【新刊紹介】 芹澤健介(2018)『コンビニ外国人』新潮新書(★★★★)

 タイトルに”コンビニ”はついているが、本書はコンビニの本ではない。労務管理の本でもない。日本で働いている外国人の実情を描いたルポルタージュである。留学生や研修生が最初に日本人(文化)と接触する場所がコンビニである。書名が「コンビニ外国人」となった理由である。決して「コンビニ人間」を想起してこの本を買ってはならない(笑)。

 

 本書で描かれている外国人留学生や技能実習生の様子は、わたし自身もコンビニや花や野菜の農場、食品加工場の取材でよく見かける。ごく日常的な風景ではある。一時期に比べて、コンビニや製造現場では、中国人や韓国人に代わってベトナム人やネパール人が増えている。本書を読むと、統計データとともにその実態が確認できる。

 外国人移民(本書の定義では、留学生や実習生も「移民」に含まれる)は、現在約200万人。外国人観光客が年間約3000万人だから、移民の数200万人は少ないように感じる。また、コンビニで働く外国人が4万人となっているが、このデータも実感とはややずれている。なぜなら、日本のコンビニエンスストアは約6万店あるが、外国人アルバイトが4万人だとすると、コンビニ一店舗につき外国人は0.66人になる勘定だから。実際には、もっと多いように感じる。都内のコンビニに行けば、9割がたは留学生や技能実習生の名目で日本に滞在している外国人である。

 留学生や技能実習生を「移民」と定義すべき理由は、その滞在期間にある。日本語学校に入学してから、その後に専門学校や4年生の大学に進学すれば、留学生は3年~5年は日本に滞在する。これまで3年がマックスだった技能実習生の滞在期間が、今度は最大5年に延長される。こちらのほうも、5年近くは日本で住むことになる。日本の移民政策は現状では「グレー」だが、実質的には移民を受け入れていることに変わりない。

 

 ところで、いまや外国人なしにコンビニの業務は回らなくなっている。

 「外国人クルーに多く依存しているのが現状。これからのコンビニ経営は外国人スタッフ無くしては成り立たない」(都内のコンビニオーナーの言葉)。

 ところが、コンビニで外国人が働くのは、原則として入国後の1~2年までらしい。本書の冒頭で紹介されている元東大大学院生のように5年以上もコンビニで働く学生はめずらしいらしい。日本語学校から4年生の大学に進学すると学業が忙しくなる。また、日本語が上達していくと、別のアルバイト職種に移るのか。その理由が解説されていておもしろかった。

 逆に、日本人の若者の事情を観察してみると、いまやコンビニでアルバイトで働く大学生は稀になっている。カフェや飲食店、アパレルのほうが仕事が楽しいのだろう。マニュアルが完備されていて、接客が必要とされないコンビニは、相対的に時給が安い。

 時給が高い夜間労働は、日本人の学生はきらう傾向がある。また、仕事があまり創造的ではないことも、日本人がコンビニから消えている理由に上がっていた。 

 

 本書の重要なメッセージを解釈してみる。「2020年(東京オリンピック・パラリンピック)の先を考えよ!」と筆者は述べている。

 筆者が主張しているように、戦前においては日本も米国やブラジルに移民を送り出してきた。それが、いまは移民を受け入れる側に回っている。移民という現象は、移民先と移民元の経済的な格差が背景にある。だから、いずれ途上国と日本との間に所得格差がなくなると、海外から移民は来なくなるだろう。

 そのとき、農業や製造業、サービスや小売業の現場で不足する労働力を、日本はどのように調達するのか。これが難題である。働く人がいなくなるのだから、自分たちで自分たちの面倒を見なくてならなくなる。あるいは、AIのロボットに頼るか、もっと抜本的に自動化を進めるのか。

 もうひとつの本書の大切なメッセージは、移民とどう向き合うかだろう。わたしも二年間、米国に「短期移民」したことがある。人種的な差別は、何も日本人に特有なものではない。世界中どこでも人種差別はある。そんなことを気に病んでしかたがない。本書の中でも、中国人や韓国人の留学生が、その他の国(「黒い人」)のネパール人やベトナム人を差別するエピソードが紹介されていた。

 

 本書で深く掘り下げられるべき重大なトピックスがある。それは、移民が日本にうまく定住できるかどうかである。この点は、部分的にしか触れられていなかった。もう少し留学生の定住後を考えてみてほしかったのだが、この視点についてまったく無視されていたわけではない。以下は、わたしのシミュレーションである。

 住宅環境さえ整えれば、日本は外国人が暮らしやすい国になる可能性がある。というのは、日本ではこれから空き家がどんどん増えていくからだ。田舎はもちろんのこと、首都圏のような都市部でも人口が減少するから住宅は余ってくる。2020年以降は、地価と家賃が下がり始めるだろう。生活費も暮らしやすいところまで低下する。

 これは、日本に定住することを考える外国人にとっては良い環境変化である。日本は、清潔で安全で楽しい国ある。これに「物価が安い」が加われば、さらに暮らしやすい国になる。実は、ウサギ小屋だが、生活インフラは整っているのである。第7章「町を支えるピンチヒッター」で取り上げた地方都市(北海道東川町、広島県安芸高田市)や新宿区(しんじゅく多文化共生プラザ)のように、外国人を歓迎する地区もある。

 大企業でも一時期より留学生の採用を増やしている。日本で起業する外国人も増えている。第6章「ジャパニーズ・ドリーム」では、日本に留学生した学生たちが、のちに飲食業のスタートアップで成功した事例が紹介されている。将来の可能性がある場所に、知恵と人材は集結する。日本がそんな国に変わる兆しは、消極的にでも「外国人移民」を受け入れるところから始まるように思う。