「みどり豊」のこと:コシヒカリの突然変異種の発見とそのテスト栽培

わたしの花仲間に、世界的に有名な育種家、坂崎潮さんがいる。現在は育種家として独立して会社を運営している(フローラ21)。サントリー時代(花事業部勤務)に、世界でもっともヒットした花苗「サフィニア」などを育種した有名人である。坂崎さんの友人(北海道大学の同期生)が、試験場勤務時代に「みどり豊」というコシヒカリの突然変異を発見した。この品種は、すばらしい特性を備えている。
 


晩成で、倒れにくく、暖かい場所でも作れる稲である。「地球温暖化」でコシヒカリが作りにくくなっているので、その点でも、社会的に意味のある画期的な品種になる可能性を持っている。詳しい特性などは、以前に、坂崎さんからのメモがあるので、それを貼り付けることにする。
 わたしも、実際に食味テストをしてみたが、味に問題はない。それどころが、冷えてもおいしいお米である。すでに、この品種は種苗登録をしていて、坂崎さんの周辺(滋賀県)で試験栽培が始まっている。「はなどんや」(花の卸会社)の松村君が、13回にわたって、「みどり豊」が生まれるまでの物語を、同社のHPで紹介している。URLを添付する。是非ご覧いただきたい。はなどんやのHPブログは、http://www.hanadonya.com/ec/about/midoriyutaka.html である。
 「せっかく画期的な品種なので、ふつうの販売の仕方ではなく、特色のある事業として展開したい!」。品種を預かっている坂崎さんの気持ちである。わたしも、坂崎さんたちの思いに賛同して応援している。

 以下は、メールでいただいた、坂崎さんからの品種特性メモである。
ーーーーーーーーーーーーーーー
小川先生、

定量的でない表現が多くて申し訳ありませんが、現在までわかっていることは以下の
とおりです。

1.コシヒカリの突然変異から固定。環境適応性はコシヒカリ以上、耐病性等はコシヒ
カリと同等と見られる。
2.コシヒカリに比べて2週間以上晩生(滋賀県で5月初め定植で8/10-15ごろ開花)、
出穂期間がさらに一週間程度長い。⇒関東以西で高温による品質低下の影響を受け難
い。
3.背はコシヒカリより10cm高い。1穂あたりの籾数はコシヒカリ100粒に対し120粒
程度と多い。分けつ数は同等以上。
4.茎はコシヒカリよいはるかにがっしりしていが、背が高い・1穂重量大のため、倒
伏を避けるため肥料管理に注意が必要。
5.万一倒伏してもコシヒカリと同じく穂発芽性は難。
6.収穫期が長くなっても、コシヒカリと同じく胴割れ等が起こり難く品質劣化少な
い。
7.コシヒカリより多い収量が期待できる。2009年滋賀県でコシヒカリ8俵/10aに
対して10俵/10a。
8.わらの量が非常に多いので田に還元できる有機物量が増える。
9.食味はコシヒカリ以上。やや粘りが強く冷えても美味しい。粒はやや大きい。おに
ぎり、おこわにも最適。
10.玄米の品質劣化のスピードは、コシヒカリと同じ程度で長期間美味しさが保て
る。

よろしくお願いします。

有限会社フローラトゥエンティワン
坂嵜 潮
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 なお、はなどんやブログの最終回(第13回)を、以下に添付する。「みどり豊」のことがわかって興味深い。書いているのは、坂崎さんご本人である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 第13回

 このプロジェクトが始まってから、ずっと頭から離れなかったテーマは、なぜ倒伏しやすい「コシヒカリ」がモンスター品種として君臨してきたのかということでした。それについて、なんとなく解きほぐれてきたように思います。それは、「コシヒカリ」の栽培品種としての特性と「コメ」としての特性の双方にあると思います。
 まず、「うまいコメ」として抜群の性能を持っていることがあります。炊き立ての新米が美味しいのは、現在栽培されているどんな品種でも同じです。しかし、冷めても美味しいとなると別です。そして、保温しておいても変色しにくい。次の新米が出てくるまでの間、コメの品質は劣化が進んでだんだんとまずくなってゆきます。この
劣化のスピードがゆっくり=保存性が良いということも大変重要です。「コシヒカリ」は、これらの点でずば抜けていたということだと思います。
 一方栽培特性ですが、栽培できる適地が広かったということを以前にお話しましたが、倒伏しやすいことが最大の難点です。しかし、倒伏しても少しぐらいのことでは穂のまま発芽「穂発芽」することがないという性質を持っていたことが大きかったと思います。「コシヒカリ」の倒伏のしやすさを改良した「キヌヒカリ」は、ちょっと
雨が続くと立った穂のまま発芽してくるそうです。品種改良の難しさが身にしみます。ちなみに「みどり豊」は「コシヒカリ」と同じく「穂発芽性は難」です。
 さて、「みどり豊」は、Sさんに言わせると「うまいコメ」として「コシヒカリ」の良さをすべて受け継いでいるということです。「2週間晩生ねえ」と言う言葉で始まったこのプロジェクトですが、倒伏の問題も施肥管理を変更することで十分に回避できそうですし、収量も十分で、温暖化の影響を少しでも避けて安心して品質の良い美味しいコメを作っていただけるのではないかと思います。田に還元できるわらの量の多さも長い目で役に立つと思います。
 皆さんに食味を見ていただいて、美味しいねえというお言葉をたくさんいただければ、来年からは本格的な普及を目指そうと思います。とても重要なポイントですのでどうぞよろしくお願いします。

 さて、「みどり豊」の栽培を田植えからずっと毎日のように見守ってくることが出来て、勉強になること考えさせられることの多さに驚くと同時に、このような機会に恵まれたことに感謝の念でいっぱいになります。「奇跡のリンゴ」で有名な青森の木村秋則さんの「リンゴが教えてくれたこと」(日経プレミアシリーズ)と言う本は、この何年かの間に読んだ本の中でももっとも考えさせられた一冊でした。内容についてはここでは述べませんが、皆さんにも読んでいただきたい本です。「みどり豊」の穂を深くたれて行く姿を見ながら、その本の中の「米を実らせるのはイネです。人間はそのお手伝いをしているだけです。」という言葉をしみじみと思い出していました。
 われわれ人間が農産物を作っているというのは、どこか本質をはきちがえた傲慢ではないのか・・考えさせられます。
 
有限会社フローラトゥエンティワン
坂嵜 潮
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー