前著『一勝九敗』の出版から6年、ファーストリテイリング柳井社長の二冊目の著書である。本書は、2005年9月にご本人が社長復帰してから4年間、現場に戻って取り組んできた「第二創業」の奮闘記である。前著は、ユニクロ創業から玉塚社長へのバトンタッチまでの個人史であったが、本書は、そのものずばりの経営書として読むことができる。
世界でもっと優れたSPA(衣料品製造小売業)の事業経営の真髄が、そこでは余すことなく語り尽くされている。事業内容を何一つ包み隠すことなく開示していることに、まず評者は驚いてしまった。それは、「他社がユニクロの仕組みを知ったところで、もはや組織としてFRグループに追いつくことはできない」と柳井社長が考えているからなのだろう。自動車と家電を除いて、ファッション産業でははじめて、企業経営のスタイルと実績がグローバルに評価された日本企業となったという自信が、その裏づけになっているようにも見える(2010年1月、全米小売業協会・最優秀企業賞?受賞)。
本書は、2004年から2009年まで、改革の年代順に編集されている。第1章「安定志向という病」が改革前夜の2004年に、第5章「次世代の経営者へ」がグローバル小売業としての地歩を確かにした2009年の今に対応している。興味深いのは、各章末に、毎年元旦に柳井社長から社員に向けて発信される電子メールが添付されていることである。これを読むと、復帰の前年(2004年)から現在(2009年)まで、柳井社長が経営の舵を取る際の気持ちがどのように推移してきたのかがわかる。
「年頭の所感メール」で、会社の目指すべき方向と基本方針を社員に示し、着実に方針通りに実行する。向上心と冒険心を持って仕事に打ち込むことを、柳井社長は強く社員に求める。要求される仕事のレベルは、かなり高い。評者はときどき千代田区九段にあるFR東京本社を訪問することがある。社屋の廊下や会議室には、若くて成長している企業に特有な緊張感が漂っている。身が引き締まる気持ちの良い空気である。
「あとがき」を読み終えた後で、誰に向って本書が書かれているのかを考えてみた。読者は、おそらく4通りだろう。現在の社員(目標の共有のため)、未来の社員(グローバルに活躍したい若者のリクルーティング)、一般顧客(よりファンになってもらうため)、そして、さらに高みに昇っていこうとする柳井社長本人に対して、「成功を捨て去ること」をご本人が確認する意味で。