わたしたちの時代(1980年代)は、英語で論文を書くことが標準ではなかった。先輩たちの何人かは、海外で教員(助手や准教授)を経験して日本に戻ってきたが、その後も英語で仕事をしている人は少なかった。
いまの若者たちは、わたしたちが育った世界とは、全く異なる生き方を選択している。『ニューズウイーク(日本語版)』はしばしば大谷翔平選手(現、ドジャース)など、海外で成功しているスポーツ選手を取り上げている。そのままでいれば安泰なポジションを棒に振って、新天地のMLB(メジャーリグ)の成功に掛けて日本を出ていく。
スポーツ選手(野球や体操)や大学教員(ノーベル賞の受賞者)のように、基礎的なスキルが標準化されている分野では、世界的な成功の先がそこに見えている。しかし、それがエンタメ(歌手や映画俳優)となると、少し状況が変わってくる。
もちろん、渡辺謙のようにハリウッド映画で活躍している俳優もいる。大谷が活躍する野球界では、ゴジラ松井秀喜や野茂英雄のような先駆者はいるにはいた。しかし、活躍の場がヒップホップ系のアーティストグループとなると、成功への予測確度はちがってくる。
それでも、世界中でアートに対するテイストが、アニメやマンガの影響で日本的なものを受け入れ始めている。いまがJ-POPにとって大きなチャンスである。そして、この雑誌の特集号が提示しているように、若い世代の日本人アーティストが、世界にチャレンジすることがふつうになりかけている。
世界にタレントを供給するとなると、マイナスの影響を受ける事業者がいる。彼らが日本(市場)から離れてしまうと、ジャニーズ事務所がそうだったように、事業的的にはマイナスになる。だから、リスクをとって海外に所属タレントを送らなかった。
いまはしかし、日本の芸能プロダクション(エイベックスのような会社)が海外戦略を変え始めている。所属事務所のタレントたちも変わってきていることに、異を唱えることできない。そして、挑戦的な若者の背中を押し始めている。
J-POPの旗手たちが、世界にチャレンジしている姿を知って心底に驚いた。わたしたち世代の常識は、もはや旧式になってしまったようだ。そういえば、友人の慶応大学の高橋郁夫教授から、「わたしたちのマーケティング学会でも、若い研究者たちはふつうに英語で論文を投稿するようになっています」という話を聞いた。
今回の『ニューズウイーク日本語版』では、若いアーティストたち(例えば、Number_i)が英語圏(米国や英国)に飛び出すようになった背景を伝えている。複数のグループや個人が特集号では登場している。
大きな紙面を割いて、その動向を紹介している記事は、「Number_i」の3人(岸優太、神宮寺勇太、平野紫耀)の活躍だろう。ヒップホップの世界を、素人のわたしは全く知らない。でも、彼らの勇気とその活動を支えている作曲家や振付師などのサポートと協業の形は、なんとなくわかる気がする。
日本のアーティストたちが、KーPOPを超えて世界で圧倒的な地位を占めてほしい。そうなれば、嬉しい限りだ。岸田首相によるYoasobiの登用や、やや旧世代に属するが真田広之(将軍)の近況も知ることができた。
以下、詳細は省くが、72歳で新しい作品『ローソン、挑戦と革新(仮)』に挑戦している自分にも勇気がもらえる企画だった。この雑誌に感謝である。
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