連休中に、7月刊行の新本のドラフトが完成(本のおおよその構成を紹介します)

 日本実業出版から刊行予定の『値付けの思考法(仮)』が脱稿。4月初旬にほぼドラフトは完成していて、序章だけが残っていました。一昨日から取り掛かり一挙に脱稿。細部を修正するだけに。序章の一部を(チラ見)してみたいと思います。角田さん、この暴挙をお許しを!本の販促のためです。

   

 序章「定価で販売するか?それとも価格を変動させるか?」(V3:20190505)
 
   
1 USJが導入したダイナミック・プライシングという手法
 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、2019年1月10日から、混雑するときにチケットの料金を段階的に変動させる「変動価格制」を導入しました。一般的には「ダイナミック・プライシング」と呼ばれる手法で、米国のディズニーワールドやユニバーサル・オーランド・リゾートなど、海外のテーマパークですでに採用されている価格設定の方式です。ただし、日本の大手テーマパークでは初めての導入になります。
 繁忙期にパーク内が混みあって、来園者の顧客満足度が低下していることが背景にあります。チケットを変動価格にする狙いは、園内の混在度を平準化するためです。その一方で、来場する季節や曜日によって価格が異なることになります。そのため、チケットを購入する際には注意が必要になります。
 USJにとって価格を変動させるメリットは、混雑の緩和だけではありません。変動制のチケットを販売することで、最終的に利益を増やすことができるからです。繁忙期は入場料を割高に、閑散期は割安にする価格設定の方式は、「(時間による)差別価格制」と呼ばれるものです。
 繁忙期に高い値段を支払った来場者は、待たずに乗り物に乗れます。快適な環境を体験した来園者の再来場(リピート)を促します。それとは逆に、閑散期にはチケットを割引して販売しますから、従来は取り逃していた顧客が獲得できることになります。結果的に、来園者の増加は売り上げを増やすことに貢献します。
 具体的に、変動制導入後の料金体系を見てみましょう。USJでは、2018年10月までのチケット料金は、大人(12歳以上)7900円、子ども(4~11歳)5400円でした。2019年1月10日からは、春休みシーズンなどパークの混雑が予想される時期に料金を変動させます。1月10~31日は大人7400円、中国の春節で混み合う2月には一律8200円、3月1~22日を8200円、春休みで来場者が増える3月23~31日を8700円としています(図表0-1)。
 年間パスポートでも、新しい商品として「ユニバーサル年間パス・ライト」を売り出しました。このチケットは、パークが混み合う週末やゴールデン・ウイークなど年間70~75日は使えないことになりますが、通常料金より2割程度、価格が割安に設定されています。USJの入場者数は、2017年度は1500万人程度で、4年連続で過去最高を更新しています。
 TDR(東京ディズニーリゾート)も、変動価格制の導入については「来場者のためになるのであれば否定しない」(運営側のオリエンタルランド)と答えています。USJ同様に、TDRも繁忙期の混在度に課題を抱えており、今後は変動価格制を導入する可能性もあります。
  
  <<図表0-1 USJチケット料金一覧表>>
  
 
2 百貨店の正札販売: 越後屋(日本)とボン・マルシェ(フランス)
 
   (中略)   
  
 ところが、歴史を振り返ってみると、いつでも誰に対しても同じ値段で販売する「正札販売」が、350年前の小売業にとっては革新的な販売方法だったのです。しかも定価販売のイノベーションが、いまや衰退業種になりつつある日本の百貨店から生まれたというのですから何とも皮肉な話です。
 今を去ること350年前の延宝元年(1673年)、三越百貨店の前身にあたる「越後屋」が日本橋で呉服屋を開業します。創業者の三井高利は、商品に「値札」をつけて販売する正札販売の方式を考案しました。それまで呉服の商売は、買い手と売り手が互いにそろばんを弾きながら、時間をかけて値決め交渉するのがふつうでした。双方ともに顔が見える関係なので、その人の懐具合や買い方の癖で値段がちがっていました。
   
   (中略)
   
 これ以降は、次のように続きます。
3 サブスクリプション・モデル(定額購入モデル)が人気に 
 
4 手がかりとして価格の役割 
 
5 本書の構成
 
 本書を読み終わると、3つの課題に対する解答が得られることになります。読者の読みやすさを考えて、全体を5つの章から構成することにしました。
 第一章「価格づけの論理」では、値決めに関する基本決定がどのような経営的な配慮からなされていているのかを解説します。ふだん何気なく飲んでいるコーヒーの値段や衣料品の価格は、企業の長期的な戦略を映している鏡ともいえます。セブン-イレブンやマクドナルドで販売されているコーヒーの値段はなぜ100円に決まったのか。価格づけの背後にある経営の論理を学ぶことにします。
 第二章「スケール重視の低価格戦略」では、価格破壊に成功している企業や商品を取り上げます。最初のふたつの事例は、ラーメンチェーンの幸楽苑と日高屋です。どちらも食材を自社製造しているチェーン店ですが、両社の成功要因はかなり違っています。幸楽苑は東日本全域に店舗展開している全国チェーンですが、日高屋は関東ローカルのチェーン店です。同じ飲食チェーンでも、高収益を支えている品ぞろえや出店の仕方が異なるのです。この章では、ディスカウント戦略が利益を生み出す様々なパターンを知ることができます。
 第三章「プレミアム価格戦略」では、客数や販売量より利幅を追求する企業や商品の事例を取り上げます。池田屋のランドセルは、従来の商品スペックを変えて、プレミアム市場(工房系ランドセル)を創造した事例です。入手できる季節や時間が限定されることで、普及品のランドセルに3倍の値段がつくようになりました。付加価値戦略が機能する条件は、商品のブランド化と顧客ターゲットの絞り込みです。この章では、モンドセレクションの仕組みや限定品を好む顧客プロフィールの特徴についても説明します。
 第四章「価格づけの心理」では、値段に反応する消費者の多様な心理を紹介します。最初の興味深い事例は、牛丼のサイズが売上を増やすロジックです。牛丼三社の経験からは、サイズのバリエーションを増やすだけでなく、それにセット販売を組み合わせることで客単価を上昇させることができることがわかります。待ち時間が消費者の心理に対して与える影響も微妙です。待ち行列は、長すぎても短すぎてもいけないのです。
 第五章「価格の調整と顧客満足」では、値上げと値下げで明暗を分けた事例をいくつか取り上げます。序章でも触れたように、価格づけの基本戦略は、定価販売と価格変動制の選択です。顧客の心理(価格に関する信頼感)と企業側の事情(調達戦略と在庫管理)によってどちらを選択するかが決まります。企業にとって大切なのは、どのタイミングで価格を変更するかです。最終章では、ロングセラーと言われるブランドの価格戦略とスマートに価格変更した企業の事例を紹介します。