こんなおもしろい本が、世の中にあったのか! 先々週の土曜日に、『日本経済新聞』の書評欄で見つけた本だった。人間には、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の5感があることは知られている。これに直感をプラスして「第6感」と分類することもある。しかし、アリストテレスが紀元前350年頃に、その著書『霊魂論』で分類した5つの感覚(sentience)よりも、人間は多くの感覚を持っている可能性があることを本書は示唆している。
タイトルにもあるように、一説によると感覚は「12個」らしい。いやそれ以上で、「33個」という説もある。表紙のカバー裏をめくると、つぎのような記述に出くわすことになる。視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の5感の他に、「超感覚」は、<内なる嗅覚><色世界><超味覚><耳の「視力」><フェロモン><方向感覚><非・幽体離脱>の7つである。それぞれが、本書の各章に緩やかに対応している。
本書のアプローチは、一風変わっている。しかし、方法論的にはとても説得的である。科学的な動物実験や現場観察による発見を、論文の著者であるサイエンティストたちにヒアリングする形で紹介する方法を採用している。多くの科学者の名前が、各章の核心部分に登場している。一流の学者らしく、科学的なエビデンスがしっかりと書き込まれている。
動物学者である著者が拠り所にしているのは、人間と系統的に近しい動物たちの中で、感覚受容器(目、耳、鼻、指、口)が特異な発展を遂げた仲間たち(動物)に主役の座を与えることである。例えば、ホンハナシャコ(第1章)やヘナデメニギス(第2章)などの動物たちの感覚(視覚)の特異性が、人間の感覚受容器の働きと比較される。
外界からの情報を眼球を通して取り入れ、その信号を脳に伝える仕組みは、人間も動物も基本的に変わらない。それは、動物と人間は進化の系統や出自が同じだからである。日々当たり前に感じている感覚(たとえば、見るという行為)にも、わたしたち読者が理解できていない部分がある。
その機能(例えば、視覚)が、「特異に発達を遂げてきた動物」の事例を示すことで、人間の感覚の理解がより深まるというわけである。
詳細は本書を手に取っていただき、400頁弱の12章から本文を読んでいただくとして、この短い紹介文の最後は、わたしが驚いたことを述べて終わりにする。
視覚・聴覚などの人間の感覚は、受容器官(目・耳など)から神経系を通して脳に送られて解釈されることは知っていた。しかし、一番のサプライズは、情報を受け取る側の脳に「可塑性」があるという事実を教えれたことである。
例えば、ヘレン・ケラーのように視覚や聴覚を失うと、見る・聴くに対応している脳内の領域が、触覚(触る)や嗅覚(臭う)を強化するために明け渡されることがある。脳内の感覚を司る分野には、実は自在性があることは驚きだった。
この分野の研究は、まだこの先に多くの発見が待っているように思う。
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