【新刊紹介】岩崎達也・高田朝子(2021)『本気で地域を変える:地域づくり3.0の発想とマネジメント』晃洋書房(★★★★)

 法政大学イノベーションマネジメント研究科の同僚、米倉誠一郎教授が、本書のために帯を書いてくださっている。曰く、「地方創生を科学する!無駄金を使う前にこの本を読んで欲しい。たった9つの自己診断で明日が見える!」。さすがに米倉先生だ。本書の売り方をよく心得ている。

  

 地域づくりに関する類書が多い中で、本書はユニークな枠組みとアイデアを提供している。地域づくりを仕事にしている人たちにとって、有益なアイデアがてんこ盛りだ。まちがいなく役に立つことを保証する。

 著者の岩崎教授と高田教授は、法政大学のわが同僚である。岩崎先生は大学院の教え子で、高田先生を法政大学にスカウトしてきたのはわたしである。本書の出来不出来には、共著者たちの“出版仲人”であるわたしにも大きな責任がある。だから、第3章を読み終えるまで、正直に言えばドキドキしながらページをめくっていった。
 おふたりの著作に、とりあえずは合格点(★4)を差し上げることにする(上から目線ですいません)。ただし、満点の(★5)は差し上げられない。その理由は、この先で述べることにする。フルスコアがつかないのは、この本のアイデアはさらに改善すればもっと良くなる可能性があるからだ。
 それでは、本書の解説をはじめてみよう。

 

 本書は、とても読みやすい。全体が6章構成で、参考文献と索引を入れても125頁。通常のビジネス書の半分の厚さだから、2時間もあれば読み終えることができる。内容も難解ではない。テクニカルターム(専門用語)が部分的に使用されてはいるが、経営学を知らない一般人でもわかる範囲の表現で説明がなされている。

 本書のテーマをごくおおざっぱに言えば、「地域つくり3.0」である。「地域つくり1.0」は、従来型の行政主導の地域つくり。箱もの行政ともいわれた時代の産物。「地域つくり2.0」は、官民半々の関与で、くまもんやひこにゃんなど「ゆるキャラ」に代表されるイベントとキャンペーン主体の地域活動だ。

 著者たちが主張する「バージョン3.0」では、地域が主役となり、自分たちが稼ぐための仕組みづくりに励むことになる。「地域つくり3.0」では、広告代理店や旅行会社は地域を支援する役割を担う。観光業も同じである。「地域つくり3.0」の時代は、東京の旅行代理店の企画はご法度になる。企画立案の主体は、あくまで地域の住民たちになるからだ。

 本書は、そのための方策について具体的な枠組みを提案している。本気で地域が自立できるためには、どのようなフレームワークが必要だろうか。 

 

 以下の部分では、評者の視点から、本書の主張をやや乱暴に翻訳してしまう。著者の岩崎さんと高田さんには、わたしの主観的な翻訳と解釈をお許しいただきたい。

 地域つくりには、ふたつの重要な機能が必要である。「地域を売り出すためのコンセプトづくり」と「地域を活性化するための組織づくり」である。役割分担として、前者のマーケティングの部分(第3、4章)は、岩崎さんが担っている。後者の組織論に関わるパート(第1、5、6章)は、高田先生が担当している。
 共通執筆部分は、地域資源を診断するための枠組みに関わる第2章「地域資源と観光資源を可視化する」(第6章「マインドセットを変える」も部分的には共同作業か?)である。提案された「9つの自己診断フレーム」は、「TAIモデル」(Total Asset Indexl)と名付けられている。地域資源を分類し、特徴的な資源を書き出すための“自記入式の診断カルテ”である。

 このカルテは、地域内のステークホルダー(当事者)だけでなく、地域外の潜在的な来訪者(外部者)にも記入してもらうとよいとされている。

 

 書評の冒頭で、「改善すればもっとよくなる可能性がある」と指摘したのは、このモデル(TAI)についてである。「箱物資源」から「県民性」を介して「伝統工芸品」まで、9つの要素を単純に縦横に並べるだけはもったいない。わたしならば、新しい軸を導入して、ちがった区分けをしてしまうだろう。

 ちなみに、テキスト(文字)だけで2次元を表現するのは難しいが、岩崎・高田のTAIモデルでは、地域資源が以下の9つに分類されている。これらのマス目に、自分が思いつく事柄(地域資源)を記入することで、地域を自己診断できるというわけである。

 

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 図表2-2 9つの象限で地域資源を分類(TAIモデル)

 「現代につくられた箱物」 「生活支援(サービス)」 「地域の物語」

 「歴史的建築物」     「県民性(地域性)」   「地域イベント」 

 「自然資源(海や山)」  「食べ物(海畜産物)」  「伝統工芸品」

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 着想はよいのだが、残念ながらこれは象限になっていない。9つのマス目は、単なるセルである。それは、分類軸がないからだと思う。修正発展させるためには、新しい軸を導入することが必要である。たとえば、「モノ(有形)VSサービス(無形)」「自然と人工」「過去と現在(と未来)」などの軸である。

 なんとなく図表2-2では、Y軸が「自然VS人工」「過去と現在」、X軸が「有形物VS無形物」 に対応しているように見える。しかし、よく見るとそうでもない。そこで提案である。9つを入れ替えてみてはどうだろうか?または、新しいセルを付け加えてみることを提案したい。

 なぜなら、例えば、岐阜県(実際に本書でも調査がなされている)や鳥取県についてセルを埋めても、現状(知名と理解)は明らかになるが、操作性(行動)に対する示唆が得られないからである。何をなすべきかは、わたしが提起した軸に従ってなされるべきではなかろうか。

 つまり、操作可能なセル(人工)と不可能なセル(自然)があれば、たとえば、「自然」は表現の仕方や見せ方を変えるしかない。したがって、表現や物語を再編集することになる。人工物は、それとは対極に位置づけられる。ソフト(無形)とハード(有形)も同様である。過去、現在、未来という再考の仕方もあるだろう。

  

 ところで、本書のコアアイデアには、ふたりのこれまでの教育と研究の経験が活かされている。

 たとえば、岩崎さん執筆部分の第4章「地域事例から」では、CASE①『関門時間旅行』(北九州市・下関市)とCASE②『今夜くらいとっとりを話しを聞いてくれないか』(鳥取市)の事例研究が秀逸である。インターネット放送を通して、地域活性化の草の根の活動に参加したメンバーに、ネット放送に登場してもらって「地域つくり3.0」の実際を話してもらっている。ここでの地域事例が、第2章の9つの枠組みと関連付けられると、フレームワークを利用することの必然性が増していただろう。良い素材がややもったいない扱いになっている。

 第6章「マインドセットを変える」で登場する地域のうち2つは、大学院のGMBAコース(英語で留学生にMBAを教えるコース)で高田さんが学生を派遣している地域などの話である。共通するストーリーは、「初期改革者(リーダー)」が「抵抗勢力」を排して多数派になっていくプロセスの記述である(レヴィの「解凍→移動→再凍結」のモデル)。取り上げられている事例は、宮崎県綾町(有機農業と照葉樹林)、島根県海士町(離島ビジネス)、徳島県上勝町(葉っぱビジネス)、北海道札幌市(YOSAKOIソーラン)。

 共著者らの適度な化学反応から生まれた枠組みは、ユニークで独創性がある。ただし、物足り点もある。オリジナルの枠組みをもっと整理したほうがよいと思うからだ。たとえば、地域のブランディングを扱った図表3-1の個々のアイテムは、再分類した方が操作性が高まるだろう。

 また、図表3-2(地域ブランドの価値連載)は、和田先生(2002)の用語ではなく、現代風に用語を変えたほうが良さそうだ。具体的には、「基本価値」はよいが、「便宜価値」は「機能的価値」に、「感覚価値」は「情緒的価値」に、「観念価値」は「社会的な価値」に模様替えすべきだろう。地域のことを論じるには、そのほうが住民に伝わりやすそうだ。

 

 とはいえ、本書は発展性がある書籍になっている。事例を積み上げるよりも、枠組みをもっと精査することで役に立つ枠組みが提供できそうに思う。そのためには、もっと慎重で深い議論が必要である。ふたりにはさらなる精進を期待したい。