境、たいがいは、オフィスや仲間の行動が悪い方向に向いてしまっている場合である。「フィッシュ」(魚市場からヒントを得ている)の著者は、いずれにしても、本人の気の持ち方ひとつで、状況が良くもなれば、改善不能なほどに悪くもなると教えてくれている。
本人の気分と仕事仲間(オフィス環境)を元気に変えるポイントは、以下の4つである。
(1)「態度を選ぶ」:いつでもポジティブな姿勢で、仕事に取り組むように心がける。
仕事は誰かから与えられるものではなく、自分から選んでいるんだと考えるようにし向けること。たしかに、どこからか降ってきて、強制的に「何とかこなさなければならない!」と思ったとたんに、お先真っ暗になることが多い。気持ちの落ち込みから抜け出すためには、自分に対しても周囲の人に対しても、その仕事は天から授かった「幸運」であると感じさせることである。う~ん納得。
(2)「遊ぶ」:仕事のなかに遊びの発想を取り入れる。
仕事がいやになるのは、それを「苦役」だと感じているからである。たとえば、わたしたち研究者たちは、調べものや書きものを遊びだと思っている。白状すると、若い頃は原稿の締切りが迫って来るのが「恐怖」だった。しかし、老人になったいまでは、恐怖感が消失してしまっている。編集者に叱られて、それでもうまく原稿が書けないで悶絶している自分の姿を、人ごとのように楽しんでいるからである。
例えば、無事に締め切りが守れたら、本日はフランス料理のランチを楽しむことにするとか、本屋(出版社)を一ヶ月待たせなかったから、来月は温泉旅行するとか。仕事に遊びの要素を加えると、その瞬間に気分が開放されてしまう。とはいっても、わたしが単に物事に鈍感になっただけかな?とも思うけれど。
(3)「人を喜ばせる」:顧客や同僚を楽しい雰囲気にさせる。
人を楽しませると、いつか必ずやその結果が自分に返ってくる。楽しい雰囲気作りに成功すると、自分が落ち込んだときに逆に救われることが多い。楽しいことがきらいな人はいないばずである。喜びは「情報財」である。コピーしても減らない。楽しみの程度は、たったひとりより、たくさんの仲間で共同で消費したほうが満足度が高い。だから、他人を喜ばせると、自分の喜びも大きくなる。
フレンチで、温泉で、お遊びのために散財するけれど、食事や旅行で楽しい思いをしたことのムードは、仕事場に戻っても持続している。(脱線?)
(4)「注意を向ける」:ひとがあなたを必要としている瞬間を逃さないように。
気配りの才能は、ひとによってちがう。天才もいれば、凡才もいる。しかし、どんなひとでも、他人に対して興味を持つことはできる。人間はそのように生まれついている。問題は、彼や彼女がやさしい「まなざし」を必要としているときに、それとなくそのことを相手に伝えられるかどうかである。
むずかしいことだが、「注意を向けてもらっている」と他人に感じさせることはできるように思う。気持ちの持ち方ひとつかもしれない。だれでも、他人から敬意を払われている(英語では、take care or caring?)ことに対して、それを感じとる能力(sensing)は持っていると信じたいですね。
「フィッシュ」は、132頁のハードカバーの文庫本です。興味のある方は、是非お読みください。でも、本体1200円は高いな~。早川書房さん!