2012年まで、わたしの人生はミュージカルとは無縁だった。ところが、浅利慶太さんの分厚い本を読んでから、劇団四季を観るために全国の劇場に足を運ぶようになった。最初の四季体験は、大阪のライオンキングだった。いまでは、年に4、5回は四季のステージを観ている。
「四季の会」の会員になったことがきっかけで、2014年には、劇団四季のビジネスとしての成り立ちを、拙著『CSは女子力で決まる!』(生産性出版)の第7幕で取り上げることになった。「第7章」ではなく「第7幕」としたのは、明らかに劇団四季の舞台の影響である。
書籍で劇団四季を取り上げてから、新作のミュージカルが初演(場合によっては、劇場移動で初演)になると、四季の広報部から「招待ハガキ」が届くようになった。
昨夜は、本邦初演の「ゴースト&レディ」に招待をいただいていた。このごろは、かみさんに「四季から招待来てますけど、行きます?」と誘っても、振られることが多くなった。しかし、今回は「うん、行きます!」と即答だった。ハガキに添付されていたパンフレットの絵に、直感的に反応したようだった。
というわけで、木曜日の午後13時半の開演をめがけて、浜松町の四季劇場(秋)に出かけることになった。この新作ミュージカルの初演は、実際は10日前の5月6日だったようだったが、招待客向けの公演としては昨日(5月16日)が初日だった。
開演前の劇場エントランスの通路では、吉田智誉樹社長が招待客を出迎えてくれていた。早めの開演30分前に到着したわたしたちは、いつものように吉田社長にご挨拶に伺った。
「(本日の舞台は)出来立てのほやほやですよ」と、吉田さんからはいつになく力強い返事が戻って来た。吉田社長は、控えめで穏やかな物言いをする方である。きっと何かある。
この物言いは、とてもめずらしいと思った。その理由が、劇場の入り口で「ゴースト&レディ」のパンフレットをいただいてすぐに明らかになった。
吉田社長には、法政大学のビジネススクール(一年制大学院)で、2017年(12月17月)に授業内で講演をお願いしたことがあった。講演の正確なタイトルは忘れてしまったが、講演後には、吉田社長から大学院生たちにレポートの課題を出していただいた。そのときの課題は、いまでも記憶に残っている。
<課題#5>(2017年12月17日実施)
第5回講義の課題は、四季株式会社の吉田社長のご講義の後に、以下の質問に答えること(12/23(土)提出))、、、
日本が世界にむけて発進するコンテンツ=演劇を提案してください。
劇団四季に限らずどんな団体のものでもOKです。
ブログ読者なら、もしかして直感的におわかりいただけたと思う。昨日の本邦初演のミュージカル「ゴースト&レディ」こそ、この課題に対する吉田社長のお答えだったのである。
原作は、藤田和日郎(かずひろ)氏の「黒博物館 ゴーストアンドレディ」(『講談社モーニング』2014年~2015年)。漫画の原作に基づき、高橋知伽江氏が脚本(歌詞)を書き上げ、スコット・シュワルツ氏が演出を手掛けている作品である。
ミュージカルのコンテンツは、四季のオリジナル企画によるものである。詳細は省くが、看護師制度の創設に貢献したフロレンス・ナイチンゲールの生涯を、原作の漫画からミュージカルに翻案したものである。
ミュージカルのあらすじは、ミュージカル『ゴースト&レディ』作品紹介 | 劇団四季【公式サイト】 (shiki.jp) をご覧いただいたい。
昨日は、舞台の幕が下りてからも、カーテンコールが鳴りやまなかった。わたしたち夫婦も、感動でしばし放心状態だった。恥ずかしながら、わたしはと言えば、クライマックスに至る場面で2度ほど、涙腺が緩んでしまった。
心から感情を揺さぶる作品に対して、その感動をあまり理屈っぽく批評をしたくはない。しかし、「ゴースト&レディ」には周囲の招待客たちも深く感動しているのがわかった。それなので、その理由をわたしなりに簡潔に整理してみたい。
本ミュージカルの舞台が感動的である根源には、たくさんの要因が絡んでいる。もちろん
1 主演の真瀬はるか(フロー)と金本泰潤(グレイ)の演技とダンスと歌唱のすばらしさがその元にあるのだが、その他に、
2 名脇役たちやアンサンブルとのチームワークの良さが作品のクオリティの高さを支えている。その上で、
3 作品の上演にかけるスタッフたちの意気込みの強さと、株式会社四季の組織支援体制に感動と成功のポイントはあるように思う。
さらに言えば、これは、感激後に近所のイタリアンで食事をしたときに、かみさんも同意してくれたのだが、
4 (やや偏見かもしれないが、ディズニー系のミュージカルにありがちな)主役の人物が障害を抱えていたり、醜い容姿だったするという設定がないこと。そして、
5 狭いはずの舞台の造りが、場面場面で鋭い音響を取り入れたり、遠近法の利用で広く見えるように工夫が凝らされていること。さらに、
6 オリジナルの脚本であるため、随所で演出チームの創意工夫で、作品が米国発ミュージカルである場合の演出の窮屈さから脱して、「自分たちのもの(舞台作品)」にしていること。
もしかすると5番目と6番目の要素が、オリジナル脚本による独自演出によって、四季の舞台を激しく感動のあるものに変えた最大の要因なのかもしれない。
舞台が跳ねてからすぐに、わたしたちはカーテンコールが鳴りやまない中を、早めに劇場の正面玄関に回ることにした。なぜならば、招待客の皆さんが客席から出てくる前に、吉田社長に挨拶をしたかったからである。
わたしたちが、客席から出てきた最初の方の順番らしかった。一階正面のドアから出ると、元広報部にいらした久保拓哉さんの姿が目に入った。わたしから、「いつもお世話になっています。今はどの部署にいらっしゃるのですか?」と久保さんに声をかけてみた。
「実は、この作品の舞台構成の部門にいるのです」。まさに、ゴースト&レディの舞台づくりの部門にいるのだった。「この作品、すごくよかったですよ」と、わたしから感謝の言葉を久保さんに述べた。
その先の正面玄関を出ると、四季のスタッフが10人ほど、壁面の右側から一直線に並んでいた。その先頭には、吉田社長が立っていた。ふたたび、どうしても吉田社長に感謝の言葉を述べたかった。
「 吉田さん、わたしが観たこれまでの中で、今回が最高の作品でしたよ。四季のオリジナル脚本だったのですね」。めったにやらないことだが、わたしは吉田さんと握手をして劇場を後にした。
2017年12月の講義課題が、こうして実現していたのだった。作品の構想と企画は、四季にとって厳しかったコロナ禍の中からはじまったものだった。そのことをパンフレットで知ったのは、帰りの電車の中でだった。
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