【書評】神山泉(2018)『外食業・究極の成功セオリー』FB出版(★★★★)

 めずらしいタイプのビジネス書を読んでみた。フードビジネス系のコンサルタントが書く本は、実務的にすぎて読後に残るものが少ないから、いままでは避けてきた。日経新聞か日経MJでたまたま広告を見て、ジョナサン創業者の横川さんの本と一緒に購入した一冊だった。どちらもFB出版からの刊行物である。

 

 著者の神山泉さん(フードビズ主幹)は、ときどき雑誌などで見かけることもある。飲食店経営の雑誌で有名な柴田書店の出身である。出版社の住所をみて驚いた。千代田区富士見2丁目だったからだ。法政大学富士見キャンパスのすぐ隣の敷地ではないか。飯田橋駅近く、東京大神宮前に「株式会社:エフビー」があった。

 帯がとてもキャッチーでおもしろい。「成功は保証しませんが、失敗を遠ざける「繁盛の黄金律」とある」。飲食店の「やってはいけない法則」を経験から説いている。通読して、納得することが多かった。

 読者のターゲットを、個人店でもチェーン店でも、どちらに絞り込んでいないところが興味深い。狙いは、その両方なのだろうから。それが証拠に、裏表紙の帯には「個店もチェーンも、成功原理は同じ」とあった。

 

 <勉強になったセクション>

 04:メニューが増えると客数が落ちる

  → 飲食店でも絞り込みが必要、マーケティングとオペレーションの両側面からこれは正しい

 05:価格幅は狭く、価格ラインは少なく

  → かつて、JRCの渥美先生が口を酸っぱくして言っていたこと。

    シンプルな価格付けと値ごろ感は、すくないプライスラインから生まれる 

 09:本当に無理か? 「原価率50%」が繁盛店を生む

  → 飲食店業界の常識=原価率35%と逆行する高原価率モデルの推奨

    いきなりステーキや俺のフレンチの登場で、成功モデルが生まれた

 19:食材、機器、技術の三拍子で看板商品をもっと強くする

  → 飲食店の不断のイノベーションは、この3つの要素から生まれている

    これを怠ると「看板倒れ」になる

 

 <当たり前の主張ではあるが、再確認できたセクション>

 *解説は省略する。たまたま連続セクションになっている

 32:コンビニにできることは、やるな 

 33:年を取ると「卒業」されてしまう商売は、危険がいっぱい

 34:1店の繁盛店が多店舗化の出発点になる

 35:超・高利益店だけが多店舗化を許される

 

 <興味深いのは、あとがき>

 おもしろかった最後の記述は、「京都では、チェーン店のことをすべてひっくるめて「外資系」と呼ぶようです」ではじまる「あとがき」。神山さんは京都人ではないだろうが、マクドナルドやKFCやスタバはもとより、純国産のモスやガストも「外資系」と呼ぶらしい。初めて知ったことなのだが、なんと京都出身の代表的なチェーン店「餃子の王将」まで外資系らしいのだ。

 詳細は、読者にゆだねるとして、個店とチェーン店をここまで厳密に切り分けるのは、実に京都らしいと思った。わたしが、娘のところに泊まりがてら訪れた「嵯峨嵐山のおばんざいの店 いのうえ」などはその典型なのだろう。

 たしかに、チェーン店ではないが、個店の繁盛店である。基本は本書に書かれていることを忠実になぞっているということだろう。だから、ビブグルマンの店として毎年リストアップされている。

 著者の主張にあるように、「個店の繁盛店があることが、チェーンにとっても大事なのです。同じ外食業なのだから、成功するための基本は同じです」。それと、チェーンも最初は一店舗からスタートしています。当たり前のことなのですが、、、