書評:内田樹(2007)『街場の中国論』ミシマ社(★★★★★)

 いま一冊の本を読み終えた。ほぼ同じ世代、フランス比較文学論、内田樹教授の本である。二年前に出版されたものだが、2009年末のいま読んでみると、なおさらに現代的である。というのは、中国と米国と日本の関係、民主党のアジア政策を理解するのに、絶好の参考書だからである。


詳しくは、明日の朝に解説することになるが、実にエスプリの聞いた語り口、論理展開である。わが世代にも、こんな聡明で頭が切れる大学人がいたのか!と誇らしくなる。
  わかっていたつもりの「中国」と「中華思想」が実によく理解できた。「ああ、そうだったのか!」の中国論である。それと同時に、日本と環太平洋にある諸国、韓国、台湾、そして、米国の国民意識と国家戦略が透けて見えてくる。意識していない世界を読みといてくれる高著である。
 面白い論点をかいつまんで紹介する。

1 中華思想: 国境線が無い国家中国
 物事には切れ目がある事柄(オンとオフ、白と黒)と、切れ目がない事象(灰色のグレード差のみ)がある。中国人にとって(都合がよい解釈は)、国境線はつねにグレーであいまいだということである。そう説明することで、アジアにおける多国間政治の状況が実にうまく説明がつく。
 例えば、台湾と中国の関係がそうである。中国一国論を主張する中国は、台湾をつねに脅迫している。しかし、激しいプロパガンダのわりには、一度も本格的に台湾に向って軍事行動をとったことはない。台湾は中国の一部である。属国であると主張はするが、ある程度グレーな状態で、半独立を許す度量が中国にはある。それは、国境線を画定しなくてもかまわない、という歴史的な「中華思想」に由来している。
 そうしたあいまいな国が中国である。どこか、この国の人々(エリート)には余裕がある。
 
2 日本の立場:親中国と親米国
 中国との歴史的な関係を見ることで、いまの日本のとるべき選択肢が見えてくる。内田氏の現実認識で実に鋭いと思ったのは、「歴史的に見て、日本はつねに周縁部にあった国」という指摘である。だから、いま日本は、米国から中国に”宗旨替え”をしつつあるのでは?(明確には書い国ていないが)。
 田中角栄の日中友好への傾斜、小沢一郎の中国訪問団(天皇謁見問題)、鳩山由紀夫首相のアジア構想。振り子を米国から中国に振ろうとするのは、日本の政治家たちが、無意識のうちに、周辺部に居する国民として、日本の国益が中国(アジア)に向う21世紀を読み取っているからである。
 
3 中国の指導者:13億の民を動かすには
 毛沢東や周恩来、鄧小平の政治活動の本質が実に良くわかった。13億人を動かすには、メッセージをシンプルにすること。そのために、中国の歴代政治家と軍事家は、力のあるわかりやすい内向きのメッセージ(ときには、反日、反米を利用して)を駆使してきた。
 そして、常にその先導の対象は、10億人の農民であった。さて、つぎの指導者、、、

 中国に関心をお持ちのかたも、そうでないかたも、この本は、是非一読をお薦めしたい。