【新刊紹介】服部幸應(2025)『食育は世界を救う』や組

 半年ほど前のことだったと思う。総武線の電車に乗っていて、山口タカさんと偶然に隣り合わせに座った。山口さんは、有機農業関係の仕事で知り合いになった友人である。最初に出会ったのは、法政大学の大学院で、徳江倫明さん(「らでぃしゅぼーや」の創業者)と「とことんオーガニック」という連続セミナー(2010年ごろ)を開催していたときだったと思う。山口さん自身は、オーガニックや食育をテーマに取り上げている雑誌の編集者である。
 先にわたしが山口さんに気がついて、近況などについて短い言葉を交わした。カバンの中に今年の4月に発売したばかりの拙著『ローソン』(PHP研究所、2025年)が入っていた。次の駅で降りる直前に、山口さんに拙著を手渡した。

 それから半年が過ぎていた。電車の中でタカさんと遭遇したことを忘れかけていたところ、3日ほど前に、自宅の郵便受けに薄茶色の書籍小包を見つけた。送り主は、山口タカ。住所は、長野県諏訪郡富士見町。開封すると、服部幸應著『食育は世界を救う』が入っていた。
 服部さんは知る人ぞ知る著名な料理研究家である。「服部学園 服部栄養専門学校」という大手の料理学校を経営している、2代目の社長さんである。山口さんと服部さんの関係は知らないが、料理関係で服部さんの本を手掛けても不思議ではない。そう考えながら、本書を読み始めた。
 いつもの癖で、まずは奥付を覗いてみる。第一刷、2025年10月4日発行。刊行されたばかりの新刊だ。発行・発売所は、「や組」となっている。山口さんの会社から刊行した書籍なのだろう。わたしがタカさんに手渡した『ローソン』に対する返礼品のつもりでもあったようだ。
 服部さんの本には、タカさんの「挨拶状」が封入されていた。
 
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「食育は世界を救う」服部幸應著 出版のお知らせ
いつもお世話になっています。

このたび、や組は服部幸應(2025)「食育は世界を救う」を出版致しました。
や組はオーガニックと食育をテーマに長く取材活動をしています。
食育においては2004年(05年に「食育基本法」施行)から服部幸應先生の食育活動の出版ジャンルを手伝わせていただきました。
先生が急逝して1年が経ちました。
ついては、日刊工業新聞社での連載(2022年1月~23年12月)と講演録(一部)を一冊の本にまとめ、出版いたしました。
(中略)
改めて”これからの食”を考える一助になればという思いで出版致しました。
ご高覧いただければ幸いです。

編集人 山口タカ 拝
や組 [oranic pedia]編集室

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 本書は、服部さんが亡くなった一年後、命日の10月4日に発刊されている。オリジナルの原稿は、あいさつ文にも書かれているように、2022年1月から2023年12月まで2年間、日刊工業新聞社に毎月連載されたものである。
 生前の服部さんの言葉を、山口さんがわかりやすく整理した内容になっている。講演や連載で、長らく一緒に仕事をしていた山口さんが、服部さんの遺言として出版したものである。
 連載を下敷きにしているので、本書もそのまま23話から構成されている。順番は入れ替えたり、多少のリライトもあるかもしれない。内容全体を俯瞰するためには、第5講の「食育、3つの柱『選食・共食・地球』」から読み始めるとよいだろう。
 服部さんが主導した「食育基本法(小泉内閣のとき、2005年に議員立法として成立)」の理念を理解するための3つの柱が、5番目の講話ではわかりやすく解説されている。
 
①安全・安心・健康な食べ物を選ぶ
 「選食力」を養う
②家族の団らんから始まる礼儀・作法や感謝の気持ちを学ぶ
 「共食力」を身につける
③視野を大きく持ち、貧困・飢餓、環境問題など
 「地球の食を考える」
 
 食育の基本理念の柱になっているのは、自分や家族のために、自らが健康で安全な食べ物を選ぶ主体性「選食力」を持つことである。そのためには、食べ物がどのように作られているのかの知識を得ることが大切になる。食べ物を選ぶため知識とは、例えば、アレルギーや食品添加物とは何かを知ることである。
 2番目に、「共食力」が意味していることは、家族や友人と一緒に食事を摂ることである。また、「いただきます」「ごちろうさま」のあいさつをしてから食べ始めることで、子供たちには社会性が育まれる。そういえば、知育の(はぐくむ=育てる)と英語の(ハグ=抱擁する)は、「音」が同じだった。
 3番目には、「地球=環境」を考えながら、②みんなと一緒に①食事をすることを大切にしようである。人類が飢えずに済んでいるのは、自然(地球環境)がわたしたちが生きるための食物を提供してくれているからである。だから、人間は自然の恵み(食べ物)を粗末に扱ってはいけない。その教えを守らなければいけない。

 わたしなりに、本書の構成を解釈してみたのが、以下のまとめである。
 第5講を中心に、本書の前半部分では、どのようにして食育が誕生したのかの背景(第1講「私の食育活動の原点」~第3講「和食回帰のすすめ」)が説明されている。また、第5講以降では、個々の理念的なトピックスが扱われている(第6講「子供を守れ」~第8講「作法に映る例の心」)。
 第9講「オーガニックに脚光」から第21講話「食品ロスを止める」までは、食育が普及したことによる社会の変化を取り上げている。
 わたしが関係した食の世界で最も印象的な出来事は、食育が農業にもたらしたインパクトである。小学校教育の世界に食育(運動)が浸透したことで、学校給食にオーガニック農産物が取り入れられるようになった。つまり、安心・安全で健康的な食品を提供する有機農業が見直されたことである。
 第22講「食育は世界を救う」と第23講「食育のあるべき姿」で、服部先生の講話は終わっている。なお、本書の最後に、服部氏が船橋市で行った「講演録:食育は家庭教育・学校教育・社会教育」が付録として付け加えられている。
 この部分は、本編と重複もありやや冗長ではあるが、本書を振り返って眺めてみるときに読んでみるのもよいだろう。服部さんの食育に対する想いと、講演ならではの息遣いを感じることができる。
 
  
 
 
 
 
 
  
  
 

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