【書評】 西川英彦・澁谷覚編著(2019)『1からのデジタル・マーケティング』碩学舎(★★★★)

 入門編の教科書として定評のある「1からのシリーズ」(碩学舎)で、最新のトピックを扱ったマーケティングの教科書。編者は、本学の西川さんと学習院の澁谷さん。各専門分野の研究者14人が、テキストの執筆に携わっている。本書の特徴は、基本的な概念がもれなく紹介されていること。入門の教科書としてよくできている。

 

 全体は、三部構成になっている。

 第Ⅰ部「デジタル・マーケティングとは」では、アマゾン、食べログ、メルカリ、無印良品の事例を引用しながら、伝統的なマーケティングとデジタル(時代の)マーケティングのちがいを説明している。基本的なちがいは、デジタル技術とネットワークシステムによって、マーケティング活動で「モノと情報が分離できる」点にあるという説明。この部は、消費者行動論がベースとなっていて、かなり説得な記述になっている。わかりやすい。

 第Ⅱ部「デジタル・マーケティング戦略」では、デジタル時代の4P戦略(製品、価格、チャネル、プロモーション)を、伝統的なマーケティングの枠組みとの対比で解説を加えている。ただし、全体はうまく整理がなされていない! 従来のマーケティングの枠組みを踏襲している分、デジタル・マーケティングのドラスティックな側面が浮き彫りにすることに成功でできていないのでは?

 事例は、アップル、レゴ、ANA、エアビーアンドビー、ユニクロ、ウーバー、ローソン、トリップアドバイザーなど、新興ネット企業と伝統的な優良企業にやや偏りがある。気になった点は、読者がビジネスマンだとすると、彼らの関心事は、「ふつうの企業がデジタル・マーケティングにどのように取り組んだらよいのか?」にあるはず。その点でいえば、優良企業の実践例を超えたニーズに応えるべきではないだろうか。

 第Ⅲ部「デジタル・マーケティングのマネジメント」では、グーグル(リサーチ)、ヤマト(ロジスティックス)、SF(情報システム)の3つの企業をテーマごとに取り扱っている。最初の2つのパートを整理して、マーケティングがデジタル化されたことでマネジメントがどのように変わるのかを説明すべきだったと思う。教科書として紙幅の制約があり、全体の鳥瞰図がきちんと提示されていないのが残念。

 

 入門テキストとしては、基本コンセプトの整理と事例がわかりやすい。学部生のニーズには十分に対応ができている。ただし、デジタル・マーケティングの原理的な特徴や、実務的な事例の裏面を知りたい読者は、ちょっと肩透かしを食うかもしれない。

 個人的には、デジタル人間ではないので、内容は大いに勉強になった。原典や事例に関して、新しい知識を得ることができた。飛ばし読みをしているので、内容について誤読があったらお許しを。新しい分野なので、統一感を出すために、少ない人数(3~4人)で書いてほしかったかな。