当初すばらしいと感じて読み進んだけれど、終わってみれば「ちょっとがっくり」という本もある。
ザルトマン(2005)『心脳マーケティング』ダイヤモンド社、はそんな本の一つであった。
翻訳者の藤川・阿久津氏から献本していただいた本である。邦訳はすばらしいので問題は全くない。とくに、第3部の「記憶」を取り扱った章はとてもおもしろい。
そのようなわけで、この書評(紹介文)は、本質的にはお二方の仕事を貶すつもりで書いているわけではない。元の本が少しばからあやしげではないか、いう感想を述べているだけである。
本書を要約すれば、既存のマーケティングリサーチ手法、すなわち、定量調査とグループインタビューを中心とした定性調査からは、消費者の真の姿が見えてこない。したがって、新しい商品のアイデアは生まれない。それどころか、既存の調査手法はあやまった解釈をもたらすことがある、ということである。脳の認知構造や記憶についての記述は正しいだろう。解釈も相当におもしろい。
ただし、提案されている方法には問題が多い。本文で取り上げられている調査事例も、ほとんどが納得がいく代物ではない。しかも、あまりおもしろい例ではない。理論がすばらしい輝きを持っているだけに、実例がプアーすぎるのである。
「メタファー(+写真や絵)を用いて、消費者の心を透視する」という手法は、わたしのような定量人間には、なんとも主観的な解釈過ぎる。にわかには、評価された真実は信じがたい。前半(第3部)の理論が正当であると感じれば感じるほど、具体的な調査法の客観性を疑ってしまう。ZMET調査(ザルトマン法)は、主観的で解釈の自由度が高すぎて、結局は評価できなかった。
学生に推薦しておいて、う~んとても残念である。