<再々、タイ・バンコクの小売業ネタである。『チェーンストアエイジ』に連載中のコラム「マーケティング・フィールドノート」で、12月15日に発表予定原稿のプレビューである。>
海外に出店した日本の百貨店が、輸入農産物の販促キャンペーンを実施しているという話を聞いたことがある。駐在員や観光客を相手に商売が結構にぎわっているらしい。たまたま視察ツアーの団長として訪問したバンコク伊勢丹で、たまたまそうした販促キャンペーンのひとつに遭遇した。11月4日の土曜日のことである。
バンコクの目抜き通りにあるタイ伊勢丹6階の催事場を借りて催された「東北3市合同特産品キャンペーン」は、仙台市が音頭を取り、山形市と福島市が相乗りする形で運営されていた。キャンペーンは3日(金)から12日までの10日間。告知用の看板と案内パンフレットは、日本語とタイ語の両方が準備されていた。売り場を観察しているうちに、日本人の販売責任者に直接インタビューすることができた。以下は、日本から派遣されてきていた市職員16人のひとり、仙台市観光課の熊谷氏から聞いた話である。
伊勢丹で仙台特産品の販促キャンペーンを始めることになったのは、小泉前首相の主唱による”Visit Japan”キャンペーンがきっかけである。仙台市にアジアからの観光客を誘致するためには、仙台市の知名度を上げなければならない。バンコク~広島の直行便(タイ航空)が昨年就航したのを見て、仙台市にも同様な話が持ち上がった。しかし、宮城県からはタイに進出している部品メーカーがあるわけではない。そこで企画されたのが、日系百貨店内での農産物販売プロモーションであった。仙台市だけで約30坪の催事場を埋めることはむすかしい。福島市と山形市に話を持ちかけて、3市共同の特産品キャンペーンが実現することになった。農産物輸出キャンペーンとは異なり、補助金を前提に企画されたわけではない。青果などの商品供給には、各県のJAが協力することになった。
キャンペーンそのものは東北地方の知名度を高め、東南アジアでは見ることができない「紅葉」と「雪景色」を体験してもらうため、タイの富裕層に東北仙台を訪問してもらうことが目的である。とはいえ、10日間の売上実績も気になるところではある。仙台市と日系貿易商社Daisho Thailandなど、主催者側の目論見では、期間中の売上目標を約2000万円に設定した。アジア都市部での経験値だそうである。初日(金曜日)の売上は約100万円であった。
自由行動で一緒だった3人と試みに、午後12:25~12:35の10分間、2台のPOSレジ前で、購入商品と買上金額をチェックして見た。わたしがたちが見たところ、買い物客はタイ人と日本人の比率が2:1。タイ人ガイドの見解は逆で、1:2で日本人のほうが多いとの主張であった。肌の色が同じなので、本当のところはわからない。
販売されている商品(1バーツ=3.2円)は、仙台市から「萩の月(85バーツ/一個)」などの特産品と水産加工品(アジやホッケの干物/各85バーツなど)、山形と福島からは「ラフランス(185バーツ/一個)」「フジ(125バーツ/一個)」などの果物が主であった。日本とほとんど同じ水準の値付けではあるが、山芋、納豆などの特産品も売れていた。わざわざ試食コーナーを用意して、農協や市職員がお客の接遇に当たっていた。タイ語ができないのに、なかなかお勧め上手ではある。なお、にぎり寿司コーナーは満席、タイ人客が圧倒的に多そうだった。
観察した10分間のレジ客数は16人。時間当たり96人、一日換算(10時~21時営業)に直すと、1056人になる。客単価は、最低35バーツ~最高1340バーツ。平均755バーツだから、日本円では1775円である。土曜日の売上は、推定で187万円弱ということになる。平日は土日ほど繁盛するわけではないだろう。寿司コーナーは別であるから、出展社側の目論見に近い売上高の達成は、夢物語というわけでもなさそうである。