【講演録】「日本のホールフーズ、福島屋:DO 美味しい Fdesign」(IM研究科2014年春学期「マーケティング論」講演)

 ㈱福島屋代表取締役会長 福島徹氏にご講演いただきました。講演録を掲載いたします。講演は2014年6月5日(11時20分~12時50分)、経営大学院101教室で行われました。この講演録はリサーチ・アシスタントの青木恭子さんがまとめたものです。


法政大学経営大学院 IM研究科 2014年春学期「マーケティング論」
特別講義2

日本のホールフーズ、福島屋:DO 美味しい F design

㈱福島屋 代表取締役会長 福 島 徹(ふくしま とおる)氏
日時:2014年6月5日11時20分~12時50分
於:法政大学経営大学院101教室

講 演 要 旨

講師紹介
福 島 徹 氏 
1951年東京都生まれ。1974年大学卒業後、家業の福島屋を継ぐ。コンビニ経営を経て、34歳の時に、現在の食品スーパー業態に転換。産直品の積極的な導入だけでなく、全国の農業生産者とのコラボレーションによりオリジナル商品を多く開発。特に、自然栽培の米や野菜の扱いに注力する。農業と商業の間にあって創意工夫で報酬を得る「商業家」として、農業を支援している。現在、㈱福島屋会長、農商工連携ビジネスコンサルタントを業容とする㈱ユナイト代表取締役社長、農業法人「NAFF」取締役を兼務。
(以上、略歴は㈱ユナイトHP  http://www.unite22.jp/hp/unite/index.html)
著書:『福島屋~毎日通いたくなるスーパーの秘密』(日本実業出版社、2014年)、『食を整える』(眞人堂、2012年)、『食の理想と現実』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)。
福島屋HP:http://www.fukushimaya.net
メディア出演:NHK総合テレビ「プロフェッショナル 仕事の流儀」(2011年10月31日月曜日、午後10時放映)。http://www.nhk.or.jp/professional/2011/1031/

(小川)福島さんとは、今年から始まった食のマーケティングプロジェクトをきっかけに知り合った。通常の食品スーパーは、マスでたくさん店舗を作って効率よく運営するというやり方を、アメリカから学んできた。
 一方、福島屋さんは、30年以上かけて、いい商品を提供し、いいお客さんを育てながら、あまり店舗を増やさずに運営してきた。福島さんは、私と同じ1951年生まれだ。食ビジネスでユニークな試みをしている人が、51年生まれには多い。
 お話の後、質疑の時間を設ける。最後に、福島さんから、グループ討議課題を投げてもらう。

講演 日本のホールフーズ、福島屋:DO 美味しい F design
1.概要:「美味しい」ことを大事にする
 今日は、大学院での講演だが、私は現場で実学でやってきた。現場も捨てたものではなく、深耕すればいろいろ見えてきた。それをここ数年感じている。自分の考え、方針を現実にどう反映させるかという難しさの中で、我々も他企業とのコラボに時間を割いてきた。

 福島屋のコンセプトとしては、まず、食料品屋として、「美味しい」ことを大事にしてきた。最近は、「F design」というコンセプトで、「全国に旬や食べ頃をちゃんと追及して、美味しさと真剣に向かい合う食料品店を、皆んなで創る!」ということに取り組んでいる。単に美味しさといっても、砂糖のような病的な美味しさもある。そういう美味しさは、味覚を麻痺させる。福島屋としては、麻痺した味覚を元に戻したいという思いがある。
 
 目標は、きちんとした食を提供する食料品店(スーパーマーケット)の実現だ。そのために、きちんとした野菜や調味料、加工食品を販売している。自店加工や製造を行っており、無添加の食品が多いのも特徴だ。野菜は近郊から調達している。今までのスーパーマーケットの経営スタイルとは一線を画し、チラシやマスメディアでの販促はしていない。
自然(旬)で、美味しく、環境にも負荷を掛けない食品を販売する店、生産環境、その商品、その物流などを作る事業を手がけている。生産、販売、購買(生活)が一体になったプロジェクトにも力を入れている。

2.福島屋のMDと「F design」プロジェクト
(1) 福島屋のMD 8つのポイント
 MDとしては、生販生の一体型MD、オリジナル商品を強化した生活MDなどを重視している。例えば、大根を採って、物流、加工、販売する。販売したら、お客様がそれをどう見極め、利用するかを考えていく。MDのポイントは8番まであるが、今日、全部話せるかどうかわからない。
 
①一体型・・生販生!カテゴリー!
②生活MD・・オリジナル
③MPS・・自店
④GWS・・継続的インフラづくり
⑤自主管理
⑥グループ化
⑦情報の捉え方、使い方
⑧取り組み型ブランディング

(2) 一体型:生販生、カテゴリー
 福島屋MDの大きなポイントが、「生販生」「カテゴリー」一体型MDだ。3つのテーマを図にしてみたが、お互いに関連している。それぞれの分野で、皆が事業を起こしている。生産で言えば、農業が中心だ。
 私は、先々週、愛媛に行って、木村秋則さんとコミュニケーションしている生産者に会った。木村さんは、青森で、無農薬でりんごを作っている人で、「奇跡のりんご」で有名だ。今時のりんごは、化学系の肥料をまいて作る。しかし、人間の技なので、どうしても過多になりがちだ。虫が来る、それで農薬をまくという悪循環になっている。そういう循環を、木村さんは生産から根本的に変えようとしている。肥料も農薬もまかずに栽培する。有機にはJAS認証があるが、それとは異なる。いろいろなやり方はあるが、世の中でこういう傾向が強くなっていることは間違いない。環境型、安全志向などで、取組み自体がブランドになってきている。
 そうした志向のプロジェクトが、岡山、愛媛など、さまざまなところで進んでいる。人口が増えても皆が生きられるのは、たくさん生産できるようになったからだ。言い換えると、適地適作でなくても生産できるようにしたのが、近代農業だ。いま、それをもとに戻そうという農業が生まれている。 
 しかも、農商工連携、農福連携で進んでいる。福は福祉の福だ。障害者が農業に関わることが増えていて、ここ20年で2~3倍になっている。この間、ある雑誌でも取り上げられていたが、農福連携で、自然栽培と福祉がマッチングしている。
 先週は新潟に行った。木村さんも新潟に行かれており、大地を守る会との縁で加藤登紀子さんに会われたらしい(編注:加藤登紀子の夫の故・藤本敏夫氏は、「大地を守る会」初代会長)。
 
 素材それ自体の素材感をつかむ。たくさん手をかけると、素材がぶれる。切り干し大根1つとっても、歩留まりというか、1キロの大根を干した時、慣行栽培品は5%になってしまうが、慣行でなければ15%だ。こんなにギャップがある。さらに、自然栽培の野菜は、ミネラル分が高い。大根だけとってみても、味も栄養も違う。しかし、実情として、大多数のお客様が、なかなか選べないし、選ぶ力がない。どう調理するかという段になると、美味しさ、旬と食べ頃ごろの期を見るということをご存じない人が多い。そこで、福島屋の一体型MDには、「生活スキル応援」も入っている。
 
 愛媛の話に戻るが、愛媛では、昔は温州ミカンだけだった。いまは数十種類のかんきつ類がある。清見やでこぽんなどもある。現地では安いが、店頭では高い。愛媛では、ポンジュースが有名だが、今、原料は海外から来ている。どうしてもいまはそうなる。フルーツの大産地でも、売れなくなり、工場が自動販売機の会社に買収されたりする事態になっている。
 愛媛では、非常に美味しいジュースをごちそうになった。いままで、私は、なかなか納得いくジュースに出会ったことがなかった。木村さんのジュースは、僕から言わせると美味しくない。木村さんのりんごも、幻のりんごになってしまった。実際に買うのは難しい。木村さんのりんご農園は小さくて、全国に売ることはとてもできないからだ。しかし、彼の思想は影響力がある。
 愛媛のジュースは、本当に美味しかった。基本的に、余剰品を加工しているところだ。そういうロケーションで工場ができたが、いただいたジュースはなぜこんなに美味しいのかというくらい美味しい。作る人が、食べ頃、熟した時がわかっているので、その機を見て作り、冷凍しておいてごちそうしてくれたのだが、本当に、生まれて初めてといっていいくらい、美味しかった。ジュースに限らない。全国に、「こんな美味しいものを、お客さんたちは、飲んだことも食べたこともないよね」と思うようなものが、よくある。私は、そういうものを、お客さんに届けようとしている。

(3) 生活MD:オリジナル商品
 一般のスーパーでは、基本的に、問屋さんが商品を供給してくれる。コンビニ・ビジネスも、統計を取って供給している。しかし、すべての店が同じではなく、地域差もあるし、お店の文化もある。陳列の仕方、どの段に商品を置くのかといったことも、店により違う。商品を仕入れて、お店を作るというのが基本的考え方で、世間一般に通用しているものだ。すべて商品が集まって、食生活が充足できるのがスーパーだ。コンビニは便利だが、担っているのは生活の一部分だった。実際に朝昼晩の食事を賄うには難しいものだったが、今は、ミールの宅配もあり、変わってきたし、精度が高くなってきた。美味しいというより、まずくないレベルで、精度が高いのがコンビニだ。
 我々福島屋は、生活MDという大きなポイントを持って行っている。マーケティング論では、マーチャンダイジングの理論があるが、しかし、私が今言ったような視点は、なかなか見受けられない。実際の生活でお客さんと接触し、ジュースが美味しいなら、それをお客さんに届けようとする。そういうことを実践する試みは、あまりない。
 私は、青梅の出身だ。母親は8人兄弟の6番目だ。貧乏だったが、私はお母さんの味がいちばん美味しかった。母はよく、柚子こしょう、ワサビ漬け、おはぎなどを作っていた。 
 福島屋では、いろいろな商品を、自分たちの価値観で「作る」ことをしている。醤油も、味噌も、油までも作っている。「作る」というパラダイムで入ると、メーカーとのコラボになる。コラボして、説得力のあるものができあがるということがポイントだ。
 商品によっては、火入れして殺菌すると、美味しくなくなってしまうものがある。菌がなければ、栄養分、ミネラルもなくなる。人間は美味しいもの、体にいいものを美味しく感じるようにできている。そういう美味しさが、素材として生かされるようにするうち、飲食とのコラボもできてくる。仕上がっていけば、棚に並び、生ものはだめにせよ、物によっては海外にも持っていく。
 食を大前提にして、いろいろな関係性が生まれ、いろいろな人たちとテーブルを囲んで話し合って、商品を作っていく。それぞれのプロがきちっと取り組んで、最終的にまとまる形でやっている。

 今、「F Design」という名前でやろうとしているプロジェクトがあり、昨日、群馬県のみなかみ町に行った。みなかみ町は新潟に近い位置にあり、資源も自然も豊かなところだ。行ってみたら、温泉がたくさんあった。地面を掘れば、すぐ温泉という感じだ。そこにドールが入っていて、「ドールランド」(編注:「ドールランドみなかみ」、運営母体は、一般財団法人 みなかみ農村公園公社、約6.5万m²)を作っていた。みなかみ町にはもう3年行っているが、今年初めて知った。なぜドールがからんでいるかよくわからないが、ジョイントで作られていて、広大な丘に、りんごやぶどう、さくらんぼ、梨が植えられており、なぜかバナナやパインまである。園内には、ブルーベリーやバナナを凍らしておいて、シャーベットができる機械もあった。
 とにかく、みなかみ町では、こういう環境で、食と小売を結び付けようとしていて、いろいろな人たちが関与している。今度、大手電機メーカーの話も来ている。これは、明治大学の先生との関係で進めている。電機メーカーのIT関係部門が、4次産業事業として進めており、我々は情報推進室と一緒に仕事をしている。課長が言うには、「IT事業では、勝ち組はアップルやオラクルで、僕たちは負けた。そこで、いままでのスキルを生かし、農業と組んで生かす。農業を見据えて、デザイン室とも打ち合わせながら、関連のビジネスを進める」ということだった。このプロジェクトには、行政も、サントリーも入っている。サントリーは、登美の丘ワイナリー(山梨県甲斐市)もあるが、そのワイナリーも、とてつもなく広いところだ。
 プロジェクトには、サントリーと電機メーカーが水で関与しており、同じテーブルに、五所川原農林高校(青森県五所川原市)も入っている。農林高校は、全国に38校あるそうだ。だいたい、親が農家をしている家の子供が来る。
 ロケーションをどうするかなど、いろいろ考えている。このあいだ、テレビの『ガイアの夜明け』でやっていたが、ぐるぐる回るサラダ用の野菜を作るプランもある。
 サントリーは、グランパ(編注:植物工場の開発・運営を手がける横浜のベンチャー企業)の植物工場で、野菜も作っている。僕は、農業も施設も全然わからないが、一緒になってコミュニケーションしながらやっている。電機メーカーの人も15人くらい来ていて、プレゼンしてもらったが、どうも「生活に刺さらない」と思った。それで、それではどうやって「生活に刺さる」ビジネスにするかを考えていった。そして、たまたま、みなかみ町の話になった。みなかみなら、土地も広い。それで、予算の話もして進めているが、このプロジェクトは一つのモデルになるかもしれない。

 福島屋には、デベロッパーからの話も、よくくる。三菱地所などは、丸の内周辺などで、お客さんと接触するコンテンツをどう作るかという話をしている。首都圏の場合、首都圏の生産環境を整えていくことを考えている。東京の場合、関東圏を固め、米なら東北という形だろうか。米は、昔、統制法があったので、東と西が交流していない。
 そういう前提で、根本的にきちんとした食料品店ができるかどうか、考えているところだ。それには、まず「作る」ところから始めなければいけない。

 今日、僕は、高知の有機農業推進協議会の会長をしている農家のブロッコリーを食べてきた。 この人とは、年齢が同じということもあり、言いたいことを話してきた。徳江倫明さん(編注:大地を守る会、らでぃっしゅぼーや等の設立者)も小川先生も同い年だが、これくらいの年になると、「金でも名誉でもない」とは言いながら、でもやっぱり多少は名誉欲もあるものの、それでも何かに迎合したり、大きいものに巻かれるようなことは嫌だねという話をしている。小川先生も巻き込みながら、何かやりたいと思っているが、先生は忙しそうだ。

(小川教授)少し解説しておきたい。木村秋則さんは、青森の有名なりんご生産者だ。登美の丘はワイナリーで、サントリーが数年前に買収した。非常に大きいが、多少問題もあるようだ。グランパというのは、日本最大のレタスの植物工場で、経営者は青森の農業高校の出身だ。これらの話は、最後には一つにつながると思って聞いて欲しい。

(福島氏)つながる部分はお店だ。始めてから何年も経って、つながる場合もある。

 生活MDの話に戻ると、福島屋では、お客さんとのつながりの中で、MDをやっている。チラシも広告もやらない。安売りもしない。チラシで安売りするやり方だと、例えば、肉のコーナーなどは種類が少ないので、牛鳥豚の3種類を順番に安売りするだけになってしまう。これでは疲れてしまうので、止めた。
 
 福島屋では、生活ということをコアに、食事の状態まで考えて、再現性のある形でできる料理講座を、お店とリンクして開いている。1回90分で、地域の人に参加してもらいながら、1,000円という安価でやっている。六本木でも、羽村や立川でも開いている。昨日の講座は、とんかつ料理だった。ソース、油、パン粉をどうするか、というところから始まるので、材料の部分だけで、5~6アイテムが関わってくる。講座ビジネスは、説明が必要な商品を売るには、非常に有効な方法だ。
 売っている肉は、通常のものと比べて3割くらい高いが、美味しい。肉の美味しさは、脂身の質で決まる。福島屋では、グランプリを受賞している山形の商品を使う。素材について説明して、どうやってパン粉をつけるまでいくかを、順に説明しながら料理する。自己流でやっていて、方法を知らない人も意外と多い。場合によっては、お客さんがいいアイディアを持っている場合もあるので、それも取り入れていく。講座は、お店の売場とリンクしているが、本質的には、料理を伝えるというより、むしろ、旬や自然とリンクするということにより、美味しさで幸せを作るために進めている。
 
 こういう手法を、現在、各地方のスーパーからオファーをいただき、導入してもらっている。 講座では材料も必要なので、販路を増やしていく。メーカーと一緒になって、需給バランスを取りながらやっていくが、全国同じ品物でなくてもいい。そのスーパーの近場で調達もする。
 

(4) Meコミュニケーション生活講座
 こうした仕組みを前提に、あとは、繁盛店づくりを目指す。通常のスーパーでは、利益が出ないので、慣行の形を変えられない。しかし、福島屋は作ることが大前提なので、粗利も、収益構造も違う。普通のスーパーの粗利は20~25%だが、我々としては、それより10%くらい高いものにしたい。最近の福島屋の店舗では、だいたい、30数%の粗利になっている。

料理教室やカルチャー教室は生活に則していないと、継続的に支持されない。講座では、販促計画作成(売り場づくり)を軸に、教育、コンセンサス、売り場改善、商品開発=売り上げ、粗利向上を呼び込む。従来型販促に頼らない、コミュニケーションスタイルそのものによりブランド構築を目標とする。また、お客様、メンバー、お取引先の皆さんでビジョンを共有し、各人納得性の高い仕事を実現することを目指している。
 繁盛店作りの構図としては、店作りの点から、品揃えとサービス機能づくり、仕組みの点では、GWS(グラフィック・ワークショップ)、MPS(ミセス・プロズ・スマイルズ)、パスツール、講座構築を重視している。

 全体のスキームとしては、店では、オリジナル商品の供給と、生産・製造・教育・コミュニケーション面での環境整備を進めるとともにマネジメントスキルの向上に努める。一方、お客様とのコミュニケーションを通じて、お客様には、自分自身で美味しい食べ物を選び、作り、整えるための知識や技術を身につけていただく。そして、「美味しい、正しい、健康」な生活を営んでいただくということを目指している。そういうことで、社会はまとまるのではないかと考えている。また、そのためのコラボも、いろいろな形でできるのではないかと思う。

4 店内の様子
(1) 「美味しい野菜です」:硝酸態窒素の告示
 福島屋では、「健康的=美味しい」というコンセプトをもとに商品を揃えているが、それには環境や旬、鮮度、食べ頃などについて、生産者の皆さんと福島屋が一緒になって取り組んでいく必要がある。野菜の硝酸態窒素を計っているのも、バランスの悪い不健康な野菜を販売しない様にするためだ。
 窒素が過多になると、野菜に硝酸態窒素がたまる(編注:ここで、受講者中、硝酸態窒素について知っている人に、挙手してもらう。挙手した人は、少数だった)。マネジメントやマーケティングに一生懸命な人たちでも、こういうことを知らない人が多い。この間、立教大学で講演したが、300人の参加者の中で、1人も(りんごの)木村さんのことを知らなかった。だから皆、マクドナルドに行くということになる。僕は、ショックを受けた。 

 窒素は、2,500ppmがヨーロッパ基準だ。だから、我々は、2,500ppm以下を基準にしている。取引先でも、図ってもらう。硝酸態窒素の数値が低いと、その野菜は、ある程度美味しい。農薬を図るかどうかも模索したが、結局、これを図ることにした。

(2) オリジナルアイテム紹介
 福島屋自家製のおはぎは、インストアで作っている。 
 無添加の鶏、「ハーブ鶏」もオリジナルだ。ハーブ鶏というのは、ケンタッキーフライドチキンでも使っている。鶏肉は、そのままでは獣臭がするが、ハーブを食べさせて育てた鶏の肉は、匂いが違和感のないものになる。
 米売り場では、生産者さんと直接取引をしている。30kgの袋を中心に行っている。自然栽培のお米もある。
 おむすびも作っている。水がいい。みなかみ町では、食味値84以上の米を、ブランドとして売っていくらしい。
 りんごは、青森の生産者の清野さんのりんごを置いている。木村さんのお母さんの生まれた地域で、生産している(編注:葉とらず栽培の「せいの農園」、弘前市)。私は、今のところ、流通しているりんごの中では、清野さんのりんごが、日本でいちばん美味しいと思っている。無農薬ではない。
 昔餅も自家製だ。自分たちのところで作っている。もち米も店で販売している。
 秋田杉の製品も置いている。秋田杉を通じて、環境とどう向き合うかを、発信していこうという考えがある。

(3) MPS環境づくり
 MPS(ミセス・プロズ・スマイルズ)については、メディアでよく取り上げられている。主婦にMDをやってもらっている。写真の左の人がリーダーで、よくテレビに出ている。彼女たちが、業者との打ち合わせから売価設定まで、担当している。

(4) GWS(グラフィック・ワークショップ)
 冷蔵庫の棚にはいろいろなものが置いてあり、朝鮮漬があったりする。MD担当の主婦たちが吟味し、現場のメンバーと打ち合わせながら、置いている。棚の様子などは、タブレット端末で写真を撮り、画像を生産者などに送っている。その方が安心感もあるし、生産者からの意見もいただける。

(5) まとめ
 いろいろ話してきたが、皆さんに知って欲しかったのは、こういう発想で、生産者やお客さんとコミュニケーションしながらやっている食料品屋があるということだ。いろいろやっていて、何とかまとめようとするのだが、支離滅裂になっていく気がすることもある。つながらないままになっている試みもあるが、それでも何とかここまでやってきた。
 丸井さんは、全国20数店舗のうち、6店舗が食品だそうだが、これ以上は増やさないようだ。アパレルと食のコラボで入ろうとしているところが多いが、私は、それではうまくいかないのではないかと感じている。結局、プロジェクトリーダーも、ある程度ゴールが見えないと進めてくれない。しかし、美味しい、正しい健全な食料品店づくりというような目標に近づいていくには、お金も時間もかかる。目標と成果と、どちらが先かという問題は、付いて回る。私自身としては、具体的な成果が見えなくても、大枠の目標を上げながら、正しいこと、役立つと思うことを進めたいと思っている。

質疑応答
(小川教授)ここで、ちょっと話をまとめたい。
 基本的に、スーパーは、仕入れと販売の分離を出発点にしている。一方、福島屋さんの場合、健康で美味しいものを食べることができ、環境に負荷をかけないスーパーを目指している。これは、日本で食料品に関わっている人、材料を提供してきた卸など、多くのプレーヤーがやろうとしたが、誰も成功していなかったことだ。一部、通販のような形で、らでぃっしゅぼーや、大地などがやってきたと言えるが、要するに、食品の旬、食べ頃を追及して、美味しいものをお客さんに届けるということだ。しかし、実際のところ、大勢としてはやはり、大手スーパーの調達の仕組みの中に、消費者の食生活がはめ込まれているというのが実情だ。
 
 とはいえ、少なくとも1つ、重要なことを指摘しておきたい。福島屋さんは、約38年間、この道一筋でやってきて、食品スーパーやレストランなど10店舗を運営してこられたが、過去一度も赤字になっていない。多店舗店舗をしていないが、ずっと黒字だ。つまり、「美味しい」「健康な」ものが求められる時代は、そこまで来ているということだ。

(福島氏)僕らももう60代で、あとは死ぬしかない。捨てるものはあまりない。60年生きてきて残っているのは、美味しくて、環境に負荷がなく、みんな幸せになるものを届けたいという思いだ。こういう思いから、F Designプロジェクトを進めている。FはFoodのF, FutureのFと仮に読んでいる。これを、もっと日本全国に広げたい。いろいろなプロジェクトを、VCのような形で進め始めているばかりだ。
 
(小川教授)それでは、ここで、質疑に移りたい。

(質問)羽村の福島屋に行ったら、普通のスーパーがいかにつまらないかがわかる。お客さんたちが、みな、時間をかけて、店内を見て歩いている。

(小川教授)食べることは、楽しいことだ。また、買い物してお店を回ることも、楽しいことだ。ショッピングはゆっくり、楽しんでするのが一番だ。次回の特別講演の時間は、日本リテイリングセンターの櫻井さんに講師をお願いしている。今日はスローの話だったが、次回は対照的に、いかに早く、効率的にショッピングするかという話だ。

 受講者の皆さんには、ぜひ福島屋の羽村本店に行ってみてほしい。もし羽村に行けなければ、六本木に行ってほしい。先ほど、IT関連の先端的な企業の名前が挙がったが、今、様々な企業が、みな広い意味の農業に向かっている。時代は、食に向かっている。

(質問)私は、前々職で、セレンというミネラルの研究をしていた。セレンには、結腸癌を防ぐ役割がある。日本では、かつて、干鰯から畑の肥料を取っていた。海のミネラルを畑に入れ、それを野菜が吸い上げ、人が食べていたので、野菜を食べていた日本人は、癌にならなかった。それを思い出しながら聞いていて、福島産の野菜のミネラルの話が心に響いた。今の野菜は、ミネラルという点では空っぽだ。これも、私と同じ思いで、嬉しかった。
 一方で、前世紀最大の発見は、アンモニアの発見だと言われている。しかし、化学肥料の登場で、海と陸との循環が失われた。こういう前提の上に、今世紀の課題は、真に期待していい野菜をどうやって作っていくかということが、テーマになるのではないか。そして、そのきっかけになるのが、福島先生のプロジェクトだと思う。

(福島氏)研究開発は利益につながり、国家競争につながっていく。しかし、一歩引いて、本来、物事がどうあるべきかを考えていくことが必要だ。いろいろあってもいい。農家の方々と接触すると、循環を考えていらっしゃることが多い。私自身は、今まで、アンモニアの固定化と、海と陸の循環について、つなげて考えたことはなかったが、今のお話を聞いて、いいなと思った。

(質問)福島屋さんでは、美味しさだけではなく、健康も訴求されているのか?今後、拡大は?

(福島氏)僕たちはともかく、お客様との接点ということが原点だ。私たちの店そのものについては、企業から声をかけられて、フォーマットとしてぽんと渡せるようなものは、まだない。まだ鮮明になっていない部分がある。それを鮮明にしていくのか、個々に進めていくのか。しかし、あまり個々にすると、ばらばらになってしまう。それをどうするか。私たちには、M&Aして大きくするというような考え方はない。特に、スーパーは地域密着の業態なので、地元で経営する方がいい。

(質問)私は、震災復興関連のプロジェクトで、あまちゃんで有名な久慈市、洋野町を支援している。あの辺りは親潮と黒潮がぶつかるところで、天然の物がよく採れる。そこで、いろいろブランドメッセージを出しながら、作っている。これから首都圏や海外に発信していきたいが、消費者に伝えるのは難しい。福島屋さんへは、いろんな地域の生産者からオファーが来ていると思うが、選別の基準は何か?

(福島氏)選別は、すごく難しい。全国津々浦々、いろいろなプロジェクトがあり、各地の商工会などを中心にしながら、地域の名産などを出している。しかし、その中には経産省の予算を使っているものが多い。そうすると、役所の予算で動くことになる。そういうものは、100あるうち、95くらいは不可で、福島屋では扱わない。
 皆さんテーブルについて、商品も出してくれるが、有機や健康志向で入って、実際に生活にリンクするのだろうかという気持ちもある。MDとしては、回転力を速めることを重視して、品揃えをどんどん変えるビジネスもあるだろうが、我々は反対だ。むしろ、きちんとしたものを見直そうという機運が強い。 
 三陸について言うと、福島屋では、三陸一帯、陸前高田や宮城ともコミュニケーションがあり、オファーも本当に多い。品川なり六本木なりで、店頭に場を作り、一定期間、アンテナショップ的にやってもらうが、残念なことに、成功事例が少ないのが実情だ。メーカーや生産者が出向いて出店する形になるのだが、次にどうするかということを話し合う余裕もない。一定期間、店頭に出したらおしまいで、これではMDが分断してしまう。分断せず、継続的にやれたところは、成功事例となっている。
 根本的な考え方として、取引する相手の人柄は、大きく左右する。私ももう60代なので、今更、わざわざ感じの悪い人と会って取引したいとは思わない。 

(質問・山下氏)後継者については、どう考えているか?

(福島氏)正直な話、あまり考えていない。稲庭うどんという秋田のうどんで、佐藤養助さんという人が有名だが、7代目か8代目である(編注:老舗の「稲庭干饂飩」の商品名は、「佐藤養悦本舗」と、養悦氏兄弟の分家「佐藤養助」、17世紀創業の本家・稲庭吉佐エ門さんの家系だけ)。基本的に、経営では、親子や兄弟はうまくいかない。家族に何か言われると、むかっとするものだ。子供は親を受け継ぐが、俺は俺、という自負を持っている。
 私自身は、経営はオープンにしてやっている。よくわからないことでも、やっているうちに、ブラックボックスはつかめていくように思う。少し進んでいくと、最初ブラックボックスと思えたものが、実はそうではなかったという場合もある。
 事業継承は、山下さんのところのような大きな会社ではまた違うかもしれないが、結構、なるようにはなるものだ。だめだったら、それは仕方がない、というくらいの気持ちでいればいいのではないか。

(小川教授)それは、よきものは残るという、オポチュニスムだと思う。

福島屋様からの課題(2点)
(小川教授)それでは、ここで、福島さんからグループ討議の課題をいただきたい。

(1) 課題1:福島屋で、自分が発見した「美味しさ」について、報告
(福島氏)課題の一つ目は、集中して、「美味しさ」をつかんでもらいたいということだ。「美味しさ」の発見は、皆さん方の一生の発見になると思う。そこで、皆さんには、福島屋に来て、商品を買って、食べてみて、自分で発見した美味しさについて、伝えてもらえるとありがたい。 

 私は、稲庭うどんの長さと、汁との絡み具合をいろいろ試してみて、太さの違いで、自分にとっての美味しさが違うことを発見した。卵については、高知の「土佐ジロー卵」が、今のところ最高だ。納豆は下仁田納豆だ。ただ、下仁田のものは、最近、やや手を抜いたのが出ていて、これは今一つだった。土佐ジローの卵でも、熱を入れると、美味しさがわからなくなる。生か、温玉がいい。温泉卵ではだめだ。福島屋にも蒸し卵がある(1個100円)。
 

(小川教授)いま説明があったように、課題の1つ目としては、福島屋の店へ行き、美味しいと思うものを最低1つ取り上げて、報告してもらう。

(2) 課題2:福島屋のビジネスに対する評価と改善点を指摘
(福島)2つめの課題は、福島屋のビジネスに対する評価と改善点を指摘してもらうことだ。僕には、『食の理想と現実』、『食を整える』、『福島屋~毎日通いたくなるスーパーの秘密』という3つの著書がある。最初の本は生産者、2番目は消費者、最後の本は同業者に向けて書いたものだ。

(小川)課題2では、3番目の著書(『福島屋~毎日通いたくなるスーパーの秘密』(日本実業出版社、2014年)を読んで、福島屋のビジネスモデルに対する評価と改善点をまとめてもらう。

(福島氏)福島屋は、拡大していくつもりはないが、これからの新しいコンテンツとして発展させるにあたって、皆さんのお知恵を借りたいと思う。
(了)