実話に基づく創作的な作品。著者は元新潟放送局社員で、現在は小説家・大学教授の宮島敏郎氏(事業構想大学大学院)。この本を紹介したのは、本書の刊行を支援している「NSGグループ」(教育産業を中心とした新潟ローカルのコングロマリット)の創業者で、SPRING(サービス産業生産性協議会)のメンバーでもある池田弘(ひろむ)氏から贈っていただいた書籍だからだ。
本書は、明治の初めにサーカス団(曲馬団)と一緒に来日したイタリア人シェフの物語。
新潟に住み着いて日本人の女性、お千と結婚。西洋料理店のイタリア軒を開業する。イタリア軒は、開業から約150年後の現在でも、レストラン併設のホテル「イタリア軒」として新潟市内で事業が継続運営されている。
東京や横浜では、文明開化の後に約500軒の西洋料理店が開店した。しかし、明治7年にイタリア人シェフ、ピエトロ・ミオラが船で降り立ったのは、地方都市の新潟。当時の人口は約3万人。明治維新で開港した神戸・横浜など5つの港町の中で、唯一の日本海側の港町だった。
曲馬団の料理担当だったミオラは、馬に蹴られて大怪我をする。サーカスの次の公演場所である函館には向かえず、そのまま曲馬団から離脱する。料理の技術があるミオラは、新潟知事や有志の助けを得て、この地でイタリア料理店を開業する。
物語の詳細は、小説を読んでいただくとして、『小説 イタリア軒物語』は、明治維新前後の新潟の街を紹介するために書かれた小説である。小説に登場する風景や新潟の商業都市としての成り立ちを県民に伝えて、当時の地方都市の指導者(知事たち)や新潟の街に誇りをもってもらいたい一心から書かれた小説である。
本書を推薦したい理由は、当時の新潟の町が実に美しい筆致で描写されていること。文体がシンプルで読みやすいこと。なお、ミオラとイタリア軒は実在するが、お千や周辺のストーリーはフィクションである。
【書籍紹介】宮島敏郎(2024)『小説 イタリア軒物語』ウイネット出版(星雲社)

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